台湾在住ノンフィクションライター・近藤弥生子さんの本。


台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タンの母が綴った手記を翻訳しながら、著者の近藤さんの豊富な解説が入る、という構成。自伝の翻訳でこういう構成ってあまり見ないけど、オードリーの母が書いた手記や体験を読んでいる近藤さんの思考や体験を読んでいる、というメタ構造になってるようでおもしろかった。


オードリーの母親という人がまあ聡明な人で、当時の台湾の教育界と自分の教育観、無意識に子どもに理想を押しつけようとしていたこと、そこから社会を巻き込んで前人未踏のフリースクールを設立する話も当然のようにおもしろいんだけど、私は近藤さんの解説が、この本をさらに抜群におもしろく、そして読者にとってたいへん心強いものにしていると思いました。


たとえばこういう文章。


「『自分自身は過去に、誰かを苦しめてこなかったか』という疑問が頭から離れなくなった。その答えはもうわかっている。『人を追い詰める側であったことも、人を救う側であったことも、両方ある』だ。彼女の生い立ちに思いを馳せることはつまり、決別したはずの過去と再び向き合いながら、子どもたちを育てていく自分を、人間として立て直す作業でもあった。」


どうでしょう。オードリーの母(海の向こうのなんかスゴイ人)という、一般的な日本の読者からは少し距離のある人が書いた本が、近藤さんというフィルターを通して、とてもわかりやすく、身近に感じられるようになりませんか?そういう体験なら自分にもある!と置き換えられるところがたくさんあるというか。そしてこの、失敗もふくめて自分を顧みるという、ときに客観性の刃を自分に向けるようなきつい作業を、近藤さんが一緒にしてくれているような気がするのですよね。


私はまだ、「育てられた」体験しかないので、きっと一面的にしか読めていないと思う。いつか自分が子どもを持つか、もしくは何かの形で「育てる」に関わるとき、きっとまたこの本を開くだろうという予感がする。


 

 

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