微熱。 | Q05 quest

微熱。

リョージからメールがあった。



リョージと恋人同士だったのは2ヶ月半の間だった。

恋をしたつもりなかったのに、

ほだされるように、

いつの間にか「彼女」になっていた。


それでも、

夜中公園で話したりキスをしたりした後、

玄関先で別れる時は、

この世の終わりみたに淋しかったのだけど。




メールは、

久しぶりに私のblogを読んでの感想と、

それから、彼にとって、

私との出会いはセンセーショナルだったし、

恋心とは別に、

今でも大切な人だと思っている、

という様な内容だった。




指の細い人だった。

眼鏡の向こうにある目は、

ひどくキラキラしていて、

それから歯並びがきれいで。

笑った顔がすごく好きだった。





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『好意を注ぐのは勝手だけれど、

そちらの都合で注いでおいて、

植木の水やりみたいに期待されても困る。』



と、華子の言葉をそっくりそのまま借りたことがある。



昔の、ことに十代から成人になりかけの頃の私は、

いつだってそんな風だった。



好いてくれるのは嬉しい。

優しさはうけとめる。

だけど何かを期待されても困るし、

そんな愛情は、

ただ煩わしかった。





愛されることは、

ほとんど恐怖に近かったのだと、

今ならば理解る。




人は誰だって、

相手が男でも女でも。

自分と同じだけの気持ちを欲しがる。

そっくり同じだけの、気持ちを。




そこに、過不足があってはいけないということ。

不足があれば、悲しみに。

過剰であれば、それは恐怖にかわる。







あの頃。

季節の変わり目に風邪をひくみたいに恋をした。

わざと、薬も飲まずに。

体に溜まる少しの熱に、出来る限り沈みこむみたいに。



それくらいが良かった。

ずっとひかない微熱みたいに。

そんな風に、自分を想ってくれることを望んでいた。



自分自身が、そんな風にしか、

好きになれなかったから。





怖くて、傷つけた。

あるいは自分で欲しがったものかもしれないのに。

それ以上のものを差し出されれば、

その手を強く弾いた。







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私は、リョージに何をしてあげられたんだろう。

東京の街を、雨の中一緒に歩いた。

バイト先の、階段の踊り場でキスをした。

夜の公園で、缶ジュースを飲みながら語った。

寒くて、ミルクティはすぐに冷めてしまった。





それでも、彼は私のことを覚えていて、

blogを読んで、メールをくれる。

大切な人だと言ってくれる。





今更ながら、幸福さに感謝をしたい。

若かったとか、幼かったとか、

捻くれていたとか。

多分そういうことではなくて。

知らなかった、単純に。

「好きになる」という、

純粋な感情を理解できず、

ただ怯えていた。

この場合の無知は、

罪悪に等しいと思う。

どれだけの傷を、彼に与えたのだろう。





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「またいつか会おうね。絶対だよー。」と、

横浜にいる私の昔の恋人は言う。




うん。会おう。

またいつかきっと。










その時はきっと、

私は謝ることなどせずに、

「ありがとう」って言おう。

私も出会って良かったと思うよって。