※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。
A)成人の制限行為能力者と法定代理人
P: 前回(宅建13)の未成年者の法定代理人に続いて、今回は成年(成人)の制限行為能力者についてですね?
S:そうです。ちょうど、2022年の宅建試験・問3で出題されています。
P: この問題文だけでも、成年後見人、後見監督人、成年被後見人、保佐人、被保佐人と、いろいろ登場しますね~。
S:未成年者の法定代理人と違って、成年の制限行為能力者の法定代理人には、精神上の障害の程度により、3種類あります。
程度の重い方から、
成年被後見人(本人) ⇔ 成年後見人(法定代理人)
被保佐人 ⇔ 保佐人
被補助人 ⇔ 補助人
です。 ※補足1
成年後見監督人については、生成AI(Google gemini)が
『成年後見監督人とは、民法で定められた制度に基づき、家庭裁判所によって選任される成年後見人の監督を行う人のことです。後見監督人は、後見人が適切に職務を遂行しているかをチェックし、問題があれば家庭裁判所に報告します。
(中略)成年後見監督人は、本人やその親族、成年後見人の請求があった場合のほか、家庭裁判所が職権で選任する場合があります。特に、財産管理の規模が大きい場合、たとえば預貯金の金額や収入の額が多い場合などに選任されることが多く、近年は不正案件の減少傾向に一役買っていると言われています。』(24年6月1日)
の回答でした。
P:文字どおり「成年後見人」を監督する、お目付け役のような人なんですね。 ※補足2
S:宅建試験のための基礎知識としては、未成年者も含めた4種の制限行為能力者の法定代理人が、それぞれ
同意権、追認権、取消権、代理権
を持っているかどうか? は、まず押さえておきましょう。※補足3
未成年者の法定代理人(親権者)については前回説明しましたので、復習をかねて、Pくん
同意権、追認権、取消権、代理権
をもっているかどうか? 答えてください。
あ、前回記事を読みながらでOKですよ。
P:代理権は当然、あり。同意・取消・追認権も、例外は除くとして「あり」ですね。
S:そうでしたね。
ところが、成年後見人には「同意権」がありません。
P: え? 成年後見人が同意しなくても、成年被後見人は買い物できるわけですか?
S:成年被後見人は、障害の程度が重いので、その分、手厚く保護されます。なので、成年後見人の同意/不同意にかかわらず、その行為は取り消しできるんですよ。
取消できない例外は、「日用品の購入その他、日常生活に関する行為」(民法9条)です。
一方で、被補助人は、障害の程度が軽いので、家庭裁判所が法定代理人(補助人)の申立で付与をした範囲の権限しかみとめられません。
https://www.courts.go.jp/chiba/vc-files/chiba/file/042-1sioriQ7.pdf
宅建試験対策としては、基本テキスト27ページに、暗記用まとめが載ってます。
P:ただ、このまとめだけだと、上の22年問3の過去問を解くのは難しいかなと…。いきなり、肢1で、今度は「後見監督人の同意」ですからね。
S:22年は問9(ウ)でも、後見人の辞任と後見監督人の同意が出題されました。
先の生成AIの説明にもあるとおり、不動産などの財産管理での後見人の不正チェックに、ますます後見監督人の役割が重要になるからでしょうね。
より詳しくは、下記の記事をご覧ください。
B)認知症高齢者問題 親所有の実家を子が売るには?
S:制限行為能力者といえば、昔は親が、「障害により事理を弁識する能力を欠く」成年の子の、法定代理人になるという想定だったんですが、いまや「80~84歳では24.4%、85歳以上では55%以上の方が認知症になるといわれる」時代!
私のまわりでも、「認知症になった一人暮らしの親を施設にいれたいが、親所有の実家を子が売るには?」という話はけっこう聞きます。※補足3
P: 筆者は、Sさんの話を聞いて、なんとなく見当がつきますが…。
そもそもどこへ相談すればいいか? 困っている人は多そうですね。
S:すでに、親ごさんが介護サービスを受けているときは、ケアマネージャーの方に、実家のある市町村での「相談先」を聞くことをおすすめします。
たとえば、東京都武蔵野市は、公益財団法人武蔵野市福祉公社・「武蔵野市成年後見利用支援センター」で、相談やサポートをしています。下記の記事は「成年後見制度」の説明も分かりやすいですよ。
P: 認知症といっても、症状はさまざまですよね?
筆者の親戚(90代)は、昔のことはよく覚えていますし、受け答えもしっかりしていますが、ついさっきのことを忘れてしまうので、火気厳禁にするとか、家族がいろいろ困ってます。
S:下の記事によると、不動産取引の現場では、売買決済の当日に、「司法書士が売主本人に会ってみて、売買の意思能力がないと判断すれば、決済は中止となって不動産取引は流れてしまいます。」と、売主の意思能力の有無は、司法書士の判断によるようです。売却を急がないのでしたら、司法書士が、意思能力が喪失していると判断したあとで、成年後見の申し立てを検討してもよいかもしれません。
C)家族信託
S:この「家族信託」は、宅建試験の範囲でいえば「信託の登記」に多少関わりますが、今回はB)の認知症高齢者の不動産処分の問題との関連で、触れておきます。
P:「家族信託」ですか?
S:そもそも「信託とは?」を、Google geminiに「信託とは? わかりやすく」で聞いたところ
『信託とは、自分の財産を信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って管理・運用してもらう制度です。
(中略)
信託の主な特徴は、自分が「誰のために」「どういう目的で」財産を管理・運用するかを決めて、信頼できる人に託すことです。たとえば、子どもの教育費や(中略)障がいをお持ちの方や後見制度により支援を受けている方の財産の管理など、さまざまな目的に利用できます。
信託には、信託銀行などの事業会社との間で締結するイメージがあるかもしれませんが、個人間や家族間などさまざまな形式で利用されています。
家族信託では、委託者(親)が自分の財産を受託者(子)へ託し、受託者(子)は受益者(親)のために託された財産の管理・運用を行います。』(24年6月1日)
と、ちゃんと家族信託まで、説明をしてくれました。
P:たとえば、ここで問題になっている実家売却ですと、 親が認知症になる前に、もしものときは子に実家の売却を任せるという信託契約を、子どもと結んでおく必要がありますよね?
S:そのとおりです。
信託契約の中身については、専門家に相談いただくとして(例:下記)、大前提として、親御さんに判断能力がなければ、契約はできません。
P: 筆者の実家のご近所にも、高齢一人暮らしの世帯は多いので、参考にはなりましたが…、たとえば子の側から「認知症になる前に…」と切り出すのは難しいですね~。
S: 日本だと、家族間の「契約」という考えも、なじみが薄いとは思います。
が、この記事を読まれたシニアの方は、「子孝行」の選択肢として、覚えておいても良いと思います。
P:本記事の後、一人暮らしの高齢者、とくに認知症の方の不動産が狙われるという事件が、相次いで報道されました。
そこで、次回・宅建15では、Sさんが、今回記事の内容を含む民法等の知識で、これらの問題にどんな対処ができるのか? を、とくに親が認知症になりかかっている子ども世代(50・60代)向けに解説してくれます。
S:この宅建14の続編、そして宅建試験勉強の「応用編」ですね。
【補足】
補足1:障害の程度の差について、宅建試験で出題されることはないと思います。「基本テキスト」21ページに簡単な説明が載っていますので、その範囲でご理解ください。
補足2:保佐監督人や補助監督人が選任されることもあります。
補足3:過去10年間の過去問については ↓ 。過去問にでてきた民法の条文は、それぞれチェックしてください。
【BGM】
S選曲:ハイ・ファイ・セット 「雨のステイション」
P選曲:Mike Oldfield「Man in the Rain」
【写真提供】Pixabay