有翼のB
久しぶりにこのシリーズをやります。本日はブライトリング。
マスキュリンな時計のイメージがあるブライトリングは、ドレスウォッチを嗜好するMinority’s Choice が好んで取り上げるブランドではありませんが、別に嫌いなわけではないんです。
というか、自分には似合わないと思うだけで、めちゃくちゃ格好良いと思っているので、マッチョな友人がいたら全力でお勧めしたいんですよね。
では本題に入る前に、私の独断と偏見による良いエントリーモデルの条件を再掲しておきます。
1. ブランドの魅力を十分に伝えている
2. 納得感のあるコスト低減が図られている
3. 中核モデルに対して有意に安価である
ではこれを踏まえて、現行のブライトリングにおいて最もお求めやすい機械式のモデルを見てみましょう。
Super Ocean Automatic 42 / BREITLING
Ref:A17366D7101S1
ケース径:42.0mm
ケース径:42.0mm
ケース厚:13.3mm
重量:120g(本体のみ)
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:ラバー
バックル:ピンバックル
防水性:50気圧(500m)
価格:400,000円(税抜)
2020年まではコルト・コレクションがもう少し安い価格でラインナップされていたのですが、アベンジャー・コレクションの追加によりコルトはディスコンになった様です。
同社HPにはディスコンになったモデルも掲載されていますが、2021年2月時点で生産中のブライトリングにおける機械式の最廉価メンズモデルはこのスーパーオーシャンという事になります。
ブライトリングといえばアビエーション・ウォッチの印象が強いので、エントリーモデルとしてはダイバーズのスーパーオーシャンよりコルトの方がしっくりきます。
とはいえスーパーオーシャンもブライトリングを代表するモデルの一つですから、ブライトリングらしさを十分に堪能できる時計です。
敢えて目にも鮮やかなオレンジ文字盤のモデルを代表としてチョイスしましたが、普通の黒文字盤のバリエーションもあります。
基本的なデザインはオーソドックスなダイバーズ顔。逆回転防止ベゼル、視認性に優れたインデックスと針、太めのホーン型ラグが織りなす力強いデザインです。
ただ3時位置のデイト窓がアラビアン・インデックスに対して小さ過ぎるのが気に入りません。ここはエボーシュっぽさが出てしまう部分ですね。
先代のスーパーオーシャンⅡの方がこのあたりのバランスは良かった様に思います。
直径は42mmと私には大きいですが、ブライトリングの中では小ぶりといえるサイズです。厚みも13.3mmとそこそこあって、やはりブライトリングらしいしっかりとした存在感が表現されています。
しかし50気圧(500m)防水という高機能性を鑑みればこの程度の厚さで済むなら全く問題ないでしょう。
これほどの防水性があればマリンスポーツやスキンダイビング程度であれば全然使えるでしょう。
ラグは手首に沿うように緩やかにカーブしており、裏蓋はソリッドバックなので装着感は良いでしょう。ベゼル幅がしっかりとあるダイバーズウォッチなので数字ほどの大きさは感じないはずです。
ただしラグ・トゥ・ラグは50mmを超えるので細腕には収まりきらない大きさである点は留意が必要です。
BREITLING のロゴが大きく彫り込まれたラバーストラップは迫力があります。また、オプションにはなりますが、エクステンション付きの三つ折式Dバックルを選ぶことも可能です。
ベゼルはインデックスがエンボス加工され、高級感のある作りですね。ケースはサテン仕上げとなり、一昔前のオールポリッシュでギラついた感じはありません。
相変わらずブライトリングらしいマスキュリンな表情は残しつつ全体的に角の落ちたデザインになっており、ビジーな文字盤を持つ前世代よりは大人びた印象を持ちます。
型番:B17
ベース:ETA 2824-2 / SW 200-1
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:4.60mm
振動:28,800vph
石数:25石
機能:センター3針デイト
精度:COSC認定 (日差 -4/+6秒)
PR:38時間
搭載するのはエボーシュベースのキャリバーB17です。判然としないのがベースがETAなのかセリタなのかという点です。
公式HPのデータをみると、ETAの特徴である25石(セリタは26石)とありながら、パワーリザーブはセリタ準拠の38時間(ETAは42時間)とあってどちらかハッキリしません。
リシュモン、LVMHと並んでスウォッチ・グループが最も目をつけていたであろうブライトリングですから、2021年現在もETAからの供給を受けられている可能性は低いはずです。
いずれにせよ信頼性は抜群の機械であり、COSC認定も通していることから、精度面でも不満はありませんが、エタクロン緩急装置に38時間パワーリザーブは最新機種としては物足りません。
ブライトリングは同社のアイデンティティである自動巻クロノグラフに関しては自社製ムーブメントの開発に成功していますが、ベーシックな3針キャリバーは未だに旧世代型のエボーシュに頼っているモデルも残存しています。
ここ最近はIWCやジャガールクルトなどの名門どころは言うに及ばずオリスなど中堅メーカーも自社製(しかも高性能)の3針ムーブメントを開発しており、付加価値の土台が向上しています。
他方、スーパーオーシャンはカラーリングやフェイスデザインを変えて多くのモデルが存在しますが、いずれも旧世代型のETA/セリタベースのキャリバーB17を搭載しており、ムーブメントは訴求力に欠けます。
このモデルが税抜40万円というのはどうですか?
旧世代型エボーシュ採用の3針ダイバーズが40万円は高過ぎるだろう、と感じる人もいれば、ブライトリングなんだから妥当だと思う人もいるでしょう。
私個人としては、正直高いなって印象です。もちろん同社はビッグネームなのである程度の暖簾代が乗っても良いのですが、他社対比では同様のスペックの時計は十万円台で探せます。
また同価格帯ならオリスの新型アクイスが性能面ではこれを圧倒する素晴らしい出来となっています。
<黒文字盤SSブレスのバリエーション>
しかし時計はスペックだけではありません。ケースや文字盤の仕上げを見ればやはりブライトリングはしっかりとしています。
アプライド・インデックスの立体感やデイト窓の処理、ベゼルの出来など細かい点は流石に十万円台の時計とは違いますから、所有することで満足感も得られるでしょう。
ではエントリーモデルとしての適性を考えた場合どうでしょう?冒頭の三つの条件を思い出すと、ブランドの魅力は一定程度伝わると思います。
タフで格好良く、精度も高い実用時計というブライトリングの勘所は押さえています。一方でアビエーション・ウォッチではない点はやや惜しいかなという気がします。
コスト低減策に関してはムーブメントによる部分が一番でしょう。シンプルな3針構成でエボーシュを採用するアプローチは最も一般的なコスト低減策です。
その結果中核モデルとなる自社製ムーブメントを搭載したクロノグラフモデルと比較するとかなり価格は抑えられており、より幅広い層に訴求できるでしょう。
<立体的なロゴとインデックス>
こうして見るとエントリーモデルとしては決して悪くないという事になりますが、どうしても私はブライトリングにはもう少し高い要求をしたくなります。
同社には自社製クロノがあり、ベーシックな3針ムーブメントに関してもチューダーとベースを共有するケニッシのムーブメントを使い始めています。
B20と呼ばれるケニッシムーブは紛れもなく新世代型キャリバーで、今後はこちらが主力になっていくものと想像されます。
スポーツウォッチの雄として、ナビタイマーという大傑作を擁するブライトリングが未だに3針モデルをETA/セリタに頼るというのは、だんだん許されなくなってきています。
近年他ブランドが次々と高性能な新世代型キャリバーを開発している中で、ブライトリングもケニッシムーブを導入してキャッチアップしてきましたので、今後B17はリタイアとなるかも知れません。
今まさに業界は過渡期。
こうした時代の潮目にみるエントリーモデルというのは様々な示唆があります。今後のブライトリングの浮沈はエントリーモデルの進化に掛かっていると私は考えており、目が離せません。
辣腕で知られるジョージ・カーンCEOが次に何を仕掛けるか楽しみです。