Q05 quest -7ページ目

となりの街のデートの記録。

2人で二度寝して、家を出たのは午後の2時半だった。

「神戸の美味しいチーズケーキを食べに行こう。」と、

言い出したのは、多分彼だったと思うのだけど、

私がネットで調べてお店を決めた。



美味しかった。

私が食べたのはミルクチョコレートのケーキ。

すごくすごく美味しかった。

彼のチーズスフレも美味しかった。




お買い物をしようと思って移動して、

パーキングに車を入れたところで、

彼の仕事のクライアントから電話があった。



車の中で、彼と電話口からもれる相手の話を聞いていた。

元上司の私の恋人は、優秀なビジネスマンだ。

よどみなく、きちんとした言葉で、わかりやすく話す。

私はその話し振りに聞きほれていた。

馬鹿みたいだけど。

結局一緒に仕事をすることがなかったから、

仕事モードの彼を垣間見られるのは、

私にとっては嬉しい偶然なわけで。



丁寧な言葉で電話を切った後、

「ちょっと頭悪いんだわこいつ・・・。」と、

ため息混じりに、いたずらっぽい笑みを見せた。

彼は誠意のある、本当に優秀なビジネスマンだ。



その後は、三宮あたりをふらふらと歩いた。

ZUCCAで彼の秋冬用のアウターを買った。

あまりに寒かったので、着て帰ることにした。



それからインテリアショップをまわって、

ソファとテーブルと、オットマンも買った。

私は、自分用に2006年度の手帳も買った。

それから2人お気に入りのカフェに行って、

漬物パスタと、そばめしと、

エスニックサラダとチーズ春巻きを食べた。

2人で外食をしたのは久しぶり。



新しいマンションの家具の配置を、

ああだこうだと話し合った。

何を買って、何を捨てるか、とか。

ふたりでひとつの、これからの人生の話。



帰りの車から、大きな月が見えた。

少し欠けた、大きな大きな月。

神戸の街のイルミネーション。












「あれから、もう1年になるんだね。」と、

私はまた、出会った奇跡に感謝をした。

夢の中の昔の恋。

「今何時。」と、彼に訊いたら、

「2時。」と嘘を言われた。

本当は朝の9時だった。

先週、午後まで寝倒してしまったこともあって、

わたしはびっくりしてとび起きた。

彼は満足げに笑っていた。



せっかくなのでシャワーを浴びて、

小一時間ほど、お風呂場で唄った。

SPEEDの歌。

my graduation。

本当に久しぶりに唄ったこの曲には、

懐かしい恋の記憶がくっついてくる。



中学を卒業する時に流行っていて。

私は、テニスをするために、

大好きだった男の子と離れて、

県外の寮に入ることに決まっていた。

大好きだった、やまちゃん。



結局、別れたのは大学に入ってからだったけれど。



夢を見た。

やまちゃんの夢。

夢の中の私は、まだやまちゃんに恋をしていて。

それから亦木くんが、

ユニバーサルスタジオジャパンのことを、

「UFJ」と言い間違えて、顔を真っ赤にしていた。

あゆみも、ゆきえもいた。

懐かしい顔がごちゃごちゃに混ざった夢。



恋人の隣で、

私は昔の男に恋をしていた。

ちょっとリアルだったから、

起きた時に少しだけ後ろめたかった。





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シャワーを浴びながら、

ひとしきり思い出を唄って。

髪も乾かさずに、

まだベッドにいた恋人の横に入って、

また眠ってしまった私。

これだから休日は好き。



懐かしい。

懐かしい。

もう、懐かしいとしか思わない。

思えない、昔の恋愛。



恋人の腕枕。

左手を曲げて、私の頭を撫でる手。

体をよじって、両手で抱きしめた。

彼の細い体は、私と抱き合うのに調度良い。

ぴったりと体をくっつけて、彼の首にキスをした。

「気持良いね。」と言うと、

彼はまた、満足げに笑っていた。






この幸せが、ずっとずっと続くといいな。

微熱。

リョージからメールがあった。



リョージと恋人同士だったのは2ヶ月半の間だった。

恋をしたつもりなかったのに、

ほだされるように、

いつの間にか「彼女」になっていた。


それでも、

夜中公園で話したりキスをしたりした後、

玄関先で別れる時は、

この世の終わりみたに淋しかったのだけど。




メールは、

久しぶりに私のblogを読んでの感想と、

それから、彼にとって、

私との出会いはセンセーショナルだったし、

恋心とは別に、

今でも大切な人だと思っている、

という様な内容だった。




指の細い人だった。

眼鏡の向こうにある目は、

ひどくキラキラしていて、

それから歯並びがきれいで。

笑った顔がすごく好きだった。





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『好意を注ぐのは勝手だけれど、

そちらの都合で注いでおいて、

植木の水やりみたいに期待されても困る。』



と、華子の言葉をそっくりそのまま借りたことがある。



昔の、ことに十代から成人になりかけの頃の私は、

いつだってそんな風だった。



好いてくれるのは嬉しい。

優しさはうけとめる。

だけど何かを期待されても困るし、

そんな愛情は、

ただ煩わしかった。





愛されることは、

ほとんど恐怖に近かったのだと、

今ならば理解る。




人は誰だって、

相手が男でも女でも。

自分と同じだけの気持ちを欲しがる。

そっくり同じだけの、気持ちを。




そこに、過不足があってはいけないということ。

不足があれば、悲しみに。

過剰であれば、それは恐怖にかわる。







あの頃。

季節の変わり目に風邪をひくみたいに恋をした。

わざと、薬も飲まずに。

体に溜まる少しの熱に、出来る限り沈みこむみたいに。



それくらいが良かった。

ずっとひかない微熱みたいに。

そんな風に、自分を想ってくれることを望んでいた。



自分自身が、そんな風にしか、

好きになれなかったから。





怖くて、傷つけた。

あるいは自分で欲しがったものかもしれないのに。

それ以上のものを差し出されれば、

その手を強く弾いた。







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私は、リョージに何をしてあげられたんだろう。

東京の街を、雨の中一緒に歩いた。

バイト先の、階段の踊り場でキスをした。

夜の公園で、缶ジュースを飲みながら語った。

寒くて、ミルクティはすぐに冷めてしまった。





それでも、彼は私のことを覚えていて、

blogを読んで、メールをくれる。

大切な人だと言ってくれる。





今更ながら、幸福さに感謝をしたい。

若かったとか、幼かったとか、

捻くれていたとか。

多分そういうことではなくて。

知らなかった、単純に。

「好きになる」という、

純粋な感情を理解できず、

ただ怯えていた。

この場合の無知は、

罪悪に等しいと思う。

どれだけの傷を、彼に与えたのだろう。





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「またいつか会おうね。絶対だよー。」と、

横浜にいる私の昔の恋人は言う。




うん。会おう。

またいつかきっと。










その時はきっと、

私は謝ることなどせずに、

「ありがとう」って言おう。

私も出会って良かったと思うよって。

ランチと定期とわたしの名前。

改札口に向かいながら、

かばんから財布を出す。

そして、財布から定期を出す。



この一連の動き。

すごく懐かしい。

横浜にいた頃を思い出す。

電車に乗るのが私は好きだ。





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定期を買ったので、

交通費を気にせずに財布を空にできる。

なんてね。



今日はお昼を持っていきそびれて、

会社の先輩達に、

パスタのおいしいお店に連れて行ってもらった。





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「きゅうちゃんパスタ好きなの?」と、先輩が言った。

苗字にさんづけで呼ばれていたと思ったのに、

いつの間にか「きゅうちゃん」と、

耳になじんだニックネームで呼ばれた。



少し、近くなれた気がして嬉しかった。



新しいコミュニティというのは、

いつだって恐怖とともにある。

私を、受け入れてもらえるだろうかと、怯えている私。




どうか、早いうちに。

私の存在が、空気のそれみたいに、

当たり前に受け入れられますように。




怯えながら、私は笑顔をつくる。

トマトソースのパスタは美味しかった。






片思い。

久しぶりに、ひたむきな恋心を目の当たりにした。



私の少ない友人の多くは、いつも恋をしているけれど。

だけど、彼女たちはどう考えても恋愛玄人で、

知らないところで、勝手に恋をつかまえてきては、

その時々に色を変える幸せの空気に、

すました顔で浸っている。




だから、ちょっとどきどきしてしまう。

そのひたむきさだとか、センチメンタルだとか、

何というか、恥じらいにも似た、

趣深さのようなもの。



私の言う、「ひたむきな恋心」というのは、

つまりは好きな人のために一生懸命になること、という意味。

彼女は本当にまっすぐに恋をしている。

それはとても可愛くて、強くて、気高い。


聡明な女性が、両手ばなしで、

一生懸命、恋をしている。

ある種の迫力さえ感じられるもの。





本当に、

恋をしてしまった人間は手に負えない。

片思いはなおさら。

きれいなきれいな無償の愛。





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思い知らされる。

報われれば報われるほど、

欲張りになってきた自分。




少しずつ、少しずつ、

優しさを落としてきたのかもしれない。





携帯の、着信音を変えた日。

私には別の恋人がいたのに、

違う男の着信音を、専用に変えた。


心変わりを、認めた日。


はじめてその音が鳴ったとき、

あんなにどきどきしたのに。



忘れてしまった、片思いの日々。

戻れないね、もう。










戻らなくて、いいけど。