セミナーの開催日は来週の土曜ということで、個別の説明会を受けることになった。
一刻も早く来てください。すぐにご入会いただけなくても、暫くの間スパークを避けられるお守りを差し上げます。
電話応対をしてくれた女性は、心底心配してくれているようだった。
指定された時間は午後の2時。1月の空はきれいに晴れて、日差しの暖かい穏やかな日曜日だった。
二人は今日、スパークを避けるための手順をひとつ踏もうとしている。嘘か誠か、その効果のほどはわからないけれど、この身を守るために踏み出そうとしている。

あの日以来、比較的若い夫婦や恋人のいる一群と、独身で恋人もいない一群をメインにして世界はいくつかに割れた。
それは会社にいると特に強く感じる。視線を感じるのだ。この人たちは何を考え、どんな恐怖に怯えているのか、独身者たちは気になるのだろう。盗み見るような視線が飛び交うのだ。
彼女いなくてよかったよなあ。通りがかりに、そんな会話を耳にしたこともある。しかし彼らとて、スパークが収束しない限りその領域に行かざるを得ないことは十分知っている。
こんな状況では恋も成就しないだろう。逆に、別れた恋人たちもいるのではないだろうか。この人と一緒に死ぬのはまっぴらとばかり、別離を選んだ人も。
これは一面、愛の真実を迫った出来事ともいえるのかもしれない。薄っぺらい愛など消えてしまえと言わんばかりに。
被害者の統計が取られているわけではないからもちろんだが、発火点がどこにあるのかはわかっていない。愛が最高潮に高まったときか、結婚を決めたときか、迂闊に推測を口にできないほどに曖昧模糊としている。
報道によれば、付き合い初めて間もない恋人同士が犠牲になった例もあるから、無差別と呼んでもいいのかもしれない。そしてそれが、一番怖い。
「人類を造ったって本当なのかしら」独り言のようにつぶやく詩織の声とヒールの音が、静かな街に溶け込んでゆく。
「うーん、まあ……」見上げた日差しが眩しい。
「それはありえないことじゃないだろうな」
「じゃあさ、地上の動植物すべてを造ったことも?」
「それはないだろうな」
父母の間をちょこちょこと歩く幼い女の子。何も恐れていないその姿。子供を心はいつの世も、新しいものへの興味と父母への信頼で満ちている。
「なんで? だって人類を造ったかもしれないんでしょ」こちらを見上げるショートボブが揺れる。
「DNAを操作したって言ってたじゃないか。それならありえるよ。でも、無から有を作り出すことはできっこない。いくら文明が進んだって、なにもないところから有機体を作り出すなんて不可能だ。それが出来るのは本物の神だけだよ。だからといって、神様が粘土をこねこねしたわけじゃないだろうけどね」
「人類を創造したとしてさ、なんのために造ったんだろうね」あ、ありがとう。詩織がポケットティッシュを受け取った。ちょうど鼻をかみたかったんだ。ボクシングクラブだって。なんだろいきなり。
「ダイエットとかも書いてない?」
「あるある」
「で、話どこまでいったっけ?」
「んーとね、なんで人類を造ったかってとこ」
「ああ、必要だったからじゃないかな。一番わかりやすいのは労働力としてかな」
「労働力?」いったい何を言い出すの? 曲がった眉根がそう問いかける。
「うん。奴隷。それが行われたかどうかは記録にないからわからないけどね。行われたかもしれないし、必要がなくなったのかもしれない」
「だったらさ、ネアンデルタール人でもよかったんじゃないの?」
「もう少し理解力の高い奴隷を求めたのかもしれないしね」
その時だった。背後で凄まじい音がした。
煮えたぎる油の中に水の飛沫でも浴びせたような破裂音。
ビクリと震えて振り向いた。
盛大な火花が上がっている。
スパークだ。
「やだあ!」詩織が息で叫んだ。
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