浪漫飛行へ in the sky 

時計愛好家の皆さんなら何となく感じていると思いますが、近年やたらとブロンズケースの時計が増えてきました。

何故なんでしょう?

一大ジャンルを築きつつある感すらあるブロンズケースの時計について考えてみました。

<Submersible 1950 Bronze PAM00671>

ブロンズという素材
ブロンズは青銅という訳が当てられる金属で、主に銅(Copper)にスズ(Tin)や亜鉛(Zinc)などを加えた合金です。

何と言っても10円玉が身近ですね。

主成分であるの価格は6.4ドル/kg、比重は8.96です。因みに金(Au)63,000ドル/kg、比重は19.32316Lステンレス5.5-6.6ドル/kg、比重は7.98なので、価格は概ねステンレスと同程度でやや重いと言うイメージですね。

そして金の圧倒的価格。。

特性としてはアレルギーを起こしやすいというものがあります。これはとりわけ肌が敏感な人にとっては一大事で、直接肌に触れる素材としてはそれほど適したものではありません。

腕時計の素材として現在最も一般的なのはサージカル(医療用)ステンレスと呼ばれる316Lですが、このステンレス素材はアレルギー性が非常に低い事で知られています。

そんな進化したSS素材があるのに敢えてブロンズを選択する理由とは何でしょう?

<エイジングしたブロンズケース>

エイジングという提案
ひとことでいえば流行っているからという事かも知れませんが、それはブロンズ特有のエイジングを楽しみませんか?という提案がそれなりに受け入れられたという事でしょう。

元々腕時計趣味にはエイジングを愉しむという嗜(たしな)みが存在します。インデックスの焼けやダイアルの経年変化をアンティークウォッチ愛好家はかねてから堪能してきたのです。

銅の経年変化は十円玉を知る我々からすれば容易に想像が付きますが、緑青(ろくしょう)までついてきたらそれは確かに他の素材では体験できないものです。

赤みの強いピンクゴールドの様な光沢のある色から始まり、徐々にくすんで赤銅色になってから、最後に緑青に覆われた色に変化する…なんて想像すると面白そうです。

<Pilot Type 20 Extra Special Bronze / ZENITH>

どんなタイプの時計?
しかしいくら流行っているからと言っても、闇雲にあらゆるタイプの時計がブロンズ化されている訳ではありません。

むしろ殆どのモデルがパイロットウォッチダイバーズウォッチのどちらかに部類されると思います。

屋内使用が前提のドレスウォッチではなく、よりアクティブなシーンで使うパイロットウォッチやダイバーズウォッチの方がエイジングというコンセプトとは親和性が高いというのは納得がいく話ではありますね。

また、これは単なる偶然かもしれないのですが、サイズも大きめな時計が多い気がします。

同じコレクションの中でも比較的径が大きなモデルをブロンズ化している例をよく目にします。存在感のあるモデルの方がブロンズケースが映えるという事なんでしょうかね。

<Black Bay Bronze / TUDOR>

売れ行きは?
で、結局実際売れてるのか?という話ではどうなんでしょう。ブロンズケースの新作は次から次へと出てくるわけですが、実際に持っている人はまだまだ稀です。

少なくとも1本目の腕時計をブロンズにしようという人はまずいなくて、ターゲット層はかなりコアな時計ファンという事になるでしょう。

SNSなどでもたまーにブロンズケースの時計を持っている人を見かけますが、いずれもかなりの蒐集家に見受けられます。

ブロンズが酸化する様子を見て愉しむなんてのは(よく考えるまでもなく)明らかに普通ではないですしね笑

多くの人にとっては劣化でしかない現象に価値を見出すなんてのは尋常ならざる嗜好です。

<Admiral 42 Automatic Bronze / CORUM>

私自身も正直言ってあまり興味がなかったのですが、これだけ増えてくると何かひとつ買っとかないといけないんじゃないかという強迫観念に襲われています笑

しかし苦手なんですよね十円玉の臭いって。

緑青だって要は錆なわけですから、洋服とかに擦れたら汚れそうだし。

全く劣化していない新品状態のブロンズは綺麗だと思うんですが、自分が経年変化を愉しめるのかというと甚だ疑問です。

アレルギー反応が出やすいというのも気になりますし、軽い時計が好きな身としては、SSより若干比重が重いのもマイナスです。

異素材という意味では、金属アレルギーが殆ど出ず、比重も軽いチタンとかの方が遥かに有用な素材だと思えます。

<Aikon Automatic Bronze Limited / MAURICE LACROIX>

結局どうなの?
色々考え合わせると、素材そのものが機能的に優れているという事は無さそうです。価格面での優位性もありません。

やっぱり魅力はその独特の風合いということになるでしょう。

ヴィンテージ風というよりスチームパンク風といった方が適切だと思いますが、何とも言えない無骨で男臭い雰囲気を醸し出すアイテムである事は確かです。

緑青が連想させるのは海底で錆びた鉄屑であり、何か冒険心をくすぐる魅力があるのです。

「なんじゃそれ」と思われるかも知れませんし、まあその通りなんですが、そもそも機械式時計なんて物をこのご時世に愛用する時点で我々は可笑しな感覚を持っているのです。

ブロンズケースという一見不合理な選択も浪漫というひとことで片付けられてしまうのが趣味の世界の懐が深い所です。

<Oris Hölstein Edition 2020 Bronze / ORIS>

今年はついにオリスがブレスレットまでブロンズのモデルを出してきました。

絶対アレルギー出そうなので、個人的には手を出せませんが、新品のブロンズがこんなに美しいのか、と感じると同時に、どんな変化を見せてくれるのかという興味も尽きないモデルです。

このオリス・ヘルシュタイン・エディション税抜51万円とオリスとしてはかなり高額な部類ですが、その存在感は圧倒的で、金無垢よりもある意味で存在感があります。

43mm径のクロノグラフという事で、Minority’s Choice の嗜好にはまるでマッチしないのですが、試みの面白さは称賛に値します。

機械式時計界でも一定の勢力を築きつつあるブロンズウォッチ、皆さんも如何でしょう。

<Pilot’s Watch Automatic Spitfire / IWC>