#好きだった人 〜シナモンロールの思いで〜
当時お付き合いしていた人との甘いシナモンロールの話。もう30年近く前の話。私がまだ20代前半の頃、南米に住んでいたことがある。ある日、アメリカからシナモンロールのお店(シナボン)が街のショッピングモールにできた。現地の価格からするとシナボンは高級だった。当時、ランチが1ドルくらいだったので、5ドルするシナボンはそう簡単に手が出ない代物だった。お店の前を通るといつもシナモンの甘い香りがして、開店当時にもらったシナモンロールのポストカードをホームステイしていた家族や彼に見せては、みんなで「いつか行ってみたいね。」と話していた。ある日、私たちは意を決してシナボンに入ることにする。5ドルの普通サイズのシナモンロールは手が出なくて、「ミニボン」という小さい3ドルのものを一つ購入して二人で食べた。出来立ての温かいシナモンロールはそれはそれは甘くて、口の中でとろけた。南米では味わえない、現地人が憧れる「アメリカの味」がした。「おいしいね」と二人で笑いながら、少しずつ少しずつフォークですくって食べた。「いつか、もっと働いてお金が貯まったら1ダース買ってあげるよ。」彼は言い、二人でまた笑った。あれから数年経って、私は日本に戻り、彼ともお別れすることになる。日本で働き始めた私は、あっという間に、大きいサイズのシナモンロールを躊躇なく注文できるようになる。フルーツのトッピングもつけて、800円くらいだったかな。一人家で食べたシナモンロールはあの時のような味がしなくて、ただの甘いシナモンロールだった。そして、アメリカに住む今、シナボンはあちらこちらにあり、今も変わりなく甘い香りを放つ。もうシナボンに立ち寄ることもないけれど、あの匂いを嗅ぐたびに、当時を思い出す。私が好きだった人との甘い思い出。まるいまど。