日本語好きな人、寄っといで -9ページ目

音相は、誰もが同じように感じる感性

 「桃色」「ピンク」は意味のうえでは同じですが、「ももいろ」という音には穏やかな落ち着いたイメージがあり、「ピンク」には明るく可愛らしさのようなものを感じます。
 だから、赤ちゃんの頬は「ももいろ」というより「ピンク」という方が実感がよく伝わるし、老婆の頬は「ももいろ」という方が、より印象深く伝わるのです。
 「あか(赤)」という音には明るい音があり、「くろ(黒)」には暗く沈んだ音があり、「甘いと辛い」、「強いと弱い」、「明るいと暗い」など反対の意味をもつ語は、それぞれが相応しい表情を持っているのがわかります。


 このように私たちは、日常意思や感情を誤りなく伝えるためも、無意識的にことばの音に神経を使っているのですが、このようなことばが伝える表情はほとんど「音」によって行われるので、これを「音相」と呼んでいます。
 音相は、遠い「やまとことば」の時代から先祖代々受け継がれてきたもので、平均的な日本人が共通的に持っている感性といってよいものです。

今のネーミングに欠けているもの

 ネーミングの出来のいかんは企業の浮沈もかかわるため、その制作には最高幹部を先頭に多数の人が動員され長期をかけて行ないますが、そういう大きなプロジェクトの中で、時間をかけて検討されるのは意味や文字が中心で「音」については「語感」ということばが時々軽く出るだけで終わっているのが現状です。



 ネーミングにとって、意味や文字の大事さはいうまでもありませんが、大衆の音響感覚が高度に発達した今日では、「音が作るイメージ」の良さを加えなければ人々に愛される、効果のあがるネーミングにはならないのです。
意味的な配慮や工夫は1年もたてば忘れられますが、音が作るイメージは永遠的なものとなって残るのです

 ことばがもつ微妙なイメージの違いを高いレベルで感じることのできる感性をもっている今の大衆は、意味や文字より、音が作る「イメージの良さ」でネーミングの良否は決めているのです。

 送り手は意味で送り、受け手はそれを音で評価する・・・このすれ違いがヒット・ネーミングが生まれにくい大きな原因となっているのです。

 にもかわらず、ネーミングの制作現場でなぜ、「音」の検討が行われないのでしょうか。
それはことばのイメージには感覚的要素が多いため、これを解明するには音相論を学ばなければならないからで、その煩雑さをさけるため、作業がしやすい昔ながらの意味中心の方法が続いているのです。

 一と夏だけ売れば良いような短期的な商品なら、意味やデザインやキャラクターなどで人々の目をパッと捉えて一応の効果をあげることもできますが、長期にわたってシンボルとなる社名やブランド名などには、ことばの中から滲み出てくるものがそこになければならないのです。

Q&A

Q.
 表情語の中に「つらい、苦しい、汚い、悲しい」などネガティヴな意味をもつことばがないのはなぜですか。(奈良市MAT)


A.
ことばが作るイメージ(表情)には、「明るい、嬉しい、華やか」などポジティヴ(肯定またはプラス)な方向をもつものと、「くらい、悲しい、嫌い」などネガティヴ(否定またはマイナス)な方向のものがありますが、音相論では次の理由で、表情語はポジティヴなことばだけで表すことにしています。


1、 ポジティヴ語とネガティヴ語はどちらにでも使われることが多いため、画一的な区分がしにくいものが多いこと。
2、 1語の中に明白にネガティヴな意味を持つ表情語が入ると、ネガティヴ語がもつ刺戟の強さから、ことば全体のイメージ把握にゆがみが生じる恐れがあること。
たとえば人の名前を分析した表情語の中に「暗い」という1語があると、性格の暗さを指摘された本人のショックはことのほか大きいはずで、そのことにひきづられて、全体的なイメージ把握に狂いが生じる恐れがあるからです。


 このような傾向はネーミングや普通の会話の中でもよく見られる現象です。

 なお、ネガティブな意味をもつ「ダサイ」「ずるい」「汚い」などの語を分析するには、表情解析欄の低ポイント語を見ることで「優雅さがない」「清潔感がない」「爽やかさがない」のような裏側から読むと捉えられますし、それに小著「日本語の音相」18~119ページ、表21「表情語と表情属性欄」のネガティヴ語欄を併用すればさらに明白な表情が得られます。(木通)

「新聞シ」と「新聞ガミ」のイメージ差

  われわれは、これらのことばを無意識のうちに区別しながら使っています。



 新聞が情報メディアとしての機能をもっているときは「シンブンシ」、
(例)「シンブンシ上で活躍する」、「シンブンシ面で拝見した」「シンブンシを切り抜く」
 そして新聞がその機能を失った後は「シンブンガミ」となる。
(例)シンブンガミで包んでくれた」、「シンブンガミで床を拭く」

 このようなイメージは、「シ」と「ガミ」という音の違いから生まれるのですが、その根拠を明らかにしてみようと、音相分析を行いました。

「シ」・・・この音は 無声音(声帯を振動させずに出す音)
摩擦音(息を口内に摩擦させて出す音)
拗音※(2つの子音を持った音)
の組み合わせでできているため甲類表情表12項から「爽やか、清らか、清潔感」を感じる音であることがわかります。

「ガミ」・・「ガ」も「ミ」も有声音であるため穏やかな響を伝えますが、「ガ」が濁音のため甲類表情表20項の「暗く、重たく、沈んだ音」が加わって、生命感や活力感を持たないないことばであることがわかります。

 日本人は誰もが無意識のうちにこのような「ことば感覚」をもっていますが、それを科学的な根拠によって証明したのが音相理論です。


 ※「シ」は音相論では拗音として扱われます。
  サ行は、sa,si(スイ),su,se.soが正しいs行の発音ですが、
  日本語の「シ(shi )」は2つの子音(s.h)を持っているので、
  拗音と認識しています。

音相理論ではなぜことばが作れないのか

 例え話をしてみましょう。


 南の島から、見たこともない果物が届いたとします。
人々が集まってその名付けを考えます。
 ある人は、色から、ある人は形から、またある人は香りや手触りから、また神話にでてくる果物から思いめぐらせる人もいるでしょう。



 このように、ネーミングを考えるには無数といえる切り口がありますが、このような心的、内面的な営みは、人の直感力や経験や空想する能力から生まれるもので、それは人でしかできない仕事です。
 過去に、コンピューターでネーミングを作りだそうとした人がいましたが、コンピューターから、たった4音節のことばを取り出すにも、日本語には138の音節(拍)がありますから単純に計算しても138の4乗=3億6千万語がコンピューターから出てきます。そこからことばとして使えそうな語を選ぶのは人の手仕事となりますが、1人で毎日1000語づつ行っても、辛く計算しても1000年はかかってしまうのです。


 話しをするロボットの研究が今いろいろ行われていますが、一番困難と思えるのは「ことばが創作できるロボット」ではないかと私は思うのです。

ネーミングは「大衆の感性」で決まる

 ことばは時代とともに変わります。



新しい語が生まれたり大はやりをしたり、あっという間に消ていったり・・・だが、このようにことばを拾い上げてはやらせたり捨てたりする選択は、誰が、どんな意思によって行っているのでしょうか。
 それは、文芸作家やコピーライターなど、ことばに対し特殊な感覚をもつ「専門家」たちが行うのではなく、日常の暮らしの中でことばの微妙なイメージの存在を実感し、その効用を無意識に活用しながら言語生活を送っている普通の人々の感性の総和が行っているのです。
 したがって、ことばの一種であるネーミングの良し悪しや好き嫌いの評価なども、大衆の誰もが持っている平均的な感性によって決められているのです。

 このことをいま少し具体的に見てみましょう。


 「桜」ということばを聞くと、誰もが暖かい薄紅色の花びらを思い、野山を彩るあで姿を思い、花吹雪の風情などを思いますが、誰もが持つそんなイメージとは別に、天使の吐息をこの語に感じたり、地下に眠る屍(しかばね)を思うなど、その人が独自で感じるものも少なからずあるはずです。
 「大衆の平均的感性」とは、人々がある語に対して感じるイメージから、一般性のない主観的なものを取り去って残ったもののことをいうのです。


 ネーミング作りにとって何より大事なことは、平均的な大衆がそのネーミングをどんなイメージで聞くだろうかという視点を忘れてはならないのです。

音相はどんな方法でとらえたか

 「ことばが持つ表情」を整理してゆくと、陽と陰(明るさと暗さ)の軸と、強さと弱さの2つの軸で捉えることができます。



これらの2軸を組み合わせると、ことばの表情は次の6種に分けられます。

  1、明るく強い表情(+BとH)  
  2、明るく弱い表情(+Bと非H)
  3、暗く強い表情(-BとH)  
  4、暗く弱い表情(-Bと非H)
  5、明暗いずれでもなく強い表情(±B0とH)  
  6、明暗いずれでもなく弱い表情(±B0と非H)


 次に、表情とそれを作ている音素の関係を捉えるため、辞書から感情を含んだすべてのことばを取り出して(約1300語)、1つ1つの表情を内容別に上の6種に分類し、それぞれの中で多く使われている音素を取り出して、それと表情の関係を捉えたのが「音素と音価表」です(このはここでは省略します)。
この表から次の式が生まれます。

音  素 音素(子音)の構造 音節の表情

t (タ行の子音)・・・前舌音×破裂音×無声音 +B1.4 H1.5 

g (ガ行の子音)・・・喉頭音×破裂音×有声音 -B2.0 H1.0 

o (母音「オ」)・・・ 有声音 -B0.7 H0,0 


 この方法を用いると、「ト」や「ゴ 」という音節(拍)は
   ト=t+o=t(+B1,4 H1.5)+o(-B0.7 H0.0)=(+B0.7 H1.5)
   ゴ=g+o=g(-B2.0 H1.0)+o(-B0.7 H0.0)=-B2.7 H1.0)
のような表記ができます。 


 ことばの表情はこのように数量化して表現することができますが、これを元に表情をつくる単位となる音相基 (甲類表情)の表情を捉え、音相基相互の響きあいから生まれる乙類表情を捉え、さらに数種類の表情語の響き合いから生まれる「情緒」(24種)を捉えたうえ、これらを総合することによって、「ことば」(単語)のもつ表情を取り出すことができるのです。 

ネーミングの「分析と評価」を行います。

 当研究所では、音相理論を使ってネーミングの分析と評価の仕事を行っています。
企業がその商品の名に表現したい「商品コンセプト」を詳しく調査分析し、それを「音相言語」に変還してコンピューターに入力し、解析した結果をコメント文をつけてその達成度とともに報告するものです。


 そのような分析表と評価文のサンプルが、

目次欄 「分析表と評価の実例」欄に出ていますのでご覧ください。

ここを→クリック


 料金・・・・調査料(1コンセプトにつき)3万円
 分析料・・・1分析(1語につき)   3~2万円
 その他・・・(実費)


詳細は、研究所へ電話(046-848-1276)でお問い合わせください。

「日本語の音相」をお頒(わ)けします。

 「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊)

は、すでに絶版になっていますが、ご希望の方には当研究所からお頒わけいたします。
(価額1部3800円、送料、代金引換料、送金為替料は当方で負担)



 音相システム研究所の次のアドレスへ郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数をご連絡ください。http://www.onsonic.jp/contact/index.html


*図書の内容は→日本語の音相

経営トップへの提案

・・・大衆は「音の良さ」を望んでいる
 
 ネーミングの出来のいかんは会社の浮沈にかかわるため、企業では最高幹部を先頭に多数の人を動員し、長い期間をかけて行ないます。
その主な作業として、次のようなものがあります。


 1、 新商品のコンセプトの整理
 2、 ネーミング戦略の検討
 3、 素案収集法の検討と、収集作業
 4、 素案から候補案を選ぶ作業
 5、 商標調査(おもに外部委託)
 6、 候補案の絞込みと決定(意味、字種、デザインなどの検討)
 7、 対外発表その他


 だがこのような時間をかけたプロジェクトの中で、「大衆はどんな音を好んでいるか」という検討は、意味を検討する中で軽く「語感の良し悪し」ということばが軽く出るだけで、音についての分析や調査は手がけられないままで終わっているのが現状です。


 しかしながら、すでに高い音相感覚を持ち、イメージに違いを自由に駆使して言語生活をしている一般の人々は、ネーミングの良し悪しは「イメージの良さ」によってほとんど決めているのです。
 このことは、大衆に愛されている流行語や名ブランド名の音相を分析すれば明らかです。
 また、人々の会話によって行われるネーミングの自然的な拡散効果も音だけで行われているように、ネーミングやことばにとって音が伝えるイメージの働きには計り知れないものがあるのです。


 だが、それほど大事な「音」のことが、なぜネーミングの制作現場で検討されないのでしょうか。
 それは「イメージ」には感覚的なものが多く含まれるため、それを解明するには複雑な音相理論の学習が必要となるからで、作業のしやすい昔ながらの方法がとられるにすぎないのです。

 ネーミングはこうした環境の中で作られますが、いったん決まって社会へ出ると、大衆は意味や文字やデザインの良さではなく、音が作るイメージの良しあしで価値のほとんどを決めているのです。
 送り手は意味や文字で考え、受け手は音が作るイメージで評価をする・・・このすれ違いが、ヒット・ネーミングの生まれない大きな理由となっているのです。


 一と夏だけ売ればいいような短期的な商品なら、意味やデザインやキャラクターなどで一応の効果を上げることもできますが、長期にわたって使われる本格的なネーミングには滲み出てくるイメージの良さがなければならないのです。
 意味的な配慮や工夫は1年もたてば忘れられてしまいますが、音が作るイメージは、永遠的な価値となって残るのです。


 現代のネーミングに対するこうした疑問や発想が、企業のリーターたちから聞こえてこないのが不思議でならないなのです。