風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」 -36ページ目

ときに人を、ひどく傷つけることがある。
ときに人を、再起不能なまでに叩きのめすことがある。
ときに人を陥れ、嘘を混ぜ込むこともある。

けれど、ひとを慰め、ひとを勇気づけ、ひとを救うことがある。

僕たちはそんな、百獣の王にも負けない鋭い牙と、羽毛にも負けない、柔らで暖かな『言葉』というものを持っている。

ときとして、それを自由に操れることを、つい忘れがちになる。

だけど、それに気づきさえすれば、世界にはきっと、心ほどけるようなやさしい日差しが差すに違いない。

僕はそう思うんだけどね。

ひとを傷つける人は、かつて自分が傷つけられたことを忘れられられずに根に持っている、弱い人なんだとね。

そんな弱い人が、君を傷つけられっこない、ともね。


恋しくて / BEGIN


作詞:作曲:歌 / BEGIN

恋しくて泣き出した 日々などもう 忘れたの
今さらは 戻れない キズつけあった日々がながすぎたの

戻る気は ないなんて ウソをついて 笑ってても
信じてた もう一度 もう一度 あの頃の 夢の中

かわす言葉 ゆきづまりのウソ
好きなら好きと Say again 言えば よかった

I Remember Do You Remember
わけもなくて笑った頃
I Remember Wow Wow

かわす言葉 ゆきづまりのウソ
好きなら好きと Say again 言えばよかった

せつなく て 悲しくて 恋しくて 泣きたくなる
そんな夜は OH ブルース OH ブルース


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時間というのは不思議だ。時に川の急流のように早く、ときに淀みに似てゆっくりと流れる。
けれど、のんびりしていようと、心急いていようと、確実に過ぎてゆく。

その奔流に打ち負かされるかのごとくに、人はいつか必ず死ぬ。

大切に、大切に。伝え忘れることのないように。僕は自分に言い聞かせる。
僕の抱えた後悔は、取り戻すことなどできないことを、僕が一番知っているから。

木蘭の涙 / スターダスト☆レビュー acoustic version 


作詞:山田ひろし 作曲:柿沼清史

逢いたくて 逢いたくて
この胸のささやきが
あなたを探している
あなたを呼んでいる

いつまでも いつまでも
側にいると言ってた
あなたは嘘つきだね
心は置き去りに

いとしさの花籠抱えては 微笑んだ
あなたを見つめていた遠い春の日々

やさしさを紡いで織りあげた 恋の羽根
緑の風が吹く丘によりそって

やがて時はゆき過ぎ幾度目かの春の日
あなたは眠る様に空へと 旅立った

いつまでも いつまでも
側にいると 言ってた
あなたは嘘つきだね
わたしを 置き去りに


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気温が乱高下しています。どうにも体がついていけていない感じがします。

そろそろ、名残の雪の季節でしょうか。
桜が咲く日もそこまで来ています。

以前も書いたような気が──いや、書いてないかもしれない。よく覚えていないのだけれど、『なごり雪』という言葉は伊勢正三が造った言葉なのです。

正確には『名残の雪』なのですが、世間的にもなごり雪が認知されました。
春が来ても消え残っている雪。 春が来てから降る雪。それがなごり雪。

名残は当て字で、正確には『なごり』のようです。
過ぎ去ったあとに残る気配。影響。
それを、なごりといいます。

名残は、ときに優しく、ときに痛みを伴いながら、心の中から消えないもの。



作詞: 作曲:伊勢正三

汽車を待つ君の横で僕は時計を気にしてる
季節はずれの雪が降ってる

「東京で見る雪はこれが最後ね」と
さみしそうに君はつぶやく

なごり雪も降るときを知り
ふざけすぎた季節のあとで

今 春が来て 君はきれいになった
去年よりずっときれいになった

動き始めた汽車の窓に顔をつけて
君は何か言おうとしている

君の口びるが「さようなら」と動くことが
こわくて 下をむいてた

時が行けば 幼ない君も
大人になると気づかないまま

今 春が来て 君はきれいになった
去年よりずっときれいに なった


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島で暮らす中学生の信之は、同級生の美花と付き合っている。ある日、島を大災害が襲い、信之と美花、幼なじみの輔、そして数人の大人だけが生き残る。島での最後の夜、信之は美花を守るため、ある罪を犯し、それは二人だけの秘密になった。それから二十年。妻子とともに暮らしている信之の前に輔が現れ、過去の事件の真相を仄めかす。信之は、美花を再び守ろうとするが―。渾身の長編小説。

─「BOOK」データベースより─



三浦しをんの小説というと、『まほろ駅前多田便利軒』は間違いなく読んでいる。
『舟を編む』はどうだったろう。
買おうかな、どうしようかな、と手にしたものと実際に買ったものがわからなくなっている。

そして、積読の中から選んだこの小説。昨年映画にもなったというのは、今知った。作家名の「あ」の棚からずーっと眺めながら、タイトルと裏表紙の内容紹介だけで買ったもので、世間にあまり知られていない小説だと思っていた。



読むのをやめようかと何度か思った。なぜ、三浦しをんはこんな物語を思いついたのだろう。なぜ書こうとしたのだろう。
暗い。痛い。
ダメだ、僕はもうこんな感じの小説を受け付けなくなっている。

でも、何とか読み切った。人によってかなり評価の分かれそうな作品だった。

救いのない小説と評価する人もいるだろう。人間の内面を深くえぐった物語と評する人もいるかもしれない。

しんどくても読み切ってよかった。でなければ最悪の小説という印象を残したかもしれない。だけど、他の小説を差し置いても、読むべき作品とは言い難い。

『光』を読み終えてBOOKOFFに行った。
そして、ついに入手した!
誉田哲也の『武士道シックスティーン』

僕が何か、難しいことを考えている人間だという印象を持つ人もいるかもしれないけれど、実は考えていない。そんなことさえ放棄しようとしているのだから。
そんな僕には、というと失礼だけれど、ピッタリの作品だ。

『武士道シックスティーン』、読み始めると期待通り面白い。誉田哲也、芸達者!
これでやっと、帰りの電車が楽しみになる。3作あるから、もう、やたらと嬉しい。


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夜を覆う静寂と、頬を撫でる少し冷たい風。
見上げた月と、闇の天空に散らばる星たち。
その狭間を漂う、とりとめもない思い。

炎のように燃えたものと、燃え残ってしまったもの。



人が生きる理由を、誰かに、どこかに問いかけてみたいけれど、答えが返ってきたとしても、僕は納得できるのだろうか。

行きつ戻りつ渡月橋。
果てしもない模索。

倉木麻衣「渡月橋 〜君 想ふ〜」



作詞:歌 / 倉木麻衣
作曲:徳永暁人

寄り添う二人に 君がオーバーラップ
色なき風に 思い馳せて
触れた手の温もり 今も…
Stop 時間を止めて

そう いつの日だって
君の言葉 忘れないの
会いたい時に 会えない
会いたい時に 会えない
切なくて もどかしい 

から紅に染まる渡月橋
導かれる日 願って
川の流れに祈りを込めて
I've been thinking about you
I've been thinking about you
いつも こころ 君のそば

いにしえの景色 変わりなく
今 この瞳に映し出す
彩りゆく 季節越えて
Stock 覚えていますか?

ねぇ いつになったら
また 巡り会えるのかな

会いたい時に 会えない
会いたい時に 会えない
この胸を 焦がすの

から紅に水くくるとき
君との想い つなげて
川の流れに祈りを込めて
I've been thinking about you
I've been thinking about you
いつも 君を 探してる

君となら 不安さえ
どんな時も消えていくよ
いつになったら 優しく
抱きしめられるのかな

から紅の紅葉達さえ
熱い思いを 告げては
ゆらり揺れて歌っています
I've been thinking about you
I've been thinking about you
いつも いつも 君 想ふ

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道ならぬ恋──結婚が認められない血縁関係もあるだろうけれど、ありていに言えば不倫になる。

もしや君は、そんな恋をしていないだろうか。それが叶うことはまずない。いいことなんて絶対にない。僕が保証する。

隣の芝は青く見える。隣のエリちゃんが持っているお人形さんはすごく素敵に見える。それはしかたがないとしてもね。

早く想い出にしてしまう勇気を持つことだね。そして泣く。
涙を拭いた女が世界一強いファイターに変わることぐらい、ぼーっとしている僕だって知ってる。

え……僕? それより、どんな人なの?

ほら出たでしょ、答えたくない質問には質問で返す必殺技。


VOICE / 24時間の神話 1993年3月28日発売。



膝に置いたフォトグラフ
あなたの街は
出逢いの喜びと涙をくれた

もっと弱く抱きしめてくれたら
きっと早くあなた忘れたのに

あの日見た夢が今でも心さまよう
24時間の神話と知っても

あの日見た夢は覚えていてはいけない
離れて行かないあの人の夢

あなたが二つだけ残した物は
坂道の名前と嘘のアドレス

もっと夜が二人にやさしくて
ずっとずっと廻り続けたなら

触れた唇がいたずらに覚えてる
24時間の神話と知っても
あの日の約束信じていてはいけない
もう一度触れたいあのぬくもりに

触れた唇が今でも心さまよう
24時間の神話と知っても
あの日見た夢は 覚えていてはいけない
離れて行かない あの日の神話


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JTのCMで流れている曲がいいですね。
NMB48の山本彩(さやか)が歌っています。(1993年7月14日生まれ)

ご本家は生沢佑一ですが、こっちのほうが好きかな。

全体的に、とても単純な歌詞です。
「ひとりだけど、心のなかはひとりじゃない」←要約です。
わかりにくい不思議な部分です。「こころの中は」が、そこに当てはめられているのがふさわしくないのでしょう。
けれど、それが歌になると不思議と心に響く。メロディの力でしょうか。



『ひとはひとりで生まれて、ひとりで死ぬ』
という言葉があります。

出処は田山花袋のこれでしょうか。
「人間は元来一人で生まれて 一人で死んでいくものである。 
大勢の中に混じっていたって 孤独になるのは分かり切ったことだ」

仏陀はこう言っています。
「貪りと怒りと愚かさを捨て、諸々のしがらみを断ち、命が尽きるのを恐れず、犀(サイ)の角のように、ただひとり歩め」(スッタニパータ)

人は多分、ひとりなのでしょう。そのひとりに、もう一人、あと一人加われば盤石なのだろうけれど、やはり、ひとりなのでしょう。
けれど、つながっているに違いないのです。縁は楽しいことばかりではないのだろうから。

孤独もまた、よし。

CMでは赤文字の部分が歌われています。

ひといきつきながら
作曲:生沢佑一 作詞︰岩田純平

いつものまいにち
いつものなかまたち
なんでもないけれど
すばらしい日々

ひといきつきながら
ひとはひとを想う
ひといきつきながら
ひとはつながる

ひとりだけどひとりじゃない
こころの中はひとりじゃない

たまにはおちこみ
ときにはふりかえる でも
顔上げ前を向けば
道は続いてる

ひといきつきながら
ひとはひとりたたずむ
ひといきつきながら
ひとはひらめく

ひとりだけどひとりじゃない
こころの中はひとりじゃない

ひといきつきながら
ひとはふみだす
ひといきつきながら
ひとはわらう

ひとりだけどひとりじゃない
こころの中はひとりじゃない

ひといきつきながら
ひとはひとを想う
ひといきつきながら
ひとはつながる

ひとりだけどひとりじゃない
こころの中はひとりじゃない

ひといきつきながら
ひとはもっと働く
ひといきつきながら
ひとは生きてる

ひとりだけどひとりじゃない
こころの中はひとりじゃない

ひといきつきながら
ひとはもっと羽ばたく
ひといきつきながら
ひとは生きていく

ひとりだけどひとりじゃない
こころの中はひとりじゃない

今日を生きるすべてのひとに
しあわせだと思える瞬間がありますように

ra-rarara-rarara-ra-ra-


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夜空高く月がのぼっていた。狼男でもあるまいに、月を見るとちょっと興奮する。ほぼ満月だけど今一歩かな。帰って調べたら、満月は明日だった。
あんなものがよく浮かんでいるな、などと思う。
けれど地球だってそうだ。



地球の自転の速さを知っているだろうか。
その最大時速1700 km。
ちなみに音速は時速1225 km / 秒速340m。音より早く回っている。まさに超音速だ。もう目が回るどころの騒ぎではない。高速スピンだ。

地球の公転の速さを知っているだろうか。
時速およそ10万 km、秒速28 km。
スペースシャトルは秒速8 km。
そんな馬鹿みたいなスピードで宇宙を飛んでいる。

太陽系は秒速217キロで銀河系を公転しているそうだ。
もう、いいか……みんな回ってるし、みんな飛んでるんだ。

宇宙の規模から見ると、ちっちゃな、ちっちゃな、ちっちゃな
天の川銀河の中の、さらに、ちっちゃな、ちっちゃな、ちっちゃな銀河系の中の、さらに、ちっちゃな、ちっちゃな、ちっちゃな、太陽系のなかの、さらに、ちっちゃな、ちっちゃな、ちっちゃな、見えないぐらいちっちゃな地球。

大海原に浮かぶケシ粒よりもちっちゃな地球。
僕達はそこに生きている。

UFOを信じるだの信じないだの。宇宙人はいるだのいないだの。
そんな話をしている人が未だにいるのが信じられない。

サムシング・グレートは何を企み、なにを思う。
僕は、もう眠い。

瑠璃色の地球 / 沢田知可子



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駅ビルの壁に背中をあずけた詩織は、頬を緩めて週刊誌を広げている。
もしもこれが違う人だったら、と考えてみる。いつも隣りにいる詩織が別の人間だったら、この結果を産んだだろうかと。

『スパーク』のハッシュタグを入れることも思いつかなかった僕は、何らかの反応があるのを、ただじっと待ったに違いない。

それは取りも直さず、詩織のほうが、あの言葉に対する思い入れが強かったということにほかならない。

いや、その前に、詩織という人間がおそろしく現実的なタイプだったら──あるいは、僕が宗教を否定するのとはまったく違った形の、単なる宗教嫌いだったとしたら、夢で見た週刊誌の記事など書き起こそうとはしなかっただろう。

それを当たり前に受け止めていたなら、僕はひとりで記事を書き、内緒でアップしたかもしれない。いや、しなかった可能性だってありうる。遠慮が先立って、夢は夢で片付けてしまったかもしれないのだ。

自分が自分でいることはたやすいことではないけれど、それをゆるしてくれる相手というのは得難いものなのだろう。

僕は彼女の前で自由に振る舞ってきた。多少羽目をはずしても、やっぱりこの人すこしお馬鹿だわ、というやさしい眼差しがあった。

僕が何か言い出したときの、やれやれ、という言葉も、はいはい、というあしらいも優しく包み込む羽毛布団に似ていた。彼女は僕を、100%認めてくれた。それは、世で子を育てる母の愛に似ているのかもしれない。

どちらか片方が、あるいは双方が、相手からのストレスを強く感じている関係なら長続きはしないはずだし、居心地も悪いだろう。それを不幸な出会い、と一言で片付けてしまうのは違う気がするけれど。

過剰も不足もなく、ちょうどいい。老人の言葉が蘇る。

「さ、行こうか」
「うん」詩織はその週刊誌を大事そうにバッグにしまった。

安売りの冬物衣料はなかった。詩織の言ったとおりだった。でもいい。出かけることに意義がある。特に買いたいものはないということで、エスカレーターで一階に降りた。
その時だった。

「おじいさんだ!」
「え!?」
「電車で会ったあのおじいさんだよ!」
後ろ姿だったけど、すぐにわかった。
エレベーターに乗り込んだ老人に向かって小走りになった。けれど、休日のデパートは混み合っていてなかなか前に進めない。

老人がこちらに気づいた。間違いない。あの人だ。
ほほっと声が聞こえてきそうな柔和な笑みを浮かべた老人の姿を、閉じていくエレベーターのドアがゆっくりと消した。

ドアの前にたどり着いた。2階、3階、5階。エレベーターの表示は止まる。
どこで老人が降りたのかはわかりようもない。

「行こうよ!」詩織が上りのボタンを忙しなく叩く。僕はただ、上がっていく表示を見つめた。

「どうしたの? 追っかけようよ。2階からさ、エスカレーターでくまなく探してみようよ」詩織が地団駄を踏むように上昇するエレベーターの表示を指差す。

「いや、勘違いかもしれない」僕は詩織を見た。
「だって!」必死な詩織に申し訳ない気もした。

「詩織、夢で見たおじいさんが現れる方が変じゃないか?」
「でも──確かめてみる価値はあるんじゃないの?」食い下がるように腕をつかんでくる。
「いや、見間違いだ」

「もう!」まるで駄々をこねる子供のようだ。宗教とか神なんてものに興味も示さなかった彼女がこんなに変貌してしまった。その姿は愛おしいものだった。それはまるで、神を追い求めたかつての自分を見るようだったから。

後ろ髪を引かれるようにその場にとどまろうとする詩織の腕を引いて外に出た。ちょっとズルズル気味に。

追いかけても、老人は見つからないだろう。そう、絶対に。
ただ、エレベーターが閉まる刹那、親指を立てて微笑んだことで全ては収まった。

good! よくやった、それでいい。
それ以外の意味は探せないから。



「詩織さぁ」
「うん?」
「お前がいれば、それでいいんだ。おじいちゃんがいなくても」
キョトンとした目をした詩織が、グフっとうつむいてヒールの片足で蹴る仕草をした。
「おおばかもの」

「さ、行こう。どこかで昼飯を喰おう。詩織はなにがいい?」
「大馬鹿者め」うつむいたままの詩織が、まだぶつぶつと言っている。
「そんな名前の飯はない。詩織って、まあ前から知ってたけど、案外しつこいよね」
「どうしようもない、おおばかものだ」くふっ。

混雑する歩道の先に、天を指すようにステッキを持ち上げた老人の後ろ姿が見えた。人混みに紛れたのか、それとも消えたのか、見えなくなった老人に向かって僕は小さく片手を上げた。

「あたしが恋する人は、どうやら、とんでもないおおばかものだ」グフとかグヘとか、妙な笑いを漏らしながらうつむいて歩いている詩織に、僕は片頬で笑った。

「ラーメンにしようか。それともパスタとかの方がいい?」
「智也が食べたいものでいいよ」僕の左腕に回されていた手が輪を突き抜けて前に出た。
その仕草は、どうみても箸で何かを手繰っているようだ。

「蕎麦?」
「ううん、ラーメン」結局自分で選んだ。
「じゃあ、トッピングに指輪でも」

「あたしは煮玉子──い……い……えぇっ!?」

この先、おじいちゃんおばあちゃんになって、どっちかが先に死んでも、また、きっと、会えそうな気がした。



2月の空は冷たい空気を抱えて、どこまでも晴れ渡っていた。それでも、春の匂いが少しした。

─FIN─

春よ、来い / 松任谷由実



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私たちは毎日ブログをチェックした。
なかなか上がらなかったアクセス数が、ある日を境に飛躍的に伸び始めた。

それは私の提案したハッシュタグだった。
「スパーク」「避ける」「勝つ」「生き延びる」思いつく限りのものを打ち込んだ。
あの文章のどこにも書かれていないことを入れたのだ。それはもちろん、読んでもらいたいから。私は夢の中の出来事を信じていたから。

『愛を知る会』への入会も先延ばしにしたままだ。私たちは再びスパークの危険にさらされている。これはもちろん、手持ちのかわいい花火ではない。体中から火花を散らして、燃えて死ぬのだから。



「あたしたち大丈夫よね。だって読んだんだものね」すがるように彼に訊いてみる。
「ああ、そう信じよう」彼はやさしく頷いた。

愛と恋のエチュードでネット検索にかけてみた。
嬉しいことに、他の人が書いたブログもたくさん出てきた。

好意的なもの、批判的なもの、もっともらしい解説を付けたものと色々あったけれど、すべてにあの文章がコピー・ペーストされていた。

スパークは目に見えて減少し始めていた。私たちがネットに上げたものがその一因になったのならこれ以上の喜びはない。今ひとつ自信が持てないのは、やはり、あの文章のどこにもスパークを避ける手段なんて書かれていないからだ。

そんなある日、メッセージが届いた。

「突然失礼します。週間〇〇の鏑木と申します。あの文章はどのような目的で書かれたのですか? 個人で書かれたものでしょうか。それとも、何らかのメッセージを受け取ったのでしょうか。教えていただけるとうれしいです。内聞にということでしたら、もちろん伏せさせていただきます。ただ、経路が知りたいのです。謝礼はもちろんご用意します」

「あたしが返事を書いてもいい?」
ふん? と私を見た彼が、いいんじゃない、と答えた。彼は譲らないものは絶対譲らないけれど、譲るゾーンがものすごく広い。

『ありがとうございます。あれは、神からのメッセージです。その神様は、ソフト帽を被りステッキをついたおじいさんでした。ちなみに昼下がり電車の中で会いました。お目を留めていただきありがとうございました。感謝します』



私の打ち込んだ文を見て、彼は苦笑した。
「ま、いいんじゃない。謝礼はぜひください、は書かないの?」
「いくらぐらい、くれるんだろうね」
「書いてみれば」

『謝礼はいかほど──』
「ほんとに書くとは大胆不敵」
「だってー」
「だって智也が書けっていったじゃなーい」口真似をしておかしそうに笑った彼は、すっと真顔になって私を見た。

しばし考えた。どうしよう。でも、彼は同意を求めている。
名残惜しい。二人で必死に思い出しながら、彼が打ち込んだ文章だ。
「これぐらいが潮時だろう」そうか、そうだな。従おう、夢に。

それから私たちは、顔を寄せ合って記事を読み返した。
「詩織が消しなさい」彼が椅子の背にもたれ、ギシッと音がした。
自らの手で消すのがためらわれたのか、私が消すべきだと考えたのか──彼ならきっと後者だろう。

私はマウスに手をかけた。
「消すよ。いいのね」
うん、彼の声がした。
「ほんとに消すわよ」往生際の悪い私の隣で、がんばれ詩織ちゃ~ん、と彼の囁きが聞こえた。

ポインターを当てて、私はギュッと目を閉じた。うりゃ、削除ボタンを押した。そして、そのサイトからも退会した。

あの週刊誌の発売日はチェックした。

「出たよ詩織!」駅の売店でそれを手に取った彼が興奮気味の声を上げた。そう、夢で見たあの表紙だ。さっそく購入して駅ビルの壁にもたれて読んだ。

そう、冬物衣料が安くなっていたら買おうと彼が言うので出かけてきたのだ。冬物は新春セールで終わってるよ。もう2月も末だよ。そう説明しても聞かない。ないならないで春物でもいいじゃないか。どっちでもいいのか──まあ、彼らしいけど。

春物はある。冬物は絶対ない。けれど明日を、この先を信じて疑わない彼の姿勢には救われる。

「夢で見たのとおんなじだね」私はなんだか嬉しくなった。額に入れて飾りたいぐらいだ。
「うん。タイトルがついていることと、ブログの主はソフト帽を被りステッキをついたおじいさんに、電車の中で会ったらしいという以外はね」

「そのおじいさんが神様だったって下りは、見事に無視されちゃったわね」
ぶっ、両手を叩いた彼はおかしそうに笑った。「さすがについてこれなかったみたいだね」


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