日本の総人口は来年、1億2,774万人でピークを迎え減少に転じるという。15~64歳までの生産年齢人口はすでに10年前から減っている。現在は失業率がやや高めに推移しているから実感が乏しいが、もし生産年齢人口を維持しようとすれば年間約65万人の外国人の受け入れが必要になるという。今後労働力不足が深刻化すれば大きな社会問題として表面化するであろう。とはいえ、これは量的側面に着目したもので、これが現実になるとは考えられない。労働力の需給のギャップは、女性や高齢者の就労のあり方、今後の少子化対策、産業構造の転換、労働生産性によって大きく異なると考えられるので、すぐに外国人の導入を考えるのは早計かもしれないが、議論をしておくことは重要である。
現在の入国管理制度に基づくと専門性を備えた外国人の受け入れ制度の整備は進みつつあり、ちゃんとした入り口が用意されている。しかしいわゆる「単純労働者」については、日本はこれまで受け入れ制度を持っていないが、単純労働部門で外国人が就労していないというわけではない。就労の制限がない配偶者、日系人や研修生、技能実習生、さらに留学生や就学生などの多くが単純労働に従事しており、受け入れ制度はないが「裏口(バックドア)」が用意されているといえる。産業界は80年代後半から単純労働者の受け入れを要望してきたが、現在も単純労働者の受け入れは行われていない。
■単純労働受入のマイナス
単純労働者の受け入れを行わない理由はいくつか考えられるが、第三次入国管理基本計画は「国内の治安に与える影響、国内労働市場に与える影響、産業の発展・構造転換に与える影響、社会的コスト等」をあげている。これをちょっと咀嚼し直してみよう。雇用主との交渉力が低く賃金を低く抑えることのできる外国人労働者が導入されれば、日本人の賃金は低下する可能性がある。したがって雇用する企業にとって、グローバル化する経済状況の中では競争力がつくという点ではメリットを享受するが、労働市場に悪影響を及ぼすという点で外国人の導入は避けるべきということになる。さらに安価な労働力を抱えることによって新技術の導入のインセンティブを失ってしまうなどのデメリットも指摘されている。長期的に見ると単純労働者の受け入れはさらに問題は大きいといわれる。単純労働者の滞在の長期化は、家族統合や子どもの教育、さらに社会福祉面での国や地方自治体の支出を増加させるばかりか、社会にうまく統合できない場合には治安の悪化につながるということである。こうした一般的な外国人労働者のデメリットの根拠に対してはよく理解できない面もあり、その検討については別の機会に検討するが、ただ基本計画では「人口減少時代における外国人労働者の受け入れのあり方を検討すべき時期に来ている」として受け入れの可能性を示唆している。
仮に生産年齢人口の減少により十分な労働力が確保されず、外国人「単純労働者」が導入されない場合の企業の対応について考えてみたい。たとえば製造業などにおいてはおそらく大きく2つあり、海外直接投資によって製造の拠点を移すことにより外国で外国人労働者を雇用するか、「愛・地球博」でも注目を浴びているロボットなどの導入によって生産性を上げ、「効率化」することである。両者とも日本人労働力の節約を可能にするので少子化時代に対応する資本の論理としては、グローバル競争と合わせてみても考えられる。
しかしこの方法は、サービス業などの非貿易財には適用することができない。たとえば建設業や介護といった部門は生産と消費が同じ場所で行われるという点において特徴的であり、海外直接投資によって労働力を外国人に置き換えることもできない。特に介護は機械化による効率の追求がもともとそぐわない性質を持っている。生産年齢人口が減少する中において労働力確保がより重要な問題として生じるのはこうした部門においてである。
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