echo / Plastic Tree | 安眠妨害水族館

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echo(初回限定盤)/Plastic Tree
¥3,465
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1.木霊
2.曲論
3.嬉々
4.輪舞
5.瞳孔
6.雨音
7.影絵

バンド結成20周年となるPlastic Treeの2014年第一弾リリース。
シングルの「瞳孔」を含む、全7曲。
漢字二文字のタイトルで統一されていて、どこか、コンセプチュアルな装いです。

近年の彼らは、シューゲイザー風のギターロックサウンドが主体となっていて、導入のインストである「木霊」を聴くと、その延長線上にあるようにも聴こえます。
しかし、ある意味で、それはブラフ。
強引に切り替わるような形で、「曲論」がスタートすると、ガラっと雰囲気が変わっていく。
ギターサウンドがメインで、従来の彼らのスタイルを崩すわけではないのだけれど、ポップ色が強まったといいますか。
ギターのフレーズが、なんだかメルヘンチック。
ベースとドラムも、それに引っ張られていくように軽快なリズムを刻む。

「嬉々」、「輪舞」といった楽曲も、ポップさが際立っていますね。
サウンド的には、エレクトロの要素も強まっていくので、ありそうでなかった聴き心地に仕上がった。
要所要所で、ドキっとする大胆なアレンジも見られ、よくあるポップスに終わらせていないあたりは、彼ららしいです。

一方で、Vo.有村さんの歌声は、どこか物憂げ。
まわりは華やいでいるのに、自分だけがポツンと取り残されたように、メランコリックな表情を見せているのが面白いですね。
ミックスのバランスのせいか、ボーカルが少し埋もれがちなのですが、それが、弱々しさと、力強さの表裏一体を、上手く表現している気がする。
初期のそれとは、まったく異なるアプローチではありながら、"病的な空気感"が戻ってきたとすら思えます。

シングル「瞳孔」を区切りに、サウンドにも、翳りが現れ始める。
本来、アクセントになるべき場所に、インパクトのあるシングルを入れてしまうとは、贅沢な。
客観から主観、表面から内面に潜り込むスイッチのような役割を担っています。
続く「雨音」では、ダウナーなメロディを呟くように歌っていたかと思えば、サビで感情の爆発。
後半に進むにつれて、楽器隊のテンションも上がり、じめじめしていたはずの楽曲が、いつのまにか、実にエモーショナルな一曲に。
この流れには、やられました。

ラストの「影絵」は、穏やかに、美しく。
フワフワとした歌詞の選び方がプラトゥリ節だなぁ。
本作は、有村さんが作詞を担当しているのは、歌モノ6曲中3曲と、半分だけなのだけれど、やはり、彼の歌詞こそ、Plastic Treeの味を色濃く含んでいる。
鼓笛隊のマーチのようなドラムのリズムで終わるため、序盤のメルヘンチックな世界観に帰結されていきます。
まるで、ループしている世界のようだ。

当初、何でこのタイミングでミニアルバムなのだろうと疑問だった。
どうせなら、フルサイズで聴きたいというのは、ファンであれば、当然の心理。
ただ、メンバーが、曲数を絞り込んだことで、深く表現することが可能になったと語るとおり、これを聴いたら納得せざるを得ませんよ。
これ以上にアクセントを加えようとすると、蛇足になってしまうし、無駄のない凝縮された構成。
さらっと流す分には、耳馴染みが良く聴きやすい。
ところが、じっくり聴き込んでいくと、純粋だからこその毒、楽しさの中にある寂しさが押し寄せてくるので、とても心を揺さぶられるのです。

ギターロックを追及する過程で、もともと彼らが持っていた中毒性が、上手い具合にハマった形と言えるでしょう。
結成20周年を迎え、まだまだ進化、深化の可能性があることを示した彼ら。
派手さのある作品ではないけれど、格好良いの一言に尽きます。

<過去のPlastic Treeに関するレビュー>
インク
静脈
アンモナイト
Cut~Early Songs Best Selection~
Parade