ニック・ドルナソのグラフィック・ノベル。

前作『サブリナ』がとんでもない傑作だったので、今回も楽しみに読んだ。

舞台はとある演劇教室。そこに集まったのは、それぞれ人生がうまくいってない10人。登場人物が多いから、これマンガでよかった、小説だったらもう誰が誰だか絶対わかんなくなってた。

演劇教室は初回の4回が無料で、短い即興演劇からグループワークまでいろんなことをします。はじめはなごやかなカルチャー教室かと思いきや、ある人物が、設定の役割を演じたまま外に出て行ってしまいます。そのあたりから、どうも成り行きが不穏に…。

どっちが演技でどっちが現実か、よくわからなくなってくる参加者たち。ここで人々は2つに分かれます。演技の最中のほうがイキイキしてる人と、そうでない人。つまり現実の世界で自分をやっていくのがツラい人と、そうでない人。

で、これがなんかのセラピーになって、現実がよくなるのかと思ったら、ニックドルナソはそんな平和的解決に落としません。演劇教室が、第5回目にさしかかったとき、これがその先にある何か不気味で大きなモノの一端でしかないことを匂わせて終了。こ、こわ…。

演劇の先生の言ってた、「本当の仕事」ってなに?そう思って読み返すと、あの山奥の小さな家にいた女の子の「町をつくりたい」っていうセリフや、グロリアの「この家、間取りがおじの家と一緒だわ!」みたいなセリフからも、この末端の現場に隠されたヒントが読み取れて、あとからまたじわじわ怖い。

この人たち、ただでさえ人生がうまくいってないんだから、どこかで帳尻が合って幸せになってほしいのに、現実は弱者がいいように利用されて終わるだけ。カルト宗教のことを連想せずにいられない。最後のシーンなんてまさに。何で世界は弱者により厳しいの…と呆然としてしまった。これは、アメリカの何かの社会問題をモチーフにしているんだろうか。


 

 



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