プラトン『饗宴』~ヘドウィグ『愛の起源』
私は大学で哲学を専攻したのだが(数学に挫折し逃亡した先)、お恥ずかしい話を告白するのだが、プラトンをあまり読んでいない。哲学書を始め読んだのがニーチェの「ツァラトゥストラ」だったから、いきなりプラトン以降の西洋哲学批判から読み始めた。西洋哲学史を全く知らないまま。その後、ニーチェ経由で文学者トーマス・マンを知ってハマった。そしてトーマス・マンの小説「ヴェニスに死す」にプラトンの「パイドロス」の引用があって、ニヒリズムを克服する愛と美について語られており、興味を持って「パイドロス」を読んだ。その流れで、エロス(恋?愛?)について書かれたプラトンの「饗宴」を読んだ。「饗宴」は大学の授業でも少しばかりの原文を読んだ。以上プラトン2冊。その「饗宴」で、人間が恋愛する生き物である必然性について、様々な登場人物から様々な演説が語られ、論議(対話)されるのであるが、その中でアリストパネスという喜劇詩人の演説が興味深かった。人間はもともと背中合わせの一体(アンドロギュノス)であったが、神によって2体に切り離されたのだと言う。「切断された一人がもう一方の半分、つまり実際の自分の半身に出会うと、二人は(お互いに感じる)愛と友情と親密さに我を失うほど感嘆し一時も相手の視界から離れることすらしなくなる。二人が相手に感じる強烈な切望感は性的な欲望ではなく、何か別のもの、明らかに二人の魂の求め合いであり、何故か分らないが、暗く不確かな予感だけが感じられるのだ。」「私たちは、彼らが何と答えるか知っている。何者もその申し出を断らないであろう。これがすべての人の望みであり、みな自分がはっきりと言うことのできなかった望みの正体はそれなのだと知るだろう。自分の愛する人と溶け合い、1つになることが。」以上は前置き。実はこのアリストパネスの演説をモチーフにしたブロードウェイミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」という存在を知った。映画化もされた。日本でも日本人キャスト日本語で上映されたと言う。その主題歌「The Origin of Love〜愛の起源」が作家独自の表現があるもののアリストパネスの演説そのものであった。性転換ロック・シンガー、ヘドウィグが、幼い頃に母から聞いたプラトンの「愛の起原」にあるような自分のかたわれ(=愛)を探して全米各地を巡る物語。歌っているのは監督・脚本・主演を務めたジョン・キャメロン・ミッチェル。心に沁みるとてもいい歌だなあ。The Origin of Love〜愛の起源作詞・作曲:スティーブン・トラスク歌:ジョン・キャメロン・ミッチェル訳:北丸雄二When the earth was still flat,地球がまだ平らでAnd the clouds made of fire,雲は火でできていてAnd mountains stretched up to the sky,山が空に向かって背伸びしてSometimes higher,ときには空よりも高かったころFolks roamed the earth人間は地球をゴロゴロとLike big rolling kegs.大きな樽みたいに転がってたThey had two sets of arms.見れば腕が二組とThey had two sets of legs.脚も二組あってThey had two faces peeringOut of one giant head大きな頭には顔も二つ付いていてSo they could watch all around themそれであたりが全部見渡せてAs they talked; while they read.本を読みつつ話もできてAnd they never knew nothing of love.そして愛については無知だったIt was before the origin of love.愛がまだできる以前のことThe origin of love愛の起源And there were three sexes then,そしてそのころ性別は三つOne that looked like two menひとつは男が二人Glued up back to back,背中と背中でくっついたやつCalled the children of the sun.そいつらの名前は太陽の子たちAnd similar in shape and girthそれと同んなじ形してWere the children of the earth.地球の子らというのもいたのThey looked like two girls見た目は二人の女の子Rolled up in one.それが一つになったものAnd the children of the moonそれから月の子供たちWere like a fork shoved on a spoon.ちょうどスプーンに挿したフォークみたいでThey were part sun, part earthはんぶん太陽はんぶん地球Part daughter, part son.はんぶん娘ではんぶん息子The origin of love愛の起源Now the gods grew quite scaredそのうち神々が怖れだしたOf our strength and defiance人間の強さと不敵さにAnd Thor said,それでトールがこう言った"I'm gonna kill them all「おれが皆殺しにしてやろうWith my hammer,このおれの大槌(おおづち)でLike I killed the giants."あの巨人どもを倒したときみたいに」And Zeus said, "No,そしたらゼウスが言葉を継いでYou better let me「いやいやおれにやらせておくれUse my lightening, like scissors,この雷(いかづち)をハサミに使ってLike I cut the legs off the whalesクジラの足をちょん切ったときみたいにAnd dinosaurs into lizards."恐竜たちを小間切れトカゲに変えたときみたいに」Then he grabbed up some boltsそれからおもむろに稲妻をつかみあげAnd he let out a laugh,一回、ガハハと笑ってからSaid, "I'll split them right down the middle.いわく「おれがやつらをまっぷたつにしてやろうGonna cut them right up in half."上から下に引き裂いて半分にしてやろう」And then storm clouds gathered aboveそしたら頭上で嵐の雲がもくもくとInto great balls of fire集まりやがて大きな火の玉And then fire shot downそこから炎が稲妻になってFrom the sky in bolts真っ逆さまに落ちてきたLike shining blades光はじけるナイフのOf a knife.刃(やいば)And it rippedそれが切り裂くRight through the flesh一直線の肉体Of the children of the sun太陽の子らAnd the moon月の子供らAnd the earth.地球の子供らAnd some Indian godそこにインドの神まで現れてSewed the wound up into a hole,傷口を縫って寄せて穴にしてPulled it round to our bellyおなかの真ん中にもってきたTo remind us of the price we pay.この罰の大きさを忘れないようにAnd Osiris and the gods of the Nile次にオシリスとナイルの神々がGathered up a big storm雨風をまとめあげてTo blow a hurricane,ハリケーンを巻き起こしTo scatter us away,あたしら人間をちりぢりに吹き飛ばしたIn a flood of wind and rain,風と雨は荒れ狂いAnd a sea of tidal waves,高波までが襲ってきてTo wash us all away,人間はもう流されバラバラAnd if we don't behaveそれでもよい子にしてないとThey'll cut us down againまたまたもっと切られてしまうAnd we'll be hopping round on one footしまいにゃ一本足で飛び跳ねてAnd looking through one eye.目玉一つで見なきゃならなくなるLast time I saw youこのまえあなたを見たときはWe had just split in two.あたしたちはちょうど二つに裂かれたばかりYou were looking at me.あなたはあたしを見つめててI was looking at you.あたしはあなたを見つめてたYou had a way so familiar,なんだかすっごく懐かしい感じがしたけどBut I could not recognize,でもそれがなんだか分らなかったCause you had blood on your face;だってあなたの顔は血みどろでI had blood in my eyes.あたしの目にも血がしみてBut I could swear by your expressionでもぜったいに分ったの、あなたのその感じでThat the pain down in your soulあなたの心の底にある痛みはWas the same as the one down in mine.私のここにあるのと同じものThat's the pain,この痛みCuts a straight line一直線の切り込みがDown through the heart;心臓をまっぷたつに貫いてるWe called it love.それをあたしたち、愛と呼んだわSo we wrapped our arms around each other,だからたがいに腕をまわしてTrying to shove ourselves back together.どうにか元どおりに一つになれないかとWe were making love,けんめいに抱き合いセックスしたMaking love.愛を交わしたIt was a cold dark evening,冷たく暗い夜だったSuch a long time agoもうあんなにむかしWhen by the mighty hand of Jove,ユピテルの無敵の手でもってIt was the sad storyHow we becameLonely two-legged creatures,あたしたちがどうやって二本脚のさみしい生き物になったのかそれは悲しい物語It's the story ofThe origin of love.それは愛の起源の物語That's the origin of love.それが愛の起源The origin of love愛の起源