beyond 400 ③
気象庁は、「日本のすべての観測点で大気中二酸化炭素の月間平均濃度が400ppmを超えた」と発表しました。
http://www.jma.go.jp/jma/press/1305/21a/2013co2.html
あまり知られていないかもしれませんが、海水中の二酸化炭素濃度も着実に増加しています。
http://www.jma.go.jp/jma/press/1305/21a/2013co2.html
あまり知られていないかもしれませんが、海水中の二酸化炭素濃度も着実に増加しています。
日本近海の大気中および海水中二酸化炭素濃度推移。気象庁HPより
私は「大気中の二酸化炭素濃度は0.03%」と学んだ世代ですが、最近の教科書では0.04%と掲載されているのでしょうかね?
beyond 400 ②
以前、日本の観測点で大気中CO2濃度が400ppmを突破したと紹介しましたが、CO2濃度の基準観測点と言えるハワイ・マウナロア観測点でも400ppmを突破する日が来てしまいました。
http://www.nature.com/news/global-carbon-dioxide-levels-near-worrisome-milestone-1.12900
CO2濃度は基本的に高緯度側ほど高いので、比較的低緯度に位置するハワイでは日本よりは遅れてCO2濃度が上昇しています。
温暖化の警告がなされて数十年。残念ながら温暖化対策は十分に進んでいるとは言えず、この状況が改善する兆しも見えてきません。いよいよ、温暖化そのものを抑制する「原因療法」だけでなく、現実におきつつある温暖化による被害に対する「対症療法」を重視せざるを得ない時期になってきたのかもしれません。あるいは、危険を伴う「外科手術」―すなわち地球工学的手法も視野に入れざるを得なくなってきたのかもしれません。
しかしそれでも原因療法は当然重要です。COP19もスタートしました。いろいろもめてはいるようですが、アメリカが積極的なのは朗報です(むろん思惑はあるのでしょうが)。対症療法は必要にせよ、体質改善努力も怠らず、なんとか外科手術までは必要ない状況に持って行ければいいのですが。
http://www.nature.com/news/global-carbon-dioxide-levels-near-worrisome-milestone-1.12900
CO2濃度は基本的に高緯度側ほど高いので、比較的低緯度に位置するハワイでは日本よりは遅れてCO2濃度が上昇しています。
左:過去約50年のCO2濃度変化。右:今年4月の1時間平均・1日平均・1週間平均のCO2濃度変化。nature newsより。
キーリングによる観測開始時は約310ppmでしたから、わずか50年で100ppm近く上昇したことになります。そして、CO2濃度が400ppmを突破するのは実に数百万年ぶりのことになります。
新生代(6,500万年)における気温(上段)およびCO2濃度の推移、doi:10.1038/ngeo1186より(再掲)
温暖化の警告がなされて数十年。残念ながら温暖化対策は十分に進んでいるとは言えず、この状況が改善する兆しも見えてきません。いよいよ、温暖化そのものを抑制する「原因療法」だけでなく、現実におきつつある温暖化による被害に対する「対症療法」を重視せざるを得ない時期になってきたのかもしれません。あるいは、危険を伴う「外科手術」―すなわち地球工学的手法も視野に入れざるを得なくなってきたのかもしれません。
しかしそれでも原因療法は当然重要です。COP19もスタートしました。いろいろもめてはいるようですが、アメリカが積極的なのは朗報です(むろん思惑はあるのでしょうが)。対症療法は必要にせよ、体質改善努力も怠らず、なんとか外科手術までは必要ない状況に持って行ければいいのですが。
地球温暖化は減速している?
http://agora-web.jp/archives/1528493.html
以前、「池田信夫氏、意見を変えたのかな?」という記事を書きましたが、リンク先の記事を見るとそんなこともないようですね。ある意味典型的な懐疑論なので、逐一コメントしていくのもいいかもしれません。
まず、池田氏の記事はEconomist誌によるものらしいですが、そのEconomist誌の記事はアメリカの保守系シンクタンク"Power Line(勝手に動画のプレーヤーが開くようなので注意)"の記事そのままだと思っていいでしょう。別にそれが悪いという訳ではありませんが、この記事を書いたのはほぼ科学に無関係な「保守派の弁護士」であるらしいことは留意しておく必要があります。
1.最近のEconomist誌によれば、世界の平均気温は上がり続けているものの、そのペースは図のようにIPCCの予測した幅の下限に近く、最近ではほぼ横ばいになっている。
"IPCCの予測した幅"というのは正確ではありません。この図はCMIP5というモデルに基づくものらしいですが、CMIP5はIPCC AR4の時点では存在しないモデルです(おそらくIPCC AR5で採用されるでしょう)。
そこは細かい点なのでいいとして。図の出展とされるReading大学のHawkins氏は「予測の範囲の下限にあり、このままだと予測範囲を逸脱する」と主張しているとのことですが、その根拠は氏のブログの
http://www.climate-lab-book.ac.uk/2012/global-temperatures-over-the-past-decade/#more-926
ではないでしょうか。この記事では、この10年ほど気温が上昇していないように見える理由として、以下の3つを挙げています。
a:一直線に気温が上昇するのではないから、ちょっと低くなる時だってある。
b.:エアロゾル(気温を下げる方向に働く)濃度が予測ほど急速には低下しなかった(空気が思った以上に汚いままだ)。
c.:温室効果ガスの気候感度を高く見積もりすぎていた。
これらの主張は、いずれもありうるものだと思います。ただ、Hawkins氏は「予測を逸脱することになるだろう」とまでは主張しておらず、「その可能性はある」と言っているにすぎないように思えます。私が見つけられないだけで、Hawkins氏が「今後、気温は予測範囲を逸脱することになる」とどこかで主張しているのかもしれませんが。
なお、イギリス気象庁は2013年の全球平均気温は「観測史上最高かそれに迫るものになる」と予測しています。こうなったら予測の中央値に一気に近づくわけですが、そうなったら「予測は妥当だった」と懐疑論の人は思ってくれるかな?
2.この間に世界のCO2濃度はこれまで以上のスピードで上がっているので、人為的温暖化説には疑問がある。
私は経済学は詳しくありませんが、それでも、「景気が良くなると税収が直ちに増える」訳ではないことや、「景気と税収が常に良い対応を示す」わけではないことは理解しています。長期的・大極的に見れば、景気が良くなると税収は増えますし景気と税収は良い対応を示すでしょうけど。
気候変動は、経済と同様、多くの要因の組み合わせです。短期的に見てCO2濃度と平均気温の推移が一致していないように見えることがあるのは当たり前です。池田氏は、「第1四半期の税収が減ったから景気は悪い、第2四半期の税収が増えたから景気は良くなった」と短絡的に判断するのでしょうか?おそらくそうではないでしょう。それと同様で、短期的なCO2濃度と気温の相関に一喜一憂するのは間違いです。
3.IPCCの第4次報告書では、2100年に地球の平均気温は2~4.5℃(最尤値は3℃)上昇すると予想されているが、最近の研究のほとんどはこれほど大きな上昇を予想しておらず、2℃以下という予測が多い。
私はむしろ、IPCC AR4予測のうち最悪のパターンに近いとする報告が近年多いように感じています(例1、例2、例3)。無論、中にはIPCC予測より上昇幅は小さくなるのではとする報告もありますが、池田氏の主張する「2℃以下という予測が多い」とする根拠はなんでしょう?根拠が示されていないので検証は困難ですが・・・。
4.多くの経済学者は、常識的な時間選好率で割り引くと、このリスクは温暖化対策のコストよりはるかに小さいと考えている。
「気候変動に対する早期かつ強力な対策の利益は、そのコストを凌駕する」と結論付けたのは、ニコラス・スターンという経済学者です(スターン報告)。スターンはそれほど少数派なのでしょうか?経済学者も多数関わっているであろう世界銀行やIMFなども温暖化対策の重要性を訴えている以上、「多くの経済学者は温暖化のリスクは温暖化対策のコストよりはるかに小さいと考えている」という意見には同意できません。
5.このように多くのリスクやコストを定量的に比較し、その便益と比較衡量してベストミックスを考えることが合理的なエネルギー政策である。
この部分に関しては全く同感です。ぜひ、経済学の観点から科学に対しその知見を示して欲しいと思います。
自然科学が経済学を軽視してはいけないのと同様、経済学も自然科学を軽視して経済学的観点のみから物事を主張してはいけないでしょう。温暖化を経済学の観点のみから語るのではなく、科学者の見解にも耳を傾けることが重要だと思います。むろん、その逆も言えますけどね。
以前、「池田信夫氏、意見を変えたのかな?」という記事を書きましたが、リンク先の記事を見るとそんなこともないようですね。ある意味典型的な懐疑論なので、逐一コメントしていくのもいいかもしれません。
まず、池田氏の記事はEconomist誌によるものらしいですが、そのEconomist誌の記事はアメリカの保守系シンクタンク"Power Line(勝手に動画のプレーヤーが開くようなので注意)"の記事そのままだと思っていいでしょう。別にそれが悪いという訳ではありませんが、この記事を書いたのはほぼ科学に無関係な「保守派の弁護士」であるらしいことは留意しておく必要があります。
1.最近のEconomist誌によれば、世界の平均気温は上がり続けているものの、そのペースは図のようにIPCCの予測した幅の下限に近く、最近ではほぼ横ばいになっている。
"IPCCの予測した幅"というのは正確ではありません。この図はCMIP5というモデルに基づくものらしいですが、CMIP5はIPCC AR4の時点では存在しないモデルです(おそらくIPCC AR5で採用されるでしょう)。
そこは細かい点なのでいいとして。図の出展とされるReading大学のHawkins氏は「予測の範囲の下限にあり、このままだと予測範囲を逸脱する」と主張しているとのことですが、その根拠は氏のブログの
http://www.climate-lab-book.ac.uk/2012/global-temperatures-over-the-past-decade/#more-926
ではないでしょうか。この記事では、この10年ほど気温が上昇していないように見える理由として、以下の3つを挙げています。
a:一直線に気温が上昇するのではないから、ちょっと低くなる時だってある。
b.:エアロゾル(気温を下げる方向に働く)濃度が予測ほど急速には低下しなかった(空気が思った以上に汚いままだ)。
c.:温室効果ガスの気候感度を高く見積もりすぎていた。
これらの主張は、いずれもありうるものだと思います。ただ、Hawkins氏は「予測を逸脱することになるだろう」とまでは主張しておらず、「その可能性はある」と言っているにすぎないように思えます。私が見つけられないだけで、Hawkins氏が「今後、気温は予測範囲を逸脱することになる」とどこかで主張しているのかもしれませんが。
なお、イギリス気象庁は2013年の全球平均気温は「観測史上最高かそれに迫るものになる」と予測しています。こうなったら予測の中央値に一気に近づくわけですが、そうなったら「予測は妥当だった」と懐疑論の人は思ってくれるかな?
2.この間に世界のCO2濃度はこれまで以上のスピードで上がっているので、人為的温暖化説には疑問がある。
私は経済学は詳しくありませんが、それでも、「景気が良くなると税収が直ちに増える」訳ではないことや、「景気と税収が常に良い対応を示す」わけではないことは理解しています。長期的・大極的に見れば、景気が良くなると税収は増えますし景気と税収は良い対応を示すでしょうけど。
気候変動は、経済と同様、多くの要因の組み合わせです。短期的に見てCO2濃度と平均気温の推移が一致していないように見えることがあるのは当たり前です。池田氏は、「第1四半期の税収が減ったから景気は悪い、第2四半期の税収が増えたから景気は良くなった」と短絡的に判断するのでしょうか?おそらくそうではないでしょう。それと同様で、短期的なCO2濃度と気温の相関に一喜一憂するのは間違いです。
3.IPCCの第4次報告書では、2100年に地球の平均気温は2~4.5℃(最尤値は3℃)上昇すると予想されているが、最近の研究のほとんどはこれほど大きな上昇を予想しておらず、2℃以下という予測が多い。
私はむしろ、IPCC AR4予測のうち最悪のパターンに近いとする報告が近年多いように感じています(例1、例2、例3)。無論、中にはIPCC予測より上昇幅は小さくなるのではとする報告もありますが、池田氏の主張する「2℃以下という予測が多い」とする根拠はなんでしょう?根拠が示されていないので検証は困難ですが・・・。
4.多くの経済学者は、常識的な時間選好率で割り引くと、このリスクは温暖化対策のコストよりはるかに小さいと考えている。
「気候変動に対する早期かつ強力な対策の利益は、そのコストを凌駕する」と結論付けたのは、ニコラス・スターンという経済学者です(スターン報告)。スターンはそれほど少数派なのでしょうか?経済学者も多数関わっているであろう世界銀行やIMFなども温暖化対策の重要性を訴えている以上、「多くの経済学者は温暖化のリスクは温暖化対策のコストよりはるかに小さいと考えている」という意見には同意できません。
5.このように多くのリスクやコストを定量的に比較し、その便益と比較衡量してベストミックスを考えることが合理的なエネルギー政策である。
この部分に関しては全く同感です。ぜひ、経済学の観点から科学に対しその知見を示して欲しいと思います。
自然科学が経済学を軽視してはいけないのと同様、経済学も自然科学を軽視して経済学的観点のみから物事を主張してはいけないでしょう。温暖化を経済学の観点のみから語るのではなく、科学者の見解にも耳を傾けることが重要だと思います。むろん、その逆も言えますけどね。
電王戦2
まろりぃさんも記事にされていますが、プロ棋士対コンピューターの将棋対決「電王戦」が開催中です。前回は引退棋士が相手でしたが今回はいよいよ現役プロ棋士の登場です。
プロ先勝で迎えた、先週の第2局。ついにプロ棋士が公式戦で初めてコンピューターに敗れるという歴史的瞬間がありました。さらに、今日の第3局もプロ棋士側が敗れてしまいました。棋譜を見ましたが、今日の対局は手に汗握る読み合い将棋で、本当にすごい。終盤までどう見てもプロ側有利に見えるのですが、一体いつの間に逆転されたのか・・・。
電王戦はあと2局。この後登場する塚田九段と三浦八段は共にタイトルホルダーであり、プロ棋士の中でも明らかに強豪の部類に入ります。さすがにこの2人が負けるとは考えづらいような気がします。まろりぃさん同様、プロ棋士側の3勝2敗になると予想します。
しかし、数年後には羽生さんや渡辺さんと言った最強クラスのプロ棋士も負けることもありそうな気がします。これはもう仕方のないことだと思います。すでにオセロやチェスは人間が勝つことはほぼ不可能ですし、最後の砦の囲碁ですら、従来と全く異なるアルゴリズムを搭載したソフトにより、プロに迫りつつあります(数年以内にプロ棋士と同等の棋力を持つようになるであろう、とのこと)。
コンピューターが人間を追い越していく、記憶すべき時代に私たちは生きているのだな、と改めて実感します。でも、これは決して悲観すべきことではないでしょう。
プロ先勝で迎えた、先週の第2局。ついにプロ棋士が公式戦で初めてコンピューターに敗れるという歴史的瞬間がありました。さらに、今日の第3局もプロ棋士側が敗れてしまいました。棋譜を見ましたが、今日の対局は手に汗握る読み合い将棋で、本当にすごい。終盤までどう見てもプロ側有利に見えるのですが、一体いつの間に逆転されたのか・・・。
電王戦はあと2局。この後登場する塚田九段と三浦八段は共にタイトルホルダーであり、プロ棋士の中でも明らかに強豪の部類に入ります。さすがにこの2人が負けるとは考えづらいような気がします。まろりぃさん同様、プロ棋士側の3勝2敗になると予想します。
しかし、数年後には羽生さんや渡辺さんと言った最強クラスのプロ棋士も負けることもありそうな気がします。これはもう仕方のないことだと思います。すでにオセロやチェスは人間が勝つことはほぼ不可能ですし、最後の砦の囲碁ですら、従来と全く異なるアルゴリズムを搭載したソフトにより、プロに迫りつつあります(数年以内にプロ棋士と同等の棋力を持つようになるであろう、とのこと)。
コンピューターが人間を追い越していく、記憶すべき時代に私たちは生きているのだな、と改めて実感します。でも、これは決して悲観すべきことではないでしょう。