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アンテルミッタンの運動


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 週末は、広島で記録映画を作成中のフランスのアーティスト、バチスト・バセット氏の講演 会がありました。私も、その通訳と調整役を兼ねて行ってきました。
 通訳できるほどフランス語ができるわけじゃないのですが、幸いなことに原稿が用意されていたので、なんとかそれでしのぎました。さすがに質疑応答は大変でしたけれど・・・。
 講演の内容は、フランスの失業補償制度に関するもので、とくにCIPという組織の活動についての紹介が主なものでした。フランスではアンテルミッタンと呼ばれる芸能従事者たちのための失業補償制度があったのですが、2003年に改悪され、アンテルミッタンたちが抗議運動を開始しました。それを機にフランス国内のフリーター、学生、教員などを巻き込む労働運動の新しい動きにつながるわけですが、CIPはアンテルミッタンと非正規雇用者の連帯組織で、近年の運動の中でもとくに興味深い運動を展開しています。
 おもしろかったのは、最近はAuto-Reductionという、高級スーパーなどで「100%割引(ようするに無料)」で商品を手に入れる運動をしていることです。不安定生活者たちの食べる権利を守るために、スーパーや百貨店はタダで商品を与えろ、というわけです。こんなことを日本の労働者がやると、万引きや窃盗とされてすぐに警察に捕まえられ、しかも世論も尻馬に乗って強く批判すると思うのですが、フランスでは事情が異なるらしく、店側が下手に警察を呼ぶと世論のほうが店を非難するそうです。そんなふうになるのも、社会契約の概念がまだ生きているフランス社会の歴史と、これまでの社会運動の蓄積の豊かさがあっての話だと思います。
 来場した人々もバチスト氏に対して、熱心に質問や批判をくりだして、なかなかおもしろい議論になりました。素人の通訳者としては苦労しましたが・・・。

 

あと一カ月

 かつて私が通っていた大学では、5月の連休明けに授業が始まり、ぽこぽこ休校が入ったかと思うと、7月に入ったら授業はなくなり、夏休みになりました。祇園祭には、もう夏休みでした。前期の授業はせいぜい6回から8回。それがいまや、前期だけで15回やることが文科省やら厚生省やらの指導で義務づけられるようになりました。いまや夏休みは8月4日から(!)。いったいどういうことなんでしょう?
 私の学生の頃は、あまりに授業が少なくて暇だったので、しょうがないから勉強するかって感じで、学生たちは適当に集まって議論をしたり読書会を開いたり、映画をみたり、絵画展に行ったり、自主的に文化活動をしてました。それが今では「授業が多すぎて本を読む暇がありません」という愚痴を学生から聞くくらい、忙しい学生生活になっているようです。文化が育つには暇があるのが第一なんですけどね。

 教員は自分の専門知識を学生に熱心に伝えようとしますが、学生の皆さんはそういう人たちの相手をして時間を過度に奪われないように、できるだけ自衛してほしいもんです。教員も学生も、抱えている将来への不安を授業することで埋めているだけの話で、実際には頭がよくなるわけでもないですから。
 
 Too much works makes Jack a dull boy. (働きすぎはジャックを馬鹿な子にしてしまう)

 というわけで、夏休みまであと一月以上。いつまでこんな時代が続くことやら。


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合掌


東大名誉教授(哲学)の坂部恵さん死去


 坂部 恵さん(さかべ・めぐみ=東大名誉教授・哲学)が3日、神経膠芽(こう
が)腫で死去、73歳。通夜は8日午後7時、葬儀は9日午後1時30分から東京
都千代田区麹町6の5の1の聖イグナチオ教会で。喪主は妻玲子(れいこ)さ
ん。
 カントなどの西洋哲学から出発し、幅広い視点で精神の基底を探る試みを続
けた。著書に「仮面の解釈学」「理性の不安――カント哲学の生成と構造」な
ど。「和辻哲郎」などでサントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受けた。

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 この人ほど深い見識と教養、そして先見性のある哲学研究者は、もうこの国からは出ないのではないでしょうか。 「モデルニテ・バロック」の次の作品を期待していただけに、とても残念です。

 たまたま、この春から坂部氏の著作を大学の自主ゼミと市民読書会で読み始めたところでした。明日の自主ゼミは偉大な碩学の追悼会になりそうです。

 以下は、ちょうど10年前に哲学研究者に向けて坂部先生が書いた文章ですが、「哲学」以外の研究者にもびっくりするほど当てはまる言葉だと思います。

「近時の日本の大学改革に際して・・・・ひろい意味の「フィロソフィー」の側からあまり目立った見識ある発言も、ましてまとまったリアクションや対案の提示もなく終わったように見受けられるのは・・・いかにも不甲斐ない。日本の哲学専門研究者たちが、微温的な環境のなかで、マックス・ウェーバーのいう「魂なき専門人」としての自己形成をむしろ進んで競いあっているとすれば、個別研究のレベルは上がるにせよ、それこそ「哲学の終焉」・・・をみずから好んで呼び寄せているとしか私には思えない」。

 はい、うちの大学でも着々と「大学改革」は進行中です・・・。






書評

 週間「図書新聞」(5月30日号 )で、拙訳『社会法則/モナド論と社会学』(ガブリエル・タルド著、河出書房新社 )が書評されました。評者は中倉智徳氏です。

 …本書は、社会概念が問い直されている現在においてまさに読まれるべき書物である。タルドに従うなら、社会は個人や自然と切り離されておらず、モナドの無数の創意や協力によって生み出され、拡大し、ぶつかり合う、非常に動的で普遍的なものである。このタルドの社会概念は、社会学に「静かな革命」をもたらすだろう。

 著作全体の趣旨を短いスペースにまとめ、出版の意義まで述べていただいています。どうもありがとうございます。この翻訳も苦労しましたが、それも報われる思いです。



 

田植え

  この週末に丹後半島の上世屋という限界集落で、昨年にひきつづき田植えに行ってきました。豚インフルエンザで全学休校中でしたので、授業ではなく、あくまで事前調査として参加しました。

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 無農薬農法で米をつくるのは大変ですね。いわゆるマルチというやり方で、ロール紙を田んぼに敷きながら苗を手で植えていきます。足腰が鍛えられますが、スピードは遅いです。今回は京都大学の農業サークルといっしょになりました。

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 終わってから村を散歩していて、水神を祭った祠の奥にある滝を拝みに行きました。
 このあたりは最近公開された加藤ローザ主演の「天国はまだ遠く」 のロケ地で使われた場所なので、その影響で観光地になるかと思いきや、「へんぴすぎて誰も来ませんよ」とのことでした。きれいな村で、絵になる場所がいっぱいなんですけどね。実際、田植え中もカメラをもったおじさんたちがけっこう来てました。

 ということで、まだ筋肉痛が治まらないまま、明日から本格的に授業再開です。ああ。