参考文献:坂本正幸編著『労働事件処理マニュアル』新日本法規、2011、309‐317項
簡易裁判所は、訴訟の目的の価額が140万円を超えない比較的少額の請求について、第一審の裁判権を有しています。地方裁判所の通常訴訟と同じ手続ですが、比較的軽微な事件を扱っており、簡易迅速な紛争解決という目的を達するため、様々な特則が定められています。
※簡易裁判所では、通所訴訟のほか「支払督促」「少額訴訟」といった手続も扱っているので、事案に応じて手続の利用を検討する必要があります。
裁判手続 簡易裁判所の民事事件Q&A
フローチャート
訴えの提起 訴えの提起
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|※口頭での訴えの提起
|※任意出頭による訴えの提起
|※請求原因の記載の簡略化
↓
審理 口頭弁論
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|※書面による準備の省略
|※続行期日における陳述擬制
|※尋問等に代わる書面の提出
|※司法委員の関与
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簡裁訴訟 | → 和解に代わる決定(簡裁訴訟特有)
の終了 ↓
判決、和解、訴えの取下げ 等(通常訴訟と共通)
簡易裁判所の訴訟手続に関する特則
(手続の特色)
第270条 簡易裁判所においては、簡易な手続により迅速に紛争を解決するものとする。
(口頭による訴えの提起)
第271条 訴えは、口頭で提起することができる。
・・・実際上は、裁判所に備え付けられた定型訴状用紙を交付され、必要事項を記載して提出するよう指導されることが多いようです。
(訴えの提起において明らかにすべき事項)
第272条 訴えの提起においては、請求の原因に代えて、紛争の要点を明らかにすれば足りる。
・・・訴えの提起後、口頭弁論終結時までには、請求の原因が特定されている必要があります。
(任意の出頭による訴えの提起等)
第273条 当事者双方は、任意に裁判所に出頭し、訴訟について口頭弁論をすることができる。この場合においては、訴えの提起は、口頭の陳述によってする。
・・・原告は、口頭弁論で陳述して訴えを提起し、その旨が口頭弁論調書に記載されます。
(反訴の提起に基づく移送)
第274条 被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合において、相手方の申立てがあるときは、簡易裁判所は、決定で、本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない。この場合においては、第22条の規定を準用する。
2 前項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(訴え提起前の和解)
第275条 民事上の争いについては、当事者は、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立をすることができる。
・・・訴え提起前の和解が調ったときは、その内容が調書に記載され、この和解調書は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法第267条)。この手続きは、請求の価額にかかわらず手数料は1件につき2,000円(郵便切手の予納分は別途)です。
・・・公正証書を作成することによっても債務名義は取得できます。
2 前項の和解が調わない場合において、和解の期日に出頭した当事者双方の申立てがあるときは、裁判所は、直ちに訴訟の弁論を命ずる。この場合においては、和解の申立てをした者は、その申立てをした時に、訴えを提起したものとみなし、和解の費用は、訴訟費用の一部とする。
3 申立人又は相手方が第一項の和解の期日に出頭しないときは、裁判所は、和解が調わないものとみなすことができる。
4 第一項の和解については、第264条及び第265条の規定は、適用しない。
(和解に代わる決定)
第275条の2 金銭の支払の請求を目的とする訴えについては、裁判所は、被告が口頭弁論において原告の主張した事実を争わず、その他何らの防御の方法をも提出しない場合において、被告の資力その他の事情を考慮して相当であると認めるときは、原告の意見を聴いて、第三項の期間の経過時から五年を超えない範囲内において、当該請求に係る金銭の支払について、その時期の定め若しくは分割払の定めをし、又はこれと併せて、その時期の定めに従い支払をしたとき、若しくはその分割払の定めによる期限の利益を次項の規定による定めにより失うことなく支払をしたときは訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをして、当該請求に係る金銭の支払を命ずる決定をすることができる。
2 前項の分割払の定めをするときは、被告が支払を怠った場合における期限の利益の喪失についての定めをしなければならない。
3 第一項の決定に対しては、当事者は、その決定の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、その決定をした裁判所に異議を申し立てることができる。
4 前項の期間内に異議の申立てがあったときは、第一項の決定は、その効力を失う。
5 第三項の期間内に異議の申立てがないときは、第一項の決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
(準備書面の省略等)
第276条 口頭弁論は、書面で準備することを要しない。
・・・証拠の申出の場面でも妥当するものと考えられている。
2 相手方が準備をしなければ陳述することができないと認められるべき事項は、前項の規定にかかわらず、書面で準備し、又は口頭弁論前直接に相手方に通知しなければならない。
3 前項に規定する事項は、相手方が存廷していない口頭弁論においては、準備書面(相手方に送達されたもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限る。)に記載し、又は同項の規定による通知をしたものでなければ、主張することができない。
(続行期日における陳述の擬制)
第277条 第158条の規定は、原告又は被告が口頭弁論の続行の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしない場合について準用する。
・・・当事者双方が口頭弁論期日に出頭せず、又は弁論をしないで退廷した場合は、民事訴訟法第263条の適用場面となり、同条の定める要件を満たした場合には訴えの取下げがあったものとみなされます。
(尋問等に代わる書面の提出)
第278条 裁判所は、相当と認めるときは、証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人の意見に代え、書面の提出をさせることができる。
(司法委員)
第279条 裁判所は、必要があると認めるときは、和解を試みるについて司法委員に補助させ、又は司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができる。
2 司法委員の員数は、各事件について一人以上とする。
3 司法委員は、毎年あらかじめ地方裁判所の選任した者の中から、事件ごとに裁判所が指定する。
4 前項の規定により選任される者の資格、員数その他同項の選任に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
5 司法委員には、最高裁判所規則で定める額の旅費、日当及び宿泊料を支給する。
(判決書の記載事項)
第280条 判決書に事実及び理由を記載するには、請求の趣旨及び原因の要旨、その原因の有無並びに請求を排斥する理由である抗弁の要旨を表示すれば足りる。