
「サーカスの少女」
支柱から放射状に舞う原色、綻び目立つ万国旗、
破れていたり、いまはもうない国だったり、
褪せたベージュの三角テント、
開幕を待つサーカスが、昨日設営したばかり、
陽を浴び風になびいているのに、まるで楽しげなんかじゃなくて、
まるで野戦病院みたいに見えた、それは野戦病院みたいに何故か、
ピエロが出たり入ったり、だけど、
メイクのない彼は使いまわしの小さなサルと変わらない、
焼けた輪だとか、木馬とか、
年を重ねた着ぐるみだとか、
世界を茶化したあらゆるが、テントのまわりで静かに寝てる、
少女の名前はアンジェリカ、ナイフ投げ師の夫婦の子供、
毛皮のソファで欠伸をしてる、
サイズの合わないデニムのパンツ、サスペンダーで吊り下げて、
青い石つきペンダント、手の平、光にかざしてる、
彼女の夢は絵本に見た天蓋のある大きなベッドで眠ること、
キャンピン・バンの狭い荷台、
両親に挟まれて寝て、いつも朝を迎えてる、
だけど、そんなの話したことはない、
落ち目のサーカス、次の時代のスターに皆が期待してると知ってる、
ターコイズを握りしめて目を閉じる、
明日になればまた見慣れぬ、景色のなかで風に揺られる、
街から街へ、村から村へ、
旅立つばかりのアンジェリカ、
小さな村で言葉もなく手渡されたペンダント、
〝ありがとう〟を言う前に、走り去った男の子、
彼がいまも元気なら、ベッドのことは忘れてもいい、
リハーサルが始まって、父が母の輪郭描くようにナイフを投げる、
突き立つ音が聞こえるたびに、アンジェリカはターコイズを手の中握る、
落ち目のサーカス、ナイフ投げ師の夫婦の子供、
アンジェリカは次の世代を期待され、
彼女の意思はいつも抱えるリアルに飲まれ、
スクールバスに乗ってみたい、みんなと学校へ行ってみたい、
ふざけて笑ってケンカして、一度そんなのしてみたい、
ネオンカラーのジェリービーンズ、皆と騒いで食べてみたい、
ラスタカラーの帽子を被って、〝これ似合う?〟って訊いてみたい、
狭い世界を飛び出して、違う生き方するって決めたアンジェリカ、
握りしめたターコイズ、あの子がいる街へゆく、
逢えるかどうかは分からない、
だけど、他に行きたい場所もない、
とりあえずの行き先決めたら、ひたすら進むとサーカステントを飛び出して、
オレンジ色のバスを待つ、出てゆく彼女に気づいたピエロ、
〝元気でね〟って手を振った、
溶けたメイクが垂れていること気にすらせずに、
はるか遠く知らない街へ、荷物はひとつのアンジェリカ、
目を閉じ握るターコイズ、ベージュのテントは小さくなって、
彼女は未来へ旅立った、
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