食品ロスが凄いことになっている。日本では、まだ食べられるのに廃棄される食品の量が年間で約720万トンに達するという。これは米穀の生産高の8割にも相当する。モッタイナイ文化の本家本元も、こと食品に関しては、世界一の無駄大国でもあるのだ。
元凶はいうまでもない。賞味期限にある。日付け改竄問題が度々話題になるように日本人は食の安全には特に関心が高い。だが、なにか肝心なことを忘れてはいないだろうか。安全安心を放棄してまでの無駄使いに、どんな意味があるのかを。
そもそも賞味期限は食の安全基準ではない。消費拡大による企業の成長戦略が根底にある。早めに棄てさせることで次の購買を促し、回転率を高めて利益の向上を計る、、といった具合だ。経済活動への貢献は否めないものの家計への圧迫を考えれば堪ったものではあるまい。
生産現場は賞味期限までの日数が1/3になった時点で出荷を停止し、販売先では期日を前に処分され、消費者なら当日を以て廃棄してしまう理不尽な現実。これほどの無駄はない。消費期限だけで十分ではないのか。賞味期限など生活苦と環境破壊を促す以外の何物でもないのだが。
総務省の家計調査報告によると、家計の消費に占める食費の割合(エンゲル係数)は2016年には25.8%に達し、1987年以来の高水準であった。その後も右肩上がりにあり、コロナ渦の影響を受ける今年度(2020年)以降は更に大きく上昇するものと見られている。
エンゲル係数はゆとりの度合いを示し、高いほど生活水準は低いとされる。いわば現在の数値からみた生活水準は30年前に逆戻りしてしまったようなものだ。
一方、国税庁の調査によると、日本人の平均年収は(2019年現在)436万円である。ならば食品への支出は(25.8%を基準に)約112万円であり、食品廃棄額11兆円からして一世帯当たり年間では(11兆円÷5699万世帯=)約19万円分の食材を棄てていることになる。あくまで事業所を含む合算ではあるが各家庭平均でも10万円は下るまい。
非正規就労なら、その影響はさらに大きい。今や全就労者の4割以上をを非正規が占める。平均年収たるや180万円にも満たない。平均値より廃棄量は少ないにせよ、エンゲル係数はより高くなる運命にある。食品ロスによる家計への圧迫は計り知れない。
賞味期限のない頃、鶏卵は採取してから2、3週間後が「最も美味しい」とされた。それも冷蔵庫ではない。籾殻で保管した時代である。それがどうだ。今や、格好の食べ頃を前に「賞味期限切れ」で処分されているではないか。あくまで自己責任とはいえ“生ゴミ”といった概念すらなかったのだ。
超高齢化社会と言われる昨今、平均寿命を押し上げているのは、こうした時代を生きた世代だ。劣悪な環境をくぐり抜けて、尚且つ長生きしている。片や壮若年層を蝕む健康障害問題。ガン発症率をみても先進各国の減少傾向に反して日本だけが急伸している恐ろしい現実。
買っては棄て、棄てれば買い、食べたら残し、残したら棄てて、そしてまた買う・・だけの繰返し。
こんな日本人の食生活って本当に健全なのだろうか。もしや「賞味期限の厳守は健康管理の上でも絶対に欠かせないもの」といった思い込みに支配され、有害物質の過剰摂取のみならず、自らの生活苦まで助長しているのではなかろうか。
しかも現在はコロナ渦による混乱の真っ只中にある。収入は増えない。いや減るばかりだ。だからといって食費だけは落とすわけにいかない。エンゲル係数は30から35%と上昇し、益々家計を圧迫してゆく。企業の経営戦略から意のままに棄てさせられ、しかも貧困社会の元凶であるなら、そんな賞味期限はいらない。
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