1.クビ | 携帯小説サイト-メメント・モリ-

1.クビ

ろくでなしって言うのはいる。

私はその一人で

私の彼もその一人だ。

私は、一言で言うと、「愚図」

鈍臭くて要領が悪く、

自分の出来なさを歎くのに、

出来るように努力もしないで

なんでこんなに出来ないの?って腐った揚句

鈍臭いのは自分のせいじゃないって開き直るの。

それが私、「ヒナ」。ろくでもない私。


そして志津雄。私の彼、シヅオ。

シヅオは絵に書いたようなろくでなし。

一言で言えば「ヒモ」だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

説明不要の模範的なヒモだ。

あとたまに殴る。
普通に普通のろくでなし。

それがシヅオ。私の彼、シヅオ。


私たちは一緒に住んでいて

彼が殴ったり私が謝ったり、

時々彼が謝ったりしながら

それとなく、上手くやっていたつもり。



私が……会社をクビになるまでは。


二人きりで、部屋の中ぽつんと。

シヅオがどーすんの、って聞いた。

不況の煽りをモロにくらって、
愚図な私はリストラされた。

ショックでうずくまる私に
シヅオがまたどーすんの、って聞いた。

シヅオは世間知らずだ。

もうウチにお金がないと思ってる。

失業保険って言葉さえ知らない。

明日からもう物が食べらんないって思ってる。

超おバカ。

シヅオのそういうおバカなとこは好きだった。

でも今はだめ。無理。

そう言う事を説明してやる気もおきない。

ショックを受けてる私に向ける言葉が一個だけ。

「どーすんの」

シヅオはどうにもしてくれない。

私がどれだけ落ち込んでても。

自分の事しか心配してない。

だから説明して、安心させるのはイヤだった。

ずっと黙っていたら、妙に優しい声で囁いて来た。

シヅオが優しくなるとき。

それは「しよう」の合図。

現実逃避したいとき。シヅオはいつもこうだ。

仕方ないから、私はつくり笑いで受け入れた。

暴力的に荒々しく触れられるのは気持ち良くない。

濡れてないのに捩込まれる下肢は裂けるように痛い。

シヅオだけが気持ち良い、

シヅオの為だけの×××。

早く終われ!って思った。

でも終わればまた、「どーすんの」地獄が待ってる。
また黙ってたら今度は多分殴られる。

もうイヤだ!

イヤだイヤだイヤだ!

声にならない叫び。

涙さえでなくて。

私の中で、何かが弾けた。




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