13.バクハツ | 携帯小説サイト-メメント・モリ-

13.バクハツ


…これは、恋なのかな。


何度も繰り返す問い。



休日の朝。

なんだか疲れが溜まっていたみたいで
布団から、起き上がる事が出来なくて。



サクラお姉ちゃんも出かけてしまって
だから、寝ころがりながら賃貸情報誌なんか見て。



そんな風に暇を持て余すと

考えるのは、シノさんの事。




これは、恋、なんだろうか?


口にしてしまえば、そうとも思えるし

でも、もしかすると

口にしてしまったから、そう思っているだけかもしれず。



こんな中途半端な気持ちで、会いに行くのも嫌で。


そもそも。


…私、なんで会いたいんだろう?





最後に、シノさんに会った時の事を思い出す。

ヨシノお姉ちゃんが、シノさんに。



逃げていた私を拾ってくれた事について

ありがとうございます、とすみませんでした、を言っていて。



私は、その横にいて、ただただずっと俯いていただけで。



お世話になりましたが、妹は連れて帰ります。

ヨシノおねえちゃんがそう言った。そうしたら、



そうですか。こちらこそお世話になりました。



シノさんはあっさりそう言って。それっきりで。


お前はもういらないと言われたようで。


胸が、痛かった。





もう、なんか…

むかつく!





私は、がばっと起き上がって。

ハンドバッグを持って。

引っ掛けるようにミュールを履いた。





「会いたいなら、会いに行けばいいじゃない」



数日前の、ノダさんのセリフ。

そう、こんな風に腐ってしまうのは、もうやめよう。





「死んじゃったら、後悔も出来ないよ?」



メメント・モリ。

ハルカワさんのくれた言葉。
青白い顔で、棺おけの中で、燃えてしまう前に。




「そんな人間に、なりたいの?」




お姉ちゃん、ごめんね。
生きている間に、言えなくて、ごめん。


私は、変わるよ。



「俺、もっと強くなりたいから」



私もだよ、シヅオ。

だから、私は、私を変えるんだ。
ろくでもない私を、脱ぎ捨てるんだ。





なんだか、突然に吹っ切れてしまった。

もやもやしたものが溜まりすぎて
怒るみたいにして、爆発して。


もしかすると。


人を動かすのは、そういう勢いなのかもしれないと思った。

私のろくでもない、後ろ向きで、鬱々として、優柔不断で、嫌な性格は
この爆発の為にあったのかもしれない、と思ったら



ほんの少しだけ、スキになれた気がする。



だって、私は今とても、すがすがしいから。







シノさんのマンションの

インターフォンのパネルの前。



息を吸い込んで。押す。





1、6、0、2





さあ、勇気を出して、ベルを鳴らせ。











呼び鈴の音がして。

私は、パネルについたカメラを凝視する。



時間にしてみれば、ほんの数秒だけれど。

私にしてみれば、随分と長い時間が経って。



インタフォンから、懐かしい声が響く。



「あれ、ヒナちゃん?」





久しぶりに聞く、シノさんの声に。

私の心は、震えていた。








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