遺伝子組み換え作物
「 ・・・サミットでは食糧安全保障に関する特別声明に、GM技術を含む「バイオテクノロジーの促進」を盛り込んだ。
異なる種の遺伝子を利用して、まったく新しい種を生み出す遺伝子組み換え。夢の技術として期待を集める一方、自然界になかった存在を生み出す「フランケンシュタイン技術」として人の健康や生態系への悪影響が心配され、賛否の対立が続いてきた。
その均衡を破るかのように、気候変動問題などを足がかりにGM推進派の攻勢が始まった・・・。」
(http://www.asahi.com/national/update/0720/TKY200807190264.html )
おいおい、ほんとうかよ。現在の食糧危機の原因は、別の問題でしょ?気候変動問題よりも、農業自由化にともなう問題が大きいと思うんだけど。たとえ百歩譲って農業危機が気候変動によるとしても、そうだとしたら、その気候変動は環境破壊に由来するわけだから、ほんらいなら環境保護と再生を優先するべきでしょう。それなのにGM(遺伝子組み換え)作物っていう新たな環境破壊でもって対処しようってのは、いったいどういうことなのかね?ぜんぜん理屈にあわないぞ。
世界中の遺伝子組み換え作物の種子をほぼ独占しているモンサント社 。かつてベトナム戦争でまかれた枯れ葉剤の原料であるダイオキシンをつくりつづけている会社でもあり、また黒い噂の絶えない多国籍企業。とうとうG8諸国を手中に収めてしまったのね・・・。
秋頃からモンサント問題の著作を共訳する予定になっているのですが、こりゃゆっくりしてられんなあ。
台本
「社会学者であるために必要な第一の条件は、社会生活を愛していることである。
また、どのような民族や国であれ、ひとつの場所に暮らしている人々に共感し、関心をもって探求することである。
さらに、もっとも恐ろしく野蛮と思われている人々の住処に、たとえそこが犯罪者の隠れ家であったとしても、そこに隠されている優しい思いやりを発見することに喜びを感じることである。
そして最後に、ある人が過去に犯した愚行や絶対的悪徳を、また彼が現在犯している過ちをけっして安易に信じないことであり、そして彼の未来にけっして絶望しないことである」
Tarde, Les Deux éléments de la sociologie, 1895
科学哲学者・人類学者のB.ラトゥールらが、ケンブリッジの「タルドとデュルケム:「社会的なもの」の軌道」 という催しで、自作の演劇をしたということはここ で聞いていたのですが、最近その台本を手に入れました。
この台本は1903年のパリで開かれた「社会学と社会科学」という会議でおこなわれたデュルケムとタルドのあいだの論争の記録にもとづきながら、両者のいろいろな著作からせりふをパッチワークしてつくられています(しかし、よく作ったよなあ)。10年前には考えられなかったことですが、世界的にタルドの再評価は着実に進んでいると思います。
ちなみに戯曲の元ネタになった記録のほうは、かなり緊迫したドラマチックな内容です。私も以前から紹介したいと思っていて、昨年には龍谷大学社会学部の紀要に拙訳で掲載し、また「模倣の法則」の解説でも使わせてもらいました。
引用した文章は、その台本でみつけて、私自身もオリジナルを読んだことがなかったので、「へえ、こんなこと書いてるんだ」とはじめて知りました。裁判所の判事でもあり犯罪学者でもあったタルドが、犯罪者についてどのように考えていたかがよくわかる一節だと思います。
そもそも私がタルドの翻訳を出そうなんて考えたのも、タルドの思想に共感したこともありますが、むしろその人柄に惚れ込んだことが大きいです。タルドは、社会学の立役者であるデュルケムとはいろいろな意味で正反対でで、人間の弱さや愚かさを裁くなどという態度からはほど遠く、むしろそういったものを愛しているようなところが随所に感じられます。 いずれにしても、社会学者の条件としてタルドがあげている内容は、現在の社会科学の研究者なら鼻でせせら笑うようなものばかりですが(おそらく1世紀前の当時も)、それでもこういうことを堂々と書くあたりが私としてはたまらなく魅力的なわけです。
仮想地球講演会
今日は夕方から京都大学で中沢新一氏の講演会に行きました。
タイトルはあやしげですが、ようするに人間世界の潜在的な部分にある神話的領域が現実世界とどのような関係にあるのか、というお話でした。
これまで書いた本の内容の紹介のような講演でしたが、中沢氏のこれまでの仕事の流れをいっぺんにまとめるような内容で、とてもおもしろく聞くことができました。氏は途中休憩を入れながらも3時間半も話しつづけてくれ、とてもお得な気分がしました。
私も神話的想像力のことで本を書こうとしているので、氏の話はとても参考になりました。
懇親会のあいさつ
懇親会でも気兼ねなく質問に答えてもらい、アジールの話から資本主義や脳科学の話まで、いろいろと話がはずんで、久々に楽しい一日でした。
書評(岩波「思想」7月号)
東京から帰ってきました。今回の出張ではタルド、ラッツァラート、G8など、お話する内容がこれまでの仕事の多くにまたがっていたので、自分の研究と活動をみつめなおすいい機会になりました。この場を借りてお礼を・・・(といっても見てないと思うけど)
・青山学院ではお世話になりました。奥様にもよろしく>中野さん
・早稲田ではお世話になりました>永田さん、白石さん、イルコモンズさん、酒井さん
スーザン・ジョージの講演会や韓国のデモ関係者の話など、いくつか面白い話はあるのですが、あまりに忙しいので、またの機会に。こちらの仕事があるため、札幌にも洞爺湖にも行けないのが残念です。
ところで、滋賀に帰ってきたら、岩波書店から「思想」7月号が送られていました。昨年出した「模倣の法則」について、関西学院大学の米虫先生が書評をしてくださっていました。内容を的確にまとめてくださり、タルドの思想の現代的意義についても深い考察をくわえていらっしゃいます。
以前「論座」で書評していただいたときにも思いましたが、1世紀前の思想書を翻訳するというマイナーな取り組みに注目していただいて、ほんとうに感激しています。もう河出書房には在庫がなくなったそうなので、あとは書店在庫のみとなります。入手をお考えの方はお早めに。