※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。
今回は、前回(宅建14)の「成人の制限行為能力者と法定代理人」(民法:代理)や、宅建03「相続登記」(不動産登記法)に関わりの深い事件が、最近、相次いで新聞報道されまして、宅建Tシリーズで当初想定していた50・60代の「住み替え」よりも先に、親世代(70代以降)の認知症高齢者の「住み替え」の方が心配だということで、Sさんが宅建試験勉強で得た知識の応用編としてこの問題を深堀りされました。
【目次】
(1)認知症の一人暮らし高齢者が、詐欺業者に狙われる
1-1)認知症の高齢者と取消権
(2)高齢者が家の押し買い!? の被害者に
2-1)リースバックとリバースモーゲージ
2-2)クーリング・オフ(クーリングオフ)
(3)認知症高齢者の「住み替え」問題と成年後見制度
(4)認知症の法定相続人がいると、相続登記も大変になる!
1)認知症の一人暮らし高齢者が、詐欺業者に狙われる
P: 今回記事のきっかけになった事件報道というのは、「認知症の一人暮らし高齢者へのアパート売買で、詐欺業者が逮捕」だそうですね。
S: 私は6月6日の新聞記事を読んだんですが、
都内で1人暮らしをしている認知症の80代の女性に、悪徳業者が多摩地区某市のアパートを1600万円で売ったんですが、その物件の元値が160万! しかも、高齢女性のもとに20回以上訪問をして、契約を結ばせたそうです。
P: ほかにも50人くらいの被害者(高齢者)がいて、総額1億3千万の被害ですか!
1-1)認知症の高齢者と取消権
S:今回は、たまたま担当のケアマネージャーさんが気づいて、警察に通報、きわめて悪質ということで刑事事件になりましたが、単に認知症の親が、訪問販売で高額な買い物をしただけのときは、簡単に解約はできないんですよ。
S:民法の条文(第3条の2)「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」によって、この肢4は正しいんですが、「意思能力を有しない」の目安は、下記解説によれば、7歳から10歳の子ども程度だそうです。
P: さすがに、そういう方を法定代理人なしで放っておくことは、普通ないですよね?
S: 高齢者の認知症は、だんだん程度が悪化することが多いので、ご家族としては、親を制限行為能力者として扱うのをためらって、先延ばしにしがちです。
でも、遠方の親をひさしぶりに訪ねたら、高価な布団を買わされてた…という話は、よく聞きますよね。
そして、上の解説にあるように、成年後見制度の利用開始前に本人がした契約の取り消しは、できません。
P: 上の記事を読むと、民法の規定以外に、消費者契約法や他の民法の規定(詐欺・脅迫による取り消し)も可能とはありますが?
S:ただし、成年後見制度による契約取り消しよりも、「解除が認められるまで困難」と続いてます。
なので、親が一人暮らしで、認知症の疑いがあるときなどは、前回記事(宅建14)でもご紹介したように、実家のある市町村の相談窓口などで、早めにご相談することをお勧めしているわけです。 ※補足2
ちなみに、成年後見制度利用の一歩手前、つまり、まだ判断能力がある段階でしたら、自治体によっては有料の日常的金銭管理サービス(契約)などを行っています。下は、前回も紹介した東京都・武蔵野市の例です。
P: 筆者の故郷の市では、こんなサービスはやっていないみたいですね…。
(2)高齢者が家の押し買い!? の被害者に
リースバックは自宅を売却して現金を受け取り、売却後も引き続きそのまま住み続ける方法です。
リースバックの場合、自宅の所有権と名義は買取会社に移転しますが、リバースモーゲージは買取りではないため、所有権と名義はその住居の所有者のままで変更ありません。
リースバックした家に何年住めるかは、賃貸借契約次第になります。普通借家契約でも賃貸期間(主に2年)はありますが、借主の意思で更新できるので、基本的には希望する限りいつまでも住み続けることができます。
P: 新聞報道のリースバックのケースでは、80歳代女性が、自宅マンションを業者に1000万円で強制的に買い取られて、あとは月13万円で元・自宅を借りる契約を結ばされたわけですね?
S:そうです。今回のケースは、新聞報道されるくらいなので、おそらく
・家の売却価格が相場より安い
・以降の家賃の額が相場より高い
・契約内容によっては、数年後に家を退去させられる危険があった
など、契約の中身に相当問題があったのでしょう。
高額な不動産取引の際は、自分で事前に勉強をするか、専門家にじっくり相談することを当ブログではお勧めしていますが、それができない高齢者を狙っているところが卑劣ですよね!
2-2)クーリング・オフ(クーリングオフ)
P: ”売主が認知症の疑いもある高齢者”…というのは、制度の想定外だったんでしょうね!
3)認知症の高齢者の「住み替え」問題と成年後見制度
S: 上の新聞記事を読むと、いろいろ法改正の動きはあるようですが、Pくんも「民法の現代語化」でよくお分かりのように、法律が改正されるまでには時間がかかります。
それよりも先に、親ごさんの認知症が進んでくると、一人暮らしが続けられなくなる時がやってくると思います。
そういうときに、今、親ごさんが住んでいる実家を売却して、高齢者施設に入るとか、子どもさんの近所に引っ越す、子と同居するなどの「住み替え」を考えることになります。
そして、これも前回記事(宅建14のB)で触れたように、認知症の疑いがある親ごさんだと、『不動産取引の現場では、売買決済の当日に、「司法書士が売主本人に会ってみて、売買の意思能力がないと判断すれば、決済は中止。」』。
こうなると、実家の売却はできません。
P: 結局、家族が成年後見の申し立てをして、法定代理人が本人に代わって、家の売却手続きをするわけですか?
S: 成年の制限行為能力者(とその法定代理人)には、程度の重さにより3種類
成年被後見人(本人) ⇔ 成年後見人(法定代理人)
被保佐人 ⇔ 保佐人
被補助人 ⇔ 補助人
あるという話も、前回しましたが、不動産取引についてはとくに、この3種でけっこう違いがあるんですよ。
基本テキスト26ページと、裁判所「後見ポータルサイト」のQAにそって説明しますね。
まず、一番程度が軽い「被補助人」は、たいていの行為は単独でできます。補助人が、同意したり代理できる内容・範囲は、申立てと一緒に、予め申立てをして、裁判所の判断で決まります。
「被保佐人」も、ほとんどの行為は単独でできますが、「一定の重要な行為」については取り消しできます(民法13条1項)。この、「一定の重要な行為」のなかに、「不動産の売買」「不動産の賃貸借」が含まれています。
ちなみに、2008年宅建過去問、問1の肢4(誤)が、
『被保佐人が、保佐人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないでした土地の売却は、被保佐人が行為能力者であることを相手方に信じさせるため詐術を用いたときであっても、取り消すことができる。』
です。
この肢は、『被保佐人が行為能力者であることを相手方に信じさせるため詐術を用いた』の文がなければ「正」ですが、宅建13(未成年者)で触れた、
民法21条『制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。』
の「制限行為能力者」に、被保佐人も含まれるので、誤りになります。
P:「成年被後見人」は、前回記事によれば、「日用品の購入その他、日常生活に関する行為」以外の行為は、成年後見人の同意/不同意にかかわらず、取り消しができましたよね?
S:はい。
P: すると、高額な不動産取引も?
S: 当然、そうです。
高額な取引だとダメージも大きいので、「制限行為能力者の取引相手」側の防衛手段として、「成年後見登記」制度があるのですが、こちらは補足3で、触れました。
そして、基本テキスト26ぺ-ジに書いているように、成年後見人が、成年被後見人の居住する建物を、本人を代理して売却・賃貸するときは、家庭裁判所の許可が必要です。
P: いずれにせよ、家庭裁判所のOKがあれば、実家の売却ができそうですね。
S: 何度も言いますが、まずは専門機関に相談してみましょう。
親ごさんが介護サービスを受けているときは、ケアマネージャーの方に、実家のある市町村での「相談先」を聞くことをおすすめします。
また、下記の「裁判所」のホームページにも、いろいろな情報がのっています(千葉県の例ですが、他県も同じような組織があります)。 ※補足4
(4)認知症の法定相続人がいると、相続登記も大変になる!
S: 宅建04で、「相続登記」(義務化については宅建03)をするには、関係者全員の「遺産分割協議書」が必要だという話をしました。 ※補足5
もし、関係者の中に、認知症の方がいると?
P: 認知症の程度にもよりますが、そもそも遺産分割協議ができない…ですよね?
S: Pくんの言う通り、認知症の程度によって、判例も判断が分かれています。
軽度であれば、医師の判断で「遺産分割の内容を理解できる」レベルなら、遺産分割協議書へのサインもしてもらえるようです(下記HP)。
P: 認知症の程度が重いと、やはり成年後見制度を利用するわけですかね?
S: 本来の相続、つまり、ご自分の父が亡くなり、母が認知症なので、兄弟で話し合って成年後見人選任の申し立てをする…というようなケースだと良いですが。
たとえば、P家で祖父から、P父、Pくんと代々ご実家に住んでいたが、相続登記をしていなかったとして、「相続登記」のために、認知症の叔母さんの成年後見人選任の申し立てをしますか? ということです。
制度上は、四親等内の親族は、申し立てできますが(叔母-甥は3親等)…。
P: それだったら、いとこへの遠慮もあるので、以前(宅建10)、Sさんが話されていた「自宅の時効取得」を考えるかな?
S: やはり、時効取得を認めてもらうための裁判の手間はかかります!!
今年4月からの「相続登記」の義務化に関連して、この認知症の法定相続人の問題が明るみになってきましたので、法務省でも対策は考えるはずですが、はたして3年後までに間に合うのか?
もし、ご実家の「相続登記」の関係者(ご親族)の中に、認知症になりかかっている方がいらっしゃるときは、まっさきに「遺産分割協議書」への署名・捺印をお願いしておくことですね。
P:次回(宅建16)は、「所有者不明土地・建物管理制度」、「管理不全状態の土地・建物の管理制度」などを予定しています。
【補足】
補足1 当ブログ(とくに宅建Tシリーズ)では、いわゆるアジャイル型アプローチで、今後も記事をお届けする予定です。
補足2 読売新聞の相談欄(24年6月14日)には、遠方に住む80代のおじの今後について、60代の方からの相談がありました。やはり、地元の「地域包括支援センター」への相談をすすめられていました。
↓ ※読者会員限定記事です
補足3 成年後見登記 →家庭裁判所が成年後見人などの法定代理人を選任すると,家庭裁判所等からの嘱託で,成年後見人等の権限や任意後見契約の内容などを,法務局が登記します。
そして法務局の登記官は、申請があれば、登記事項を証明した登記事項証明書等(登記事項証明書又は登記されていないことの証明書)を発行します。
https://houmukyoku.moj.go.jp/chiba/table/QandA/all/seinennkoukenn.html
下記のリンク先PDFの4ページに、「売主がボケかかっていたときの不動産業者の対応」として、成年後見登記事項証明書による確認について書かれています。
https://www.retio.or.jp/attach/archive/45-035.pdf
ちなみに、成年被後見人などが、宅建士になれるか? 認知症になった宅建士が、宅建士として業務を行った場合に取り消しできるか? などは、いずれ「宅建業法」の解説で触れるそうです。
補足4 法務省 成年後見制度まとめ
https://www.moj.go.jp/MINJI/a02.html
補足5 東京都・中央区 ↓ 24年6月現在、「まだ証明書発行に時間がかかる」とのこと。
【BGM】
S選曲:シーナ&ロケッツ 「You may Dream」
P選曲:A.B.C-Z 「夏と君のうた」
【画像】提供:Pixabay 最後の写真のみ筆者





































