今日の一曲!三戸なつめ「ハナビラ」 | A Flood of Music

今日の一曲!三戸なつめ「ハナビラ」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:雨】の第十八弾です。【追記ここまで】

 「今日の一曲!」は三戸なつめの「ハナビラ」(2017)です。4thシングル(両A面)のうちの一曲で、アルバムとしては同年リリースの1st『なつめろ』に収録されています。

 前回の記事でネタバレした通り、中田ヤスタカ楽曲紹介三連荘のラストです。capsule → Perfumeと来たので、次はMEGかきゃりーぱみゅぱみゅを予定していたのですが、前者は雨関連で紹介したかった「KITTENISH」(2008)がレビュー済みでしたし、後者は意外にも雨をメインとする曲が思い付かなかったので、今回はその他枠として三戸なつめにフォーカスすることにしました。



 …というのも、僕は今までに彼女の楽曲に向き合うことから二度も逃げているからです。一度目は他アーティスト記事の冒頭に書いた『なつめろ』のレビューキャンセル告知(現在は削除済み)、二度目はヤスタカソロ作記事内で明かした『なつめろ』に対するプチ批評で、要するに一本丸々当該の盤のレビューに注力すると、あまり気持ちのいい内容にはならないだろうと危惧しての逃げだったと言えます。

 二度目の言及の中で「曲の良さと彼女自身への評価は別としても」と記している通り、楽曲自体は好きで今回紹介するものも含めてお気に入りのナンバーは多々ありますし、音楽業以外の活動については寧ろ応援したいぐらいの気持ちです。従って、以降の文章は普段以上にクリティカルになっていますが、三戸さんの個性やタレント性を批判するようなものではないということを強く明言しておきます。というか、僕が彼女の作品で残念に感じたのはどちらかと言えば中田さんの仕事に対してなので、長年のヤスタカファンとしての意見が主であると認識してくだされば幸いです。

 この点に関しては「ハナビラ」の魅力を素直に語った後で改めて言及するので、まずは「今日の一曲!」としてのピックアップに専念したレビューを載せますね。




 テーマ「雨」での選曲としては動機が若干弱いかもしれません。歌詞に直接的に雨が登場するのは、サビ冒頭の"雨過ぎ"だけだからです。しかし内容を詳らかにしていくと、植物の成長および開花がモチーフとなっているとわかり、そのための必須要素としての水の描き方も上手なため、雨の効能に焦点をあてたという意味でテーマに合致するだろうとしました。"どんどん集まる 茎を伝わる/水の流れに寄り添うわ"に、"上を目指そう 水滴の/一つ一つを感じるわ"と、植物の目線で雨を捉えているところに趣があります。

 雨とは直接関係ありませんが、"ぐんぐん伸びる 夢見るうちに/どんな仕組みか知らないわ"という歌詞もお気に入りです。これは植物と人間の成長を重ねた表現だ(=それこそが本曲の趣旨だ)と思いますが、成長に関する具体的なメカニズムを意図的にぼかすことで、科学的な解よりも経験則に基いたピュアなイメージが前面に来ていて、それが女性らしい感性の演出にもつながっていると感じたので、中田さんの共感力および作詞能力の高さが如実に表れている箇所だと絶賛します。


 次にメロディですが、ここでは特にサビメロに注目しましょう。もしかしたら特別な名称が付いた作曲技法なのかもしれませんが、自分の言葉で表現するなら「二音でバトンを繋いでいくような」旋律ですよね。

 実はこの表現は過去に他アーティストの楽曲に対して一度使っていて、他にも似たような例はいくつか思い付くのでそこそこ普遍的であるという認識です。ヤスタカ楽曲に限れば、MEGの「SECRET ADVENTURE」(2010)のAメロや、capsuleの「Hello」(2010)あたりがこのタイプに分類可能ではないでしょうか。

 音の区切りを示すマーカーとして便宜的に「|」を挿入、且つ歌詞カードに於ける空白と改行を省略、そして一部は発音をローマ字で表し分割して引用しますが、"雨|過ぎ|花|咲き|急く鳥|谷|間を|飛ぶ|すぐ|より|じれっ|たい|恋の舞|湧く|泉[izu-|mi]のように"と、基本的に二音(言語的には2モーラ)を最小単位として進んでいくことがわかるかと思います。"急く鳥"と"恋の舞"は四音(後者は言語的には5モーラ)なので二音に分けることも出来ますが、譜割りとしての自然さを優先したので区切りませんでした。また、"mi]のように"も区切らずに五音で表示していますが、これは小節の節目でフィルイン的な機能を果たしているであろうことから例外とした次第です。

 楽典的な語彙に照らせばもう少しスマートな説明の仕方があるのかもしれませんが、生憎自信がないのでこれで勘弁していただくとして(音楽と言語に共通する用語;「拍」の意味の混同を避けるために、「拍」という字の使用を禁じたせいでもある)、この言わば「二音単位での進行」によってメロディに連鎖的な流れが生まれ、心地好いリズム感になっているところが素敵だとまとめます。





 以降は事実上1stアルバム『なつめろ』のレビューです。一度は見送ってしまったものの、リリースから一年以上経ってそろそろ正直な感想を述べてもいい頃合いだと思えたため、ここからは冒頭で注意喚起したような強めのクリティカルパートとなります。

 純粋に彼女の楽曲が好きな人は見ないほうがいいであろう内容ですが、楽曲自体の良さと三戸さん自身への評価は切り離した上での批評であることは改めて明記しておきますね。また、読み易さを重視して楽曲ごとの初出年表示は省略することにしました。


 先に「プチ批評」としてリンクした記事にも同様のことを書いたのでここにも引用すると、三戸さんは「正直声が歌手向きではないと感じ」ます。これは声質に対する言及で、ザラっとし過ぎているせいか音源だとノイズに聴こえてしまうような箇所があるのが気になるのです。

 とはいえその声質は必ずしもマイナスには働いておらず、たとえばデビュー曲の「前髪切りすぎた」では悪戯っぽい歌詞内容にマッチした歌声だと思いましたし、今回紹介した「ハナビラ」も鑑賞上耐えかねるという程ではありません。他に彼女の楽曲で好みなのは「コロニー」「わたしをフェスに連れてって」「8ビットボーイ」「おでかけサマー」あたりですが、これらも楽曲自体の性質(圧の強い音遣いやテンポの速さ等)が彼女の歌声をカバーする形で、上手くバランスが取れていると思います。


 しかし幾つかは許容出来ない曲もあり、それらに関しては三戸さんの声質云々よりも、中田さんの「プロダクトに対する諦め」を見てしまったような気がして、長年のファンとしてはなかなかにショックでした。いちばん酷いと思うのがよりにもよってアルバム表題曲の「なつめろ」で、なぜこの罅割れたボーカルトラックでOKとしてしまったのかが不思議でなりません。オケには特に問題はないように思えるので、VT自体にノイズ成分があるのだと推測します。他には「ねむねむGO」のサビも怪しいと感じますし、「もしもクッキング」や「パズル」はVTを自然に仕上げようとした結果、今度はオケのほうに歪みが出てしまった印象を受けました。

 擁護の見地に立つのであれば、三戸さんの声質は中田さんをもってしても最適解を探すのが難しいような複雑な成分を持っているのだと言えます。それの何処が擁護なんだ?と思われたかもしれませんが、歌手という観点では扱いにくくても、それだけユニークな声の持ち主であることの証明にはなるため、印象に残ったほうが正義であるタレント業的には、むしろラッキーなのではないかという意味です。


 ヤスタカ楽曲に対して抱いたボーカルの性質に関する違和感、実は今回が初めてではありません。過去にきゃりーのメジャーデビュー作『もしもし原宿』(2011)をレビューした際に、聴く前の先入観としてNAGISA COSMETICの名前を出して否定的なことを書いたのですが、NCがいまいちピンと来なかった理由も今回と同じく声のザラつき具合であったため、歌手・三戸なつめに対して「今度こそNCの再来」だと思ってしまったのが正直なところです(きゃりーは良い声をしていたので、再来ではなかったと補足)

 僕はヤスタカ信者と言っていいレベルのリスナーだと思うので、本記事だけであれば「厄介なファンが批評家気取りでごちゃごちゃ言ってるな」ぐらいのことで済むのですが、結果的に音楽活動はミニアルバム1枚のリリースのみだったNCと、1stアルバム以降新譜が出なくなった三戸なつめのことはどうしても重ねて見てしまい、これはセールス的なことも含めてあまり良い感触が得られなかったことを間接的に示していると思うので、結果論ではありますが僕の主張は大きく的を外しているわけではないと思っています。


 以上が僕の歌手・三戸なつめに対するアーティスト評です。もしこれを通常通りアルバムレビューの形で書いていたら、一曲ごとに「ここが気になる」「ここも気になると」と非常にねちっこい内容になっていたことでしょう。こうして「今日の一曲!」に忍ばせる形にしたのは正解でした。

 基本的に良い点を探すことを信条としてレビューを行っている僕にしてはかなり厳しい内容になってしまいましたが、ここまでにも幾度かフォローを入れているように、好きで今でも繰り返し聴いている三戸なつめのナンバーが存在することもまた事実であるため、普段はここで言うほど細かいことは気にせずに素直に楽曲の良さを堪能しているのだと表明して、記事を終えます。