スパークル ─愛と恋のエチュード─「4」 | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」

★訪問者の正体★

二人同時にインターフォンを見た。事前連絡もなく友人が訪ねて来るなどありえないし、セールスがオートロックのインターフォンを鳴らすことなどあるのだろうか。

「押し売り?」詩織が眉をひそめる。
「今どき押し売りもないだろう。見ればわかるさ」
「だよね」詩織が腰を上げた。

「はい」顔を寄せてインターフォンに応える。そのトレーナーの尻がブカブカだ。童顔のせいか若く見えるが、そんな彼女ももう三十路が目前だ。そろそろ結婚と考えてもいたけれど、こんな事態の時に踏み切ることなどできない。

「あなたは神を信じますか」インターフォンからは想像もしなかった声が返ってきた。

「──は?」空気の抜けたような詩織の声と、思いがけずに酸っぱいチョコレートでも口にしたような妙な顔が振り向く。

立ち上がってインターフォンに向かった。エントランスが映る画面の中には、50代ぐらいだろうか、ニット帽をかぶった男と一歩引いたように立つ女がいた。

「どちら様ですか」
「愛を知る会の者です」
来た。目を丸くしてこちらを向いた詩織が囁いた。深みを持つ瞳。初めて見たとき、吸い込まれそうだと思ったその目がパチクリとまばたきを繰り返している。

これが噂の『愛を知る会』か。やはり戸別訪問もしていたのだ。
それにしても、この男の口上はどうだ。愛を知る会と申します、ではなく愛を知る会の者ですだ。世間の認知度と期待値の高さを背に受けてのものだろう。

どうすべきか、ギュッと目を閉じた。
これで本当に助かるものならすがりたい。しかし、それが魂を売るようなことであるなら拒否すべきではないのか。

「ひとつ質問していいですか」インターフォンに顔を寄せた。
「ひとつといわずどうぞ」男は何度も頷いた。
「本当に助かるのですか」

我が意を得たりとばかりに男が一歩進み出た。
「はい、間違いなく助かります。信者の中にスパークで亡くなった人はいません。信者とはいえ普通の人たちです。新婚夫婦もいれば恋人同士もいます」

スパークから人類を救い出す神が現れたのか、はたまた、スパークを起こして人類を恐怖に陥れ、ひれ伏させようとする企みなのか。

「その、なんというか、あの山の上に神がいるのですか」
「はい、おわせます」男の声に同意するように、女は深く何度も頷いている。

「姿は見せるのですか」
「いえ、姿は見せません」こちら側から見えていることを意識しているのか、男は首を振った。
「UFOがいるのですか」

逡巡するかのように顎を引いた男。息を呑むような静かな時が流れる。やがて決心したように顔を上げた。
「残念ですが、それにはお答えできません」
それに応えないことにどんな意味があるのだろう。神がUFOに乗って現れたら対外的にもおかしいと考えているのだろうか。

「興味はあります。2,3日考えさせてもらってもいいですか」
「はい、できれば早く。スパークに遭う前に」
「はい、わかりました」
「ポストに小冊子を入れておきます。どうか神のご加護を」


愛は死のように強く 熱情は陰府(よみ)のように酷い。火花を散らして燃える炎。大水も愛を消すことはできない 洪水もそれを押し流すことはできない。愛を支配しようと 財宝などを差し出す人があれば その人は必ずさげすまれる。
(ソロモンの雅歌(がか)8:6-7)



ポチポチッとクリックお願いします。

短編小説 ブログランキングへ

blogramのブログランキング


にほんブログ村