私たちは毎日ブログをチェックした。
なかなか上がらなかったアクセス数が、ある日を境に飛躍的に伸び始めた。
それは私の提案したハッシュタグだった。
「スパーク」「避ける」「勝つ」「生き延びる」思いつく限りのものを打ち込んだ。
あの文章のどこにも書かれていないことを入れたのだ。それはもちろん、読んでもらいたいから。私は夢の中の出来事を信じていたから。
『愛を知る会』への入会も先延ばしにしたままだ。私たちは再びスパークの危険にさらされている。これはもちろん、手持ちのかわいい花火ではない。体中から火花を散らして、燃えて死ぬのだから。

「あたしたち大丈夫よね。だって読んだんだものね」すがるように彼に訊いてみる。
「ああ、そう信じよう」彼はやさしく頷いた。
愛と恋のエチュードでネット検索にかけてみた。
嬉しいことに、他の人が書いたブログもたくさん出てきた。
好意的なもの、批判的なもの、もっともらしい解説を付けたものと色々あったけれど、すべてにあの文章がコピー・ペーストされていた。
スパークは目に見えて減少し始めていた。私たちがネットに上げたものがその一因になったのならこれ以上の喜びはない。今ひとつ自信が持てないのは、やはり、あの文章のどこにもスパークを避ける手段なんて書かれていないからだ。
そんなある日、メッセージが届いた。
「突然失礼します。週間〇〇の鏑木と申します。あの文章はどのような目的で書かれたのですか? 個人で書かれたものでしょうか。それとも、何らかのメッセージを受け取ったのでしょうか。教えていただけるとうれしいです。内聞にということでしたら、もちろん伏せさせていただきます。ただ、経路が知りたいのです。謝礼はもちろんご用意します」
「あたしが返事を書いてもいい?」
ふん? と私を見た彼が、いいんじゃない、と答えた。彼は譲らないものは絶対譲らないけれど、譲るゾーンがものすごく広い。
『ありがとうございます。あれは、神からのメッセージです。その神様は、ソフト帽を被りステッキをついたおじいさんでした。ちなみに昼下がり電車の中で会いました。お目を留めていただきありがとうございました。感謝します』

私の打ち込んだ文を見て、彼は苦笑した。
「ま、いいんじゃない。謝礼はぜひください、は書かないの?」
「いくらぐらい、くれるんだろうね」
「書いてみれば」
『謝礼はいかほど──』
「ほんとに書くとは大胆不敵」
「だってー」
「だって智也が書けっていったじゃなーい」口真似をしておかしそうに笑った彼は、すっと真顔になって私を見た。
しばし考えた。どうしよう。でも、彼は同意を求めている。
名残惜しい。二人で必死に思い出しながら、彼が打ち込んだ文章だ。
「これぐらいが潮時だろう」そうか、そうだな。従おう、夢に。
それから私たちは、顔を寄せ合って記事を読み返した。
「詩織が消しなさい」彼が椅子の背にもたれ、ギシッと音がした。
自らの手で消すのがためらわれたのか、私が消すべきだと考えたのか──彼ならきっと後者だろう。
私はマウスに手をかけた。
「消すよ。いいのね」
うん、彼の声がした。
「ほんとに消すわよ」往生際の悪い私の隣で、がんばれ詩織ちゃ~ん、と彼の囁きが聞こえた。
ポインターを当てて、私はギュッと目を閉じた。うりゃ、削除ボタンを押した。そして、そのサイトからも退会した。
あの週刊誌の発売日はチェックした。
「出たよ詩織!」駅の売店でそれを手に取った彼が興奮気味の声を上げた。そう、夢で見たあの表紙だ。さっそく購入して駅ビルの壁にもたれて読んだ。
そう、冬物衣料が安くなっていたら買おうと彼が言うので出かけてきたのだ。冬物は新春セールで終わってるよ。もう2月も末だよ。そう説明しても聞かない。ないならないで春物でもいいじゃないか。どっちでもいいのか──まあ、彼らしいけど。
春物はある。冬物は絶対ない。けれど明日を、この先を信じて疑わない彼の姿勢には救われる。
「夢で見たのとおんなじだね」私はなんだか嬉しくなった。額に入れて飾りたいぐらいだ。
「うん。タイトルがついていることと、ブログの主はソフト帽を被りステッキをついたおじいさんに、電車の中で会ったらしいという以外はね」
「そのおじいさんが神様だったって下りは、見事に無視されちゃったわね」
ぶっ、両手を叩いた彼はおかしそうに笑った。「さすがについてこれなかったみたいだね」
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