rough-55:KYOJIN TO KOBITO@COG
「ボス」声に振り返ると、そこには予想通りの人物が…とはいかず。自分より更に背の高い、彼の相棒の胸部があったので、つと目線を下げる。随分下げた先に、声の主が珍しく自分の脚で立っていた。「イアン。何かな」「ちょっと話したいんだけど、いい?」珍しい誘いに、おや、と小首を傾げる。「勿論。私の部屋へ行こうか?」「ボスが落ち着ける場所ならどこでもいいよ」コグの中で話すから、と。その言葉に彼の相棒を見上げると、瞬きをするようにアイセンサーが点滅した。**********結構、ギリギリだな。そう思っていた矢先に『すまないな、狭くて』と申し訳なさそうな声が降ってきて、こちらとしても恐縮してしまう。大丈夫、と返しつつ、どうにかいい具合の体勢を見つけるのに少々苦労した。「イアン、苦しくないかい?」「平気。まだ割と余裕あるよ」「それなら良かった。それで、話というのは」腕の中の小さな少年を潰さないように細心の注意を払っていたトリガーは、ほっと胸を撫で下ろした。…のも束の間、にゅっと伸びてきた少年の腕に頭部を囚われ、咄嗟に反応出来なかった。きっと抱き締めたかったのだろうけど、それは叶わない。少年の腕は、トリガーの巨きな身体には小さ過ぎるので。「辛かったね、ボス」それでも、人間でいう頬の辺りに添えられた手には力が籠もる。「あの人、友達だったんでしょ。酷いよね、あんなの」響きは淡々としながら、その言葉には深い哀悼が滲んでいると、トリガーは感じた。少年の手が触れた部分から、じわりとあたたかな温度が伝ってくる。彼の言葉だけでなく、その温もりも、彼の気持ちを伝えてくるようで。ーーようやくそこで、自身の中の、深いかなしみに気が付いた。「……ああ」動きを制限された狭小空間でどうにか腕を動かし、トリガーは少年を抱き締めた。本当は知っていた。解っていた。自分が目を逸らし続けていることを。見ないふりをして、自分を騙し続けていただけだ。直視したくなかった。彼は……大事な、古い友人だったから。「彼は、サイプレスにいた頃からの知り合いでね」自然と、彼のことが口をついて出た。制作時期が近かったために親しくなったこと。生まれながらに不幸を背負っていたこと。恐ろしい見た目とは裏腹に、心根の優しい性格だったこと。「ずっと苦しんでいたのだけれど、最近になって良い出会いがあって。とても楽しそうにしていたから、私も嬉しくてね」ーーそれなのに。彼の最期の姿を思い出して、思わず腕が強張ってしまった。慌てて力を緩めると、大丈夫だよ、と腕の中の少年が囁いた。「いいんだよ、ボス。ここには僕とコグしかいないから」何もかも吐き出していいんだよ。泣いていいんだよ。続けられた囁きに、トリガーは自身が確かな熱を持ったのを感じた。きっと、人間ならば、涙を流していたのかもしれない。トリガーには表情が無いので、外面の心配をした所で無意味なのだけれども、今の情けない姿は部下達に見られたくなかった。涙は出ないけれども、きっと自分は泣いているのだろう。友人の死に向き合うのはこんなにも苦しいことなのかと、トリガーは今更のように理解した。「ありがとう、イアン」絞り出した声は、微かに震えていたように思う。ああ、本当に、ここでよかった。本当はあの時、彼を抱き締めたかったーーその感情のままに、トリガーはイアンを強く抱き締めた。===========なんか整理してたら随分昔の書き途中のやつあったんで発掘。短いやつだなこりゃ。折角だから続き書こうかな