インク / Plastic Tree | 安眠妨害水族館

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オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

インク(初回限定盤)/Plastic Tree
¥4,600
Amazon.co.jp

1. ロールシャッハ(左)
2. インク
3. くちづけ
4. ピアノブラック
5. あバンギャルど
6. ライフ・イズ・ビューティフル
7. 君はカナリヤ
8. 静脈
9. てふてふ
10. シオン
11. 96小節、長き不在。
12. ロールシャッハ(右) 

Hide and Seek(Rebuild)

1. 痛い青 (Rebuild)
2. エーテルノート (Rebuild)
3. 割れた窓 (Rebuild)
4. クローゼットチャイルド (Rebuild)
5. スノーフラワー (Rebuild)
6. Hide and Seek #3
7. トランスオレンジ (Rebuild)
8. まひるの月 (Rebuild)
9. 水葬。 (Rebuild)
10. ねじまきノイローゼ (Rebuild)
11. Hide and Seek #4

Plastic Treeの15周年プロジェクトの締めくくりとなる12thアルバム。
CDのみの通常盤と、1stアルバム「Hide and Seek」をまるまる再録したCDが付属される初回限定盤、更には、それに二枚組のDVDが付く完全生産限定盤が存在します。
年末の金欠の時期ではあったのですが、今の音で「Hide and Seek」が聴いてみたいという欲求にはどうしても勝てず、間をとって初回限定盤を購入してみました。

音楽性としては、前作「アンモナイト」で見せた、ギターロックとシューゲイザーの境界線を探るようなアプローチを継続。
しかしながら、それでいて、内面性を抉る痛々しい感性も戻ってきた印象もあります。
初期の病的な雰囲気こそ感じませんが、ダウナーで内向的な世界観が、進化したサウンドワークの中で、じわじわと実体化していく。

この辺りは、「Hide and Seek」の再録盤を聴けば、特にはっきりわかるかと。
ゆらゆらと、音に溺れていく感覚。
サウンド面からも、精神面からも、どっぷりと侵食されてしまう。
ロックテイストが強まったことで最近は隠れがちだった有村さんの表現力も、このラインナップであれば、思う存分に堪能できますね。
密度の濃い音の洪水の中で、脆弱に漂いつつも、存在感が際立っている。

話を「インク」に戻しますが、ほどよいスピード感を保ちながら、感覚的に訴えるものがあるのではないでしょうか。
ライト層へ向けた聴きやすさも相応にあるのですが、グサッと刺さるフレーズも多く散りばめられており、新旧プラトゥリの、おいしいところどりな作品に仕上がっている。

アルバムは、アカペラチックな「ロールシャッハ(左)」で意表を突いたスタート。
てっきり、SEだと思っていたら、良い意味で裏切られた。
その後の構成も絶妙。
「インク」、「くちづけ」と、彼ららしい楽曲でリスナーをがっちり掴むと、複雑な展開を見せる「ピアノブラック」、バンドサウンドを強めた「あバンギャルど」など、これまでのチャレンジを、王道に融合させた新機軸に繋げていきます。
捨て曲が一切なく、スピーカーから意識を離せない。

個人的にお気に入りなのが、続く「ライフ・イズ・ビューティフル」。
フォークにも通ずるシンプルな構成と、淡々とつぶやくように溢れ出す言葉の波には、うまく伝えられないけれど、ラフさ故の味わいがある。
言ってしまえば、有村さんの歌い方が、なんだか雑。
だけど、きっと、こういう歌い方じゃないとハマらなかったと思わせるくらいの、ピンポイントで狙ってやっているような雑さなのです。

「君はカナリヤ」以降は、それこそ、初期の空気感を思い出させるような楽曲が続く。
じっとりとダークに、または、フワフワと浮遊感を持たせ、とにかく世界観を重視した表現の連続。
「てふてふ」の長谷川正節には、思わずニヤリとしてしまう人も多いのでは。
「静脈」、「シオン」と、シングル曲が2曲挿入されていますが、浮くこともなく、地味すぎることもなく、アルバムに馴染ませているのはさすが。
本作への収録という完成形を見据えたうえでの、シングルリリースだったのかもしれません。

「96小節、長き不在。」は、インスト曲。
5分弱、淡々とサウンドが鳴り響いていくのですが、心地よさもあり、喪失感のようなものもある。
こんなタイトルにしたことで、有村さんの存在感が増すというアイディアも然ることながら、単純にインストとしても、深みのある一曲ですね。
通常盤には、「218小節、かくも長き不在。」という楽曲が収録されているのですが、尺の違いなのだろうか。

ラストは、1曲目と対になる「ロールシャッハ(右) 」。
アカペラからアコギに移行していく左に対して、右は、アコギからアカペラに流れていく。
メロディそのものは、同じものを使っているのだけれど、それだけでイメージが変わっていくのも面白いです。

正直なところ、「アンモナイト」がかなりのツボアルバムだったため、それを越えることはないだろうなぁと勝手に思っていたのだけれど、前言撤回。
それすらも、完全に飛び越えてしまいました。
最初から最後まで、聴き応え十分。
初期のファンから、新規のファンまで、納得できる完成度だ。

15周年を迎えてなお、まだまだ伸びしろがあったのだから、本当に恐ろしい。
いったい、どこまで進化しようというのでしょう。
一筋縄ではいかないのがバンドの世界ではありますが、願わくば、この調子で20周年、30周年と、突き進んでいってほしいものですね。

<過去のPlastic Treeに関するレビュー>
静脈
アンモナイト
Cut~Early Songs Best Selection~
Parade