第十一曲集「血緑」 / 中村椋 | 安眠妨害水族館

安眠妨害水族館

オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

第十一曲集「血緑」/中村椋

 

1. 血液はなぜ緑色なのか?

2. 頭脳室

3. AZILE

4. P-ZOMBIE

5. 末期の眼

6. テセウスの人

 

 

非自覚性ヴィジュアル系シンガーソングライター中村椋による6曲入りのEP。

 

テクノポップの文脈をニューメタルの作法に乗せて。

アンダーグラウンドのテクノポップを、ハードでヘヴィーなサウンドで昇華するという音楽的なコンセプトを設けており、収録曲を6曲としたのは、Dir en greyが「Six Ugly」という作品でメタルコア路線に舵を切ったことに対するオマージュなのだとか。

実際、ヴィジュアル系的な見地では、ピコピコサウンドに馴染みそうな楽曲群なのだけれど、ずっしり重いラウドチューンとして成立させていて、ありそうでなかった組み合わせが面白いですね。

 

歌詞の世界観については、哲学的かつ内省的。

言葉遊びも多く盛り込んでいて、必ずしもどんより暗いわけではないのだけれど、救いを求めて自問自答しているようなナイーヴさと、暴力的な不条理が混在していて、聴いているときの心境で刺さる楽曲が変化するのですよ。

大本となるサウンドに統一感はあるものの、楽曲のタイプは様々で、バリエーションを意識しているのも奏功。

リスナーを囲い込む包囲網は、しっかり構築しているといったところです。

 

象徴的なのは、デジタル気質を強めてキャッチーに展開される「AZILE」から、デスヴォイスを駆使してハードに畳みかける「P-ZOMBIE」への繋ぎで見せるギャップでしょう。

ある種、本作中の両極端を並べた形で、コンセプトの徹底と、バラエティ性の確保は両立することを示しています。

ポップなメロディをメタルコアバンドの様式美に落とし込んだ「頭脳室」や「テセウスの人」も、聴けば聴くほど味わい深い。

位置づけとしては実験作なのかもしれませんが、アイディアの勝利といった作品でした。

 

なお、ブックレットをきちんと読み込むと、ボーナストラックの存在に気が付くことができます。

とりあえず音源をPCに取り込んで、という聴き方をしていると見つけられない仕様。

これも歌詞世界へと誘導する工夫なのかと、膝を打ちました。