「ジェロ」、「ジェローム」、「ジェロニモ」、「ジローラモ」 と 「ヒエロニムス」 ―― 後編。 | げたにれの “日日是言語学”

げたにれの “日日是言語学”

やたらにコトバにコーデーする、げたのにれのや、ごまめのつぶやきです。

      パンダ こちらは “後編” です。 “前編” のアタマはこちら↓

         http://ameblo.jp/nirenoya/entry-10121294348.html





   ギルランダイヨ

   ドメーニコ・ギルランダイヨ Domenico Ghirlandaio (15世紀) の描いたヒエローニュムスのテンペラ画。





  【 「ヒエローニュムス」 という名前 】


〓すっかり、寄り道してまいましたが、メキシコ兵が加護を願った


   聖ヒエローニュムス


という人物がすべての発端です。

〓聖ヒエローニュムスは、ローマ帝国が東西に分裂する半世紀前、4世紀なかばのダルマチアの生まれ。 “ダルマチア” というのは、ローマの属州の名前です。アドリア海を挟んでイタリア半島と向かい合っている地域。今で言う、クロアチアの沿岸部、ボスニア=ヘルツェゴヴィナ、モンテネグロと言った地域が含まれていました。

〓『101匹わんちゃん』 “101 Dalmatians” で有名な犬種のダルメシアンは、ダルマチアが原産です。 dalmatian というのは、「ダルマチアの」 という形容詞に由来します。


〓そのダルマチアの Strido [ スト ' リドー ] という町の生まれ。パンノニアとの境界線に近いところと言うので内陸でしょう。この町が、現在のどこに当たるのか、ハッキリとしていません。

〓このあたりの町は、西ローマ帝国の末期ごろ、パンノニアに本拠をかまえた、アッティラ率いるフン族の蹂躙 (じゅうりん) を受けて、灰燼 (かいじん) に帰することが、しばしば、ありました。
〓フン族のヨーロッパへの侵入は、まさにヒエローニュムスが成人した時代に始まっています。しかも、彼の故郷は、ローマ対フン族の前線のような位置にありました。そのような “暗雲たれ込める時代” の空気を彼の人生の背景に見透かすことができます。



〓ローマ帝国が東西に分裂したとき、彼の故郷は西ローマの領土に入りましたが、その名前は完全にギリシャ語なので、ギリシャ語の文化圏に属していたんでしょう。


   Εὐσέβιος Σωφρόνιος Ἱερώνυμος

          Eusébios Sōphrónios Hieroónymos [ エウ ' セビオス ソーぷ ' ロニオス ヒエロ ' オニュモス ]


〓名前は3つから成っていますが、前2つはいずれも -ιος に終わっています。




   Εὐσεβ- Euseb- ← εὐσεβής eusebeés [ エウセベ ' エス ] 「信心深い、敬虔な」
    +
   -ιος  -ios
    ↓
   Εὐσέβιος Eusébios [ エウ ' セビオス ]


     ※ 本来の語幹は εὐσεβε(σ)- eusebe(s)- で -ιος を接尾すると、
      εὐσέβειος eusébeios [ エウ ' セベイオス ] となるハズ。




   Σωφρον- Sōphron- ← σώφρων soóphrōn [ ソ ' オぷローン ] 「思慮深い、節度ある」
    +
   -ιος  -ios
    ↓
   Σωφρόνιος Sōphrónios [ ソーぷ ' ロニオス ]




〓これらは、いずれも形容詞の語幹に -ιος -ios を付けています。通常のギリシャ語彙にこのような派生語はありません。これらは、おそらく、男子名として使われていた 「エウセベース」、「ソープローン」 に “父称” (ふしょう) を示す -ιος が付いたものでしょう。


〓“父称” というのは、“姓” という概念のない社会で、個人を特定するために付けられる 「~の息子」 という意味の語です。英語では -son, -s などがこれにあたり、のちに姓に転じています。ロシア語では -ович -ovich が、現代でも姓と並行して用いられています。モンゴルやアイスランド (一部の人は姓を持つ) などでは、現代でも “父称” しかありません。イスラーム圏では多く、個人名のあとに、父親の名前、祖父の名前を並べます。


〓ただ、ヒエロニュムスの名前に見える 「父称形」 は、父称ではなく、父称形が個人名に転じたものでしょう。ギリシャ人の名前に “父称” が付く場合には、個人名のあとに置かれますし、「父称が2つあるわけがない」 ので……



〓「敬虔にして、思慮深い」。なんとも、“宗教家” になるべくして生まれたような名前ですね。

〓この人物は、3つ目の名前で有名になりました。おそらく、前の2つは、当時としてはありふれた名前だったのかもしれません。



   ἱερο- hiero- ← ἱερός hierós [ ヒエ ' ロス ] 「神聖なる」
    +
   ονυμ- onym- ← ὄνυμα ónyma [ ' オニュマ ] 「名前」。方言形
    +
   -ος  -os  合成形容詞をつくる語尾
    ↓
   ἱεροόνυμος hieroónymos [ ヒエロ ' オニュモス ] 「神聖なる名前を持つ」
    ↓
   ἱερώνυμος hieroónymos



〓「名前」 を “オニュマ” と発音するのは、サッポーの叙情詩などが書かれたアイオリス方言 Aeolic dialect の特徴です。アテーナイ (現アテネ) のアッティカ方言では、


   ὄνομα ónoma [ ' オノマ ]

       ※英語の name と同源


と言いました。

〓以前、「ノーメンクラートル」 nomenclator という “選挙民の名前を候補者に教えるローマの奴隷” のことを書きましたが、この 「ノーメンクラートル」 は、ギリシャ語では、


   ὀνοματολόγος onomatológos [ オノマト ' ろゴス ] 「名前を言う者」


と言いました。ギリシャ語は、単語が  で終わることが許されなかったので ὄνομα ónoma 「オノマ」 という単語の語末には、本来、「隠れた  -t 」 があります。なので、語幹は、


   ὀνοματο- onomato-


なのです。擬音語のことを指す外来語 「オノマトペ」 は、フランス語の onomatopée で、これは、ギリシャ語彙を要素にして、ラテン語で造語されたものが下敷きになっています。原義は、


   *ὀνοματοποιΐᾱ onomatopoiíā [ オノマトポイ ' イアー ] 「コトバをつくること」


ですが、近世ヨーロッパの造語です。古典ギリシャ語にこのような単語はありません。ギリシャ語の 「オノマ」 には、“名前” の他に、“コトバ”、“名詞” の意味もあります。


〓西欧諸語で、合成語の後半部に ὄνομα ónoma [ ' オノマ ] を使うときには、どうしたものか、「聖ヒエローニュムス」 と同じ 「アイオリス方言形」 を引っぱり出します。実は、本家の古典ギリシャ語でも、合成語の後半では、なぜか、アイオリス方言形を使うのです。理由はよくわかりません。


〓このテの合成語には、よく知られた次のような語があります。英語を例にあげてみましょ。




   acronym [ ' アクラ , ニム ] 「頭字語」。 NATO, UNESCO, WHO, ASCII などの頭文字を並べた語。
     ※ラテン語、ギリシャ語には、相当する単語がない


   anonym [ ' アナ , ニム ] 「匿名(者)」 (←無名)
     anōnymus [ ア ' ノーニュムス ] 「無名の、匿名の」。ラテン語
     ἀνώνυμος anoónymos [ アノ ' オニュモス ] 同上。ギリシャ語


   antonym [ ' アンタ , ニム ] 「反義語」 (←反対のコトバ)
     ※ラテン語、ギリシャ語には、相当する単語がない


   homonym [ ' ホマ , ニム ] 「同音異義語」 (←同じコトバ)
     homōnymus [ ホ ' モーニュムス ] 「同音異義の」。ラテン語
     ὁμωνύμιος homōnýmios [ ホモー ' ニュミオス ] 「同音異義の」。ギリシャ語
     ὁμώνυμος homoónymos [ ホモ ' オニュモス ] 同上


   patronym [ ' パトロウ , ニム ] 「父称」 (←父親の名前)
     cf. patrōnymicus [ パトロー ' ニュミクス ] 「父親の名前をとって命名された」。ラテン語
     cf. πατρωνύμιος patrōnýmios [ パトロー ' ニュミオス ] 同上。ギリシャ語


   pseudonym [ 'su:dˌnɪm ] [ ' スード ˌ ニム ] 「偽名、ペンネーム」 (←偽りの名前)
     ψευδώνυμος pseudoónymos [ プセウド ' オニュモス ] 「偽りの名前の」。ギリシャ語
       ※ラテン語には相当語がない。


   synonym [ ' スィナ , ニム ] 「同義語」 (←同じコトバ)。英語
     synōnymos [ スュ ' ノーニュモス ] 「同義の」。ラテン語
     συνώνυμος synoónymos [ スュノ ' オニュモス ] 「同義の」。ギリシャ語



〓どうですか? 「シノニム、アントニム」 なんて単語が、 -onym という覚えづらい綴りなのは、ギリシャ語のアイオリス方言のセイなんです。これを覚えておけば、 -onim だったか、 -onym だったか迷ったとき、思い出すカギになります。
〓これらの造語要素は、一貫して、


   -ōnymus [ ~ ' オーニュムス ] ラテン語
   -ώνυμος -oónymos [ ~オ ' オニュモス ] ギリシャ語


となっていますが、実は、コレ、間違いなんです。古代ギリシャ人だって、ネイティヴとは言え、間違えることはあった。先の 「ヒエローニュムス」 の造語法のところで、


    ↓
   ἱεροόνυμος hieroónymos [ ヒエロ ' オニュモス ] 「神聖なる名前を持つ」
    ↓
   ἱερώνυμος hieroónymos



と説明しました。最後の段階で、前半要素の語末の -o と、後半要素 「オニュモス」 の語頭の o- が接触して -oó- となりますね。ギリシャ文字では、


   ω (ō) οο (oo)


なので、


   ο + ο = ω


という 「綴りの足し算」 が成立します。だから、


   ἱερώνυμος hieroónymos [ ヒエロ ' オニュモス ]


なのです。


〓ところが、ギリシャ人じしんが綴りに引きずられてカン違いしてしまった。


   ἱερ - ώνυμος


という誤った分析をしてしまいました。そのため、この手の合成要素は、適切・不適切にかかわらず、


   ώνυμος oónymos [ オ ' オニュモス ] の一本ヤリ


になってしまったのです。


〓「シノニム」 synonym は、本来、



   συν- syn- [ スュン~ ] 「いっしょに、同時に」 の意の接頭辞
    +
   ονυμ- onym- ← ὄνυμα ónyma [ ' オニュマ ] 「名前」。アイオリス方言形
    +
   -ος  -os
    ↓
   *συνόνυμος synónymos [ スュ ' ノニュモス ]



でよいのに、誤分析によって、


   συνώνυμος synoónymos [ スュノ ' オニュモス ]


と 「オ」 が1拍余計に入っています。


〓ハナシを 「ヒエローニュムス」 に戻すと、この名前の場合は、 -o + o- なので、「オー」 でよいわけですね。綴りでは、「ヒエローニュモス」 ですが、語源的に言うなら、


   ヒエロ オニュモス


です。ギリシャ語の -ος -os は、ラテン語では -us に相当するので、ラテン語では、彼の名前を、


   Hierōnymus [ ヒエ ' ローニュムス ]


とし、西欧では、このラテン語形に準拠して、それぞれの言語の形を生み出しています。



〓なお、「ヒエローニュムス」 の hier- は 「ヒエラルキー」 hierarchy の hier- と同じものです。 -archy はギリシャ語の ἀρχίᾱ arkhiā [ アル ' きアー ] 「支配 (すること)」 に由来します。「ヒエラルキー」 の本来の意味は、


   hierarchia [ ヒエ ' ラルキア ] 「(教皇を頂点とする) 教会の位階、教会制度、教会による政治」。ラテン語


ということです。これが、「身分制度」 とか 「官僚機構」 とかに比喩的に使われるようになったんですね。







   vulgata
   14世紀、イタリアの “ウルガータ” の写本



  【 ヒエローニュムスと “ウルガータ” 】


〓「ヒエローニュムス」 は、ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語を能 (よ) くし、


   Vulgata [ ウゥるガータ ] 『ウルガータ』


というラテン語訳の 『聖書』 を5世紀初頭に完成させました。もっとも、5世紀には 「ヴルガータ」 と発音されていたかもしれません。


〓ヒエローニュムス (5世紀の俗ラテン語では “イェローニムス” だったかもしれない) 以前にもラテン語訳の聖書は存在しましたが、満足の行く翻訳ではなかったようです。ヒエローニュムスの 『ウルガータ』 は、既存のラテン語訳・ギリシャ語訳や、ヘブライ語・ギリシャ語の原典を参照しながら生み出された優れた翻訳とされ、中世ヨーロッパのカトリック教徒のあいだで、『聖書』 の普及版・決定版として大いに利用されました。


〓しかし、8世紀ごろには、ロマンス語圏でも 『ウルガータ』 は民衆に理解できなくなっていたようです。民衆は、古風なラテン語の多くの単語を失っていました。
〓にもかかわらず、聖書をラテン語以外の “民族語” (フランス語、英語、ドイツ語といった言語) に訳すことは、教会によって奨励されず、


   民衆に読めないラテン語聖書が、冒 (おか) すべからざる神聖な書


とみなされるに至りました。



   ルター
   マルチン・ルター


〓これをヒックリ返したのが、16世紀の異端者 マルチン・ルターによるドイツ語訳聖書でした。今から考えると理解しづらいことですが、当時の “学問ある支配層” は、


   “民族語” で 「宗教的著作」 や 「学術的著作」 をおこなうのはバカげたこと


だと考えていました。宗教や学問をになうのは、ラテン語であるのが、アタリマエダのクラッカーだったんです。



   パラケルスス
   パラケルスス


〓ルターと同じ16世紀の人で、バーゼル大学の医学部教授に就任したパラケルスス Paracelsus は、


   ドイツ語で医学の講義をおこなった


ために、同僚の不興を買いました。彼は、教授就任の翌年に早くも大学を追放になっています。「ドイツ語による医学の講義」 は、その理由のひとつと考えられています。



〓やはり、16世紀、国外で翻訳・印刷した 「英語訳の聖書」 を英国に持ち込んだウィリアム・ティンダル William Tyndale は、捕らえられて焚刑 (ふんけい=火あぶりの刑) に処せられています。



   ティンダル

   ティンダルの焚刑。口元には、彼の最後のコトバが書き込まれている。

   このような “リボン状” の文字は、中世ヨーロッパの絵画における、“ふきだし” の役目を果たす。

   “Lord ope the king of Englands eies” は、現代英語に直すと、

   “Lord, open the eyes of the king of England” となる。 “the king of Englands”  -s が属格をあらわしていた。


             メラメラ          メラメラ          メラメラ

〓ヒエローニュムスは、より原典に忠実な 『聖書』 を多くの人に提供しようと志したワケなのに、数百年とか、あるいは、千年も経つうちには、そうした理にかなった意志など、すっかり形骸化してしまうのですね。


“Vulgata” という 『聖書』 のラテン語名は、


   editio vulgata [ エー ' ディティオー ウゥる ' ガータ ]


の略です。英語の単語に置き換えるなら、


   vulgarized edition 「普及版」


ということです。



   vulgo [ ' ウゥるゴー ] <他動詞> 広く行き渡らせる、一般的にする
    ↓    ※ vulg- という語根からつくられた動詞
    ↓
   vulgatus [ ウゥる ' ガートゥス ] <完了分詞→形容詞> 広く人々に知られた、一般の



〓英語の単語で言えば、 widespread でしょう。あるいは、 popular と言い換えてもよろしい。つまり、『ウルガータ』 というのは “民衆のためのもの” と言えるんですね。 editio 「版」 というラテン語名詞が女性なので、 vulgata という女性形を取ります。



   vulgus [ ' ウゥるグス ] <名詞> 民衆、大衆、賤民
    ↓    ※ vulg- という語根からつくられた名詞
    ↓
   vulgaris [ ウゥる ' ガーリス ] <形容詞> 俗な、普通の、日常の



〓英語の vulgar 「卑しい」 という形容詞は、この vulgaris に由来します。英語で、「俗ラテン語」 を Vulgar Latin というのはこのためです。「卑しいラテン語」 というより、「民衆のラテン語」 という意味です。ラテン語じしんでは、


   sermo vulgaris [ ' セルモー ウゥる ' ガーリス ] 民衆のコトバ、日常のコトバ


と言います。






  【 「ヒエローニュムス」 から 「ジェローム」 へ 】


〓西ローマ帝国の版図だった地域では、民衆の話す俗ラテン語で、この 「ヒエローニュムス」 という名前は、以下のように訛っていきました。



   Hierōnymus [ ヒエ ' ローニュムス ]

    ↓

    ↓  ※ h が脱落する。 y が直音化。
    ↓
   *Jerónimo [ イェ ' ローニモ ] → Geronimo [ ヂェ ' ローニモ ] イタリア語
    ↓                              ↓
    ↓                           Gerolamo [ ヂェ ' ローらモ ] イタリア語形バリアント
    ↓                           Girolamo [ ヂ ' ローらモ ] イタリア語形バリアント
    ↓                              ※ n m という鼻音の連続を嫌って、 n l という異化が起こったもの
    ↓
   *Jerónimo [ ジェ ' ローニモ ] 西ロマニア
    ↓
    ↓→ Jerónimo [ ジェ ' ローニムゥ ] ポルトガル語
    ↓      ※ ブラジルでは Jerônimo
    ↓
   Jerónimo [ シェ ' ローニモ ] スペイン語
    ↓
   Jerónimo [ へ ' ローニモ ] 現代スペイン語



   ――――――――――――――――――――



   *Jerónimo [ ジェ ' ローニモ ] 西ロマニア
    ↓
   *Jeronime [ ジェ ' ローニム ] フランス語
    ↓
   *Jeronme   i が脱落する
    ↓
   *Jeromme   n が m に同化する
    ↓
   Jérôme [ ジェ ' ローム ] → Jerome [ ヂェ ' ロウム ] 英語




〓どうです? これで、 Geronimo 「ジェロニモ」 とか Jerónimo 「ヘローニモ」 とか Jerome 「ジェローム」 とか 「ジローラモ」 とかの関係がつまびらかになったと思います。ジローラモ・パンツェッタ (名―姓) さんの名前も、実は 「ヒエローニュムス」 なんですね。


〓こうした語形変化は、言語の自然な変遷の中で起こったことです。つまり、この変化は、「ヒエローニュムス」 という固有名詞を有していたラテン語の末裔の言語でのみ起こったことなのです。
〓ゲルマン諸語など、ラテン語とは別の言語では、こうした変化は起こりませんでした。ただ、英語のみがノルマン・コンクエスト以来、フランス語彙を大量に借用した関係で、まるで、ラテン語の一員のように Jerome という語形を持っています。


〓そうでない、たとえば、ドイツ語などは、


   Hieronymus [ ヒエ ' ロ(ー)ニュムス ]


というラテン語の原語を使わねばなりません。

〓15~16世紀のオランダの画家、


   ヒエロニムス・ボス
     ※ひと昔前、日本では、ドイツ語風に 「ヒエロニムス・ボッシュ」 と言っていた


もそのクチです。もっとも、彼が教会にて名付けられたのは、


   Jheronimus [ イェ ' ロニムス ]


という若干訛って、綴りもヘンテコな名前でした。しかし、実際には、


   Jeroen [ jə'rʊn ] [ イェ ' ルゥン ]


という略称で通っていたようです。家の中で、いちいち、「イェロニムス! ご飯を食べなさい」、「イェロニムス! 仕事をしろ!」 なんて言っていたら、“寿限無” (じゅげむ) になっちゃいますから。



〓これは、オランダ語内での 「略称化」 であって、俗ラテン語で起こった歴史的音変化とは異なるものですね。