- 天人唐草―自選作品集 (文春文庫―ビジュアル版)/文藝春秋
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コミックレビュー『天人唐草』山岸凉子
「天人唐草」
父親に、「女性とはこういうものだ」、「もっとおしとやかに」など、厳しく矯正して育てられた娘が、成長してどのような未来をむかえるか、を描いた作品です。
「ハーピー」
高校男子の物語です。
彼は、同級生の女子が、ギリシャ神話に登場する女面鳥獣、ハーピーではないかと疑いはじめます・・・。
とくにお気に入りだったのは、
「籠の中の鳥」です。
これは、鳥人伝説が残る村の、最後の生き残りの少年の物語です。
融(トオル)少年は、11歳まで、祖母の手ひとつで育てられました。
祖母は目が見えない代わりに、「飛ぶ」ことのできる女性で、その特技を生かして、わずかばかりの収入を得て暮らしていました。
しかし、融少年は、五体満足の体をもっている代わりに、一族特有の、「飛ぶ」という特殊能力を持っていません。
祖母が臨終の間際、「飛ぶ」ことのできないトリは、死ぬしかない、と少年を諭し、飛んでみせるよう言いふくめますが、融少年はやっぱり飛ぶことができません。
祖母が亡くなり、民俗学の調査員のような人見さんという男がやって来て、融少年を引き取ります。
義務教育を受けていなかった融少年は、一年生の知識から勉強することになります。
融少年は、並外れた吸収力で、遅れていた知識の吸収をおこなっていきます。
そんな暮らしにもやっと慣れはじめた頃、融少年が慕っていた人見さんに結婚話が持ち上がります。
融少年は、人見さんと別れなければならなくなることを恐れて・・・。
「飛ぶ」ということがどういうことなのか? ズラし方がうまいです。なるほど、そう来るか。
上手な構成が、短編のお手本のような作品です。
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コミック・レビュー『珠玉の名作アンソロジー5 どこかにある猫の国』
しゃべるネコあり、擬人化のネコあり、普通のネコあり、すべてのネコ漫画を網羅しています。
岩館真理子さんの漫画は読んだことなかったけれど、
『夕暮れバス』(岩館真理子作)
は、絵とストーリーが合っていて、良かったです。
死んだネコが連れていかれるバスの話? と読みました。
笑いもアリ、涙もアリ、ちょっと感動もアリ。
私、この人の絵が好き、と思いました。
にゃん子さんの全体評価
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http://ameblo.jp/nyankodoo/
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- 珠玉の名作アンソロジー 5 どこかにある猫の国 (小学館文庫 珠玉の名作アンソロジー 5)/小学館
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波津彬子
岩館真理子
萩尾望都
奈々巻かなこ
奈知美佐子
よしまさこ
草間さかえ
他計14名の作家による、
猫を重要な登場人物にすえた物語集です。
にゃんくが特におもしろかったなと思ったのは、一話目の、
『灰色の貴婦人』(波津彬子作)
です。
STORY
ある日、資産家の老婦人が死去します。
老婦人は、
「わたしの資産は、すべて<レディ>にゆずる」
とその遺言に書きのこしていました。
なんと、<レディ>とは、老婦人が愛していた猫のことなのでした。
その日から、残された莫大な資産を目あてに、
気まぐれ猫「レディ」を手なづけようとする人々が、屋敷に押し寄せてきます。
西炯子作『黒猫が…見てる』
もおもしろいです。
STORY
女性高生の高橋さんは、
同級生の男子・黒川くんに、
「自宅に帰ってくるといつもクツが脱ぎっぱなし」
であることや、
「部屋の窓辺にししゅうの壁かけを飾ってある」
ことや、その他いろんなことを知られていて、不気味に思います。
高橋さん家(ち)には、お兄ちゃんが拾ってきた真っ黒いネコがいて、いつもじっと高橋さんのことを見つめているので不気味に思いますが……
にゃん子さんの感想
しゃべるネコあり、擬人化のネコあり、普通のネコあり、すべてのネコ漫画を網羅しています。
岩館真理子さんの漫画は読んだことなかったけれど、
『夕暮れバス』(岩館真理子作)
は、絵とストーリーが合っていて、良かったです。
死んだネコが連れていかれるバスの話? と読みました。
笑いもアリ、涙もアリ、ちょっと感動もアリ。
私、この人の絵が好き、と思いました。

にゃん子さんの全体評価
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かばん
にゃんく
新幹線の乗り場には待ち人が既に十数名並んでいる。子供連れの若い母親。還暦を過ぎたとおぼしき夫婦。スーツを着た二十代の男……などなど。
GW前の平日の宵ともなれば、当然といえば当然なのかもしれない。
目当ての新幹線がやって来るまでには、まだ間があった。僕の前に並んでいた女――特徴のない女だ。何の変哲もない、誰が見てもごく普通の主婦だ。高価なアクセサリーを身に付けているわけでもなく、かといって、みすぼらしい身なりをしているわけでもない――が、こちらの緊張を解きほぐすような柔らかい声で、
「ちょっとこの荷物、見ていてくださらない? 忘れ物しちゃったのよ。すぐに戻って来るから」
そのように僕に頼んできた。
僕はごく自然な流れで、頷いた。
「ちょっとの間」なら、あえて申し出を断ることもないように思った。
それは茶色の鞄だった。
僕の前――女が並んでいた場所に――それはひとつぽつねんと置かれてある。
僕は周りを見回してみた。
そのようなありふれた鞄に注意を払っている者は誰ひとりいなかった。
ボストンバッグ。いい具合に膨らんでいる。これ以上、何も入らない、というくらいパンパンなわけではない。かといって、何も入っていない虚さというわけでもない。八割方詰まっている、といったところ。
ブランドもののバッグじゃない。
何処のメーカーかも分からない、ごく普通の、安物の革製のバッグだ。使い込まれていて、ところどころ色褪せてすらいる。
僕は周りを見回してみた。
まだ女は戻って来ない。
「ちょっと」という割には、なかなか女は帰って来ない。
その時間的経過は、すでに僕の中では、「ちょっと」という範疇から微妙にはみ出していた。
でも目くじらを立てなくてもいい。今この瞬間、「あら、ごめんなさいね。助かったわあ」という女の愛想のいい声を聴いたなら、笑顔で「どう致しまして」と僕は言えるだろうから。
でも、ついに新幹線が到着するベルが鳴り出してしまった。
ルルルルルルルル。
鞄はそこにある。
自らの存在を主張するように、まるで大昔からそこにあるかのように、大きくデンと構えている。
さすがに周りの待ち人たちも、ちらちらと鞄の存在に気まずい視線を投げかけはじめてしまった。
鳥のような尖った鼻の先で、新幹線が風を切ってホームに滑り込んで来て、止まった。
乗客たちが、鞄の後ろに立っている僕を邪魔そうに回り込みながら(中には舌打ちをする者までいた)、新幹線の乗車口から次々と乗り込んで行く。
女はまだ来ない。
どうしたと言うのか?
新幹線の窓から、乗客たちの色とりどりの顔が、ぼくを物珍しそうに眺めているような気がした。
「君、乗らないでいいのですか? 君、乗らないでいいのですか?」 車掌がそう言っているように聞こえた。
実際には、車掌はそんなことは言っていなかったのかもしれない。ただ、「間もなく扉が閉まります」的なことを言っていただけなのかもしれない。でもその時の僕には、そういうふうに聞こえたのだ。
ついに新幹線のドアーは、音を立てて閉まった。ぷしゅう。
僕は指定席の新幹線に乗り過ごしてしまった。
女と女が残したこの鞄のために。
別段、指定席には座れなくとも、自由席の車両に乗ることはできる――この混み具合では座れるかどうかは分からないが――。
女は遅れてやって来るに違いない。
僕はそのような希望的観測に縋って女を待ち続けた。
茶色のボストンバッグを手に提げながら、僕は乗客たちが並んでいる列から十歩離れた位置に移動して女を待っていた。元いた列に、女が戻って来ないか、視線を五秒ごとに投げかけながら。
僕はまるで結婚式に花嫁がやって来ない新郎のような気分で、ただ女の到来をやきもきしながら待ち続けていた。
しかし、一時間経ち、二時間待っても、女は戻ってきやしなかった。
僕はしょんぼり項垂れて、鞄を手に提げて、駅員のいる改札に鞄を届けるために歩き出した。
かばんが、ずしりと来た。嫌な重さだ。まるでいのちひとつ運んでいるようだ。
おかしいな? さっきまで、こんな重さじゃなかった筈なのに……
僕は訝しく思い、鞄を指でつついてみた。それは妙にやわらかだった。弾力があり、かといって、ふにゃふにゃというわけでもなく、適度に筋肉が引き締まった柔らかさなのだ。
あと三十メートルほど行けば、駅員がいる改札に辿り着くという段になって、僕は待て待てとはやる自分を立ち止まらせた。このまま駅員にこの鞄を引き渡し、中を開けてみて、とんでもないものが出て来たら、どうするのか? そのような不安が僕を襲ったのである。
僕は鞄のチャックをつまみ、ゆっくりと、しかし、ほんのちょっぴりだけ、それを開いてみた。途端に、強烈な血の臭いが、鼻先をぶった。
僕は慌ててチャックを元に戻した。
しかし今や、家路を急ぐサラリーマンや、酔客たち、夜の仕事をしているとおぼしき女たち、それら通り過ぎて行く周囲の人間たちの足が、この危険で異様な臭いのためにいっせいに立ち止まってしまっていた。
ちょっと待って。これは僕の鞄じゃない。
僕は彼らにそのように説明を試みることを考えたが、どんなにうまく説明しても彼らが納得してくれるようには思えなかった。
そこで僕はステップを踏むことにした。ステージ上で、観客達を前に、ダンサーが踊っているように。胸を張り、得意げな顔つきで。タンタンタタタン。タンタンタタタン。
まるで何事も起こらなかったかのように、軽やかなステップを踏んだ。
すこし、躓いた。足がもつれた。もともと運動神経は良いほうではないのだ。
無数の観客たちは、しらけた表情で、再びおのおのの行く先に顔を向けて立ち去りはじめた。
ふう。額から、いっせいに生暖かい汗が噴き出してくるようだった。
いったいこの鞄の中には、何が入っているのか?
あらためて外見を点検してみると、どうして今まで気付かなかったのだろう、かばんは奇妙な具合に膨らんでいる。まるでバラバラに切断された手や足が、収まりきらずに革を突き破ろうとしているかのようだ。
僕は目の前が、真っ白になったような気がした。
はじめから、あの女はかばんを取りに戻って来るつもりなどなかったのだ。
そう考えると、今まさに、あらぬ罪が、僕に押しつけられようとしているように思えた。
正真正銘、無実の僕に。
いくら僕が身の潔白を主張したとしても、かばんの中に詰め込まれた、途方もない罪深さを前にして、いったい誰が僕の弁解に耳を傾けてくれるというのだろうか?
僕は居ても立ってもいられない気持ちだった。
できるだけ遠く、可能な限り速く、このかばんから遠ざからなければならない。
僕は牛歩でその場を立ち去ろうとしていた。
公衆電話で話している、知らない若い女性が、不審げにじっとこちらを見ている姿が視界のはしっこに映っていた。
それでも僕は懸命に牛歩のランナーになってその場から離れようとしていた。夢の中を泳ぐように。鮭が川の流れに逆らって上流へ向かうように。
やっとのことで新幹線のホームに戻ると、ちょうどタイミング良く新幹線が滑り込んできた。鷹のように、翼を広げて、僕に救いの手を差し伸べてきた。
追っ手から逃れる気持ちで、僕はその懐にもぐり込んだ。
僕は乗り口の近くに、扉に向かって立っていた。
扉の窓からは、後方に飛び去っていく景色が見えはじめた。
知らないうちに、新幹線は音も立てずに、滑走していた。
かばんの中には、百年分の不幸がぎっしり詰まっている、と僕は思った。
それは決して許されることのない罪だ。
開けた瞬間に、僕の人生を地獄に叩き落とすだろう。
けれども、それは誰かが開けなければならないし、かばんというのは誰かに開けられなければ気がすまないのだ。
たまたま開けさせられたのが、僕だったというだけの話だ。
新幹線の自由席は満席だった。
扉の窓の外には、小さな景色が現れては瞬時に消え去っている。
ぐんぐんぐんぐん遠ざかって行く。何もかもから遠ざかって行く。唯一の汚点から、逃げて行く。世界を吹き飛ばす爆弾から。異臭を放つ腐乱死体から。死刑を宣告する死に神から。
街を超え、野を越え、山を越え。
空には、輝かしいばかりの星々だけが瞬いている。
僕はあの女のことを恨んでいた。なんて途方もない罪を僕に押しつけるのかと。でも、外の景色を眺めていると、そのような考えも形を変え、女を許してもいい気分になっていた。すこし気分に余裕ができていたのだ。だって、あの女だって、きっと誰かから押しつけられたに違いないから。あの身に覚えのない罪を、突然知らない誰かから、背負わされてしまったのだろうから。女も生きるのに必死だったのだ。謂われのない不幸は、誰もが、誰かに押しつけたくなるものなのだ。
その時、僕はふと思い出していた。
狭いアパートで孤独死をした継母のことだ。
僕はあの義母を許さなかった。
義母は連れ子である自分の息子には無限の愛を注ぎ、血の繋がりのない僕を虫ケラのように扱った。
父は中年の女と何処かへ出奔し、結局、義母は父から捨てられた。
そういう状況になった後、僕に対する義母の態度は一変した。
猫かわいがりしていた自分の息子は、とんでもない悪人へと成長し、義母は僕を頼らざるを得なくなったのだ。
思えば、かわいそうな人だった。
暑い夏の日に義母は死んだ。
義母の胃の中には、ほとんど何も残っていなかったそうだ。
躯もガリガリに痩せて、そんな義母の躯中に蛆虫がびっしり湧いていたそうだ。
僕は警察署に行き、遺体を確認させられた時、義母の顔を一瞬見ただけで、「もう、いいです」と警察官に言って顔をそむけた。
僕は義母がこんな形で死んでから、ようやく彼女を許す気持ちになれた。
車内に、異臭を放つ浮浪者が紛れ込んでいた。
浮浪者は車両の向こう側の端っこの通路に立っているのに、臭いはここまで漂って来るのだ。
誰もが不愉快な視線を交わし合っている。
僕も思わず自分の鼻をつまんでしまった。
しばらくすると、小便がしたくなってきた。
けれどもトイレに行くには、その臭い浮浪者の隣を通り過ぎなければならない。後ろにトイレはない。あるのは浮浪者の向こうのトイレだけだ。
僕は仕方なく、大きく息を吸って、できるだけ浮浪者の近くで息を吸わないように工夫して、通路を進んで行った。
僕は浮浪者の隣をすり抜けようとした時、
「お前はいつも逃げてきた。お前の罪は、めぐりめぐって、大きくなって帰ってくるだろう。お前は、それから、逃げ切れはしない」
そう浮浪者が囁く声が耳に入った。
僕がぎょっとして浮浪者を見ると、白い髭に覆われた初老の浮浪者は、既にあらぬ方向に顔をそむけている。
僕がトイレで用をすまして出て来ると、浮浪者はいなくなっていた。あの強烈な臭いですら、今や跡形もなく消えていた。
僕は不思議な思いで元のデッキへ戻ると、同じく立っていたサラリーマンふうの男性に尋ねた。「あの浮浪者、何処へ行きました?」
男性はうろんげな顔をして、首をかしげ、
「さあ、知りませんよ」
と言うと、関わり合いになりたくないとばかりに目をそらした。
僕はあの浮浪者は何だったんだろうと思った。
駅にも着いていないのに、いなくなるなんて。
僕は頭の中で、あの浮浪者が囁いた言葉を何度も反芻していた。浮浪者は、鞄を置き去りにした僕のことを言っていたのだ。
そう考えると、いてもたってもいられなくなってきた。
新幹線が駅に到着するまでの間が、永遠のように感じられた。
目的の駅ではなかったけれど、新幹線が停車した時、僕は逆方向に向かうホームに走った。そして、逆戻りする新幹線がやって来るtと、それにとび乗った。
行ったり来たりしている僕を、車掌や、乗客たち全員が、訝しげに見つめているような気がした。
僕は彼らから目をそらして、ひたすら窓の外を眺め続けた。時間の流れがひどくのろくなったように思えた。
ようやくあの駅に戻って来ると、僕はかばんを置き去りにしたあの場所へ向かった。既にかばんが開封されていて、中から飛び出した不幸の固まりに、周囲の人間が愕きの人だかりを作っているのではないかという最悪の可能性が、脳裏をよぎった。けれども予期に反して、あの場所は先程と同じく閑散としていた。公衆電話が目に飛び込んで来た。中で話していた女は既にいなくなっていた。
僕は周囲を見回した。もう一度、見回した。でも、どうしたことか、あのかばんが、なくなっているのだ。
僕は拍子抜けする思いで、通りがかりの人間に訊いてみた。「僕のかばん、知りませんか」と。通りがかりの人は、忙しそうに、首を横に振って、立ち去った。
僕はその場に立て膝をついて、天井を仰いだ。
僕は涙していた。許されることのない罪を犯した犯罪者が、寛大な神に感謝を捧げるように。
いかがでしたか? 小説「かばん」は?
この作品は、ぼくが2013年8月ころ、書きあげたものです。
「果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語」という長編ファンタジーを書きあげたあとの作品になります。
「果てしなく・・・」は一年以上かかって書いたもので、書き上げた後はほんとうにヘトヘトでした。それからしばらく休んで、肩のちからを抜いて書いた作品が、この「かばん」です。
ところどころ、幼稚ともとれる表現が見られるかもしれませんが、それがある種のパワーというか、勢いになっているように思います。また、自分のなかでは、それほど気に入った作品でもなかったのですが、読んでもらうと評判はなぜか良かった作品でもあります。
率直なご感想をいただけると、うれしいです。
それは決して許されることのない罪だ。
開けた瞬間に、僕の人生を地獄に叩き落とすだろう。
けれども、それは誰かが開けなければならないし、かばんというのは誰かに開けられなければ気がすまないのだ。
たまたま開けさせられたのが、僕だったというだけの話だ。
新幹線の自由席は満席だった。
扉の窓の外には、小さな景色が現れては瞬時に消え去っている。
ぐんぐんぐんぐん遠ざかって行く。何もかもから遠ざかって行く。唯一の汚点から、逃げて行く。世界を吹き飛ばす爆弾から。異臭を放つ腐乱死体から。死刑を宣告する死に神から。
街を超え、野を越え、山を越え。
空には、輝かしいばかりの星々だけが瞬いている。
僕はあの女のことを恨んでいた。なんて途方もない罪を僕に押しつけるのかと。でも、外の景色を眺めていると、そのような考えも形を変え、女を許してもいい気分になっていた。すこし気分に余裕ができていたのだ。だって、あの女だって、きっと誰かから押しつけられたに違いないから。あの身に覚えのない罪を、突然知らない誰かから、背負わされてしまったのだろうから。女も生きるのに必死だったのだ。謂われのない不幸は、誰もが、誰かに押しつけたくなるものなのだ。
その時、僕はふと思い出していた。
狭いアパートで孤独死をした継母のことだ。
僕はあの義母を許さなかった。
義母は連れ子である自分の息子には無限の愛を注ぎ、血の繋がりのない僕を虫ケラのように扱った。
父は中年の女と何処かへ出奔し、結局、義母は父から捨てられた。
そういう状況になった後、僕に対する義母の態度は一変した。
猫かわいがりしていた自分の息子は、とんでもない悪人へと成長し、義母は僕を頼らざるを得なくなったのだ。
思えば、かわいそうな人だった。
暑い夏の日に義母は死んだ。
義母の胃の中には、ほとんど何も残っていなかったそうだ。
躯もガリガリに痩せて、そんな義母の躯中に蛆虫がびっしり湧いていたそうだ。
僕は警察署に行き、遺体を確認させられた時、義母の顔を一瞬見ただけで、「もう、いいです」と警察官に言って顔をそむけた。
僕は義母がこんな形で死んでから、ようやく彼女を許す気持ちになれた。
車内に、異臭を放つ浮浪者が紛れ込んでいた。
浮浪者は車両の向こう側の端っこの通路に立っているのに、臭いはここまで漂って来るのだ。
誰もが不愉快な視線を交わし合っている。
僕も思わず自分の鼻をつまんでしまった。
しばらくすると、小便がしたくなってきた。
けれどもトイレに行くには、その臭い浮浪者の隣を通り過ぎなければならない。後ろにトイレはない。あるのは浮浪者の向こうのトイレだけだ。
僕は仕方なく、大きく息を吸って、できるだけ浮浪者の近くで息を吸わないように工夫して、通路を進んで行った。
僕は浮浪者の隣をすり抜けようとした時、
「お前はいつも逃げてきた。お前の罪は、めぐりめぐって、大きくなって帰ってくるだろう。お前は、それから、逃げ切れはしない」
そう浮浪者が囁く声が耳に入った。
僕がぎょっとして浮浪者を見ると、白い髭に覆われた初老の浮浪者は、既にあらぬ方向に顔をそむけている。
僕がトイレで用をすまして出て来ると、浮浪者はいなくなっていた。あの強烈な臭いですら、今や跡形もなく消えていた。
僕は不思議な思いで元のデッキへ戻ると、同じく立っていたサラリーマンふうの男性に尋ねた。「あの浮浪者、何処へ行きました?」
男性はうろんげな顔をして、首をかしげ、
「さあ、知りませんよ」
と言うと、関わり合いになりたくないとばかりに目をそらした。
僕はあの浮浪者は何だったんだろうと思った。
駅にも着いていないのに、いなくなるなんて。
僕は頭の中で、あの浮浪者が囁いた言葉を何度も反芻していた。浮浪者は、鞄を置き去りにした僕のことを言っていたのだ。
そう考えると、いてもたってもいられなくなってきた。
新幹線が駅に到着するまでの間が、永遠のように感じられた。
目的の駅ではなかったけれど、新幹線が停車した時、僕は逆方向に向かうホームに走った。そして、逆戻りする新幹線がやって来るtと、それにとび乗った。
行ったり来たりしている僕を、車掌や、乗客たち全員が、訝しげに見つめているような気がした。
僕は彼らから目をそらして、ひたすら窓の外を眺め続けた。時間の流れがひどくのろくなったように思えた。
ようやくあの駅に戻って来ると、僕はかばんを置き去りにしたあの場所へ向かった。既にかばんが開封されていて、中から飛び出した不幸の固まりに、周囲の人間が愕きの人だかりを作っているのではないかという最悪の可能性が、脳裏をよぎった。けれども予期に反して、あの場所は先程と同じく閑散としていた。公衆電話が目に飛び込んで来た。中で話していた女は既にいなくなっていた。
僕は周囲を見回した。もう一度、見回した。でも、どうしたことか、あのかばんが、なくなっているのだ。
僕は拍子抜けする思いで、通りがかりの人間に訊いてみた。「僕のかばん、知りませんか」と。通りがかりの人は、忙しそうに、首を横に振って、立ち去った。
僕はその場に立て膝をついて、天井を仰いだ。
僕は涙していた。許されることのない罪を犯した犯罪者が、寛大な神に感謝を捧げるように。
(了)
いかがでしたか? 小説「かばん」は?
この作品は、ぼくが2013年8月ころ、書きあげたものです。
「果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語」という長編ファンタジーを書きあげたあとの作品になります。
「果てしなく・・・」は一年以上かかって書いたもので、書き上げた後はほんとうにヘトヘトでした。それからしばらく休んで、肩のちからを抜いて書いた作品が、この「かばん」です。
ところどころ、幼稚ともとれる表現が見られるかもしれませんが、それがある種のパワーというか、勢いになっているように思います。また、自分のなかでは、それほど気に入った作品でもなかったのですが、読んでもらうと評判はなぜか良かった作品でもあります。
率直なご感想をいただけると、うれしいです。
にゃんく
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コミックレビュー『鬼』山岸凉子作
STORY
天保八年、奥州枯野村は飢饉にみまわれ、家々の親たちは、口減らしのために、大穴のなかに子供たちを捨てます。
穴のなかで、飢餓におそわれた子供たちは、体力がつきて死んでいきますが、生き残ったものは、先に死んでいった者の肉を喰らい、自分たちを捨てた親のことを恨みながら、それでも生き延びようとしました・・・。
その大穴がある東北の田舎の寺に、現代に生きる美術大学の学生たちのサークルの一団が訪れます。
寺の住職の妻は妊娠していますが、その寺では、昔から後継ができないというジンクスがあり、サークル学生たちが寺を訪れたあと、そのジンクスどおり、住職の妻は体調をくずし、入院します。寺に取り残された学生たちは、その昔、悲惨な出来事があった大穴のある場所を発見し、そこで不思議な体験をします。
REVIEW
超常体験を描くのが得意の山岸凉子ならではの作品。
大穴のなかで、ウジ虫の湧いた、仲間の肉を食らう少年たちの様子が、怒気せまる筆致で描かれています。
読み終わったあと、飽食の現代日本で生活していることの幸せを、しみじみ感じることのできる作品です。
他に、「肥長比売(ひながひめ)」、「着道楽」を収録。
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CINEMA REVIEW
『アリスインワンダーランド~時間の旅~』(製作/ティム・バートン、監督/ジェームズ・ボビン)
STORY
「美しく成長したアリスは、父の形見のワンダー号の船長として、3年にわたる大航海を成功させてロンドンに戻ってきた。だが、彼女を待ち受けていたのは、父の愛した船を手放すという厳しい現実。途方に暮れる彼女の前に、突然、青い蝶アブソレムが現れ、友だちのマッドハッターの危機を告げるのだった。」(映画を見た人に配られるチラシより引用)
REVIEW
現在(2016年7月)、公開中のディズニーの実写映画です。
2010年公開された前作『アリス・イン・ワンダーランド』(Alice in Wonderland、ティム・バートン監督)の続編です。
「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」、それぞれのストーリーの後日談的な、新しいオリジナルのストーリーです。- 登場人物には、「不思議の国…」「鏡の国…」以外のオリジナルのキャラも登場します。
- 今作の新しい登場人物として、胸の中央部が時計になっている「タイム」(時間)という、偉そうなおヒゲを生やし、大時代的?なコスチュームをまとった、おっさんが登場します。
名前通り、時間を支配しているとんでもない人物なのですが、この「タイム」というおっさんが、ゴレンジャーみたいな大げさな衣装をつけて、やることなすこと個性的すぎて面白かったです。 - お馴染み、鏡からワンダーランドに入りこんだアリスは、病気になったマッド・ハッターの家で彼と話をします。マッド・ハッターは、死んだ家族を取りもどしたい、と言います。「彼らは死んではいない」と。
でも、アリスは、さすがに死んだ人たちは戻ってこない、とマッド・ハッターに話します。
マッド・ハッターは、そう言うアリスをドアの外に出してしまいます。「帰ってくれ。あんたは、ぼくの知っているアリスじゃない」と。 - ショックを受けたアリスですが、その後、いろいろ調べていくうちに、マッド・ハッターの家族は死んでいないという確信を得ます。
そうして、アリスは、クロノスフィアという、タイムマシンのような乗り物を、タイム(例のおっさん)から奪って、マッド・ハッターの家族を連れ戻すための時空の旅に出ます。……
タイムは、ことあるごとに偉そうにしているのですが、アリスにクロノスフィアを盗まれたことで、どんどん弱っていきます。(何しろ、体が<時計>なわけですから、時空を遡られると、健康に良くないらしいのです)
その様がおもしろかったです。
でも、弱りすぎて、死にそうになったときは、さすがに哀れで、かわいそうに思いましたけれど。 - *
映画の感想です。
何しろ、迫力がすごい!
新しい映画をみるたびに思うことですが、邦画のCG技術、映像技術は、ハリウッド洋画に引き離されるばかりという印象です。- ストーリーもよくできていると思います。(脚本作りに一年半かけたらしいです)。
- 主に、赤の女王と白の女王の確執が原因で、ストーリーが展開されていきます。
- 時折挟まれる小ネタも、古いけれど、思わず笑ってしまいます。
タイムが初登場時に、柱に頭をぶつけるところなど、観客の肩の力をぬかせる効果があると思います。 - 現実世界で船を手放さないといけない悩みと、不思議の国での冒険へ挑むことが、ラストでどう関係してくるのか、最後まで目が離せません。
- とにかく見終わったあと爽快になれる作品です。
- 前作も面白く、好きだったけれど、今作の出来は、それ以上だといえるのではないでしょうか?
「アリスインワンダーランド」が面白かった人には、「命泣組曲」はいかが?
女子大生・虹乃は、病院のベッドである朝目覚めます。
なんだか変てこりんな病院です。医者と看護婦は昼日中から、LOVE会話をしているし、虹乃の娘を自称する四十代のおばさんまで現れる始末。
早く退院したい虹乃ですが、強引に病院の中央ドアから脱出しようとしたとき、双子のようにそっくりの警備員にボケ老人扱いされ、取り押さえられます。しかも、その時、ガラスに映った自分の姿が老婆になっていることに気づかされます・・・。
ナンセンスと失笑の嵐!
「アリスインワンダーランド」に負けていません。ただいま、映画化交渉中!
なーんてね。
でも面白いことは事実です。↓
http://p.booklog.jp/book/101483
ためしに読んでみてください。
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アニメ・レビュー『風立ちぬ』(監督・脚本・原作/宮崎駿)
零戦の設計者である、実在の人物・堀越二郎をモデルとしたアニメーション映画作品です。
ストーリーには、堀辰雄の実体験を元にした小説『風立ちぬ』の物語(婚約者が結核という重い病にかかってしまう)も取り込まれています。 - *
2013年公開され、その後、宮崎監督が引退を表明したこともあり、ヒット作となりました。宮崎監督の、長編アニメーション作品の最後の作品となっています。
庵野秀明が、主人公・堀越二郎の声優を演じていることでも話題となりました。
松任谷由実の曲「ひこうき雲」が印象にのこる作品です。 - <感想>
関東大震災での地震のシーンが迫力があり、良かったと思います。ちょっとしたシーンでも、迫力が違うのが、宮崎作品ですね。
あと、気になったのは、偶然が起こりすぎるところですかね。
主人公と、婚約者とのはじめての出会いで、風に帽子が吹き飛ばされ、それを未来の婚約者がつかみますね。「ナイスキャッチ」。
この出会いがもう一度、繰り返されます。こんどは、主人公の方が、パラソルをつかまえます。
でも、実際には、そんな偶然って続きますかね?
恋愛の成就が、偶然頼み。
そうじゃなくて、好きだったら、会話しに行けばいいじゃない? と思ってしまいます。
『「天空の城ラピュタ」を精神分析する』という記事を書いたことがあるのですが、「天空の城ラピュタ」でもそうだけれど、事件や冒険や偶然が起こらなければ、主人公の恋愛が成就しないというのは、ちょっと残念に思いますね。 - にゃんく
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- レベレーション(啓示)(1) (モーニング KC)/山岸 凉子
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コミックレビュー『レベレーション―啓示―』(山岸凉子作)
『日出処の天子』の山岸凉子が描く、ジャンヌ・ダルクの物語です。
2015年からモーニングで連載されています。
『日出処の天子』で、独自の聖徳太子像を描くことに成功した山岸凉子ならではの題材といってもいいと思います。
ジャンヌ・ダルク(1412年~1431年)は、神の啓示をうけたとされる人物です。彼女は、フランスを勝利に導くために、女性の身で戦争に参加したフランスの国民的ヒロインです。カリスマ的な能力をもつジャンヌの参加により、フランス軍はイングランドとどう戦っていくのか?
彼女の波瀾万丈な短い人生がいかに造形されるのか――?
(感想)
山岸凉子の作品は、『日出処の天子』の聖徳太子のように、誰もが名前だけは知っている有名人だけれど、具体的に何をしたのか、どんな人だったのかほとんど知らない人物を、読んだ後に、まるで親しい隣人のように感じさせてくれる魔法のような書です。
ジャンヌ・ダルクも聖徳太子とまったく同じで、名前は有名だけれど、ほとんどの日本人はどういう人だったのか、何をした人なのか知らないのではないでしょうか。(そういうぼくがまず、そうですから)。
まだ1巻しか発行されていませんが、すでに山岸凉子のパワーは全開。つづきが待ち遠しい作品です。
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アニメレビュー『くまみこ』
2016年4月~6月までアニメが放送されました。
原作は吉元ますめ作のコミックです。
(にゃんくがまとめたあらすじです)
人の言葉を話すヒグマのナツ(♂)と、熊手村で娘巫女として仕える、雨宿まち(14歳、中学3年、♀)の物語です。
まちは、幼い頃から熊手村で、クマのナツとふたりで原始的な暮らしをしてきたため(薪を割ってお風呂を沸かしたり)、家電製品の使い方などの知識をまったくもっていません。そんなまちが、突如都会の高校に行きたいと言い出します。引っ込み思案で機械音痴のまちを心配したナツが、(都会に行ってユニクロで服を買ってくる課題を与えたり)、まちに様々な試練を与えます。
まちのかわいいルックスを利用して、巫女のさまざまなコスプレを着用させて、歌って踊れる村おこしのアイドルに起用したい村の職員たちの思惑などがあります。
日々起こる、そのような様々な出来事を乗り越えていくまちとナツの、ふたりの絆を描いた作品です。
(にゃん子さんの感想です)
オープニングとエンディングの歌がとてもかわいいです。
かわいいまちちゃんとしゃべるクマ(ナツ)との癒し生活が見えてほっこり気分になります。
動物がしゃべったらいいな~と考えること、誰でも1度はありますよね? そんな夢をかなえてくれるアニメです。
とにかく続けて見ている間に田舎娘のまちちゃんを応援したくなることうけあいです!
田舎生活だって、薪割ったり火をおこしたりご飯作ったりたいへんなんです。
クマなのに、昨今の生活家電やショッピングモールや都会にやたら詳しいナツとのかけあいがほほえましいです♪
村の一員になった気分で楽しく見れますよ。
ほんわか気分になるアニメです。
原作コミックのよさを上手にアニメ化されている作品だと思います。
(にゃん子さんの評価)
*評価基準は、『小説道場』に準拠しています。目安はこちら↓
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- TVアニメ「 くまみこ 」オープニングテーマ「 だって、ギュってして。 」【通常盤】/メディアファクトリー
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『ゆりかごの唄』(郭公太さん作)の書評です。
『ゆりかごの唄』は↓こちらから読めます。
http://ncode.syosetu.com/n6762bj/
(書評)
いつも最悪のタイミングで我が家にやって来るミツコ姉さん。
本作は、主人公の修のいとこに当たるミツコ姉さんにまつわる物語です。
結婚し、子供ももうけた修は、暗に金策をせがむように我が家にやって来るミツコ姉さんを、迷惑に思っていたのですが……。
*
安定感のある文体で、安心して一気に最後まで読めました。
郭公太氏は、「中田病院」三部作で、凝縮力のある作品を書ける短編作家としての実力は証明済みですが、「ゆりかごの唄」を一読すれば、中編以上の作品も優にこなせる筆力があることは、誰の目にも明らかです。
純文学的質の高さと、エンタメ的ストーリーテリングが絶妙なさじ加減で融合された「ゆりかごの唄」を、是非ひとりでも多くの人に読んでもらいたい。
最後の一文、「私は今、三十五歳になって、やっと自分のことを大人だと思えるようになったのである。」というのは蛇足ですが、それすら許せてしまえるほど、本作の完成度は高いのです。
あ
1976年の、大学生の視点で、当時の学生運動などの様子が描かれています。
時代のニオイといったものが生で記録されているという点で、価値が高いと言えるかもしれません。
その中で、タイトルの付け方がうまいです。
白い靴下のイメージが脳裏にくっきりと残ります。
主人公の、女学生への思慕の念が、無意識のうちにあるのかな、と思いました。
郭公太さんの『白い靴下』はこちらから読めます。↓
http://ncode.syosetu.com/n5717bj/
記事は以上です。