ネットを駆け巡ったこの一文を、ご存知の読者も多いだろう。拡大を続けたスパークの被害が減少に転じたのは、これに違いないという意見がある一方、偶然ではないのかという声も少なくない。その理由は、この文章のどこにも、スパークを避ける手立てが書かれていないことによる。
しかし、これが広がり始めた頃と被害の減少が始まったのは、時を同じくするという見方は一致する。今は削除されてアクセスすることはできないが、筆者はたまたまこの大元となるブログを見た。
これがスパークを収束に導いたとする明確な根拠はないが、否定できる論拠もない。
今はコピーペーストされたものが広がっている。
以下に、全文を掲載する。
タイトルはついていないようだ。
『仄暗い海の中に、身を委(ゆだ)ねる生命があった。暖かな海に揺蕩(たゆた)う萌芽は、恐れという言葉の存在しない世界で、とろとろと眠った──』
僕は食い入るようにそれを読んだ。最後まで目を通したが、確かに、スパークを避けるためにはどうすればいいかなど、どこにも書かれてはいない。
「詩織」隣で眠る詩織の腕を揺すった。
「ふ?」
「これ見てよ」週刊誌のページを開いたまま渡した。
「スパークが収束?」詩織も首を傾げた。ぼんやりした目でこちらを見る。
「どういうこと? 人殺しの神様のところに行かなくてもいいってこと?」
「わからないけど、読んでみてよ」
詩織は両手で持った週刊誌を熱心に読み始めた。電車の床を影が走り抜ける。日向と陽だまり。老人の質問が頭を巡った。
「この神様……」詩織がつぶやいた。「正しいような気がする。嘘をついていないような気がする」
「次は〇〇」僕の視界にうっすら見えたのは、またもや自分のズボンの膝と電車の床だった。再び眠ってしまったようだ。
ふと気づいて周りを見ると、僕の手にも詩織の手にも週刊誌はない。座席を見たが、やはりない。詩織は眠っている。夢をみたのか。あの老人との会話は夢だったのか。
「もうすぐだよ」詩織の腕を揺すった。

「入会金は、お一人様3万円です」
ブロック長と名乗った男が、柔和な笑みを浮かべてひとつ頷いた。
これを宗教と呼んでいいのかどうかはわからないけれど、お金が絡むものはやはり怪しい。宗教とお金ほど似合わないものはない。
けれど、これでスパークが避けられるものなら、決して高い金額ではない。
「あとは、収入によりますが、月々1万から2万円ぐらい、まあ、お若い方が多いので大半の方は1万円ぐらいです。アルバイトをしている学生さんなんて数千円ですから」
「それはなんに使うお金ですか!?」詩織が身を乗り出した。男は気圧されたように身を引いた。詩織はやはり納得していないのだ。女だてらになんて一本気なのだろう。
「あっ、会の運営費です。宮殿を造るための一部にもします」男は少ししどろもどろになった。
「宮殿、ですか?」僕も身を乗り出した。
「はい、神様を迎え入れるためのものです」まるで、その神様をお迎えするように両手を天に広げた。
「愛を知る会が突然できたように勘違いしている人たちがいます。違うのです。私たちは準備をしながら待ち続けたのです」男の目はうっとりとしていた。
「山の上ではだめなのですね」
「はい。そもそもあそこは、私達の土地ではありませんので。場所はすでに確保してあります」
「入会は、今日しなければだめですか?」食い下がりそうになる詩織の腕を抑えて僕は質問した。
「いえいえ、後日で結構です。電話でお伝えしたかもしれませんが、10日間はスパークを避けられるお守りを差し上げます。その代わりと言っては何ですが、お守り欲しさに、何度も説明だけを受けに来られても困りますので、住所とお名前は登録させていただきます」
猶予は10日間。すぐさま入会を勧めないところはまだましだろうか。いや、それほど自信があるということなのかもしれない。
「一度セミナーに参加されて、会員の皆様と親睦を深めていただく方がいいでしょう。都心の会場を借りてセミナーを行った後は食事会です。その後はカラオケに行ったりもしますよ。皆さん良い方です」男は笑った。
「参加費はいかほどですか」
「おひとり2万円です。食事会の後の二次会は別途お支払いいただくことになりますが、このセミナーは好評なんですよ」
「2万円ってことは、ディナーコースですか?」
「あ、いえ、食事会と言っても、居酒屋だったりしますので。まあ、大半はセミナー代というところです」男は、またもやしどろもどろになった。
僕は詩織の太ももをポンポンと叩いた。もうやめておけ。
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