アンテルミッタンの運動

週末は、広島で記録映画を作成中のフランスのアーティスト、バチスト・バセット氏の講演 会がありました。私も、その通訳と調整役を兼ねて行ってきました。
通訳できるほどフランス語ができるわけじゃないのですが、幸いなことに原稿が用意されていたので、なんとかそれでしのぎました。さすがに質疑応答は大変でしたけれど・・・。
講演の内容は、フランスの失業補償制度に関するもので、とくにCIPという組織の活動についての紹介が主なものでした。フランスではアンテルミッタンと呼ばれる芸能従事者たちのための失業補償制度があったのですが、2003年に改悪され、アンテルミッタンたちが抗議運動を開始しました。それを機にフランス国内のフリーター、学生、教員などを巻き込む労働運動の新しい動きにつながるわけですが、CIPはアンテルミッタンと非正規雇用者の連帯組織で、近年の運動の中でもとくに興味深い運動を展開しています。
おもしろかったのは、最近はAuto-Reductionという、高級スーパーなどで「100%割引(ようするに無料)」で商品を手に入れる運動をしていることです。不安定生活者たちの食べる権利を守るために、スーパーや百貨店はタダで商品を与えろ、というわけです。こんなことを日本の労働者がやると、万引きや窃盗とされてすぐに警察に捕まえられ、しかも世論も尻馬に乗って強く批判すると思うのですが、フランスでは事情が異なるらしく、店側が下手に警察を呼ぶと世論のほうが店を非難するそうです。そんなふうになるのも、社会契約の概念がまだ生きているフランス社会の歴史と、これまでの社会運動の蓄積の豊かさがあっての話だと思います。
来場した人々もバチスト氏に対して、熱心に質問や批判をくりだして、なかなかおもしろい議論になりました。素人の通訳者としては苦労しましたが・・・。