何が皮膚科医を盲目にするのか | 皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

金沢市の野町広小路医院で皮膚科医をしています。
何を信じればいいのかわからないこの時代に、
医師の視点から放射能汚染や皮膚科医療の問題点について考えます。

ネット上では「皮膚科医は無能である」としばしば非難される。
だが私は多くの優秀な皮膚科医を知っているし、トレーニングされた皮膚科医の皮疹をみる眼は他科の医師とは比ぶべくもない。

卓越した眼力をもつはずの彼らが、なぜステロイド依存やリバウンドを認識することができないのだろう。

その理由について、私は自身の経験からこう考える。




1.皮膚科医はステロイドを自ら中止することが非常に少ない。


ステロイドの長期連用により症状がコントロールされているときに(中止するとすぐに悪化し休薬できない状態)、皮膚科医のほうから「ステロイドを止めてみましょう」と指示することは非常に少ない。患者が「塗るとかゆみが治まるんです」といえば、「じゃ、同じ薬出しときますね」といったやりとりが診察のたびに繰り返される。ステロイドを中止するかどうかは、患者に委ねることがほとんどだ。
ステロイドが効かない場合も同じで、“ステロイドのランクを上げる”“ステロイドを塗る量や回数を増やす”“重層療法や密封療法を試みる”ことはあってもステロイド自体を止めることは稀だ。
ステロイドを中止することが少なければ必然的に、中止後の反応であるリバウンドに遭遇する機会は減ることになる。




2.ステロイドを長期に使用していても、自然に離脱できることが多い。


アトピーに自然治癒傾向があることは皮膚科医であれば誰でも知っている。乳児であれば1歳から2歳にかけて、学童であれば中学生ぐらいになると自然に症状が治まってくることが多い。自然治癒しやすい時期には、長期に使用していたステロイドも自然に止めることができる(ステロイド依存に陥っている場合はそうもいかないだろうが)
私も以前、乳児の顔面によくステロイドを連用していたが、2歳の夏までには、ほとんどの例でステロイドを止めることができていた。
こうして皮膚科医は“ステロイドを長期に使用しても上手くいった患者”を多く経験することで、ステロイドが全てのアトピー患者にとって善い治療法だと信じることになる。そして患者が訴えるステロイドの問題には耳を傾けなくなるのである。




3.皮膚科医はステロイド依存やリバウンドはないと信じている。


1で“皮膚科医がステロイドを中止することは非常に少ない”と述べた。
では仮に皮膚科医がステロイド中止を指示し、1週後に再来したアトピー患者の症状が激しく悪化していたとしよう。ここで、多くの皮膚科医はこのように考える。
「ステロイドの中止が早すぎた。ステロイドを再開し十分に炎症を抑えたうえで、再度ステロイドを中止してみよう。」
良心的な皮膚科医であれば、ステロイドを再開する前にアレルゲンや刺激物などの悪化因子を検索するかもしれない。しかし多くのケースでは結局ステロイドに逆戻りする。
そこには患者の症状を早く良くしてあげたい、という医師としての良心も入り込むのだが、結果として“止める→悪化する→塗る→止める→悪化する→塗る”というステロイド連用のループにはまり、場合によっては年単位で外用が継続されることになる。
こういったケースのなかには、ステロイドを完全に中止することで離脱に成功する例も確実に存在するのだが、依存やリバウンドの存在をはなから否定している皮膚科医たちが、“ステロイド外用薬が悪化因子である可能性”を考慮することはない。





以前の私も含め、皮膚科医は上記のような考えに囚われていることが多く、その固定観念がステロイド依存やリバウンドの存在を見えにくくしているように思う。

目の前の患者に何が起きているかを純粋な眼でみることは難しいが、それができなければ新たな発見はない。

以下はガリレオ・ガリレイの言葉だが、ステロイドの問題に目を向けようとしない現代の皮膚科医にもあてはまるかもしれない。


「見えないと始まらない。見ようとしないと始まらない」




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