大英帝国の時計 

皆さんは英国にどんなイメージをお持ちでしょうか?かつての世界の盟主、紳士の国、フットボールの母国、パンクロック発祥の地、トラッド系、ロイヤルファミリー、天気悪い、メシ不味い…等々さまざまなイメージがあるかと思います。

しかしあまり機械式時計の国というイメージはないでしょう。かのロレックスが英国発祥というのは有名な話ですが、今や完全にスイスのメーカーですし、有名なマニファクチュールは無いと思います。

しかし探してみると歴史は浅くても中々魅力的な機械式ウォッチメーカーがあるんです。そんな中から本日は2つほどご紹介させていただきます。

C65 Sandhurst Series 1 / CHRISTOPHER WARD
Ref:C65-38A3H2-S00K0-B0
ケース径:38.0mm
ケース厚:11.6mm
重量:60g (本体のみ)
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:ステンレス・スティール
バックル:三つ折式Dバックル
防水性:15気圧(150m)
価格:$1,025.- (約11万円)

まずはクリストファー・ワード(CW)です。先日(#139)も紹介しましたが、私はしばらくエボーシュ x お洒落デザインのナンパなブランドだと思っていたわけですが、結構ちゃんとした時計屋でした。

CW2004年に立ち上がった新興ブランドです。スイスの多くの時計ブランドが、少数の同じサプライヤーからのパーツ提供に頼って、高付加価値の時計を作っているという点に目をつけ、そこに商機を見出してウォッチメイキングに進出したのが始まりです。

つまり、良質な時計をもっと安価に提供できるはずだという思いが根本にあるわけです。そして、このC65サンドハースト・シリーズ1もそんな時計です。

ご覧の通り見た目はかなりオーソドックスなIWC系のパイロットウォッチ・デザインですが、バランスが良く、センスを感じるルックスです。

アラビアン・インデックスにレイルウェイ・トラック、ベージュの夜光塗料を使ってヴィンテージ風に仕上げていますが、どこかモダンな雰囲気も持ち合わせています。


個人的にはデイトすらないタイムオンリーの文字盤構成に賛美を送りたいです。

シルエットはラウンドケースにホーン型ラグを合わせたオーソドックスなものです。スムースベゼルの幅がそれなりにあるので、文字盤が小さく見えてバランスが良いです。

文字盤に対してややアラビアン・インデックスが小ぶりに見えますが、この絶妙なバランスがモダンな印象を与えていますね。

リューズのサイズがしっかりあって、これが時計全体を逞しく見せています。そうした細かいパーツのバランスが凄く良い時計だと思います。



型番:SELLITA SW 200-1
ベース:ETA 2824-2
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:4.60mm
振動:28,800vph
石数:26石
機能:センター3針
精度:COSC認定 (日差 -4/+6秒)
PR:38時間

搭載するのはセリタSW 200-1ですが、COSC認定を受けた最高グレードの機械を使っています。

これは$1,025という価格を考えればかなり太っ腹なグレードだと言えます。グループ内のよしみで格安でETAのCOSC認定機を調達できるティソあたりと同価格です(あっちはさらに高性能ムーブメントですが)。

10万円代のエボーシュ採用モデルがCOSC認定というのはスウォッチグループ以外では相当珍しいのではないでしょうか。

このあたりは正にブランド理念を目に見える形で実現している点であり好感が持てます。

また余談ですがCW120時間パワーリザーブのインハウス・キャリバーすら持っていて、メーカーとしてはムーブメントの世代交代にも対応しています。


サンドハーストはさらにSSブレス15気圧防水という実用性の高さも魅力的です。38 x 11.6mm というサイズも合わせて使い勝手の良さはかなりのものでは無いでしょうか。

そのほかで気になるのはブレスレットの質感くらいです。やや薄くてソフトなように見えますがこればかりは触ってみないと分かりません。

しかしこのブレス、ラグからクラスプにかけて僅かにテーパーさせているところや、4段回の微調整ラチェット付きのクラスプを採用しているなど、ディテールにも気が回っていてかなり良さげです。

重さが60gとあって、この数字は本体のみでしょうけど、ブレスレットを加えてもそこまで重くはなさそうです。


デザイン、サイズ、実用性と三拍子揃っていて、まさにこんなのあったらなあと最近私が思っていた理想にかなり近いものがあります。

さらに$1,025 という価格もかなり魅力的であり、相当にバリューの高い一本です。

CWはこうしたエントリー価格帯で高いバリューを示すモデルを多数ラインナップしているにも関わらず、正規代理店が国内にないのが不思議です。

もちろんネット経由で購入可能なのですが、CWに限らずメーカーからの直接購入ではしばしば検品の甘い事例が報告されていますので、気になりますよね。

それでもCWはここ数年でかなり知名度も上がってきていると思うので、あまりにお粗末な事例は少なくなっていると思いますが、やはり出来れば実物を見たい所です。

Airco Mach 1 / BREMONT 

Ref:-
ケース径:40.0mm
ケース厚:12.5mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:サファイア・クリスタル
ベルト素材:カーフレザー
バックル:ピンバックル
防水性:10気圧(100m)
価格:$3,995.- (約43万円)

本日2本目はブレモン(BREMONT)です。こちらも2002年創業の新興ブランドで、高品質な機械式のパイロットウォッチ製造から歴史をスタートしています。

基本的に全てのモデルでCOSC認定を通すというのが大きな特徴です。ブライトリングロレックスが同様の事をやっているのは有名ですね。

せっかくなら文字盤にChronometer Officially Certificated とか入れても良いのにとか思いましたが、このマッハ1は表からでは分かりません。

しかしデザインはヴィンテージ・パイロットという感じの王道デザインです。


アラビアン・インデックス、レイルウェイ・トラックにペンシルハンズを合わせたデザインは斬新さはありませんが、安定の格好良さです。

黒文字盤に白を合わせているので視認性は抜群ですし、挿し色に朱色をチョイスしているのが個性的であり、これがよくマッチしています。

ブレモンの時計はケースが特徴的です。Trip-Tick®︎ という名の3ピース構造のケースは、ミドルケースに異素材やDLCを施す事で、時計に様々な表情を与える事が出来るのです。

マッハ1でもミドルケースにブラックDLCを施す事で、ヴィンテージ風のフェイスとは異なって、サイドビューはモダンに仕上げています。


型番:BE-92AE
ベース:ETA 2892-A2
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm (ベースキャリバー)
厚さ:3.60mm (ベースキャリバー)
振動:28,800vph
石数:21石
機能:センター3針デイト
精度:COSC認定 (日差 -4/+6秒)
PR:38時間

搭載するBE-92AEETA 2892-A2ベースの機械という事ですが、パワーリザーブが一般的な2892-A2の42時間より短い38時間となっています。

どういうカスタマイズなのかちょっと詳細は分かりませんが、ポン載せよりは少し弄っているのかも知れません。

旧世代機とはいえ薄型の3針自動巻キャリバーでCOSC認定も通っているのであれば、現在でも十分に競争力のある機械だといえるでしょう。

シースルーバックからその姿を鑑賞することができますが、装飾に関しては地味なものですし、ケース径に対してはやや小さくも見えてしまっています。

出典:HODINKEE 

こうみるとなんとなくCWと共通点が多いのですが、大きく違うのが価格です。$3,995 というのはCWを見た後ではずいぶん高く感じますよね。

これが妥当なのかというのは実機を見比べてみないと何とも言えない所もあります。

ブレモン2014年から2018年頃(?)までは日本に正規販売店もあったのですが、どうやら2020年現在では撤退しているようです。

明らかに好事家しか買わなさそうな立ち位置のブランドにしては割高感は否めないので苦戦したのかな?とか邪推しています。日本で代理店が絡むとさらに1〜2割は定価が上がりますからね。

そうなると本当にブライトリングロレックスが買えちゃいます。

出典:HODINKEE 

デザインは英国らしくスタイリッシュですし、全モデルCOSCというのもブランディングとしてはアリだと思うのですが、正直決め手にかける印象はあります。

日本に限った事か分かりませんが、機械式時計市場ってロレックスオメガで満足するミーハー層(1周回ったヲタ層もいるけど)とランゲに行っちゃうヲタ層に二極化されている印象で、中間層が極端に少ない気がします。

私は知識的にも経済的にも生温いオタクなので、まさに中間層なのですが、ここは戦国乱世であり生存競争が恐ろしく厳しい世界です。

ブレモンは英国ではそれなりの地位を築いている感じですが、時計製造地としての認知度も低く、エボーシュ頼みな割にそれなりに高額というブランドでは、異国の地では苦戦するのも頷けます。

物が悪いということはないんですけどね。

出典:HODINKEE 

その点ではかなりコスパに優れているCWは中々面白い存在に思えます。

インハウス・キャリバーさえ擁しながら30万円程度までのレンジで勝負するというのは大変そうですが、上手く行けばボールウォッチのような存在になれるかも知れません。

気になるのは、ネット経由での購入レビューで評価が低い事例が散見される点です。日本の愛好家は取り分け品質には厳しい気はしますが、安かろう悪かろうではいずれ退場を迫られます。

それらのレビューも数年前のものが多いので、今はひょっとしたら大きく改善しているのかも知れません。

少なくともカタログ上のスペックはかなり魅力的なので、個人的には結構気になっています。

何処かの時計屋さんが扱ってくれないかなあ。