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One of 泡沫書評ブログ

世の中にいったいいくつの書評ブログがあるのでしょうか。
すでに多くの方が書いているにもかかわらず、なぜ書評を続けるのか。
それは、クダラナイ内容でも、自分の言葉で書くことに意味があると思うからです。

がんの練習帳 (新潮新書)/中川 恵一

¥735
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今年の3月に、父親ががんになったという電話があった。ちょうど例の大震災が起きた直後のことであったが、実際に告知されたのはもう少し前のことらしい。地震があったりして色々大変だったため、連絡するのを少し遅らせたのだろう。初期の胃がんということであった。幸い発見が早かったため、即、入院して手術して事なきを得たらしい。わたしの家系は父方が「脳をやられる」パターンで、母方は「心臓をやられる」パターンが多く、いわゆる「がん家系」ではなかったはずなのに、身内からがんが出たのは少なからずショックであった。(本書を読んで、これがただの「迷信」であることが後にわかるわけだが・・・)

身近な人ががんに罹患することで、色々と思うところもあり、これまで考えないようにしてきた「がん」について少し考えてみようと思ったのが本書を手に取ったきっかけであった。本書によれば、日本人でがんに罹患する人はなんと2人に1人だという。そういわれれば、親類縁者には胃がんだの乳がんだの、結構な数がいた気がするが、皆いつの間にか手術して快復しているため、記憶に残らなかっただけのようである。結局、加齢とともにがんになる可能性が高くなるため、平均寿命が伸びればそれだけがんが(統計上)増えるのもあたりまえ、ということらしい。このように、非常にポピュラーな病気であるはずの「がん」だが、わたしのような者がいることからもわかるように、著者によれば我が国の「がんリテラシ」は非常にお粗末であるようだ。

ということで本書は「がんの予習」のために書かれたものである。たまには本文を引用してみよう。

日本人のおよそ2人に1人が、がんになります。筆者も含めて、読者の半数が、がんに罹るというわけです。そして、日本人の3人に1人が、がんで亡くなっています。65歳以上の高齢者に限れば、2人に1人が、がんで死亡しています。今やがんの半数以上が治癒する時代ですので、高齢者の大半が、がんになっている計算です。(まえがき)

本書、『がんの練習帳』は、読者の皆さんにがんを「練習」して頂くために書いたものです。がんとはいったい何者か、がんにならない生活とは、早期発見のためのがん検診の大切さ、がんと言われた時の心構え、治療法の選択のコツ、がん治療にいくらかかるのか、がんの痛みとのつきあい方、などなど、実用的な情報を、読者の目線で、分かりやすくお話しします。(まえがき)

後半、「死生観」に関連しての著者の宗教観が開陳されており、この部分だけは少々首肯しかねる部分があるが、それはまあご愛嬌であろう。ぜひ健康なうちに読むべき一冊である。
社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由/板倉 雄一郎

¥1,680
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1997年12月2日、IT系のベンチャー企業が東京地方裁判所に自己破産を申請した。翌日の新聞の見出しにはこうある。

負債37億円、ハイパーネット、自己破産を申請

わたしは意味もなく帝国データバンクの倒産情報を定期購読しているのだが、これによると「~民事再生法の適用を申請、負債○○億円」というのがほぼ毎日起きていることがうかがえる。ここに何気なく載っている「○○億円」という数字、給料の遅配すら経験したことがない「安定したサラリーマン」をやっていると何の実感もないが、おそらく一度でも経営をしたことがある人がみれば、この数字がものすごく切実なものに映るのだろう。


本書は1990年代に「ハイパーネット」なるベンチャー起業を興した実業家、板倉雄一郎氏が、事業を興すところから、会社が急成長し、その後に経営が上手くいかなくなって自己破産申請するところまでをつづった自伝である。ホリエモンをはじめとする経営者が絶賛することもあってご存じの方も多いだろう。わたしもようやく手にとってみたのだが、あまりの面白さに一気に読了してしまった。この手の本としては抜群に文才がある。構成も秀逸でまるで小説を読んでいるかのような感覚で一気に読めてしまうこと請け合いだ。倒産後、記憶が新しいうちに書いたということもあるだろうが、ものすごく状況描写が客観的でわかりやすい。むしろ、なぜここまで冷静になれるのか不思議なくらいだ。


事業を志す人は絶対に必読であろう。わたしなどは起業向きでないとよくわかっているので、ただの読み物として読んだわけだが、それでも付箋だらけになってしまった。後から読み返すと何で付箋を貼ったのかよくわからないところもあるが、要するにわたしのような「生まれついてのサラリーマン」からみると、かれのような「生まれついての実業家」の行動がまぶしく映るのであろう。かれが Natural Born の起業家、アントレプレナーであることはさまざまな記述からもうかがえる。もう、なんというか、息をするように事業を興すのだ。アイデアを実行に移すまでの行動力、そして胆力がすばらしい。これこそケインズ先生がおっしゃっていた「アニマル・スピリット」ではないのだろうか。


本書が貴重なのは、おそらく「失敗の事例」というところに尽きるのであろう。まじめに探していないので恐縮だが、書店には多くの「事業成功本」が出回っている一方で、こうした失敗事例をあえて書いている本はあまりない気がする。柳井さんなども「1勝9敗」というわりに失敗事例についてはほとんど筆を割いていない。こうした「生存バイアス」によって世の中の事業はほとんど成功しているかのような錯覚を覚えてしまうが、実際は板倉氏のような無数の失敗事例があって、多くの企業が新陳代謝しているのであろう。


不謹慎ながら、特に興味深いと思ったのは後半の倒産間際の金策に走り回るところの描写だ。手形の不渡りとか、決済用の現金をかき集めて3時過ぎに銀行へ駆け込むなどの生々しい風景は、正直「やっぱり起業なんてするもんじゃないな」と思ってしまうが、わたしのようなサラリーマンしかやったことのない人間は、読書で経験するしかない世界だ。


なお本を値踏みするときに参考となるものひとつに、「刷数」がある。どれだけ増刷されたかというものを示し、一般にこれが多いといい本である確率が高くなる。これはいわゆる総発行部数を示すものではないが、いわゆるロングセラというのは「じわじわ売れている」わけだから刷数が多い。本書は1998年初版、2010年19刷だ。堂々たるロングセラといっていいだろう。なぜ文庫版が出ないのか謎だ。
今日は備忘を兼ねて、面白かった映画をご紹介。

L.A.コンフィデンシャル [DVD]/ジェリー・ゴールドスミス,ラッセル・クロウ,アーノン・ミルチャン

¥4,935
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ジェイムズ・エルロイといえばハードボイルド好きにはたまらない作家だろう。わたしは小説をあまり読まないので、エルロイと言われたらまず馳星周の顔が思い浮かぶ。せいぜいその程度の浅い認識で本作を拝見した。内容は…面白いですが、衝撃を受けるというほどでもなかった。わたしにはあまり合わなかったのだろう。いやまあ、観て損はないレベルです。
★★★☆☆ 星3つ。



ダークナイト [DVD]/クリスチャン・ベール,マイケル・ケイン,ヒース・レジャー

¥1,500
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アメコミ原作というから、さぞ子供だましだろうと思っていたらものすごく切なく、そして深い話であった。ダークナイトというのはまさにこれだという納得の面白さ。『バットマン ビギンズ』と合わせて観られたし。
★★★★☆ 星4つ。



俺たちに明日はない [DVD]/ウォーレン・ベイティ,フェイ・ダナウェイ,ジーン・ハックマン

¥1,500
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アメリカン・ニュー・シネマの超有名な作品で、「ボニー&クライド」といえば「ああ、あの映画か」というくらいの有名作品なのだが、ぜんぜん面白くなかった。古いからだろうか。
★☆☆☆☆ 星1つ。



タクシードライバー コレクターズ・エディション [DVD]/ロバート・デ・ニーロ,シビル・シェパード,ピーター・ボイル

¥3,990
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アメリカン・ニュー・シネマといえばむしろこちらだろう。デ・ニーロの「怪演」はわたしですら圧倒された。陰鬱な時代の雰囲気が良く出ている。今の日本の閉塞感はむしろこれに近いだろう。元気のないときには観ない方がいいが、元気がいいときにこんなものを観る気も起きないかw
★★★☆☆ 星3つ。



時計じかけのオレンジ [DVD]/マルコム・マクドウェル,パトリック・マギー,マイケル・ベイツ

¥2,625
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時代の先を行き過ぎていて、感性の鈍いわたしにはよく理解できなかった。これはクリエイタ志向のひと向けだろう。面白いような面白くないような、意味がよくわからなかった。観ていて飽きないのに意味がわからないとはこれいかに。
★★★☆☆ 星3つ。



ディパーテッド 特別版 (初回限定版) [DVD]/レオナルド・ディカプリオ,マット・デイモン,ジャック・ニコルソン

¥4,200
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韓国映画のリメイクらしいが…これは無茶苦茶面白い。最高。元ネタになった方(『インファナル・アフェア』)も観てみたがわたしは断然こちらのほうが好きだ。
★★★★☆ 星4つ。



シャッター アイランド [DVD]/レオナルド・ディカプリオ,マーク・ラファロ,ベン・キングズレー

¥4,179
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これは…まあ及第点かな。いや、正直に言おう。面白くなかった。妙に技巧的なのが合わないのかな。
★★☆☆☆ 星2つ。



モンスター 通常版 [DVD]/シャーリーズ・セロン,クリスティーナ・リッチ,ブルース・ダーン

¥3,990
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これは出色の出来。とてもシャーリーズ・セロンに見えない。というかこれは連れ合いが借りてきたのをなんとなく観ていただけなので、エンディングロールまで誰が演じているのかさっぱりわからなかった。クリスティーナ・リッチもいい感じに老けていて一瞬誰だかわからなかった。というか、この人、顔掘り深すぎ。(ちなみにわたしは『スリーピー・ホロウ』以来、クリスティーナ・リッチが気になっていたのだが、そのあとで観た『バッファロー'66』ではいまいち惹かれなかった。単にゴシック調のコスプレが気になっていただけだったということかw)
★★★★☆ 星4つ。



他にも色々観たはずのだが忘れてしまった。まあ、今日はこの辺で。
不道徳教育/ブロック.W

¥1,680
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講談社プラスアルファから文庫版が出ているのに、大判のソフトカバー版のほうを買ってしまった。なんということだ。800円の値段の差はわたしの「無知」の代償だとして我慢するとしても、本棚のスペースがなくなることだけは残念である。

本書はウォルター・ブロックの『Defending The Undefendable (注:リンク先PDF) 』(1991)を橘玲氏が訳したものだが、あとがきで断っている通り、「翻訳」ではなく「超訳」である。つまり訳者である橘氏自身が原著の論旨をそのままにしつつも、大胆な日本風アレンジが施されている。そのため、「2ちゃんねらー」だの「ホリエモン」だのがぼんぼん出てきて、無防備に読むと「ブロックさんって、日本のこと詳しいんだな」などと思ってしまうので気をつける必要がある(思うわけがないかw)。

わたしは「自称」リバタリアンだが、正直に告白すると、リバタリアニズムのバイブルであるノージック『アナーキー・国家・ユートピア』も持っていないし、ハイエク『隷属への道』やフリードマン『資本主義と自由』も未だ積読状態のままだ。教義も知らないでリバタリアンを自称するとは専門家からすれば失笑モノだろうが、わたしの直観ではリバタリアニズムというのはものすごく単純明快な政治思想であるように思う。つまり、特にその由来や成り立ちを知らなくとも、ある一つの原則を認識するだけでいつでも誰でもリバタリアンになれる。その原則とは、すなわち

「個人の自由を最大限に尊重し、何人たりとも他人の自由を損なう権利をもたない」

ということである。

といってもやはり学問的精密さを欠くので、興味を持たれた向きはめいめいで確認していただきたいのだが、重要なのは、ここでいう「自由」というのが、われわれが一般にイメージする「自由」の概念と違い、消極的な自由のことを指しているということであろう。つまり、リバタリアンにとっての自由とは、何かをするときにやりたいようにできる、というようなニュアンスではなく、「誰からも何も強制されない」という自由なのである。

残念ながら日本においては、一般に「お上」の意識が強烈過ぎて、どちらかといえばその対極にある「パターナリズム」や「社会主義」のほうが受け入れやすい概念なのだろう。あるいはベストセラーとなった例の本にあるような「コミュリタニアニズム」のほうが近いのかもしれない。知れば知るほど、この国では受け入れがたい概念だなと思わざるを得ない。


* * * * * * *


橘玲氏が和製リバタリアンの伝道師(?)であることを知ったのはずいぶん後のことなので、本書はつい最近その存在を知ったのだが、これは「リバタリアンとは何か」がものすごく端的にわかる(わかった気になれる)最高の入門書かもしれない。以前、入門書として森村進『自由はどこまで可能か』(講談社現代新書)を通読したことがあるが、あまりの学問的難解さに頭の整理が追い付かなかった。しかし本書は多少強引ではあるが、身近な例に引き寄せて「自由」とは何かを具体的に描写しているし、場合によっては本文を読まなくても橘氏の書いたまえがき(たったの40ページ足らず!)を読むだけでリバタリアニズムを俯瞰することができる。

それにしても、先ほどの言説と矛盾するようだが、リバタリアニズムとはなんと難しい概念だろうと思わざるを得ない。リバタリアニズムという思想はその性質上、フリーランスエンジニアや自営業者、作家、投資家、金融マンなどにその支持者が多い気がするのだが、かれらは自分の足で立つことに慣れている、いや、むしろ自分の足で自由に立ちたいからこそ、リバタリアニズム的になるのだろう。たとえば、以前森博嗣氏のエッセイをご紹介したことがあったが、まさにかれなどはリバタリアニズムの体現者と言えるだろうし、mojix氏がいみじくも評するように、ホリエモンなどの「市場原理主義者」はまさにリバタリアンといえるだろう。自分が自由にしたいために、他の人の自由も最大限に尊重する。だから、お願いだから、人の自由を侵害するのだけはやめてくれ―――。だが、これと同じことを、凡人が主張できるだろうか? 自由を主張するときに一抹の不安を感じることはないだろうか? 自由を手に入れる代わりに、その自由の重さを自ら背負うだけの覚悟があると言えるだろうか?


* * * * * * *


自由という概念を考えるときに、わたしが思い出すのは『新世紀エヴァンゲリオン』の、TVシリーズの最終話だ。あらゆることから自由になったとき、人は不安になる。そこに、地面の存在を認識し、地上に立つという不自由さを受け入れることで、人は初めて安心するということが描かれていたと思う。人は本質的に、束縛によってしか安定した自我を得られないのではないか? そんなことを考えると、合理的であればある程、不安を感じ、誰かに自分の運命を決定してもらいたいという誘惑(つまり、パターナリズム)にあらがうことは、思った以上に難しいのかもしれない。

ノーラン・チャート - モジログ

橘玲「日本がリバタリアン国家になったら」 - モジログ

(ところで、文庫の方のタイトルが『不道徳な経済学』となっているのは、『ヤバい経済学』などに便乗したマーケティング上の理由だろう。言い訳ではないが、どうりで書名で検索してもヒットしないわけだ…)

不道徳な経済学──擁護できないものを擁護する (講談社プラスアルファ文庫)/ウォルター・ブロック

¥880
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自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)/森村 進

¥756
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隷属への道 ハイエク全集 I-別巻 【新装版】/F.A. ハイエク

¥1,995
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資本主義と自由 (日経BPクラシックス)/ミルトン・フリードマン

¥2,520
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自由をいかに守るか―ハイエクを読み直す (PHP新書 492)/渡部 昇一

¥840
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アナーキー・国家・ユートピア―国家の正当性とその限界/ロバート・ノージック

¥5,775
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ヘッテルとフエーテル 本当に残酷なマネー版グリム童話/マネー・ヘッタ・チャン

¥1,050
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もう題名からして色モノ臭がプンプンする。著者の最新作『マッチポンプ売りの少女』がAmazonでレコメンドされており、そのリンクからこの本の存在を知ったのだが、この狙い過ぎのタイトルに不覚にも吹いてしまったw 即座に書店にダッシュしたのだが、立ち読みしたところ『マッチポンプ売りの少女』はいまいち入り込めなかったので、値段も1000円ぽっきりのこちらを買ってみた、というわけである。


基本的にわたしはこういう斜に構えて世の中を風刺する作風が大好きである。露悪的というのか偽悪的というのか、あえて善意を排したところに本当の善がふっと現れるという感じ。中身はまあ初歩的な金融リテラシといった感じで、これまでに山崎元氏をはじめとする「金融強者」が教えてくれた内容をさらにわかりやすく、本質的なところだけをパロディにしたというところか。「童話」と謳っているだけあってさくさく読める。


著者は「小難しいことを簡単に」と言っているが、作中のパロディが難解すぎる。ある程度のリテラシがないと何をパロっているのかまったくわからないだろう。「カネヘルン・ミセス・インディ」はまだしも、「サニー目玉焼き」とか「ドラゴン・ヴィレッジ」はやり過ぎだろう。「灯篭をつくる」に至ってはひねりすぎにもほどがある。他にもいくつかネタ元がわからないものがあったが、こうまでして元ネタをいじろうとする作者の悪意(笑)には本当に頭が下がる思いだ。


個人的には「アホスギンちゃん」がいちばん胸に刺さった。わたしは「猿猴捉月(えんこうそくげつ;えんこうつきをとらふ)※」という故事が好き、というより、常に心しているのだが、まさにその現代版アレンジといえるだろう。心が痛い…。


マッチポンプ売りの少女 ~童話が教える本当に怖いお金のこと~/マネー・ヘッタ・チャン

¥1,365
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※猿猴捉月:心やさしい猿の王様が、池に映った月を助けようとして池に落ち溺死するという故事にちなみ、「いくら誠意やまごころがあっても本当の知恵がないとまったく意味がないどころか、むしろ有害である」という見も蓋もない教えのこと。(インターネットで検索すると「身の程を弁えず身を滅ぼすの意」とありますがw、わたしは井沢教信者なのでこちらの意で理解しています c.f.『逆説の日本史』)
はじめての課長の教科書/酒井穣

¥1,575
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さいきん「ディスカヴァー・トゥエンティワン」という出版社を目にする機会が増えた。これはひとえにわたしが自己啓発系の本を買い漁っているからであるが、ビジネス街の本屋における露出が多いこともあるだろう。書店のビジネス書コーナで平積みされているうち、半分くらいはディスカヴァーなのではないか。あの勝間さんを一躍スターダムに押し上げた出版社(?)というのがわたしの率直な印象であるが、このビジネス書や自己啓発本を連発する出版社は、一見怪しげに見えるが、意外に(失礼!)丁寧に本を作るなあ、思う。

本書も2008年の初版だが、わたしが手に入れたのはなんと第14刷である。順調に増刷しているというのは、マーケティングもさることながら、本の内容がしっかりしているというひとつの指標となるだろう。実際、本書はお手軽なハウツーものながら、具体的かつ現実的なケースが挙げられており、そろそろ管理職になりそうな向きが「予習」しておくにはぴったりの内容といえる。ボリュームもそこそこですぐ読めるので、「なんか来年くらいには課長になりそうだな…」というビジネスマンにはオススメできると思う。ただコンテンツのボリュームに対して、1,500円は少し高いだろう。字数からいって1,000円くらいでいいと思うのだが。

ちなみにわたしは末端のペーペー社員であるため、本書を読んでもまったく役に立たない…ことはないのでご安心を。手下の立場から、上司がどのようにあるべきかという視点で読んでも面白いと思う。

なお本書のオビはまたしてもdankogaiです。まったく、本当に読んでいるのかw
げんしけん 二代目の壱(10) (アフタヌーンKC)/木尾 士目

¥580
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ながらくブログを書いていないので書き方を忘れてしまった。文章と言うのは意外に(?)書こうと思っても書けないものだ。プロのモノカキが早死にするのも頷ける。書かなければいけないと追い詰められるものほど辛いものはないだろう。こういうのは書きたいときに書きたいだけ書いて適当にUPできるから続くのだ。ひとたび職業売文家となったが最後、それ以外の収入がない場合は本当に書くことが好きでなければやっていけないだろう。想像以上に書いて稼ぐというのは大変そうである。

と初っ端から脱線してしまったが、今日はどうでもいい漫画の紹介をしたい。本日発売の『げんしけん』である。時間がないので内容の説明は省く。要するにオタクの漫画である。オタク向けの、オタクが出てくる漫画。それだけ。

わたしは『げんしけん』という作品の主人公は、前々から斑目晴信その人であると確信していた。斑目を除く他の登場人物の突飛なキャラクタ造形は、本質を描くためのただの目くらましにすぎないと主張したい。作者は『四年生』や『五年生』といった純文学(?)漫画でデビューし、アフタヌーンで連載するという屈折した(笑)漫画化である。直球を投げてくるはずがないではないか。前半はともかく、後半、作者は斑目を描くことが本作を描くモチベーションであったとわたしは確信する。

斑目は見た目アレな典型的オタクとして象徴的に描かれているわけだが、意外に一般的な常識とバランス感覚を持ち合わせているというのがかれの魅力なのだ。思いだしてみてほしい、あなたの後ろ暗い大学生活を。斑目のような過去を持っていたのではないだろうか。少なくとも重なる部分があるはずだ。

初めて直接かつ積極的に関わるようになった(と思われる)女性=咲ちゃんに横恋慕するあたりがリアルなオタク性をいかんなく表現している。しかも本心を伝えられずに言えずにもきゅもきゅしたり、つい意地悪な発言をしたり、メンタリティが小学生みたいなところもまさにオタクだ。リアル、あまりにもリアル。リアル過ぎて死にたくなる。思いだしてみてほしい、あなたの後ろ暗い大学生活を。。。

彼女ができる笹原などの存在はむしろ邪道であり、これなど物語の進行上やむにやまれず生み出された「サイドストーリ」にすぎない。オタクが『げんしけん』を読むのは、斑目に自らの過去を投影しているからなのだ。本作は実は斑目のための物語であり、主人公として一般に認知される笹原や荻上さんたちは、むしろ斑目の内面をあぶり出すための舞台装置にすぎない。斑目の内面はついに一度たりとも直接的に語られることはなかったが、春日部さんへの想いはサイレントに表現されていた(思いだしてほしい、斑目は第一部で結局一度たりとも春日部さんへの想いらしきものを口に出さなかった)。読者はこうしたプラトニックな斑目に自らを投影しつつも、同時に傍観者として斑目の行動をみてもきゅもきゅしていたはずだ。

第二部はその斑目の物語を回収する作品である。オタク諸君は安心して第二部を読んでほしい(笑)。




ちなみにアフタヌーンと言えば同日に『ラブやん』も出ています。今から6年前にWikipediaの『ラブやん』の初稿を書いたのはいい思い出である。

ラブやん(15) (アフタヌーンKC)/田丸 浩史

¥570
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楽しく稼ぐ本 (だいわ文庫)/日垣 隆

¥680
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わたしは日垣隆氏の本はよく読むが、岡本吏郎氏という方は初めてだった。本書は両者の対談をまとめたものだが、なんというかぜんぜん違和感を感じない。この二人は似た者同士なのかもしれない。おそらく二人とも個人事業主として長年利益を出し続けているという強烈な自負心があるのだろう、言いたい放題である(笑)。微妙な話題も、オブラートに包まずずけずけと本質的なことを言うところがそっくりだ。

岡本氏の語り口はともかく、日垣節が苦手な人、心臓が弱い人、住宅ローンを組んでしまった人は、ダメージが大きすぎる。読まない方が賢明だろう。だいたいにして「楽しく稼ぐ」という題名の割には、一般ピーポーにはたいへん耳に痛い話が多すぎる。対談形式ということもあって気軽なハウツー本だと思って読み進めると痛い目をみる。「ああ、やっぱり経営するって大変なんだ…このままサラリーマンをやって会社にしがみつく方法を考える方が身の丈に合っているのかもしれない」などと思ってしまうこと請け合いだ。

しかし矛盾することを言うようだが、それを乗り越えて読む価値はある。はっきり言って当代一流のビジネスマンであるお二人が、たった600円かそこらで経営の要諦を教えてくれるのだから、読まない方がアホだ。読むだけでは何も変わらないが、読まなければもっと何も変わらない。

ところで、救いを求めるようにこの手の本はいくつか読んでみたわけだが、さすがに鈍いわたしもそろそろ気付かざるを得ないことがある。それは、「思い立ったら行動してみる」しかないという厳しい事実だ。行動がなければ変化は生まれない。いつまでも本ばかり読んでいてもどうしようもないのである。
エンジニアとしての生き方  IT技術者たちよ、世界へ出よう! (インプレス選書)/中島 聡

¥1,680
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著者の中島聡氏は、かつて成毛眞さんらとともにマイクロソフトの日本法人の設立からに携わっていたという、日本のIT黎明期から第一線で活躍されている方のようだ。わたしは不勉強にして存じあげなかったのだが、成毛さんが営業代表ならこちらは技術代表という感じなのだろうか? Life is beautifulというブログを長年運営されているようで、こちらもかなりの有名ブログであり、知らない方が恥ずかしくなった。そう言われてみると、これまでにもTwitterやブログなどを経由してこのサイトのエントリは見たことがある。今回、書籍を購入して初めて著者とサイトを意識したわけだ。わたしもつくづく「オールドメディア」な人間である。

…と、いうことで勘のいい方はすでにお気づきかもしれないが、内容のほとんどが著者のブログ Life is beautiful からの記事という、いわゆる「ブログ本」である(一部雑誌の再録もあるが)。すなわち、著者のブログの熱心な読者なら今更カネを出して買うまでもないという内容である。わたしのように本を買ってからブログを知る、というのは少数派だろう。編集の巧拙はわからないので言及しない。ただ内容の割に値段が高いというのはあると思う。


個人的な話で恐縮だが、じつは最近本業の受託開発で行き詰まりを感じており、日本の受託開発業界に対する「処方箋」と、個人的なレベルで役に立つ「啓蒙書」が同時に書かれている都合のいい本はないものかと探している。マクロな話で「日本の受託開発はもうダメだ」的なブログエントリや本はよくみかけるが、経営者でもないわたしにとってあまり意味のあるものではないし、駄目だ駄目だと連呼されても鬱になるだけだ。それに「日本のIT業界はもうダメ→英語をやってグローバルに通用する技術を」という論旨はうんざりするほどわかったので、正直食傷気味でもある。「もうわかったよ!」と言って、英語の勉強を始めればいいだけなのだが…ちなみに本書も2章「日本のエンジニアは大丈夫か?」で落としておいて、4章「自分を変えて自由になろう」5章「エンジニアとして世界で成功する」でだいたいアルファブロガたちが言っていることと同じことが書かれている。

ただ、著者のバイアスはちゃんと認識しておいた方がいいのかもしれない。著者の略歴を見ると、冒頭に述べたようにマイクロソフトの日本法人設立から携わっていた方で、数年後に米国本社勤務となり、Windows95とIEの開発を手掛けたスーパープログラマである。生粋の”米国育ち”のソフトウェアエンジニアであり、いわゆる日本のIT産業とはカルチャーやバックグラウンドがぜんぜん違う。そういえば本書のオビは梅田望夫氏とdankogaiが書いている。こうしたささいなことも一つの参考になるだろうw こういう方がエンジニアのキャリア論を語ると…答えはもう出ているということであろう。
使える!確率的思考 (ちくま新書)/小島 寛之

¥756
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わたしはいちおう理系出身なのだが、確率はものすごく苦手であったことを正直に告白しなければならない。確率は代数や解析学と違って、暗記が通用しにくいので、いまだに確率は「好きだけど不得意」だ。そういうこともあって、「数学をやり直す」的な目的で、小島さんの本はこれまでにも何冊か読んできたのだが、今となってはどれがどれだかわからなくなってしまった。おそらく、著者の平易な語り口によって「専門的なことが判ったような気になるが、時間が立つと忘れる」からだろう。読んだその瞬間は感銘を受けるのだが、後になると何が書いてあるかわからなくなり、本の内容をひとことで要約できなくなるというパターンだ。要するに内容を理解できていないわけだ。本書も、ベイズ推定というキャッチーな単語は忘れないだろうが、記憶に定着するまでにはもう少し時間がかかりそうである。

と、いうことで内容を理解していないのだから、書評などできるわけがない。今回はあっさりと白旗を上げて、単に「読んだ」ということだけを残しておくことにしよう。興味のある方はアマゾンのレビューを見るのがよろしかろう。