doorAdore / Plastic Tree | 安眠妨害水族館

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doorAdore/Plastic Tree

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1. 遠国

2. 恋は灰色

3. エクジスタンシアリスム

4. 雨中遊泳

5. サイレントノイズ

6. サーチ アンド デストロイ

7. 残映

8. いろつき

9. 念力

10. scenario

11. ノクターン

12. 静かの海

 

2年2ヵ月のインターバルを経て発表された、Plastic Treeの14thフルアルバム。

完全生産限定盤2種と、通常盤の計3タイプでのリリースとなりました。

 

前作で、バンド感のあるギターロックを突き詰めた彼ら。

本作では、そこから更に精神世界に沈み込んだ印象で、楽曲のバラエティには富んでいるのだけれど、そのすべてが病的なほどの虚無感に包まれています。

象徴的なのは、1曲目の「遠国」。

タイトル通りに異国情緒が漂うアルペジオに、今にも消え入りそうな有村さんの歌声。

蜃気楼のように浮かび上がる異世界には、現実なのか夢なのか、はっきりと口にできない脆弱性があるのですよ。

 

そういえばPlastic Treeと言ったら、こんなにも触れたら壊れそうなイメージだったっけか。

進化する音像と、変わらないナイーブさ。

これまで培ってきたサウンドを携え、唯一無二の中毒性が帰ってきた感覚があって、様々な感情が込み上げる。

こんなアルバムが聴きたかった、というファンも多かったのでは。

 

メンバー全員が作詞・作曲に有機的に参加しているのは、前作同様。

ただし、世界観の一貫性という点では、上記の通り、より強固なものになっています。

攻め気のある「恋は灰色」にしても、ポップさが際立つ「いろつき」にしても、デジタル色が強い「scenario」ですら、アルバムというフィルターを通せば、しっかりとアンニュイさや喪失感を読み取れる。

4人のセンスが絡み合ってこその「doorAdore」には、バンドは生き物であるということを、改めて実感させられました。

これを魔法と呼ばずに、なんと呼べばいいのだろう、なんて。

 

また、本作において語りたくなるポイントなのは、ジャケットのアート性。

どんなにガシャガシャとギターロックを掻き鳴らしても、だだっ広い砂漠に飲み込まれ、掻き消されてしまう。

いくつものドアを開けて辿り着くバンドの終着点なんて、そんな空虚なものなのかもしれない。

だけど、その中で一瞬発生する熱のようなものに、僕らはきっとうなされているのだ。

最後の「静かの海」まで聴き終わって、ぼんやりと、そんなことを考えていました。

感覚的に美しいと思ったアートワークではあったのだけれど、音とシンクロして、更に好きになりましたよね。

 

ミディアムテンポの楽曲が多いせいか、ここ最近の作品の中でも、有村さんのボーカルの細さ、弱さが目立つ。

一方で、それも味わいとして中毒性に一役買っているのも事実。

オペラチックに高らかに歌い上げられても、きっと本作の肝である物憂げな表情は出てこない。

その意味でも本作は、Plastic Treeに求められているものを、すべて詰め込んだ1枚と言えるのかもしれません。

 

<過去のPlastic Treeに関するレビュー>

剥製

echo
インク
静脈
アンモナイト
Cut~Early Songs Best Selection~
Parade