地球温暖化は減速している?
http://agora-web.jp/archives/1528493.html
以前、「池田信夫氏、意見を変えたのかな?」という記事を書きましたが、リンク先の記事を見るとそんなこともないようですね。ある意味典型的な懐疑論なので、逐一コメントしていくのもいいかもしれません。
まず、池田氏の記事はEconomist誌によるものらしいですが、そのEconomist誌の記事はアメリカの保守系シンクタンク"Power Line(勝手に動画のプレーヤーが開くようなので注意)"の記事そのままだと思っていいでしょう。別にそれが悪いという訳ではありませんが、この記事を書いたのはほぼ科学に無関係な「保守派の弁護士」であるらしいことは留意しておく必要があります。
1.最近のEconomist誌によれば、世界の平均気温は上がり続けているものの、そのペースは図のようにIPCCの予測した幅の下限に近く、最近ではほぼ横ばいになっている。
"IPCCの予測した幅"というのは正確ではありません。この図はCMIP5というモデルに基づくものらしいですが、CMIP5はIPCC AR4の時点では存在しないモデルです(おそらくIPCC AR5で採用されるでしょう)。
そこは細かい点なのでいいとして。図の出展とされるReading大学のHawkins氏は「予測の範囲の下限にあり、このままだと予測範囲を逸脱する」と主張しているとのことですが、その根拠は氏のブログの
http://www.climate-lab-book.ac.uk/2012/global-temperatures-over-the-past-decade/#more-926
ではないでしょうか。この記事では、この10年ほど気温が上昇していないように見える理由として、以下の3つを挙げています。
a:一直線に気温が上昇するのではないから、ちょっと低くなる時だってある。
b.:エアロゾル(気温を下げる方向に働く)濃度が予測ほど急速には低下しなかった(空気が思った以上に汚いままだ)。
c.:温室効果ガスの気候感度を高く見積もりすぎていた。
これらの主張は、いずれもありうるものだと思います。ただ、Hawkins氏は「予測を逸脱することになるだろう」とまでは主張しておらず、「その可能性はある」と言っているにすぎないように思えます。私が見つけられないだけで、Hawkins氏が「今後、気温は予測範囲を逸脱することになる」とどこかで主張しているのかもしれませんが。
なお、イギリス気象庁は2013年の全球平均気温は「観測史上最高かそれに迫るものになる」と予測しています。こうなったら予測の中央値に一気に近づくわけですが、そうなったら「予測は妥当だった」と懐疑論の人は思ってくれるかな?
2.この間に世界のCO2濃度はこれまで以上のスピードで上がっているので、人為的温暖化説には疑問がある。
私は経済学は詳しくありませんが、それでも、「景気が良くなると税収が直ちに増える」訳ではないことや、「景気と税収が常に良い対応を示す」わけではないことは理解しています。長期的・大極的に見れば、景気が良くなると税収は増えますし景気と税収は良い対応を示すでしょうけど。
気候変動は、経済と同様、多くの要因の組み合わせです。短期的に見てCO2濃度と平均気温の推移が一致していないように見えることがあるのは当たり前です。池田氏は、「第1四半期の税収が減ったから景気は悪い、第2四半期の税収が増えたから景気は良くなった」と短絡的に判断するのでしょうか?おそらくそうではないでしょう。それと同様で、短期的なCO2濃度と気温の相関に一喜一憂するのは間違いです。
3.IPCCの第4次報告書では、2100年に地球の平均気温は2~4.5℃(最尤値は3℃)上昇すると予想されているが、最近の研究のほとんどはこれほど大きな上昇を予想しておらず、2℃以下という予測が多い。
私はむしろ、IPCC AR4予測のうち最悪のパターンに近いとする報告が近年多いように感じています(例1、例2、例3)。無論、中にはIPCC予測より上昇幅は小さくなるのではとする報告もありますが、池田氏の主張する「2℃以下という予測が多い」とする根拠はなんでしょう?根拠が示されていないので検証は困難ですが・・・。
4.多くの経済学者は、常識的な時間選好率で割り引くと、このリスクは温暖化対策のコストよりはるかに小さいと考えている。
「気候変動に対する早期かつ強力な対策の利益は、そのコストを凌駕する」と結論付けたのは、ニコラス・スターンという経済学者です(スターン報告)。スターンはそれほど少数派なのでしょうか?経済学者も多数関わっているであろう世界銀行やIMFなども温暖化対策の重要性を訴えている以上、「多くの経済学者は温暖化のリスクは温暖化対策のコストよりはるかに小さいと考えている」という意見には同意できません。
5.このように多くのリスクやコストを定量的に比較し、その便益と比較衡量してベストミックスを考えることが合理的なエネルギー政策である。
この部分に関しては全く同感です。ぜひ、経済学の観点から科学に対しその知見を示して欲しいと思います。
自然科学が経済学を軽視してはいけないのと同様、経済学も自然科学を軽視して経済学的観点のみから物事を主張してはいけないでしょう。温暖化を経済学の観点のみから語るのではなく、科学者の見解にも耳を傾けることが重要だと思います。むろん、その逆も言えますけどね。
以前、「池田信夫氏、意見を変えたのかな?」という記事を書きましたが、リンク先の記事を見るとそんなこともないようですね。ある意味典型的な懐疑論なので、逐一コメントしていくのもいいかもしれません。
まず、池田氏の記事はEconomist誌によるものらしいですが、そのEconomist誌の記事はアメリカの保守系シンクタンク"Power Line(勝手に動画のプレーヤーが開くようなので注意)"の記事そのままだと思っていいでしょう。別にそれが悪いという訳ではありませんが、この記事を書いたのはほぼ科学に無関係な「保守派の弁護士」であるらしいことは留意しておく必要があります。
1.最近のEconomist誌によれば、世界の平均気温は上がり続けているものの、そのペースは図のようにIPCCの予測した幅の下限に近く、最近ではほぼ横ばいになっている。
"IPCCの予測した幅"というのは正確ではありません。この図はCMIP5というモデルに基づくものらしいですが、CMIP5はIPCC AR4の時点では存在しないモデルです(おそらくIPCC AR5で採用されるでしょう)。
そこは細かい点なのでいいとして。図の出展とされるReading大学のHawkins氏は「予測の範囲の下限にあり、このままだと予測範囲を逸脱する」と主張しているとのことですが、その根拠は氏のブログの
http://www.climate-lab-book.ac.uk/2012/global-temperatures-over-the-past-decade/#more-926
ではないでしょうか。この記事では、この10年ほど気温が上昇していないように見える理由として、以下の3つを挙げています。
a:一直線に気温が上昇するのではないから、ちょっと低くなる時だってある。
b.:エアロゾル(気温を下げる方向に働く)濃度が予測ほど急速には低下しなかった(空気が思った以上に汚いままだ)。
c.:温室効果ガスの気候感度を高く見積もりすぎていた。
これらの主張は、いずれもありうるものだと思います。ただ、Hawkins氏は「予測を逸脱することになるだろう」とまでは主張しておらず、「その可能性はある」と言っているにすぎないように思えます。私が見つけられないだけで、Hawkins氏が「今後、気温は予測範囲を逸脱することになる」とどこかで主張しているのかもしれませんが。
なお、イギリス気象庁は2013年の全球平均気温は「観測史上最高かそれに迫るものになる」と予測しています。こうなったら予測の中央値に一気に近づくわけですが、そうなったら「予測は妥当だった」と懐疑論の人は思ってくれるかな?
2.この間に世界のCO2濃度はこれまで以上のスピードで上がっているので、人為的温暖化説には疑問がある。
私は経済学は詳しくありませんが、それでも、「景気が良くなると税収が直ちに増える」訳ではないことや、「景気と税収が常に良い対応を示す」わけではないことは理解しています。長期的・大極的に見れば、景気が良くなると税収は増えますし景気と税収は良い対応を示すでしょうけど。
気候変動は、経済と同様、多くの要因の組み合わせです。短期的に見てCO2濃度と平均気温の推移が一致していないように見えることがあるのは当たり前です。池田氏は、「第1四半期の税収が減ったから景気は悪い、第2四半期の税収が増えたから景気は良くなった」と短絡的に判断するのでしょうか?おそらくそうではないでしょう。それと同様で、短期的なCO2濃度と気温の相関に一喜一憂するのは間違いです。
3.IPCCの第4次報告書では、2100年に地球の平均気温は2~4.5℃(最尤値は3℃)上昇すると予想されているが、最近の研究のほとんどはこれほど大きな上昇を予想しておらず、2℃以下という予測が多い。
私はむしろ、IPCC AR4予測のうち最悪のパターンに近いとする報告が近年多いように感じています(例1、例2、例3)。無論、中にはIPCC予測より上昇幅は小さくなるのではとする報告もありますが、池田氏の主張する「2℃以下という予測が多い」とする根拠はなんでしょう?根拠が示されていないので検証は困難ですが・・・。
4.多くの経済学者は、常識的な時間選好率で割り引くと、このリスクは温暖化対策のコストよりはるかに小さいと考えている。
「気候変動に対する早期かつ強力な対策の利益は、そのコストを凌駕する」と結論付けたのは、ニコラス・スターンという経済学者です(スターン報告)。スターンはそれほど少数派なのでしょうか?経済学者も多数関わっているであろう世界銀行やIMFなども温暖化対策の重要性を訴えている以上、「多くの経済学者は温暖化のリスクは温暖化対策のコストよりはるかに小さいと考えている」という意見には同意できません。
5.このように多くのリスクやコストを定量的に比較し、その便益と比較衡量してベストミックスを考えることが合理的なエネルギー政策である。
この部分に関しては全く同感です。ぜひ、経済学の観点から科学に対しその知見を示して欲しいと思います。
自然科学が経済学を軽視してはいけないのと同様、経済学も自然科学を軽視して経済学的観点のみから物事を主張してはいけないでしょう。温暖化を経済学の観点のみから語るのではなく、科学者の見解にも耳を傾けることが重要だと思います。むろん、その逆も言えますけどね。