蘇るアレア作品とテーマ | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

3年前、ここで《ハリウッド映画芸術科学アカデミー・アーカイブがキューバ・シネマテークの依頼に応え、同国を代表するトマス・グティエレス=アレア監督の2作品、『(仮)悪魔とキューバの闘い(Una pelea cubana contra los demonios』 (1971年)と『(邦題)』天国の晩餐(Los sobrevivientes)』(1979年)のネガフィルム修復を請け負った》と報告しましたが、去る11日(金)、ロスアンゼルスにある同アーカイブで、修復されたフィルムで両作品の上映会が催されました。

折しも今年はアレア生誕90周年。監督にオマージュを捧げるイベントとなりました。

 

以下、スペインの新聞「El PAIS」の記事を参照しつつ(修復についての技術的なことはビデオで見て頂くとして)アレア監督と上記2作品のテーマ等についてお伝えします。

 

下の写真もEl PAISから。

左から両作品の撮影監督マリオ・ガルシア=ホヤと夫人のイボンヌ・ロペス=アレナル(マイアミ在住)、一人おいてルシアノ・カスティーリョ(キューバ・シネマテカ館長・映画研究)、ミルタ・イバラ(故アレア夫人・女優)

 

  

アレアは革命後のキューバ映画で最も重要な監督。

1994年、『苺とチョコレート』のアカデミー賞ノミネートは彼の名を世界に知らしめ、その同性愛に対するアプローチは観客をキューバの悲喜劇に引き込んだ。

それは、ほぼ30年に渡りアレアの手法だった。つまり、歴史的弁明になっているのだ。

 

マリオ・ガルシア=ホヤ(撮影監督)の談話:

『悪魔とキューバの闘い』は、60年代末のキューバと結びついている。当時、ハバナは国内唯一の商業地だったが、地方は(キューバが置かれた)孤立状態の酷いしわ寄せを被っていた。そこでは闇取引を余儀なくされ、ゆえに抑圧されていた。

 

ルシアノ・カスティーリョ(キューバ・シネマテカ館長・映画研究):

本作は、70年代のキューバを覆っていた、ある種の空気と不寛容に関係している。過去を舞台にして今を語っているのだ。

 

*『悪魔とキューバの闘い』の概略

舞台は、1659年のサン・ファン・デル・カジョの沿岸の村で、そこは海賊の脅威にさらされていた。

密輸業者がもたらす誘惑から住民を遠ざけようと、ひとりの狂信的な神父が住民に対し内陸部に逃げるよう説得する。

 

  

*『天国の晩餐』の方は、革命騒ぎが収まるまで自分の屋敷に籠城することにしたブルジョア一族の話だ。彼らは閉じこもっているうちに後退していき、悲劇的な結末を迎える。

 

ミルタ・イバラ(女優・故アレア夫人): 

両作品に共通するのは《ドグマと化した愚かな信念》で、アレアにとって重要なテーマでした。孤立するといかに後退してしまうか、を描いているのです。これはキューバに限らず、全世界に通用する普遍的なテーマです。 

 

ルシアノ・カスティーリョは、60年代を《新しい映画の黄金期》と呼ぶ。ヨーロッパがポーランド映画や日本映画を見出していた頃、キューバでも新しい映画が生まれていたが、外国の目に触れることは殆どなかった。

 

ルシアノ・カスティーリョ:

それは決裂の映画であり、正真正銘のキューバの映画だった。現実に密着しており、当時としては非常に革新的だった。キューバ映画は、ブラジルのシネマ・ノーボと共に、革新的潮流の一派を成し、何本もの作品がイベロアメリカ映画の古典に名を連ねている。

 

Marysolより 

世界のあちこちで《自国ファースト(→アローン)》が突出する今、《孤立》は結果的に《進歩・発展を阻み、野蛮に至る》という、アレア監督の警告(『天国の晩餐』)を普遍的真理として訴えたい。

もっとも、「一刻も早く私の映画が古びて欲しい」「そうなったら私はどんなに嬉しいだろう」と言っていたアレアは、天国でさぞ世界の現状を嘆いていることでしょう…。

 

ところで、今回の修復の元になったフィルム(ネガとコピー)は、ハバナとロスを結ぶ最初の直行便(2015年12月)で運ばれたとか。トランプ政権になって、その便は消滅したそうですが、そんな状況だからこそ、文化交流に活路が求められているのでは?

 

★参考記事

*『(仮)悪魔とキューバの闘い(Una pelea cubana contra los demonios』 (1971年)

紹介: https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-11948922044.html

解説: https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-11950139916.html

 

*『天国の晩餐(Los sobrevivientes)』(1979年)

紹介: https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12257244393.html

解説: https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12257247465.html

 

*『低開発の記憶(メモリアス)』修復フィルム、カンヌで上映

https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12178249610.html

 

*『ルシア』修復フィルム、カンヌで上映

https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12279244411.html