携帯小説サイト-メメント・モリ- -9ページ目
<< 前のページへ最新 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9

1.クビ

ろくでなしって言うのはいる。

私はその一人で

私の彼もその一人だ。

私は、一言で言うと、「愚図」

鈍臭くて要領が悪く、

自分の出来なさを歎くのに、

出来るように努力もしないで

なんでこんなに出来ないの?って腐った揚句

鈍臭いのは自分のせいじゃないって開き直るの。

それが私、「ヒナ」。ろくでもない私。


そして志津雄。私の彼、シヅオ。

シヅオは絵に書いたようなろくでなし。

一言で言えば「ヒモ」だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

説明不要の模範的なヒモだ。

あとたまに殴る。
普通に普通のろくでなし。

それがシヅオ。私の彼、シヅオ。


私たちは一緒に住んでいて

彼が殴ったり私が謝ったり、

時々彼が謝ったりしながら

それとなく、上手くやっていたつもり。



私が……会社をクビになるまでは。


二人きりで、部屋の中ぽつんと。

シヅオがどーすんの、って聞いた。

不況の煽りをモロにくらって、
愚図な私はリストラされた。

ショックでうずくまる私に
シヅオがまたどーすんの、って聞いた。

シヅオは世間知らずだ。

もうウチにお金がないと思ってる。

失業保険って言葉さえ知らない。

明日からもう物が食べらんないって思ってる。

超おバカ。

シヅオのそういうおバカなとこは好きだった。

でも今はだめ。無理。

そう言う事を説明してやる気もおきない。

ショックを受けてる私に向ける言葉が一個だけ。

「どーすんの」

シヅオはどうにもしてくれない。

私がどれだけ落ち込んでても。

自分の事しか心配してない。

だから説明して、安心させるのはイヤだった。

ずっと黙っていたら、妙に優しい声で囁いて来た。

シヅオが優しくなるとき。

それは「しよう」の合図。

現実逃避したいとき。シヅオはいつもこうだ。

仕方ないから、私はつくり笑いで受け入れた。

暴力的に荒々しく触れられるのは気持ち良くない。

濡れてないのに捩込まれる下肢は裂けるように痛い。

シヅオだけが気持ち良い、

シヅオの為だけの×××。

早く終われ!って思った。

でも終わればまた、「どーすんの」地獄が待ってる。
また黙ってたら今度は多分殴られる。

もうイヤだ!

イヤだイヤだイヤだ!

声にならない叫び。

涙さえでなくて。

私の中で、何かが弾けた。




次の話>


作品紹介 -ヒナ-

ヒナは、自分の事を愚図だと思っていた。

そして、そんな自分に甘んじている自分を「ろくでなし」だと称していて。

そんなヒナの彼氏もまた「ろくでなし」。いわゆる「ヒモ」だった。



あるとき、ヒナは会社をクビになった。

慰めてもくれない彼に嫌気が差して、ヒナは逃げ出す事を決意する。


彼女の逃げた先で、彼女が出会う運命とは…?





「ろくでなし」の彼女が綴る、逃避と邂逅の物語。






―――私はもう、これ以上、どこへも行ける。そんな気が、しなかった―――



―――これはきっと運命。 多分、そういうことなんだ―――





15話完結!


1.クビ
(主人公ヒナは、会社をクビになって)

2.トウヒ
(暴力を振るう恋人から、逃げ出すことをヒナは決意する)

3.ホウムレス
(何も考えずに飛び出したヒナは、電車に乗って…)

4.カイコウ
(コンビニで、ヒナが出会う運命)

5.ウンメイ
(出合ったその人は、高級マンションに住んでいて)

6.ヘイオン
(シノザキと過ごす、穏やかな日々)

7.アネ
(ヒナの姉、サクラとヨシノはヒナの事を想って…)

8.タイダ
(サクラの家で、ヒナの時間は怠惰に過ぎてゆく)

9.「シ」
(その電話は、不吉な予感を孕んでいた)

10.ドリョク
(そんな人間になりたいの?―――声が、頭に響く)

11.ジュウジツ
(就職を決意したヒナは、とあるダイレクトメールから…)

12.メメント・モリ
(死んだら、後悔も出来ないよ。その言葉がヒナの心を揺さぶる)

13.バクハツ
(ヒナが暇を持て余すと、考えるのはいつも彼の事で…)

14.サイカイ
(数ヶ月ぶりに会った彼に抱く恋心を、ヒナは確信して。)

15.エピローグ
(『ろくでなし』 ヒナの物語、完結!)
<< 前のページへ最新 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9