カタカムナ共鳴師の冒険日誌

カタカムナ共鳴師の冒険日誌

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      勇氣と情熱、すこやかに


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  二一四四年。ソンミはチャン導師に連れられ、隠れ家に辿りついた。頑丈そうな鉄の扉が開いた。

「さぁ、中に入って」
 そこはとても殺風景で、黒っぽい石に囲まれた四角い部屋、まるで原始人が住むような所。チャン導師は部屋に入るなりリモコンスイッチを押す。放送が流れた。
「住居システムへようこそ」 鉄の扉がしっかりと施錠、 「警備レベル最大」 「デザインを変更します」 「スキンを選択」 「テクスチャを選択」
 チャン導師のリモコン指示で次々とコンピューターが起動、部屋はあっという間に趣のある内装にかわった。畳の部屋にモノトーンの机、壁はガラス張りの窓になって、窓の外はソウル市内を高いビルから見下ろした風景がうつる。
「昔のソウルだよ。あの頃はまだ、海面上昇がなくて地続きの街だった。地球の極の氷が解けてどんどん上がっている。このまま続くと、ソウルはあと百年で沈んでしまう・・・」 チャン導師は街の行く末を心配した。

 


 地球崩壊後一〇六年目。キャットキンに呪術のまじないがほどこされていた。たくさんのロウソクに炎がともる。キャットキンの容体が心配。そこへメロニムが入ってきた。俺とローズは顔を上げた。メロニムは横になって苦しんでいるキャットキンのそばへ行き、銀色の手の平サイズの機械を取り出した。


 二一四四年。街の風景を見ていた私にチャン導師が声をかけた。
「食べ物はそこに入っている。ソープとは違うけど、きっと美味しいと思うよ。すぐに慣れるから心配しないで。さぁ、ついてきて」
 私はチャン導師の後を追った。
「ここが君のベッド」
 布団と枕は和風調の色彩柄、チャン導師はその奥の部屋を案内、障子柄の観音開きの扉、
「これが君の服」
 たくさんの洋服が綺麗に仕舞われていた。どの色も美しい。まるで花びらのよう。私は恐る恐る洋服に触った。いけない事をしている子どもの氣持ちだった。
「私の? でもこれは人間の服です」
「いいや、君の服だ」 チャン導師は下を向き哀愁深い笑みをたたえた。 「パダソングのことは忘れて、ゆっくり休むといい」
《回想 終わり》

 警察官が質問した。 「彼がユニオン(ソウル政府の反乱軍)の一味だと知っていましたか?」
「知りませんし、氣にしていません」
「どうしてですか? あなたに危険がおよぶかも知れませんよ。うまく利用されるかもしれない」
「あの人は私が初めて出会った親切な人間、そんなふうに考えません」


 地球崩壊後一〇六年目。メロニムの治療が終わった。毒をレーザーで焼いたので、もう大丈夫だという。親切な外国人だった。しばらくしてキャットキンが目を覚ました。 「ママ~お腹すいた・・・」
 ローズは涙で微笑み、寝ているキャットキンを抱き寄せた。 「良かった!」 キャットキンを抱くローズを後ろから抱きしめ、俺も泣いた。その様子を見つめるメロニムに振り返り、俺はうやうやしく頭を下げた。

 

 

二一四四年。ソンミの見ず知らずの人間を信頼する心に打たれ、警察官はしばし考えていた。そしてまた、質問をはじめた。ソンミはチャン導師との日々を思い出しながら、応じる。

《回想》
 私は衣裳部屋で青い服に着替え、大広間に戻った。チャン導師はコンピューター操作をしている。私が入ってきたのに氣付いて振り向いた。
「氣に入った?」
 私は頷いた。
「よく似合っているよ! さぁ、こっちへ来て」 チャン導師は、まるでお姫様を迎え入れるように優しかった。座椅子を二つ私の前に置く。

「動画チップが破損していたせいで巻き戻ってしまう。これでは同じ場面の無限ループですね」

「私と同じだわ」 ソンミは金太郎飴のようなパダソングの日々を思い出した。

「でも、直しておきました。全編の復元完了です」
「えっ、全編?!」
 チャン導師は私がユナからもらった映画の端末装置を操作した。部屋は暗くなり、大都会を見渡す大窓はたちまち映画のスクリーンに早変わり。お城のような屋敷と黒い雲、不吉な影、その横に大きな文字。映画のタイトルは 「カベンディッシュの大災難」 一台の車が建物の敷地内に入る所から物語は始まる。
 


 二〇一二年。ジャラジャラジャラ・・・ベッドに寝ていたカベンディッシュは翌朝、金属同士がぶつかる音で目を覚ました。部屋の壁際に人が立っている。何やら、私の荷物を漁られている様子。
「おい、何してるんだ? ここは私の部屋だぞ」
「家の鍵と携帯電話はここでは回収です。ジャッドさんが預かりますからね」 大柄で顔もビッグサイズな女性(まるで男!)は小さな手帳を取り出した。
「私のものに触るな、泥棒。出ていけ」
「あなたは新入りだから、今の口答えは特別に許しておきます」 女は手帳のページをめくりながらこちらを見た。 「以後、ことばには気を付けなさい。このオーロラ荘では私への口答えは許されません。そんな悪いお口さんには石鹸粉を食べさせる刑です。冗談ではありませんよ、カベンディッシュさん」
「私に石鹸粉を食わせるだとぅ? バカな、できるもんならやってみろ! なにがことばに気を付けろだ? 私は好きなようにしゃべるぞ、泥棒。今すぐに盗ったものを返すんだ。さもないとホテルの警備を呼ぶぞ。なんなら警察に来てもらってもいい。口答えだというのならお前の不法侵入罪と窃盗罪の方がよっぽど罪が重いぞ?」
 女の体躯がのっそりと近づき、「バシッ!」 と乾いた音が響き渡った。私は横っ面をひっぱたかれ、ベッドに突っ伏した格好に。行為とはうらはらに実に軽快な音、ベッドのスプリングが激しく上下した。私は突然の痛みに 「あ・・あ・・」 とうめいた。 「くはっ、宿泊客に対して暴力を振るうとは何ごとだ?」 ジンジンと痛むほほ。
「まったく、あきれた人だわ。こんなことではこの先、苦労するわよ」
「お、お前は本当にここの従業員なのか?」
「あぁ、ご紹介が遅れました。私はノークス看護師です。また逆らったら痛い目に合わせるわよ。それと朝ごはんは八時ちょうど。今日はゆで卵とトーストだけどお寝坊さんには無し。分かったわね」

 私は呆気にとられた。いったいなんなんだ?!

 

 

一九七三年。ルイサはシックススミス博士が持っていた手紙を一通り読み終えた後、車に乗って原子力発電所を作っているシーボード社への取材へ出掛ける事にした。手紙からは特に手掛かりは得られなかった。これから行く取材はどうしても確かめてみたいという個人的理由からだ。もしかしたらまったく関係ないのかもしれない。博士とエレベーターの中に閉じ込められた時、彼は姪(名前はメーガンという)の話をしていた。あたしは、「シックススミス博士はお子さんがいらっしゃらないのですか?」 と尋ねた。そうしたら、「私は一生、科学と結婚する事にしたんだよ」 とほほ笑んだ。そして原子力の技術者になったそうだ。先日から巷で騒がれている原子力の発電所。博士となにか関係あるのかもしれない。突然、殺されるなんてどうかしている。あたしがこうして調べていると、あたしまで命を狙われてしまうのだろうか。そんな事を考えながら、車を運転していた。

 あたしがシーボード社で受付を済ませて待っていると、三人の男性と一人の女性がこちらに歩いてきた。
「お待たせして申し訳ないね。 あなたは確か・・・」 代表取締役社長のフックスが私に話しかけてきた。
「スパイグラスマガジンのルイサ・レイです」
「あぁ、そうだった。彼はジョー・ネピア。ここの警備主任だ」 と言い、屈強の黒人男性を紹介した。
 私は握手をかわした。黒人は私をボディチェック、その後、フックス社長に 「何かあればご連絡を」 と言い残し、去っていった。
「あぁ、そうするよ。 君たちも行って」
「はい」 フックス社長を残して、残りの二人も去って行った。
「いやぁ、取材の申し入れには驚いたよ。悪く言うつもりはないが、君の雑誌は芸能が専門だろ。どうしてうちの会社に」
 あたしは肩をすくめ、フックス社長に弁解するように言った。 「記事の編集方針が変わったんです。読者は社会性のある記事を求めていますので」
「ふふふ、じゃぁこちらへどうぞ。象牙の塔を案内しよう。ここは変人ばかりだぞ」


 二〇一二年。カベンディッシュは泊まる場所を間違えたのかもしれないと思った。看護師がいなくなるとすぐに起き上がり、勢いよく扉を開けた。
 大広間では、たくさんの老人たちがおのおのテーブルに座り、話をしたり新聞を読んだり、なんともまったりした雰囲氣を醸し出していた。私は目を見張った。このホテルにはどうしてこんなに老人ばかりいるんだ?

 私は早足で受付に歩いて行った。
「おはようございます。お目覚めのご機嫌はいかがですか?」 と同情するように言った。
「なにがご機嫌だ、ここは最低だ! ゆうべはここをホテルだと勘違いしていた。兄に手配してもらったんだが、何かの間違いだ。だがひとつ言わせてもらう。これは大問題だ。私の部屋にノークスと名乗る看護士が勝手に入ってきて、殴られたんだ。寝ている間に鍵も盗まれた!」 私は受付の女性を見つめた。呆れたような顔をしている。
「私の鍵を返せ! 今すぐに!」
 昨日のナイチンゲールに見えた女性はメガネを外して言った。 「あなたはこの先、オーロラ荘で暮らしていくんですよ。ゆうべ、正式な書類にサインしましたよね」
「へ、サイン?」
「身柄を預けるという書類ですよ。あなたは入居を承諾した」
「いやいや、とんでもない! ホテルの宿帳と勘違いしたんだ。いや、細かい事はいい! 酒の席で話すいいネタにしてやる」 私は冷静さを取り戻して、事の事態を肯定的に受け止めた。間違えて書類にサインして暴力を振るわれたなんて、そうそう経験できるものじゃない。
「落ち着いてください、初日は大抵の人がパニックを起こすものです」
「いいから私の鍵を返してくれ」
「入居したからには・・・」

「入居は取り消しだ!!」

 私は一度抑えたイライラが頂点に達し、大声を張り上げた。食事中の老人たちは突然の怒鳴り声を聞いて、全員がこちらを振り返った。

「そうやってイライラするのは、あなたのためになりませんよ!」
「これではまるで拉致じゃないか! お前ら犯罪者の思い通りになんか、なってたまるか!」 私は予想外の対応ですっかり頭に血が上り、荷物を持って外に飛び出した。鍵を取られようが何と言われようが、私はこんな所すぐに出て行く!

 

 二一四四年。ソンミ451は映画を観ていた。ユナ939と観た、あのシーンにさしかかった。
お前ら犯罪者の思い通りになんか、なってたまるか!
 映画の中のシーンはそのまま続く。中年男性の主人公は怒りの形相で扉を開けて出ていった。次のシーンは、主人公の自宅の部屋、机に座って物書きの仕事をしだした。窓の外では屋根に雪が降り積もり、それをバックに主人公が自分の想いを吐露する。
「外では、ぼたん雪が家々の屋根に降り積もっていた。祖国から追放されバーモントに流れ着いたソルジェニーツィンのように私は熱心に物を書く。だがソルジェニーツィンと違って、私は孤独ではなかった」
 私の瞳は熱く濡れていた。すっかり映画のとりこになった。

 

 

二〇一二年。カベンディッシュは勢いよく外の扉を開けた! 緑一面森の中。きれいに晴れ渡り、遠くではヒバリが鳴いていた。
 私は大事なカバンを両手に抱え、足早で外階段を降りる。庭仕事していた男が立ち上がり、私の方を振り返った。
「お出掛けですか?」
「あぁ、そうとも! 人間の世界へ帰る!」 私は門の方へ歩いていった。一階の大広間は壁一面がガラス張りになっていて、多くの入居者が私を見物していた。 「ソイレント・グリーンは人間だ! ソイレント・グリーンの原料は人間なのだ!」 私は両手を上げて、高らかに宣言した。

 

(◎ソレント・グリーンとはアメリカ映画のタイトルだ。時代は近未来で、爆発的な人口増加をしている。それにより多くの貧しい者たちが不当に搾取され、食べ物がほとんど手に入らない世界が舞台。本物の食べ物はなかなか手に入らないので、ソレント・グリーンという合成食品の配給によって国民を賄っている。合成食品の中身は海のプランクトンだとされるが、この映画の最大の秘密は、ソイレント・グリーンの原料が人間の死体だったという衝撃的なもの。)

 

「君、戻ってきなさい」 庭師の男が追いかけてきた。
「私に手を出したら、お前も共犯者として警察に訴えるぞ」 私は庭においてある机の植木鉢を投げて、男が近づいてくるのをけん制した。まるで雪合戦だ。植木鉢はたくさんあり、それらは割れて、破片と草と土が地面に散らばる。次々と庭師の仕事を台無しにしていった。
「この野郎、家出のペナルティは大きいぞ!」 追ってくる庭師の男。かなり体格がいい、大男だ。

私は机の周りを回って、捕まらないように逃げる。男はそれを追う。また植木鉢を投げて男をけん制。
「やってみろ! お仕置きのことしか頭にないのか、変態」 私は机の真向いにいる男に向かって、畳返しをするかのように机ごとひっくり返した。男の前には机の上の大量の植木鉢がすべて地面に転がる。それに乗じて、私はテーブルから離れて逃げ出した。
「始末に負えん奴だ!」 男は机を回り込み、追ってきた。
 私は低い石塀を超えようとしたが、その前に男に後ろから羽交い絞めにされた。男の力は強く、私の体を軽々と地面から持ち上げた。
「うわぁ~、離せぇ~! この人でなしぃ~!」 もうなすすべなし。
 男は私の意志などお構いなしに、まるで大きな荷物を運ぶかのように私をかかえ、入口の方へ歩き出した。
「下ろせぇ~ このぉ~ 乱暴者ぉ~ 暴力反対~」 私は手足を動かそうともがくが、まるでびくともしない。まさに施設の中に力づくで戻されてしまった。
 この事件の様子は、大広間の入居者たちのいい見世物になった。ガラスごしに、何人もの老人たちが珍しいものでも見るように集まっていた。
 あぁ、本当に拉致されてしまった。一体どうすればいいんだぁ~

 

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 一八四九年。ユーイングは船員たちと食事をとっていた。他の食事をしている者には見られぬよう、机の下の膝元に紙ナプキンを敷いた。パンの切れ端をつかみ、そっと紙ナプキンの上に置く。それを、つぶれないようにやさしく包み、ポケットにしまった。

 自分の船室に戻るとあの黒人の姿が見えない。どこかそのへんに隠れているのだろうか?
「おーい」 すると暗い奥のタルの間からヌッと顔を出した。
「あぁ、とうとう人生最大の過ちを犯してしまった」 と言い、黒人に紙ナプキンで包んだパン切れを渡した。
「ありがとうございます! 感謝します、本当に! どうも」 黒人はパンを受け取り、すぐさま口に運んだ。
「正直言うと・・・君に食べ物を与えないと・・・僕が食べられそうで怖かった」 座ってパンを食べる黒人から離れ、私は立っていた。
 黒人は顔を上げて、僕のことをうまそうに見た・・・ような気がした。 「心配ありませんよ。白人は口に合わない」
 僕は心底ゾッとした。 「フフフ」 と黒人は笑った。それを聞いて、やっと氣持ちが戻ってきた。
「あぁ、なんだ、冗談ですか・・・今度、君のことを船長に話す前に聞いておきたいんだけど、どうしてムチで打たれていたんですか?」 少々氣が許せそうなので、僕は黒人の隣に、少し間を離して腰かけた。
「叔父は立派な水夫で、私は十歳から叔父の捕鯨船に乗りました。そのおかげで、色々な世界を見てまわりました。この世界がどんなものか分かると、もうおとなしい奴隷には戻れません」

「なるほど、奴隷失格というわけですか。そういえばあのとき、僕のことを見ていませんでしたか?」

「見ていましたよ。痛みに耐えるには友の眼差しです」 と言い、またパンを食べ始めました。
「いやいや、君は逃亡中の奴隷、僕は弁護士ですよ。どこが友だちなんですか?!」

 すると黒人は自分の両目を人差し指と中指で示した後、その指を反転させ、僕の両目を指し示した。

 

「目が合ったら友だちです!」

 

 

一九三六年。深夜、フロビシャーはシックススミスに宛てて手紙を書いた。

 シックススミス、実は先週の夜、先生の奥さまが僕の部屋に訪ねてきたよ。なぜか怪しい展開になってきて、なりゆきで彼女を抱いてしまった。でも、心配しないで。僕はただ単に奉仕をしただけだから。事務的にこなしたよ。女心はよく分からない。ただ、僕に感謝をしていた。僕が来てから、この家に息吹きが戻ってきたといって。
 これは先生によって間が保たれていたと思わないか。先生は目に見えない存在で、曲全体を左右する休符、僕と彼女は音譜のようなものだよ。
(追伸)僕も自分の曲を作り始めた。一番はじめに君に聴いて欲しい。

 僕は手紙を書き終え、ピアノを前に、自分の曲作りにかえった。


 一九七三年。ルイサはレコード店を訪れた。店内にはどこか懐かしさを感じさせるメロディが流れていた。
「こんにちは、さっき電話で問い合わせた者です。ロバート・フロビシャーのピアノ曲、ありましたか?」

「ちょっと失敗したな、聴くんじゃなかった。これをかけたのは、あくまでレコードに傷がないか確かめるためなんです。でも、正直・・・引き込まれました。売るのが惜しいレコードです」

「 クラウド アトラス六重奏! あったのね」 あたしは興奮して言った。
「えぇ、交響曲です」 店員は頷き、ジャケットカバーを見せた。

 店内にかかっている曲に耳をすませる。 「なんて美しいんでしょう。だけどこれ、聞いた覚えがある・・・」
「そんな、アメリカでこのレコードは数枚しか出回っていませんよ」
 音は原始的で、川のように広くゆったりと流れ、うっとりとしてきて、あらゆる雑念を包み込んでいく。とても親しみ深い・・・やっぱり知っている曲だわ!
 

 

二〇一二年。カベンディッシュは住宅街にある一軒の家を見上げた。広い敷地の邸宅。あの頃と変わっていない。私は知っている。アーシュラが暮らしていた家だ。まるで、いけにえの神殿。私が童貞を捧げた場所。アーシェラとの思い出。

 それは夢のような四日間だった。あの時、アーシェラの両親は休暇を取ってギリシャ旅行へ行き、留守だった。四日目の夜、私はついにアーシェラの寝ているベッドの前で風呂上りのバスローブをはぎ取った。ベッドの横で大人しく寝ていた黒猫は、バスローブが落ちる氣配でパッと逃げる。カベンディッシュの右のふくらはぎには、流れ星のアザがついていた。
★四 ティモシー・カベンディッシュ
 私は一糸まとわぬ姿となり、アーシェラの寝ているベッドに体をすりこませた。まだ初々しい二人だった。私たちはベッドに横たわり、熱いキスと抱擁をかわした。最後の夜、二人だけの時間をゆっくりと紡いでいく・・・はずだった。
 だが、アーシェラの両親は家に帰ってきてしまった! 夢中だった。私たちは部屋の扉が開いて初めて氣付いた。お父様とお母様に無様な姿を見られてしまった。お母様は絶句、お父様は、 「アーシェラ!」 と大声で咎めた。
 私は驚いて、反射的にベッドから跳ね起きた。だが、何も服をまとっていなかった! 僕はとっさにベッドの横で丸くなっていたアーシェラの猫ちゃんを両手で抱えて、ご両親に僕の大事な部分が見えないように隠した。そして無我夢中で弁解したのだ。
「あの、違うんです! よこしまな気持ちじゃなく、純粋にアーシェラさんを・・・」
 だが、手元の猫ちゃんは物珍しい食べ物だと思ったのか、あろうことか目の前にあった僕の大事な部分に噛みついたのだ。僕はたまらず猫ちゃんを引き離して、前へ放り出した。氣を失うほどの激痛がはしり、ご両親に大失態を見せてしまった罪悪感からすぐさま消え去りたかった。よろよろと後ろへ後ずさったが最後、開けっぱなしにしていた窓の縁に足がつまずき、二階の窓から転落、幸い、落下した場所は庭木の上だったからよかった。枝がクッションになった。私はこの場から逃げることさえ出来ずにご家族に醜態をさらした。そのまま救急車に運ばれる。両足首捻挫、肋骨にヒビ。医者は笑いをこらえて、カルテに事故原因を「ニャンニャン」と書いた。
 自分が情けない。その後、私は忌まわしい過去の因縁から逃げるように故郷を離れた。

 私は庭を歩き、アーシェラの家の窓を覗いた。二人の娘が鏡にむかって、おめかししていた。彼女が今もこの家に住んでいるとは思えない。でも、いたのだ! 扉を開けて中に入ってくる女性。彼女を見たとき、急に懐かしさが込み上げてきた。
 おぉ、アーシェラ・・・私はどうしてあの後、ずっと連絡もせず、これまでなにもしてこなかったのだろう! 我がカベンディッシュ家はみんな臆病! 情けないこと極まりない。
 私はこの時、どうしようか迷っていた。このままここを立ち去り、予定通り隠れ家に向かった方がよいのか、それとも仕合わせそうに暮らしているアーシェラに微かな望みを掛け、勇氣を振り絞って扉をノックするのかを。
 

  

地球崩壊後一〇六年目。藁で出来た扉を「カサカサ」ノックする音でアベスは扉を開けた。村の者が息をきらして立っていた。
「アベス、来て! キャットキンが大変!」
 アベスの家でお祈りしていた俺は、声の主に駆け寄った。 「キャットキンと言ったのか?」
「えぇ、ずっと倒れたままで、すごく苦しそう」 キャットキンの幼馴染みの子だ。
 俺は不安にかられ、急いで家に引き返した。
「うわぁ~~兄さん」 看病していたローズは俺に泣きついた。
「どうしたんだ?!」
「カサゴの毒にやられたの。日暮れまでもたないと言われた。くやしいけど・・・わたし何もしてやれない」 と、涙声。

キャットキンが横に寝て、目をつむっている。息が荒い。
 後からアベスもやってきた。アベスはソンミ様にお祈りし、キャットキンの周囲を歩いておまじないの儀式。
 なんとかしなければ・・・何か手立てはないか、俺は必死で考えた。そうだ! ひとつアテがあった。あの外国人。俺は家を飛び出た。

 

 

 二一四四年。ソンミは闇医者の治療を受けていた。私はベッドの上に寝ている。
「動かないで」 青い服を着た老女の医者は、銀色の器具を手に持っていた。
「ここに小型爆弾がある」 医者は私の首輪を指した。ユナを死へと追いやったいまわしき首輪。
「これを取らないと頸動脈をやられるよ」 医者はレーザーで首輪を焼き切る作業に取り掛かった。首輪の帯に赤い切り筋が縦に走り、少しずつ切断されてゆく。私の隣で、チャン導師がその様子を見守っていた。


 地球崩壊後一〇六年目。ザックリーは、森の中を全速力で走っていた。


 二一四四年。レーザーが首輪の帯を横断し、みごとに切断。医者は首輪の両端をつかんで、私の首から取り外した。首輪が外れたソンミの首すじには、流れ星のアザが隠れていた。
 ★五 ソンミ 
 ベッドの椅子が起き上がった。私は恐る恐る首に触れた。金属ではなく、生身の肌が手にあたる。
「氣分はどうだい?」 チャン導師が尋ねた。
 私は慣れない感覚を感じつつ、チャン導師の方をふり向いた。 「とてもすがすがしいわ
 


 二〇一二年。カベンディッシュはエディンバラの駅に降り立った。私はタクシーを呼び、兄が記した住所を運転手に手渡した。やがて大きな建物が見えてくる。白くて立派な施設、はじめて訪れる場所のはず。なのに「また来てしまった」という一種のあきらめに似た感覚に襲われた。横のお腹に穴の開くような痛みが走った。それは、まるで鉛玉をぶち込まれたような、ひどい不快感だったが、すぐにそれも忘れた。
 門は開いており、タクシーが敷地内へ入る。少し前、私は過去の愛という郷愁にも、大きくなびいてしまった。けれど、結局はそれも振り切り、兄が手配した隠れ家を目的地に定めた。
 私はタクシーを降り、綺麗に整備された芝生から立派な建物の入口へと続く階段を登っていった。扉をノックすると「フローレンス・ナイチンゲール」のミュージカルのキャストにいかにも選ばれそうな女性が私に微笑みかけた。おとぎの国の妖精が魔法の杖を振って、 「カベンディッシュ、あなたの困難はすべて終わったの!」 と言ってくれている氣がした。
 ナイチンゲールがドアを開けて中に入れてくれた。 「オーロラ荘へようこそ、カベンディッシュさま」 白いカーディガンを着てメガネをかけた、とてもやさしそうな人だ。
「あぁ、ありがとう! 今日は言葉に出来ないくらいひどい日だったよ」
「お話は伺っております。すべて準備できていますよ。ここにサインさえして頂ければ、あとはお部屋へご案内します。庭が見えるよいお部屋ですよ。きっとお氣に召すと思います」
 私は感謝で涙をにじませながら、書類にサインをした。ホテルはモダンで清潔、眠りを誘う廊下はとても柔らかな灯りだった。
「ここのお部屋です。ではよい夢を。カベンディッシュさま」
 夢が良いものになるのは分かっていた。ベッドはタヒチの海岸のような快適さだ。ダーモット兄弟の恐怖は遥か彼方に見える景色のようなもの。ここの隠れ家では、私はまったくの自由。

「明日から生まれ変わるのだ! すがすがしい朝を迎えるぞ!」

 

 

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表現がよくない。
 
「輻射(ふくしゃ)」ということばは、戦前の日本にはあったが、

「輻」という字が常用漢字に含まれなかったため、
 
しかたなく「ふく射」と言っていたが、

それも言われなくなり、
 
いまでは「放射(ほうしゃ)」と言われるようになった。
 
 
放射と輻射、ぜんぜん意味合いが違う。
 

放射というと、放射の源があり、

そこから空間を伝わって到達するイメージが先行する。
 
だから、太陽は6000℃という話で納得してしまう。
(本当は25℃くらいで、人も住めそうな場所)
 
熱伝導によって高い温度から徐々に低くなっていると考えてしまうのだ。
 
 
 
熱の伝わり方には3つある。
 
1.熱伝導
 
2.触媒
 
3.熱輻射
 
 
 
1の熱伝導は、直接、熱の振動が伝わること、
 
2の触媒は、空氣などの流体や水などの液体を媒介して熱が伝わることで、
エアコンやこたつは空氣を媒介して肌に熱が伝わる。
 
3の熱輻射は、
電磁波を放出する元(太陽、発信器)   と
電磁波を受け取る場所(地球・受信器)  があって、
熱に変換されること。 
いまは電子レンジの技術に使われている。
 
よって、太陽は太陽系の基地局だと思われる。
 
 
 
ことばを壊せば、直感力がはたらくなり、大きな勘違いを起こしてしまう。
 
誰だ、こんなことやったのは。
 
許せない。

テーマ:
態度
 
(1)日頃から優しい心で人・いきもの、自然と接する
   (おしゃれ(擬態)を楽しむ)
   (感謝の心を育てる)
 
(2)ふっと気づくセンサー(天然界の感受性)を磨く
   (ぴったりの感覚で買い物する)
 

ことば
  
(3)自分の感覚を信じて、ことばをつくる
   (ことばは環境へのおくりもの)
   (身体は大切に)
   (能動的に、一日を創り上げる感覚で)
  
(4)「自分から見た世界」と「他人から見た世界」の両方を視点にもつ
   (両方の世界を中和し、現実をつくっていく)

  
 
行動
 
(5)生活の中に、たくさんの「初めて」を取り入れる
   (いろいろなことにチャレンジ!)
  
(6)ナヤミを忘れるほど、何かに夢中になる
   (人間関係のナヤミは偽りの仮面をかぶることから)
   (分からないものはアヤBOXに入れて保留)
   (やってしまったことは「やっちゃった、バカだなぁ、私」と笑う)
   (出会いと別れは自然の流れ)
  
(7)1/4の間をもち、時間と空間を調和
   (収納と納期は75パーセントを限界に)
 
(8)イライラしないよう、自然環境の後始末に氣配り
   (心、情報、部屋、習慣のいらない物は捨てる)  
   (お気に入りはいつもキレイに)

  

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 地球崩壊後一〇六年目。メロニムはレーダースコープで遠くの山々を観察していた。そのひとつの山に視線が止まる。目の前に表示されたデータを確認、間違いない。あたしは決心したように、目の前の空間を指でなぞる、すると何もない空間にスクリーンが現れた。遠方にいるプレシエント族の男が一人うつる。遠く離れた故郷がなつかしい。

「通信装置がある反応をレーダーでキャッチ、見えますか。あの山です。でも、すぐには行けません。見境なく人を襲って、腹を満たす人食い人間が住んでいます。村人たちは悪魔が住む山だといって恐れ、誰も近づきません。村人の説得にはもう少し時間がかかります。山へ案内する人を見つけ次第、出発します」

「メロニム、あまり長居はするなよ。まだ放射能の影響がかなり強い。君の身体が心配だ」

「もうすこしで説得できます、大丈夫です」

谷を見下ろすとザックリーがヤギたちを連れて山を歩いていた。切ない氣持ちになる。あたしのすることは決まっている。ただ出来ることをするだけだ。
 

 

一九七三年。シックススミスはルイサと電話で話していた。

「すまない、ありがとう。部屋は1404号室だ」
「すぐに行きます」 ルイサは言った。

 よかった・・・シックススミスは小さなため息をつき、受話器を置いた。彼はおもむろにベッドの上に置いてある原子力発電装置の報告書を手にとった。テレビを消して、今後の対策を練る。レイさんに伝えねばならないことは・・・

 しばらくして、バルコニーの窓が開いていることに気付いた。涼しい風が入って、白いカーテンがなびく。おかしいな。背後に人の氣配を感じる。私はゆっくり振り返った。

「・・・・」 驚きで声が出ない。なぜコイツがここにいる? ビル・スモーク!

 

 黒い服を着た男はシックススミスの開いた口に素早く銃身を差し入れ、アッという間に引き金を引いた。

 

 音は無く、シックススミスは仰向けでベッドに倒れた。黒い服の男は銃身に取り付けたサイレンサーを外すと、銃をシックススミスの右手に持たせた。男は黒い手袋をはめている。シックススミスの左手に持った報告書を背広の内ポケットに仕舞った。男が部屋を出ようと、玄関のドアに手をかけようとした瞬間、動きを止めた。

「トントン、トントン」 ノックの音。男の手がドアノブから離れる。

「シックススミス博士」 女の声だ。

 男は胸ポケットからもう一丁の拳銃を取り出し、ゆっくりと覗き穴を見た。女が一人立っている。

 ノックの音。それに続き 「シックススミス博士。ルイサです」 と語りかける声。

 男は警告の意味で覗き穴に銃口を向ける。これ以上、関わるな。

 

 不審に思ったルイサ・レイは覗き穴を見つめた。黒いものが中心に・・・男の顔。なに? 拳銃! シックススミス博士は? あたしは背筋が凍った。物音を立てずドアからゆっくりと離れた。


 二一四四年。ソンミは外に出るのをとまどっていた。知らない所を歩くのは恐い。身が縮こまる。ゆっくりと歩き出す。見たこともない世界。不安げな私の肩をチャン導師は抱きよせた。

 

 

 一九七三年。ルイサは若いホテルの従業員を連れ、1404号室の鍵を開けてもらった。部屋の中に入ると、シックススミス博士がベッドに仰向けになって倒れていた。右手には銃をにぎっている。
「警察を! 急いで電話して」 あたしはホテルの従業員に言った。
「はい・・」 彼は、切羽詰って部屋から出ていった。
 あたしはシックススミス博士の方へゆっくりと近づいた。 「なんてこと・・・」 ベッドの背面にある白い壁には血しぶきが飛散、まるでつぶれたトマトのようだ。まだ固まっていないので新しい。立っている状態から銃で頭を撃ち抜き、飛び散った血だと思われる。あたしに電話してきたのはついさっきの事。そんな人が自殺するはずがない。扉の向こうにいた黒服の男。あいつは一体だれ?
 シックススミス博士が倒れた背中とベッドの隙間、厚めの茶封筒が挟まっている! あたしは後ろを振り返り、誰にも見られていない事を確認、封筒をサッと抜き取った。中にはいくつもの手紙、博士のプライベートのことだけど、この中に何か手がかりが眠っているかもしれない。あたしはそれらの手紙を封筒ごと懐に入れ、部屋を後にした。
 


 一九三六年。フロビシャーは恋文を書きながら、今宵の興奮に包まれていた。

 シックススミス、聞いてくれ! この喜びを分かってくれるのは君だけだ。ついに曲が完成したんだよ。今日、先生と僕で共作した初めての作品を見てもらった。ベルリン交響楽団の最高指揮者ケッスルリングさんが来た。その人が言うんだ。戦後に書かれた作品の中では最も完成度が高い、だって! 大絶賛さ。タイトルは「ひふみよい まわりてめくる むなやこと」、とてもいい曲だよ。あぁ、早く君に聞かせたい! 僕のアイデアをたくさん採用してくれた。
 先生とケッスルリングさんはソファに座って、すごく楽しそうに話していた。
「あなたも僕も年をとりましたが、それを考えたとしても、実に斬新な発想で書かれたメロディですよ」
「ハッハッハ。年齢と戦うことで、作曲家としての命も少し引き延ばせたかな。ウフフ」 だと。

 僕は脇に立って二人の話を聞いていたよ。先生は得意満面に自分のチカラを誇示していた。僕のおかげさ。豪華な食事とワインの席、大物二人の若き日の思い出、そこにいられる僕。実にいい光景だ!
 でもその楽しい雰囲気が一転して静まった。奥さまが何か言って、席を中座。これは何かあるね。後でこのことを先生に聞いてみたら、奥さまを先生に紹介したのはケッスルリングさんだったらしいよ。 「奥さまとケッスルリングさんは付き合っていたんですか?」 と聞いたんだ。
「ジョカスタはユダヤ人だぞ。あのふたりが結婚できるわけがない」
「どうしてですか?」 と聞くと、
「お前、儂をバカにしてるのか」 と怒り出す始末。僕が不思議な顔で見ていると、「当時のドイツを知らないのか・・・」 とため息をついた。ケッスルリングさんと奥さまは何を考えていたんだろう。

 まるでコントだよ、笑っちゃうね。世界も人の心も、目に見えない同じチカラで動いている。ケッスルリングさんや奥様、先生や君、僕だってそう。僕らは楽譜に書かれた音符のようなものさ。

 

 

地球崩壊後一〇六年目。森の中を歩いているザックリー。あの外国人が声をかけてきた。いけすかない女だ。

「こんにちは、ザックリーさん。調子はどうですか?」
「別に、まぁまぁだな」 ザックリーはぶっきらぼうに答えた。
「一緒に歩いてもいい?」
「嫌だね。なにせ俺もうちのヤギたちと同様、人付き合いが苦手なもので」
「あの・・・許可なくお宅に押しかけたこと、本当に心からお詫びします。ごめんなさい」
「それはいい。水に流す」
「今日はどちらまで行くのですか?」
「その前に俺から聞きたい事がある」
「はい」
「村の暮らしを学びたいわけじゃないよな。俺の飼っているヤギたちの世話もしない。なにが目的だ?」
「道案内を探しています」
「どこの?」
「マウナ・ケア」
 ザックリーは言葉を失った。マウナ・ケアの山肌は白く、別名、白い悪魔の山と言われている。村人なら絶対に行かない場所だ。

 

 そんなことを考えていると、突然、メロニムの立っている岩盤が半分に割れ、崩れ落ちた!

 

 岩は真下の川にまっさかさま、高い水しぶきが円形に上がる。メロニムがバランスを崩し、転落するところ、俺は彼女の手をつかんで引っ張り上げた。俺の胸にうずくまるメロニム。 「何が起こったの?」 と怯えた。俺の頭の中にアベスの言葉がよぎった。


「岩が崩れる。橋の下に隠れよ」
 

 俺は周りを伺ってからメロニムの手を掴んで走り出した。橋を渡りきり、土手の下に身をかがめる。すぐに後から馬に乗った人食い族が集団で橋を渡ってきた。蹄の音が近づいてくる。馬がすぐ近くで止まる気配。どうやら周りを見回しているようだ。息をひそめる。さっきの水音。そのうち馬は駆け出し、蹄の音は遠のいていった。

 

 

 二〇一二年。カベンディッシュは兄に教えてもらった隠れ家を目指し、列車を乗り継いでいた。座席に座って、昨日届いた原稿に目を通す。タイトルは「ルイサ・レイ事件」、ハビエル・ゴメスという新人が書いた原稿だ。ルイサ・レイという記者の実際にあった事件を元に書かれたミステリー小説。ルーファス・シックススミスの死体を発見して、調べていくうちに事件の核心にせまっていく。巨大企業に立ち向かう女性記者。手に汗を握る。新人にしては面白い。

 

 

 一九七三年。ルイサは自宅のソファで手紙を読んでいた。それは三十七年前、ロバート・フロビシャーという作曲家志望の青年がシックススミス博士宛てに書いた手紙だった。今も大切にもっているなんて。流れ星のアザをもつ恋人ってこの人のこと?

 あたしはその手紙を読むのにすっかり夢中になってしまった。だから誰かがいる氣配に今まで氣付かなかった。窓から風が吹き込み、自分のではない音が聞こえた。
 あたしは恐る恐る後ろを振り返った。茶色い服をきた天然パーマの男の子が立っている。あたしは呆れかえった。 「ハビエル・ゴメス! バルコニーから来るなって言ったでしょ!」
「来て欲しくないなら、なんで鍵かけないの?」 と、悪たれをつく。
「あんたが来るからでしょ! バルコニーに飛び移った後、中に入れなかったらどうするの? 何もできずに立ち往生、それでもいいわけ?」
「分かったよ」 ハビエル少年は降参したように両手を上げた。そして、あたしの隣で興味深そうに尋ねた。 「ねぇ、何読んでるの?」

 


 二〇一二年。カベンディッシュは原稿から目を離して、外の景色を眺めていた。

 

人は人生で何度も何度も、同じ道をたどる」 小説の中のこの言葉が妙にひっかかる。

 

 そんな事を考えているうち、列車はとても懐かしい駅に停まった。

 人は人生の中で、過去の自分ともう一度出会うものだ。私はここに来たことがある。はるか遠い昔、まだ学生だった頃、名前はたしか・・・アーシュラ。私が人生の中でもっとも恋焦がれた女性だった。あぁ! 彼女は今、どうしているのだろう。いや、それより、私はなんて自堕落な生活をしてきてしまったのか! もう半世紀も前のこと、この列車の中で美しい詩を生み出す文学青年だったというのに。彼女に今の私の姿を見せられるか。だが会いたい。別れてからアーシェラを一度だけ、電車の窓から見かけたことがある。声はかけられなかった。彼女のことが好きで好きでたまらなかった。そして「運命の人」という詩を書いて、想いを募らせていたのだ。当時の僕の氣持ちを伝えたい。あぁ、アーシェラ!
 列車は駅に停まっている。開いた扉。まるで運命の扉が開いていて、「こっちへ来なさい」 と言っているよう。まだ日が暮れるまでに時間はある。私は立ち上がり、荷物を抱え、いつの間にか列車を降りていた。
 

 

 地球崩壊後一〇六年目。ザックリーはアベスの部屋にいた。
「大変だ、アベス。あの預言が当たった! あんたが言った通り、岩が崩れた。それにあの外国人、悪魔の山へ行くと言い出した。あぁ! 彼女はどうして俺の生活をめちゃくちゃにするんだ! やっと静かに暮らせると思ったのに」 俺はうろたえながら、部屋を歩き回った。

アベスはソンミ様の像に頭を垂れ、沈黙。お祈りを捧げた後、一冊の本を取り出した。本のタイトルは「ソンミ451の預言書」と書いてある。
「ソンミ様の言葉を聞きなさい」
 俺は膝を折ってかしずいた。アベスは預言書のページをめくり、ゆっくりと読み上げた。


「命は自分のものではない。

 子宮から墓場まで、人は自分以外の相手とのつながりを強くする。

 運命の綱わたり。

 過去も、現在も、すべての罪とあらゆる想いが、ことばと共に、未来をつくる」


 二一四四年。チャン導師は危険がないかあたりを見渡し、ソンミ451をエレベーターまで導いた。エレベーターはどんどん上がる、どこまで行ってしまうのだろう。途中でガラス張りになり、急に外の景色があらわれた。海面からニョキニョキと立ち並ぶビル群が眼下に広がる。これが外の世界! 私は落ち着きなく、ユナ939からもらった映像端末装置を片手でクルクル、エレベーターは止まり、扉が開いた。チャン導師が言った。


「ようこそ、うるわしのソウルへ」


 そこには見た事もない光景が広がっていた。夜明け前の人間の街! なんて広い世界なのだろう。ドームの中の世界しか知らなかったんだもの、頭がグルグル回る。ネオンで光っている言葉やロゴ。これらは様々な色合いと強さを持って、私の目を強く刺激した。識別不能、ごちゃまぜな音、機械、サイレン。丸いものを4つ付けた、私よりも大きな鉄の箱が動き回っている。箱の動くラインは上下に立体交差し、複雑に入り組んでいた。チャン導師には、「あれは何ですか?」 以外の言葉しか出てこない。そして、ひたすら後をついていくばかりだった。


 一九三六年。フロビシャーはピアノで音出ししながら、曲づくりに専念していた。黒いグランドピアノの上は、書きかけの譜面がいくつも重なり、まとまりある音符の羅列が、ごちゃまぜになっていた。


 二〇一二年。カベンディッシュは改札を抜け、閑静な住宅街を歩いていた。足は、かつてアーシュラが暮らしていた家に向かっている。
 

 

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6つの時代が交錯するひとつの物語です。はじめから読むときはこちらから

 

 

 二一四四年。ソンミが睡眠ボックスで眠っている時、また誰かに起こされた。自分のベッドだけが外へ移動、私は身体を起こしてベッドから降りた。裸足でホールの奥へ行くと扉が開いており、部屋の光が漏れていた。中に見知らぬ男が後ろを向いて立っている。長身で黒い服、男の足元には人が倒れていた。あれはリー導師。どうして。口から血を流し、ソープが床にこぼれていた。男は機械を操作していた。
 私がもう少し近づくと・・・男はパッと振り向いた。見つかった! 私は逃げ出そうとした。
「待って。 隠れないで」 と言い、男は両手を上げ、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。

「君を知っているよ。ソンミ451だね。僕の名前はヘジュ・チャン」 不思議と優しい声だった。
「リー導師が!」
「彼は店長の立場から、自分でユナ939を始末することになったけど、罪の意識に耐えられなかったようだね。ソープも飲み過ぎると命に関わる。お蔭で計画が台無しだよ。朝になれば当局とDNA鑑定士がすぐに調査するし、君とユナ939との関係もすぐに割れてしまうだろう。そうなったら君もユナ939と同様に・・・」


 一八四九年、大海をゆく船。甲板で乗組員たちが作業、掛け声とともに帆が次々と張られた。
「帆を風下へ向けろ」
「イエス、サー。キャプテン」
 風を受けて船は進む。その頃、ユーイングは船室で木箱を机がわりに日記を書いていた。

十一月十五日 金曜日
朝の潮流に乗り船が出航した。気分が悪くて、朝食のとき、みなが見ている前でまた倒れてしまった。船長は病氣がうつると言って僕を船底の倉庫に隔離、トイレと食事以外は外に出るなと言われた。ヘンリー医師は寄生虫だからうつらない、触れても大丈夫だとかばってくれたが、船長は聞く耳なし。ひどく息苦しい。一刻も早くこの仕事から解放されたい・・・
 

 

 二一四四年。ソンミ451はヘジュ・チャンという者から、外の世界に行かないかと誘われた。ユナ939と出会ってから、私は外の世界を夢見るようになっていた。ユナが忘れもの保管室で見せてくれた映画。ユナが逃げようとする前、映画の小型端末装置を私にくれた。「私は何度も見たからもういいわ。ソンミ451にあげる」と言って。
 私はユナが逃げ出そうとした理由が分かる。映画の登場人物が言っている。 「これは拉致という犯罪だぞ! お前ら犯罪者の思い通りになんか、なってたまるか!」 新たな認識、犯罪、拉致。扉を開けると、ほんの一瞬、キラキラと明るい光が差し込む。映画のシーンはまた戻る。その繰り返し。扉を開けた先・・・どんな世界がまっているのか。そう思っていた矢先、思わぬ展開で、パダソングの仕事から解放されることになった!

 

 

一九三六年。フロビシャーは譜面取りとして雇われた。エアズの屋敷に泊まり、いつか自分の曲を世に送り出すため、毎日、仕事に熱中していた。
 夜はベッドで横になり、タバコを吸いながら本を読んだ。はじめは興味半分に手に取っただけの本、読み進めるうちに内容に引き込まれた。仕事が終わると本を読むのに夢中、しかし本は途中から半分に破れ、もう片方はどこにも見つからない。とても残念なこと、僕はシックススミスへ手紙を書いた。
 

シックススミス、助けてくれ! なんて言うと、君はすぐにまた心配して駆けつけてくるだろう。でもその必要は無いよ。生まれ変わった僕を見たいというのなら話は別だけどね。
 僕は信じられないよ! これは本当に奇跡で、運命の道すじそのものがガラッと変わったようだ。これは他の人の人生?! 僕は雲の上に住む王様の氣分さ。君と最後に会ったときのことを覚えているかい? 僕はホテルの窓から逃げ出さねばならないほどみじめだったよ。それがまさか、世界的に有名な作曲家に拾われ、一緒に仕事をすることになるとは!
 ただ、今はどうしても解決したい悩みがある。僕はある本にすっかりとりつかれてしまった。タイトルは〝アダム・ユーイングの航海記”。十九世紀に書かれた日誌で、書斎から見つけた。作者は弁護士の男、サンフランシスコと南太平洋の小島をわたる航海日誌だ。でもその本、真ん中が裂けて後半部分が無い。どうにかして読みたいけど、どこを探しても見つからない。すまないけど本屋に行って、注文しておいてくれないかな。最後までいかない物語を読むなんて、まるで中途半端なセックス! 君と会えないようなもの。せめて僕の欲求を満足させてほしい。(◎手紙は三十七年後のシックススミスへそのまま引き継がれる)
 


 一九七三年。シックススミスはホテルのベッドに座り、昔の恋人が書いた手紙を読み返した。 「中途半端なセックス」 なんて言葉が可笑しかった。

 つけたままのテレビから聞き覚えある声が流れていた。 「アメリカは石油が大好き、いわば石油中毒の患者です。中には風力や豚のオナラ発電を夢見ている人もいますが、そんなものはナンセンス。今の石油中毒を治す薬はひとつだけ、それは原子力です! スワネキー社の原子力発電所がついに竣工しました」 喋っていたのはロイド・フックス、スワネキー社の社長だった。テレビを見て凍り付く。あれはまだ駄目だ。鞄にしまった発電所の検査報告書、結局、社内の誰にも伝わらなかったのか・・・

 

《シックススミスの独白》
 私はスワネキー社で原子力を使う発電装置の開発に携わる技術者だった。開発は順調だった。実験で膨大な電氣が瞬時に作られる事を証明、会社は大喜び。しかしまだ実用段階ではなかった。核分裂を起こす制御システムに問題が見つかった。温度上昇が止まらない。あれではすぐに爆発してしまう。原子力の爆発。もしそんなことになれば制御不能、もはや誰にも止められない。働く多くの人たちを犠牲にしてしまう・・・私は社長に訴えたが聞いてはもらえなかった。膨大な利権がからんでいる。今期には納入する予定。それを遅らせるわけにはいかないというのだ。まさにオリンピックなみの熱狂。大事なことが忘れ去られようとしている。報告書にはまとめた。分かってくれる人もいたが、止められなかった。私は暴走を止めようと必死だった。その結果、私は会社をクビになった。メディアに訴える方法、エレベーターに閉じ込められた時に会った女性を思う。ジャーナリストのレイさん、彼女が力になってくれるに違いない。

《独白終わり》


 シックススミスはルイサ・レイの名刺を取り出した。高齢からくる重い腰を上げ、電話口の方へ向かった。

 ルイサ・レイが寝ていると、けたたましく電話が鳴った。布団からもぞもぞ手を伸ばし、受話器を取り上げた。 「はい」
「もしもし、あぁ、レイさん、よかった。こんな夜分に申し訳ない」
「シックススミス博士?」 数時間前、エレベーターの中で一緒だった老紳士だ。
「あなたにおねがいがあるんだ。今すぐに来てほしい」



 二〇一二年。カベンディッシュはリビングを歩きまわりながら、コードレス電話で話していた。

「私が必要なのは五万ポンドだぞ! 二千じゃない。五万だ! 五万!」

「ですが、お客様の預金額は二三四三ポンド一六ペンスです」
「へ? そんなことないだろ、あれだけ稼いだのに!」
「収入はこれまでの借金の返済に回りました」

 希望に満ちた銀行への問い合わせが突如、暗転。私はやりきれなくなり、電話を本棚に向かって投げつけた。絶体絶命のピンチ。

 だが、まだ手はある。この私、ティモシー・カベンディッシュの本当の財産が預金額ではないってことを見せてやる。私はやにわに電話帳を取り出し、あちこちの友人、知人の電話を鳴らしまくった。

 1時間後・・・カベンディッシュは受話器に向かって大声をあげていた。
「あぁ、そうとも。正真正銘、チャールズ・ディケンズの書き物机だ。六万ポンドで譲るよ。お手頃だろ?」
「その机はディケンズ博物館が所有しておりますが・・・」
「あぁ、違った。コナン・ドイルの机だった。それをお譲りしたい」
「ツー、ツー・・・」 受話器は虚しい音をたてた。
 私が知っている友人たちは、誰もお金を貸してくれず、質屋さえ相手にしてくれない。私のプライドはズタボロだった。うなだれてソファに座り、ワインをあおった。しばらくして・・・突然、私は闇の中から光を見た。虚空から赤ワインがしたたれ落ち、暗いみなもにただようかすかな波紋。 「そうだ、血は水よりも濃い!」 ダーモット兄弟に立ち向かうには、こちらも兄弟で応戦といこうじゃないか。

 午前中のうち、私は兄の自宅へ車を飛ばした。バルコニーへ続く階段をかけ上がると、兄はパジャマ姿でゆったりし、小さな池の落ち葉を網ですくっていた。私は兄の姿を認めるとすぐに手を上げて、 「やぁ」 と久しぶりに会う兄に笑顔を向けた。
「また来やがって、いい加減にしろよ。お前にはほとほとうんざりだ。いつも借りっぱなしで、いつ返すつもりなんだ!」 借金の返済は、兄にはまわっていなかった。
「デニー、おねがいだ。ものすごく恐ろしい人たちに脅されているんだ。彼らに六万ポンドを明日中に払わないと、私はずっと追われ続け、殺されるかもしれない」

「知るか! お前がなにをするのも勝手だが、金は自分でなんとかしろ」
「おねがいだよデニー、今回だけは大目に見てくれ。たのむよ・・・」
「なんでいつも俺を頼る?」
「だって兄弟だろぉ?」
「どうしてお前にいつも貢ぎ続けなければならない?」

「それが兄弟じゃないか」

「あぁ、俺はお前のことを一生忘れる薬を飲みたい・・・」 デニーは心底落胆した。
「デニー、頼むよぉ~」 私は兄に歩み寄った。兄は憮然としている。
「助けて・・・」 消え入りそうな声で懇願する。
 その時、 「デニー、お客様?」 と家の奥から夫人が現れた。私は寄る辺を求めて、 「あぁ、ジョージェット」 と親し氣に声をかけた。夫人は 「あら、どうも」 と素気なく微笑む。
 デニーはジョージェットと私のことを見て言う。
「あぁあぁ、いいや。分かった! 六万だな。明日までだと時間がかかる。お前はそれまで、絶好の隠れ家に隠れているといい。すぐに手配してやる」

「デニー、ありがとう!」

「いや・・・たいした事じゃない」

 


 一八四九年。大海をゆく船。ユーイングは航海日誌にこう記した。

愛しのティルダ、もう会えないかもしれない。

言い知れぬ不安に胸が締め付けられる。

夜、眠るときが恐ろしい。

身体が徐々に食べられる夢、幻聴もしてきた?

あの寄生虫が僕の体をむしばんでいるのか・・・

 海に沈む夕日、空が黄金色に染まる。僕は手を合わせてお祈りしました。また明日を迎えられるのか・・・

 

「ユーイングさん」 背後から声が。物置から大きな影とともに上半身裸の男に襲われました!
「なんですか、あなた!」 私はとっさに壁際に逃れますが、すぐにつかまりました。 「うわぁ、助けてくれ!」 私は黒人の黒い手で口を抑えられ、声を出せなくなりました。
「ユーイングさん、落ち着いて下さい! 私は何もしない。お願いです。私の名前はオトゥア。私を見たでしょ? マオリ族にムチで打たれていた。見たでしょ?」
 僕は落ち着きを取り戻し、黙って頷きました。そしたら、やっと手を離してくれました。
「なぜ君がここにいるのです?」
「どうか助けて下さい。あなたが助けてくれないと私はここで終わりです」
「君はここにいる事ですでに終わっています。この船は貿易船、奴隷を逃がす船じゃありません!」
「私は有能な水夫です。ここで役に立てます」
「だったらすぐに船長の所へ行って、そう言ってください」
「それは無理だ。私の話など聞いてくれない。泳いで帰れと言われ、海に捨てられます。あなたは弁護士でしょ。どうかお願いです、あなたから船長に話してください。私を雇ってくれるように」
「・・・残念だけど、僕には助けられないよ」 私は首を振った。 「君には君の運命がある。僕がそれを変えることはできない」 逡巡の間、見つめ合う。冷たい空氣があたりを漂った。
「だったら、私を殺してくれ!!」 オトゥアは突然、ナイフを取り出して僕に無理やり持たせました。
「バカ、なにしてんだ!」
「助けが無ければ、私は死ぬしかない。そうでしょ? だったらひとおもいにここで殺して下さい。魚に食べられながら死んでいくのは嫌です。ここで死なせて下さい」 オトゥアは僕の手をナイフごと握りしめ、その刃を自分の首にあてがいました。

「待て、待ってくれ、分かった、分かったから!」 僕は冷や汗をかきながら、この異国人を改めて見つめた。ここで死ぬしかない。そんな世界があるのだ。僕は今まで何を学んできたのか。何が正しいのか。何が間違っているのか。それはまだ分からない。けど、ただひとつ、これだけは言える。目の前の黒人を見捨てる事はできないってことだ。

 

 

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半年前では公開できなかった記事、
相手の反応を気にして、意見を出したりひっこめたりするクセがある。
 
ほんとうに、恐ろしくて恐ろしくて仕方がなかった。
 
自分がどう見られるかということが。
 
でも、そんなことして何になるのだろう。
「気にする」 から 「見る」 への移行。
見る勇氣がやっと出てきたから、ここで最後の記事、完結編を公開です。

 
<アメノトコタチ クニトコタチ 4 のつづき>

 

  

つまり、オモテだけを見るのではなく、

その中身(ミ)がどうなっているか ということですね。

 

 

「ミ」の声音記号はこのような形です。

 

          ミ

 

※ 認識の上限に達してる様子が見てとれます。数字の3です。

 

 

考え方がマワリだしたとき、

「ワ」の空間内(マ)は、「静かな状態」と「高らかに動いている状態」に分けられます。

また、「マワリ」と「マリ」の図象は同じ形をしていることから、

回っているときは「マリ」(粒)であることもあらわします。

「マリ」の認識は、空間が分かれている状態。

カタカムナの人、特有の認識の仕方です。

「マリ」という粒は、表層がないのです。

そして、カタカムナの人風に言えば、

静かな状態は「シヅマリ」、高らかに動いている状態は「タカマリ」と言っていました。

「タカマリ」のある「トコロ」に「ヒト」は「アツマリ」ます。

人が集まっている場所は、何かが高まっているのです。

そのタカマリの方向性を見極めるのに、カタカムナは有効にハタラキます。

 

 

方向性の声音記号は「へ」です。

 

        へ

 

※「ク」が左回転した記号です。「ヒダリ」は正の旋転に該当するようです。

 

 

 

また、右回転した記号も添付します。「ス」です。

カタカムナの歌では右のことを「ミギリ」といっています。

 

          ス

 

※「ク」が右回転した記号です。「ミギリ」は反の旋転に該当するようです。

 

 

 

「ス」という音は「ル」と結びついて「スル」になります。

~をする、つまり、実際になにか行動することです。

「スル」の図象はこんな形になります。

 

        ス ル

 

※ カタカムナの歌に「ハヤ」という言葉がよく登場します。

  「ハヤ」も同じ形の図象です。

  なにか行動することに関係があるのでしょう。

 

 

 

行動する方法のことを「スベ」といいます。術であり、総べての「スベ」です。

 

 

        ス ベ

 

※ この図象の形は、声音記号の「ノ」と同じです。

 

 

 

「モノ」にする「スベ」を「ミ」につけることが大事なのでしょう。

「モノ」にならないことが分かったら、ただ止めればいいのです。

 

止めるとは、「ヤ」になる「メ」をつくること。

「ヤ」になると、「ワ」の回転が止まります。

 

なぜなら、「ヤ」は数字の8を表していて、もう回転する空間がなく、

いっぱいいっぱいの状態だからです。

 

          ヤ

 

※ 小円は8個しか配置できない。つまり、もう空間を分けられない。

 

 

 

ただ、分ける空間がなくなったらそれで終わりかというと、そうでもありません。

すぐに次が始まります。

余った空間が「ワ」の外にあるのです。

余は「ヨ」の声音記号になります。

「ミ」と比べてみると面白いかもしれません。

まったく外に、小円が移動していることが見てとれるでしょう。

 

         ヨ

 

※ 数字の4。読み方が「ヨン」と「シ」の二通りであることが興味深い。

 

 

 

「ヨ」を知る(シル)ことで、

外の空間を次々と更新していくことが

イキイキと生きるコツなのではないでしょうか。

 

「イ」の声音記号は「ヨ」が発展した形です。

 

         イ

 

※ 数字の5をあらわす。5は変容と拡大の数字です。

 

 

 

「イ」は、「ミ」の小円が十字を結んで、ずっと持続していく音と結びつきやすいです。

「ミ」が十字を結ぶ声音記号は「チ」といいます。

 

          チ

 

 

 

「ミ」が持続していくことを「ミチ」といいます。

 

日本では、道という漢字をつかって、

神道をはじめ、剣道、柔道、弓道、茶道、華道など、

いろいろな道をつくってきました。

 

空間に位置する力を「イチ」といいます。

数字の始まりが1ですが、モノゴトの始まりといってもいいでしょう。

始まる場所に「チ」するチカラが「イ」には込められています。

 

 

 

十字にはチカラがあります。

少しわき道にそれますが、漢字で書くチカラの形は「カ」であり、

そのまま、声音記号の「カ」でもあります。

 

          カ

 

※ まだ「アマ」になっていない小円。「カムミ」という名称で呼ぶのが適当と思われる。

  「アマ」よりも前の段階の渦。

  「カム」とは、カたちの無い という意味で、無限です。

 

 

 

生命が元氣に続いていくことは「イノチ」です。

「イ」は「モノ」になることが持続することでもあります。

「ノ」を「モノ」と翻訳しましたが、「ノ」の中には、そっくり「モ」が含まれています。

(※声音記号の形は、前回記事をご参考ください)

 

 

 

「モ」は、もやもやした感じの思念。質量空間をつくると思われます。

 

「イノチ」は絶えず呼吸によって循環しています。

「イキ」もカタカムナのことばです。

 

カタカムナでは、

男性性のことを「サヌキ」といいます。差をつけて抜きん出ることです。

女性性のことを「アワ」といいます。合わせてマトマルことです。

 

どちらの力も必要です。

バランスよく回ってこその男と女です。

 

男性性は思考と言われ、考え方が間違っていると、ついつい非難したくなります。

女性性は心で感じる力だと言われ、生命力が欠けていると非難したくなるのかもしれません。

 

男性性と女性性は、両方とも大事です。

両方が元氣な状態でマワリテメクル、健全で健やかな球体をつくるべく、

マヘ(前)向きな姿勢で進んでいきましょう!


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「おもいやり」がだんだん少なくなってきているんだなぁと感じます。
 
大雨で各地が洪水の被害に見舞われ、
 
安部さんが飲み会に出席することを批判する記事が出ていましたが、
 
批判するのはその人の状況や氣持ちを知らないからであって、
 
本当に大事なのは心のはずなのに、
 
それが置き去りにされて、ただ目に見える出来事を否定する、
 
それではなんの効果もなさそうで、
 
たとえ総理を辞めてしまったとしても、次も同じような総理になるだろうし、
 
表に出ている総理という代表の人を支えている
 
裏の人の総体が今のスガタであって、見えるものを
 
ただ、あぁだこうだ というのは、どうも違うと思うんですよね。
 
ただ表面をひっかいているだけですよ。
 
そして、その表面の変化を楽しんでいる。
 
表面を楽しむことがすっかりクセになってしまった。
 
バランスが崩れ、自然の生態系が!
 
 
 
なんて背景の中、このお話、
 
書きたくてしょうがなかったです。
 
どうしてこんなに書きたいのか、
 
自分でもよく分からないです。
 
今の時代にマッチしていないようにも見えますし、
 
見た目悲惨で、誰もそんなことに注目したくはないだろうと思うのです。
 
しあわせな氣持ちや感情を味わいたいと
 
多くの人が望んでいるのでは。
 
それなのに、こんなに悲惨な話を書くなんて、どうかしている。
 
 
 
でも、不思議と、書きたくなったから、また書いています。
 
楽しいなぁと思います。
 
こんなに楽しいのに、世の中に出さないのはもったいない!
 
と感じました。
 
だから、また感じ直して、今のしっくりくることばに直して、
 
書いていっています。
 
 
 
これを書いたのは3年ほど前になるでしょうか。
 
まだ、古代文字のカタカムナを知らなかった頃のこと。
 
映像作品を見て、ちょこちょこストップしては、
 
画面の状況やセリフを書き込む、文字起こしの作業。
 
よくこんなことをすると自分でも思います。
 
ただ、やりたかったんです。
 
 
 
なぜだか分からないけど、やりたかった。
 
それだけなんです。
 
 
 
これを書いた当初は、物語に出てくるいろんな人の
 
キャラクターの感情を味わいたいと思いました。
 
わりと悲しみの方を感じたかったようです。
 
 
 
なぜそこまで気持ちを貶めるようなことをするのか、
 
なんとなく納得するものがありました。
 
冒頭に書いた、おもいやりが薄くなっている感じ、
 
この反対をやりたかったんだと思います。
 
物語を描くには、キャラクターに感情を入れていかないといけないんです。
 
自分がその氣持ちになって、感じて、ことば化する、
 
こうした作業が必要になってきます。
 
 
 
元々の作品が海外であることから、
 
セリフまわしが、思い切りよく、スピード感ありますが、
 
日本的な情緒を感じる間をもたせたいと思いました。
 
海外と日本の違い、こんなところにも。
 
もし言うとしたら、こうなるのではないか、
 
と思うところ、直していっています。
 
 
 
クラウドアトラス六重奏、
 
六つの時代が交錯する、時空がまわってひとつに収束する物語。
 
おもしろいですよ。
 
 
 
 
おもいやりが、たぶん、これで増えるんじゃなかろうかと
 
潜在的に感じているのかもしれませんね!
 
 
 
食品添加物にまみれて、たくさんの病人が出ている
 
今の世の中と似ているかも。
 
潜在的な物語の流れとしては。
 
 
 
この物語、とても悪い医者が出てくるんです!
 
地球が核戦争で壊滅したあとのお話、
 
ザックリーの生まれ変わりとして、
 
時代が反転し、また戻って体験しています。
 
弁護士のアダム・ユーイングを介抱する医者としてね。

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6つの時代が交錯するひとつの物語です。はじめから読むときはこちらから

 

 

 大きな戦争で世界が終わり、ほとんどの人が死に絶えた日から数えて一〇六度目の冬を迎えた。羊飼いのザックリーは島の断崖絶壁の上に一人座り、海を眺めていた。

俺はつくづく運の悪い人生だ。楽しいことなどなにもない。スルーセズハローの事はこれまで誰にも話したことがなかった。俺は日常に紛れて忘れようとした。だが忘れられない。あの日、俺は・・・

《ザックリーの独白》
 妹の夫アダムとその甥っ子を連れて市場に行った帰り道、アダムはいつも通り、森の中のご先祖様のお墓にお参りした。墓前にお供えをして片膝をたて、祈りを捧げる。俺はその様子を遠くから座って眺めていた。傍らには青く光る石、とても目を惹く石だ。手にとり、太陽にかざしてみた。青く透き通り、中には無数の星が煌めくよう。美しい・・・俺はその石をポケットに入れた。
 その時、俺の背後から誰かがじっとこちらを見ているような氣がした。
「ハァーーー、アハハハハ」 突如、不氣味な笑い声。

俺はとっさに短剣を構え、 「誰だ!」 と振り返った。

「ザックリーィィ」 俺の名を呼ぶ恐ろしい悪魔がまた来やがった。

「おぉ、ザックリー君。これは困った事になったぞぉ」 悪魔は直立不動で両腕を広げた。
「オールド・ジョージー!」 小さい頃から忌み嫌っていた悪魔、何か悪い事が起こる時はいつも決まって現れる。キエロ! キエロ! 腰砕けになって短剣を振り回す。
「剣を振りかざしたところでぇ、これから起こる真相を避けることなどできやしないぃ、イシシシシ」
 9歳の甥ジョナスは 「父さん!」 と上擦った声を張り上げた。

 俺は振り返った。なんと、一人の人食い族がアダムのすぐそばまで迫ってきているではないか! 人食い族は獰猛な人食い人間、俺の村でも何人かがこいつの犠牲になっている。顔には呪術の縞模様が描かれていた。
 アダムはとっさに立ち上がった。
「ジョナス・・・ジョナス、行け! ここを離れろ!」 手でむこうへ行くように合図をした。
 俺はとっさに岩陰に身を隠した。ほとんど無意識だった。
 アダムはこちらを見て叫んだ。 「ザックリー、ザックリー!!」

だが、俺の体は金縛りで硬直したように、岩陰からまったく動けなかった。岩を掴む手が震える。
 指笛の音が響き、突然、馬に乗った人食い族がもう一人、木陰から現れた。まっすぐにアダムの方へ突進する。アダムは棒で迎え撃つが、馬の勢いに吹っ飛ばされて後ろに倒された。
 俺の耳元で、あの悪魔が 「動くなぁ。ここにいろぉ」 と囁いている。

アダムは起き上がり、また 「ザックリー!」 と叫んだ。馬に乗った人食い族は引き返し、アダムとすれ違いざま、棍棒で打ち付けた。
 横にいる悪魔が囁いた。 「あいつはアダムと息子を殺してぇ、食っちまうぞぉ」

アダムは地面に倒れながらも、 「ザックリーー!!」 と叫ぶ。もう一人の人食い族が剣を抜いてアダムに近づいてきた。 「うわぁー、よせ! ザックリー! ザックリー!」
 悪魔は囁いた。 「ほらぁぁ、ハァァァ。よく言うだろぉ。この世は弱肉強食ってなぁ」

後ろから人食い族に押さえつけられたアダム、喉元には剣が。 「父さん!」 と小さな甥は棒を持ち、人食い族に向かっていった。馬を下りたもう一人の人食い族がボウガンで後ろから甥を撃ち抜く。矢は甥の背中に深々と刺さり、地面に倒れた。

 アダムはうつ伏せのまま顔を上げた。 「ジョナーース、あぁ!」 それに間髪入れず、人食い族は剣でアダムの喉を切り裂いた。首は糸が切れたように落ちる。人食い族は剣についた血をうまそうに舐めた。
 岩を力一杯握りしめていたがその感覚は無く、俺は怯えながら隠れていた。

 悪魔が耳元で囁く。 「なぁ、本当だろぉ。アァッハッハッハァー」
 俺は泣き崩れた。
《ザックリーの独白 終わり》

 あの日、拾った青い石は首飾りにした。俺はアダムの事を思い出し、青い石を握りしめた。岩壁に打ち寄せる波のはざま、海鳥たちが鳴いている。この事件の後、村人からは、俺がアダムとその息子を見殺しにした。と言われるようになった。妹のローズと姪のキャットキンは俺をかばってくれた。
 離れた山野で遊んでいた姪のキャットキンは、俺の所へ走ってきた。キャットキンが勢いよく走ってくるので、俺が集めたヤギたちは怯えて、山の下の斜面へ避難した。
「ザックおじさん、見て!」 と海の向こうを指し示した。
「あぁ、見てるよ」
 水平線の向こうから白くて巨大なクジラに似た船が軽快に走ってきた。プレシエント族が年に二回、物々交換にやってくる季節だ。春と秋、昼と夜の長さが同じになる頃に。かつてこの地が繁栄していた頃、古代人は高い技術を持っていた。彼らの船はその技術で作られたもの。水の上を移動するのにオールも、帆も、風も、潮の流れもいらない。水の上を滑る。そして速い。船の全長は小さな島くらいに大きい。
「物々交換する?」 キャットキンが聞いた。
「あぁ、する。ママに知らせてきてくれ」
 船は岬から離れて、錨を下して停泊する。そして、船首から小さな舟が二隻出てきて、海岸にやってくる。それぞれの舟には男女七、八人が乗ってやってくる。彼らの服は濡れても水をはじく。彼らの持ち物は何から何まで奇跡だ。
 物々交換には彼ら特有のルールがあるようで、島にない技術で造られたものは交換してくれない。例えば、人食い族から身を守る強力な武器はのどから手が出るほど欲しいが、そんなものは無いという。また、海の向こうの世界を決して教えてくれないこともルールなのだろう。
 アベスは彼らを食事に誘うがいつも断られる。アベスというのは村を代表する女性シャーマンだ。
 彼らは交換した物を船に積み込み、一時間ほどで出ていく。物々交換は村の行事として定着していた。季節が来ては去り、船が来ては去って行った。
 キャットキンは 「はぁ・・・」 とため息をつき、座り込んだ。
「行かないのか?」
「ママがおじさんの事、変だって」 と下を向く。氣まずそうに 「だから、見張ってろって」
「俺はお前のヤギだな」
キャットキンは唇を真一文字に結び、頷いた。
「そうか。だが物々交換は手伝いに行った方がいいぞ。お前のママは交渉があまり上手くないからな」
「おじさん、一人で大丈夫?」 悪魔が見える俺は精神異常者だ。
「平氣さ。夕食時には帰る。じゃぁな」
 キャットキンは頷き、嬉しそうに港へ走っていった。

 夕暮れになり、俺は帰宅の途につきながら考えていた。どうしていつもいつも・・・いざとなると身がすくみ、言葉が出ない。もし俺に勇氣があれば、あの恐ろしい事件を避けることが出来たのか・・・

 俺が帰宅すると、家には白い服を着た見知らぬ女性が座っていた。さっきの船に乗っていたプレシエント族・・・どうして俺の家にいるんだ? これ以上のやっかい事はごめんだ。
「ザックおじさん!」 キャットキンがこちらを見て出迎えた。
「さっき話してた私の兄よ」 と妹のローズ。
「この人は?」 俺はぶっきらぼうに尋ねた。
「うちのお客様」 ローズは平然と答える。
 プレシエント族は立ち上がった。 「こんにちは。メロニムと言います。しばらくこちらで滞在させていただくことになりました。よろしくお願いします」
呆れた。 「俺は許してないぞ」 とひとりごちる。
「ぜひうちに泊めてやれってアベスが・・・」
「アベスの家に泊まらせろ」
「お土産を持って参りました」 メロニムは俺の方へ歩み寄り、黒くて四角いものを差し出した。
「いらない。なんだその怪しいものは」 俺はメロニムを無視し、部屋の奥に引っ込んだ。

 

 その夜、メロニムの噂を聞きつけた親戚や友人、知人はもちろん、アベスまでがうちに押しかけた。その様子はまるでソンミ様を崇めたてるかのようだった。訳の分からない外国人と話す奴の氣が知れない。アベスは村の特産品を持ってきて、メロニムに献上する始末。
 集まった人々は、プレシエント族の暮らしと、不思議な船について質問した。
「どうして黒い肌をしているのですか?」
「地球が崩壊する寸前、私たちのご先祖様が遺伝子を改良したの。放射能から身を守るため、黒い肌の子どもが生まれるように」
「あなたの歳はおいくつですか?」
「五十歳です」
 集まった人々はざわめき立った。島の人はほとんど四十歳に至る者はなく、肺が汚染されて旅立ってゆく。
「プレシエント族は何歳まで生きられるのですか?」
「六~七十歳くらいね」
「あの船はどうして水の上を滑るのですか?」
「核融合エンジンだから」
「ほぉぉ」 と感嘆する声が周りから上がった。この中で 「核融合エンジンとは何ですか?」 と聞く者は誰もいない。自分がバカだと見られたくないからな。正直、メロニムが説明した所で話は通じないだろう。いや、言ったとしてもこのおかしな外国人の言う事を信じる奴なんているのか?
 俺は村人が群がっているのを遠巻きに、酒を飲みがら見ていた。ここは俺の家だぞ、早く帰れ。

 オールド・ジョージーが俺の肩を抱き、耳元で囁いた。 「あれは恐ろしい女だぞぉ。信用させておいてあとで利用するつもりだぁ。いいかぁ、絶対に氣を許すなぁ。あの女は何かを隠してるぅ。ヒュゥゥ」

 背筋がうっすら寒くなった。

 

お祭り騒ぎが終わって村人たちが帰ったあと、俺は酒を飲みほした瓶を布棚に戻していた。その時、半開きになったドアの隙間からメロニムがかがんでいる姿が見えた。近づいてよく見ると、銀色の装置を片手に持って自分の腕に光を当てている。装置の先端から黄色い光が放たれていた。メロニムの腕にあった傷口がゆっくりとふさがっていった! 俺は魔法を見ているような氣分だった。
 ふと、メロニムが顔を上げた。俺と目が合った。なぜか妙ななつかしさを感じた。それははるか昔に会った古い友人と再会したかのようだった。

 その晩、俺はひどい悪夢にうなされた。ひっそりと森の木陰に立ちつくすオールド・ジョージー。拳銃を手に持ち、その傍らに倒れている老人。人食い族に首切られたアダム。木の杭に手を縛られムチ打たれる黒人。血まみれの手で掴むロープ。首に掛けた青い宝石。山頂で仰向けに倒れ、速い雲の流れを見上げる大空、そして上から襲いかかるオールド・ショージー。暗い部屋の中、小型装置が映像を映し出し、二人で観ながら秘密を共有する感覚。レモンの絵が飾ってあるバーでグラスを傾ける赤いドレスの女。その女と重なるメロニムの顔。運転中に横からもの凄い勢いで黒い車がぶつかる衝撃。ガードレールを突き破って海に落下する車。せまる海面、暗い海。島の岸壁にたたずむ俺をもう一人の俺が上から眺める情景。狭い島に広い海。オールド・ジョージーの顔が触れそうなくらい近づく・・・横に裂けた口、黒く汚れた歯・・・海に落ちてどんどん沈む・・・だ、だれか・・・
ガバッ  俺は突然、目覚めた。 「はぁー、はぁー」 身体中に汗をびっしょりかいていた。朝だった。

 俺は村のシャーマンをしているアベスの家にすぐさま駆けこんだ。藁でできたドアを何度もノック。カサカサ音を立てた。
 ドアが開き、アベスが出てきた。 「ザックリー、どうしたの?」
「起こしてすまん。今すぐ見てほしい。すごく嫌な予感がするんだ。こわい夢を見て」
 アベスは頷き、中へ入れてくれた。あらゆる呪術道具が置いてある。ソンミ様の像の前に十本のロウソク、アベスは火を灯した。俺はアベスと向かい合い、彼女の手を握った。アベスが祈りの言葉を口にした。
「ザックリー、安心してソンミ様に心をゆだねよ。力を抜いて、そう、ゆっくり、吐いて、吸って・・・おぉ、ソンミ様のお声・・・ソンミ様もお前のために祈っておられる。お前の心の中には・・・悪魔がいる。お前の心を苦しめている。魂を持っていこうとしている。お前のいだく夢をすべて壊し、破滅に導くもの・・・名をオールド・ジョージーという」

「うぅ・・・その通りだ・・・俺は幼い頃からオールドジョージーにずっと・・・ずっと見られていた・・・」
「ソンミ様、どうかザックリーをお助け下さい。悪魔を打ち祓い、心に安らぎをお与え下さい。うぅ、うっ・・・うぅ」 苦しげにアベスは呻いている。そして突如上を向き、丸い目玉が飛び出しそうなほど目が開いた。瞳には別の光が宿っている。
岩が崩れる、橋の下に隠れよ・・・血まみれても手を放すな・・・寝ている敵を決して襲ってはならない」
 小さくかすれ声を立てた。アベスはがっくりと頭をうなだれた。スーっと沈黙が漂う。もうピクリとも喋らない。
「これは・・・預言」
 やっとアベスは顔を上げた。正氣に戻った目をして俺に向き直った。

「ソンミ様を信じなさい。ソンミ様の預言がもたらされた。しっかりと忘れぬよう、頭に刻み付けなさい」 そう言うとアベスは俺の頭を両腕にかかえてナデナデ。
「ありがとう・・・ありがとう、アベス」

 ザックリーは子どものように泣いた。ソンミ様はいつも俺を見守ってくれるのだ。

 

 

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  二一四四年、韓国のソウル。ソンミ451は紺色の服を着た面長の男と向かい合い、椅子に座っていた。彼は私の取り調べをする警察官だ。私の座っている椅子の肘掛には銀の手錠がついていて、それで両腕をロックされている。

警察官が話し出した。
「あなたには一番古い記憶から順に、時系列を追って話してもらいましょう。これは、私たちの子どもたち、つまり未来の歴史学者が後で見て理解しやすいという配慮からです。よろしいですね」

「私たちはクローン種なので記憶というものがありません。パダソングで二十四時間、ずっと同じサイクルで働いています」
「すごい! 人間の標準語をこれほどうまく扱うとは」
 私は使い慣れた地域言語でため息交じりにつぶやいた。それをコンピューターが音声認識し、自動翻訳した。 『標準語だけしかしゃべれないなんて不便ね』 と翻訳表示、警察官はそれを確認し、私のことを物珍しい動物を見るように、目をキラキラさせた。
「我々、官僚はこの国以外の言葉を話す事は法律で禁じられています。ご配慮ください」
「それは承知しております」
「ありがとう。同じサイクルとおっしゃいましたね。では、パダソングでの一日の様子を教えて下さい」
「分かりました」

《パダソングでの一日 ソンミの回想》
 私はベッドの上で目が覚めた。ツーンとする鼻孔への刺激臭が頭をクリアにする。毎朝四時、刺激物質を顔面噴射されて起こされる。今日も昨日と同じ一日が始まる。まったく変わない一日の繰り返し。私は体を起こして、裸のまま、ベッドの横についているタラップを降り、衛星処理室に向かった。衛星処理室は通り抜けの狭い個室で、上と下から勢いよく洗浄水を噴射する。これを体に浴びて雑菌処理する。更衣室の入口に行くときれいに洗われたタオルと制服が重ねて置いてある。それを1つ取って更衣室に入り、体を拭いて制服を着る。いつも新品。同じ制服、同じ顔。同じ体格、みんな一緒。たくさんのソンミが、朝、一斉に起床し、お店の開店準備を無駄なく整える。
 着替え終えたらパダソングのホールに直行。恵比寿様のような細い目をして口髭と丸まった顔でにこやかに笑う黄色いおじさんがトレードマーク。お店のシンボルがデカデカとカウンターの上に掲示されている。私たちもおじさんと同じように、にこにこ顔してお客様にご挨拶。
 五時にはそれぞれの持ち場に着く。その後、十九時間働く。私たちは注文をインプットし、食事や飲み物をお客様に提供。その他、調味料の補充、テーブル拭き、ゴミの片付けなど。働く時は第一条の法律に従う。
《回想 終わり》

 警察官が質問した。 「第一条の法律とは何ですか?」
「お客様は神さまです」 私は話の後を続けた。

「一日が終わったら、みんなで店内を掃除します。その後、ソープを飲んで睡眠ボックスに直行。どこを切っても同じ、金太郎飴のような毎日です」
(※ソープとは、クローン種が飲む白い栄養ドリンク。四角い紙パックに入っていて、ストローで吸って飲む。安眠の効果がある)

「それで、将来を思い描く事はありますか?」
「私たち給仕用クローンにとっての希望は、十二年明けです」
「では、それについてご説明を」
「はい。新年明けの初日、リー導師が私たちの首輪に星のスタンプを一つ押します。星が十二個集まると十二年明けです。私も星が集まるのを心待ちにしていました。その時は」
「十二年が明け、約束の地へ旅立つ先輩たちを見送るときは、どんな氣持ちですか?」
「わくわくします。嬉しくもあり、うらやましくもある」
「あなたの仲間たちも同じ氣持ちなのでしょうか?」
「えぇ、ほとんどは」 と言ったものの、氣になることを途中で思い出し、言い淀んだ。
 そういえば先輩たちの見送りで一列に並んでいた時、隣に立っているユナ939がリー導師に見つからないように忘れもの保管室の鍵を私に見せてくれた事を思い出した。そのときの私は思考停止状態、口を丸く開け、なにも考えられなかった。強烈な罪悪感が私の心を支配した。ユナ939はあの時から脱走の計画をしていたのだ。
「ユナ939だけは違うようでした」
「あの事件は忘れもしません。悪名高きユナ939 我々も聞いていますが、あなたの視点からもう一度、ユナ939について話してください」

《ユナ939について ソンミの回想》
 ある日、私は突然の刺激物質で起こされた。刺激物質の噴射が終わると、ベッドが棚の外に移動する。私は、ベッドから体を起こし、タラップにつかまって下に降りた。私が寝ている間、ベッドはずっと棚の中に入っている。私たちは睡眠ボックスと言っている。自分で起きられず、寝ている間は外に出られない。棚の引き出しが閉まっていて、中からは開けられない密閉空間となる。私が起きるには、誰かが私のベッドを外から操作しなければならない。誰かが操作すると、刺激物質が噴射されて、ベッドが外側へ移動し、外に出られるようになる。他の棚を見ると、まだ外にベッドが出てきていない。みんな寝ている。でも、ユナ939のベッドだけは外に出ていた。ユナ939は起きて、どこかにいる。
 私はユナ939を探しに、冷たい床を裸足で歩いた。すると、奥から 「アッ、アッ・・・」 というかすれ声が聞こえてきた。腰をかがめて用心深く声のする方へ近づくと、ユナ939が仰向けに寝て、上は制服を着ているが、下半身は裸だった。彼女の足元にはリー導師がいて、ユナ939の足をそこらじゅうしゃぶっていた。ユナ939は恍惚に満ちた声を上げながら、顔だけ私の方に向けた。私のことをじっと見つめる。目の前にはリー導師。決して逆らえない、人間種のお方。私はユナ939にそれ以上近づくことが出来なかった。神との肌の触れ合い。私には理解不能。人間とクローン種がこんなに近づいているのが信じられないのだ。彼女は何を考えている? 少なくとも私がここに来るのを分かっていた。私は混乱する頭で、静かにその場を立ち去った。後で分かった事だが、私を起こしたのはユナ939だった。
《回想終わり》

「あなたを起こしたのがユナ939なら、彼女を起こしたのは誰ですか?」
「リー導師だと言っていました」
「店長ですね。何のために従業員を起こすのですか?」
「それは本人に聞かないと分かりません」

 たぶん、ユナ939は私に見せたかったんだ。リー導師と通じている事を。だから、その隙にユナ939は鍵を持ち出す事を考えついた。私は続きを思い出し、またユナ939について話しだした。

《ユナ939について 回想》
 しばらくして、ユナ939が私の元にやってきた。私は、「怖い」 と拒否したのだが、ユナ939は、「怖がらないで! 私についてきて」 と手を引っ張った。彼女に連れられて歩いていくと、リー導師がズボンを下ろしたまま床に倒れていた。傍らにはソープのパックが落ちていて、ストローから白い液体がこぼれていた。
 私は驚いてユナ939に尋ねた。 「どうしてこんな事に?」
「ソープを飲んだのよ。それで、いい氣分になってぐっすりとおやすみ。私たちが睡眠ボックスで眠るみたいにね」 彼女はリー導師の腕を持ちあげ、それを放すと無抵抗に落下するのを私に示した。本当に眠っている。私は少し安心した。
 その後、ユナ939はどこかへ向かって歩き出した。私はただ黙ってついていった。少し歩くと、彼女は突然立ち止まった。まるで自由に歩けることを楽しんでいるようだった。前を向いたまま歌を唄うように、希望に満ちた調子で声を上げた。
「ねぇ、ソンミ451 想像したことある? 人間たちの暮らしがどんなものか!」
「疑問を抱くのは第三条の法律に違反するわ」 私は不安でたまらなかった。(◎第三条の法律とは所有の禁止である。思考も所有できないので、疑問など個人的な考えを持つ事は許されない)
「そうね。知ってるわ。来て、秘密を見せてあげる」 と言い、また歩き出した。ユナ939はひとつの部屋の前に立ち、を使って扉を開けた。

「忘れもの保管室にアクセスします」 というアナウンスが流れた。

 ユナ939は笑みをうかべて中へ入った。私は恐る恐る足を踏み入れた。
 背後で扉が閉まった。部屋の照明が自動で消えた。

 ユナ939は懐中電灯を取り出し、辺りを照らした。懐中電灯を所持している! それも第三条の法律違反・・・私はユナ939に驚かされっぱなしだ。
「どう? ソンミ451 私たちは今、秘密の部屋に来ていまーす」

 ユナ939は映画を映し出す小型端末を持ってきて私に見せた。
「映画?! でもそれは法律で・・・」 ますます不安は募っていく。
「大丈夫、みんな寝ているでしょ。さぁ、こっちに来て」
 私はユナ939の隣へ行き、腰を下ろした。映画の画面が壁の前に映し出された。そのシーンはこうだった。中年の男性が机を前にして立ちながら、 「これは拉致という犯罪だぞ! お前ら犯罪者の思い通りになんか、なってたまるか!」 と叫び、ドアを開けて出ていく場面。そこから、また最初に戻る。だから、そのセリフは何度も繰り返し再生された。時々、音が途切れてしまってよく聞き取れなかった。

 ユナ939はこの映画の俳優と同じようにつぶやいた。
お前ら犯罪者の思い通りになんか、なってたまるか!」 自分に言い聞かせるように。
《回想終わり》

「見つかればすぐに殺されますよ。どうしてそんな危険を冒すのですか?」 警察官が質問した。
「彼女は友達です。放ってはおけません」
「あなたの感情の芽生えはそこからですか。分かりました。あの九月十八日の出来事はどうですか?」
「はい。その日、私は一番テーブルについていました・・・」

《九月十八日の出来事、またそれ以降の回想》
 男女七人グループの若者の座るテーブルがあった。そのうち一人の男が席を立った。テーブルに座っていた別の男はすっかり興奮して 「やっちゃえ!」 とはやし立てた。それにつられ他の仲間も、 「いけいけ!」 「ほら、早く!」 と盛り上がった。男は練りチューブ式の調味料を手に持ち、テーブルを拭いているユナ939に後ろから近づいた。そして、調味料を股間に構えて、青い短パンのお尻を見ながら、噴水のように中身を放出した。調味料はユナ939の背中にべったりとかかった。それを見て、若者たちは大爆笑。

ユナ939は後ろを振り向きざま、その男の顔面を横からひっぱたいた。男は勢いよく床に倒れた。まるで、何が起こったのか信じられないという顔をしている。クローン種に叩かれる人間など、今まで誰も聞いたことがない。周りはすっかり静まり返り、他の客や給仕をしている私たちまでもがその様子に注目した。
 ユナ939はしばらく周りを見回し、 「お前ら犯罪者の思い通りになんか、なってたまるか!」 とつぶやいた。そして、幼い女の子が持っているエレベーターのリモコンを奪い取り、走り出した。他の客たちがごった返しているのを手で押しのけて、エレベーターの方へ走っていく。客らは 「キャー!」 と大騒ぎ。どこかで非常ベルが押され、警報が鳴る。店長の1人が異変に氣付き、客たちをかき分けた先にいるエレベーター前のユナ939を見つけた。手にはクローンを完全停止させるリモコン、それをユナ939に掲げて見せた。
 ユナ939はひどく怯えたが、止まろうとはしなかった。彼女は急いでエレベーターのリモコンのボタンを押した。「エレベーターが参ります」という案内が流れた。しかし、まだエレベーターの扉は開かない。ユナ939は店長を振り返り、目に涙を溜めた。明らかな感情の発露。
 店長はリモコンのボタンを押した。銀色の首輪から血が吹き出し、ユナ939は床に倒れた。そして、店長は何事もなかったかのように、また持ち場に戻った。やがて、 「下がれ! 警戒しろ! 安全を確保」 という声が聞こえ、黒い服の警備員たちが三人現れた。動かなくなったユナ939の生体は素早く移動させられた。

 私はただ黙って見ているしかなかった。

 

 

 

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