となりの街のデートの記録。
2人で二度寝して、家を出たのは午後の2時半だった。
「神戸の美味しいチーズケーキを食べに行こう。」と、
言い出したのは、多分彼だったと思うのだけど、
私がネットで調べてお店を決めた。
美味しかった。
私が食べたのはミルクチョコレートのケーキ。
すごくすごく美味しかった。
彼のチーズスフレも美味しかった。
お買い物をしようと思って移動して、
パーキングに車を入れたところで、
彼の仕事のクライアントから電話があった。
車の中で、彼と電話口からもれる相手の話を聞いていた。
元上司の私の恋人は、優秀なビジネスマンだ。
よどみなく、きちんとした言葉で、わかりやすく話す。
私はその話し振りに聞きほれていた。
馬鹿みたいだけど。
結局一緒に仕事をすることがなかったから、
仕事モードの彼を垣間見られるのは、
私にとっては嬉しい偶然なわけで。
丁寧な言葉で電話を切った後、
「ちょっと頭悪いんだわこいつ・・・。」と、
ため息混じりに、いたずらっぽい笑みを見せた。
彼は誠意のある、本当に優秀なビジネスマンだ。
その後は、三宮あたりをふらふらと歩いた。
ZUCCAで彼の秋冬用のアウターを買った。
あまりに寒かったので、着て帰ることにした。
それからインテリアショップをまわって、
ソファとテーブルと、オットマンも買った。
私は、自分用に2006年度の手帳も買った。
それから2人お気に入りのカフェに行って、
漬物パスタと、そばめしと、
エスニックサラダとチーズ春巻きを食べた。
2人で外食をしたのは久しぶり。
新しいマンションの家具の配置を、
ああだこうだと話し合った。
何を買って、何を捨てるか、とか。
ふたりでひとつの、これからの人生の話。
帰りの車から、大きな月が見えた。
少し欠けた、大きな大きな月。
神戸の街のイルミネーション。
「あれから、もう1年になるんだね。」と、
私はまた、出会った奇跡に感謝をした。
夢の中の昔の恋。
「今何時。」と、彼に訊いたら、
「2時。」と嘘を言われた。
本当は朝の9時だった。
先週、午後まで寝倒してしまったこともあって、
わたしはびっくりしてとび起きた。
彼は満足げに笑っていた。
せっかくなのでシャワーを浴びて、
小一時間ほど、お風呂場で唄った。
SPEEDの歌。
my graduation。
本当に久しぶりに唄ったこの曲には、
懐かしい恋の記憶がくっついてくる。
中学を卒業する時に流行っていて。
私は、テニスをするために、
大好きだった男の子と離れて、
県外の寮に入ることに決まっていた。
大好きだった、やまちゃん。
結局、別れたのは大学に入ってからだったけれど。
夢を見た。
やまちゃんの夢。
夢の中の私は、まだやまちゃんに恋をしていて。
それから亦木くんが、
ユニバーサルスタジオジャパンのことを、
「UFJ」と言い間違えて、顔を真っ赤にしていた。
あゆみも、ゆきえもいた。
懐かしい顔がごちゃごちゃに混ざった夢。
恋人の隣で、
私は昔の男に恋をしていた。
ちょっとリアルだったから、
起きた時に少しだけ後ろめたかった。
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シャワーを浴びながら、
ひとしきり思い出を唄って。
髪も乾かさずに、
まだベッドにいた恋人の横に入って、
また眠ってしまった私。
これだから休日は好き。
懐かしい。
懐かしい。
もう、懐かしいとしか思わない。
思えない、昔の恋愛。
恋人の腕枕。
左手を曲げて、私の頭を撫でる手。
体をよじって、両手で抱きしめた。
彼の細い体は、私と抱き合うのに調度良い。
ぴったりと体をくっつけて、彼の首にキスをした。
「気持良いね。」と言うと、
彼はまた、満足げに笑っていた。
この幸せが、ずっとずっと続くといいな。
微熱。
リョージからメールがあった。
リョージと恋人同士だったのは2ヶ月半の間だった。
恋をしたつもりなかったのに、
ほだされるように、
いつの間にか「彼女」になっていた。
それでも、
夜中公園で話したりキスをしたりした後、
玄関先で別れる時は、
この世の終わりみたに淋しかったのだけど。
メールは、
久しぶりに私のblogを読んでの感想と、
それから、彼にとって、
私との出会いはセンセーショナルだったし、
恋心とは別に、
今でも大切な人だと思っている、
という様な内容だった。
指の細い人だった。
眼鏡の向こうにある目は、
ひどくキラキラしていて、
それから歯並びがきれいで。
笑った顔がすごく好きだった。
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『好意を注ぐのは勝手だけれど、
そちらの都合で注いでおいて、
植木の水やりみたいに期待されても困る。』
と、華子の言葉をそっくりそのまま借りたことがある。
昔の、ことに十代から成人になりかけの頃の私は、
いつだってそんな風だった。
好いてくれるのは嬉しい。
優しさはうけとめる。
だけど何かを期待されても困るし、
そんな愛情は、
ただ煩わしかった。
愛されることは、
ほとんど恐怖に近かったのだと、
今ならば理解る。
人は誰だって、
相手が男でも女でも。
自分と同じだけの気持ちを欲しがる。
そっくり同じだけの、気持ちを。
そこに、過不足があってはいけないということ。
不足があれば、悲しみに。
過剰であれば、それは恐怖にかわる。
あの頃。
季節の変わり目に風邪をひくみたいに恋をした。
わざと、薬も飲まずに。
体に溜まる少しの熱に、出来る限り沈みこむみたいに。
それくらいが良かった。
ずっとひかない微熱みたいに。
そんな風に、自分を想ってくれることを望んでいた。
自分自身が、そんな風にしか、
好きになれなかったから。
怖くて、傷つけた。
あるいは自分で欲しがったものかもしれないのに。
それ以上のものを差し出されれば、
その手を強く弾いた。
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私は、リョージに何をしてあげられたんだろう。
東京の街を、雨の中一緒に歩いた。
バイト先の、階段の踊り場でキスをした。
夜の公園で、缶ジュースを飲みながら語った。
寒くて、ミルクティはすぐに冷めてしまった。
それでも、彼は私のことを覚えていて、
blogを読んで、メールをくれる。
大切な人だと言ってくれる。
今更ながら、幸福さに感謝をしたい。
若かったとか、幼かったとか、
捻くれていたとか。
多分そういうことではなくて。
知らなかった、単純に。
「好きになる」という、
純粋な感情を理解できず、
ただ怯えていた。
この場合の無知は、
罪悪に等しいと思う。
どれだけの傷を、彼に与えたのだろう。
::
「またいつか会おうね。絶対だよー。」と、
横浜にいる私の昔の恋人は言う。
うん。会おう。
またいつかきっと。
その時はきっと、
私は謝ることなどせずに、
「ありがとう」って言おう。
私も出会って良かったと思うよって。
ランチと定期とわたしの名前。
改札口に向かいながら、
かばんから財布を出す。
そして、財布から定期を出す。
この一連の動き。
すごく懐かしい。
横浜にいた頃を思い出す。
電車に乗るのが私は好きだ。
::
定期を買ったので、
交通費を気にせずに財布を空にできる。
なんてね。
今日はお昼を持っていきそびれて、
会社の先輩達に、
パスタのおいしいお店に連れて行ってもらった。
::
「きゅうちゃんパスタ好きなの?」と、先輩が言った。
苗字にさんづけで呼ばれていたと思ったのに、
いつの間にか「きゅうちゃん」と、
耳になじんだニックネームで呼ばれた。
少し、近くなれた気がして嬉しかった。
新しいコミュニティというのは、
いつだって恐怖とともにある。
私を、受け入れてもらえるだろうかと、怯えている私。
どうか、早いうちに。
私の存在が、空気のそれみたいに、
当たり前に受け入れられますように。
怯えながら、私は笑顔をつくる。
トマトソースのパスタは美味しかった。
片思い。
久しぶりに、ひたむきな恋心を目の当たりにした。
私の少ない友人の多くは、いつも恋をしているけれど。
だけど、彼女たちはどう考えても恋愛玄人で、
知らないところで、勝手に恋をつかまえてきては、
その時々に色を変える幸せの空気に、
すました顔で浸っている。
だから、ちょっとどきどきしてしまう。
そのひたむきさだとか、センチメンタルだとか、
何というか、恥じらいにも似た、
趣深さのようなもの。
私の言う、「ひたむきな恋心」というのは、
つまりは好きな人のために一生懸命になること、という意味。
彼女は本当にまっすぐに恋をしている。
それはとても可愛くて、強くて、気高い。
聡明な女性が、両手ばなしで、
一生懸命、恋をしている。
ある種の迫力さえ感じられるもの。
本当に、
恋をしてしまった人間は手に負えない。
片思いはなおさら。
きれいなきれいな無償の愛。
::
思い知らされる。
報われれば報われるほど、
欲張りになってきた自分。
少しずつ、少しずつ、
優しさを落としてきたのかもしれない。
携帯の、着信音を変えた日。
私には別の恋人がいたのに、
違う男の着信音を、専用に変えた。
心変わりを、認めた日。
はじめてその音が鳴ったとき、
あんなにどきどきしたのに。
忘れてしまった、片思いの日々。
戻れないね、もう。
戻らなくて、いいけど。