11.ジュウジツ | 携帯小説サイト-メメント・モリ-

11.ジュウジツ

「ヒナちゃああああん!!」

部屋に入るなり、サクラお姉ちゃんが泣き出した。

「ごめんね、ごめんね。ごめんね」

そうやって繰り返し謝るサクラおねえちゃん。
どうしたの?って聞き返したら、

「ごめんねヒナちゃん。お姉ちゃん酷いこと言ったね」

「酷いこと?」

「あのね、嘘なの。嘘なんだよ」

「え?」

「ヨシノちゃんの、最期の言葉」

―――ヒナ ごめんね。

「それには、続きが、あるの」

タカオ先輩―――ヨシノお姉ちゃんの彼氏が。

「『大丈夫だ。お前の、妹なんだから』って言ったんだって」

そしたら、『ありがとう。愛してる』ってそれが最期なんだって。
意識も混濁状態で、話しかけてもまともに返事できる状態じゃなかったのに
そこの言葉だけ、はっきりしてたって。タカオ先輩、言ってた。

「なのに、私。ヒナちゃんに、嘘ついた」

ヨシノちゃんがこれだけ心配してたんだって。
ヒナちゃんに判らせてやりたくなって。

でも、ベランダで、泣いて。

部屋に戻ったら、ヒナちゃん、居なくて。
どうしよう、ヒナちゃんまでいなくなっちゃったら、どうしようって思って。

そこまで話すと、サクラお姉ちゃんはまた、
うわああんと大きな声を上げて泣き出した。


なんだか私も泣けてきてしまって
わたし達はしがみ付き合ってしばらくわんわんと泣き続けた。


その後ろで、シヅオが電話をかけて、
もしもし、ケンタロー?ヒナ見つかったよ。と言っているのが、聞こえた。


ハタヤさんも、探してくれたんだ。
ああ、みんなに、私は心配をかけているんだな。って思った。

ハタヤさん。シヅオ。
サクラお姉ちゃん。

それからヨシノおねえちゃん。

『大丈夫だ。お前の、妹なんだから』

その言葉が、ヨシノお姉ちゃんの心残りを
全て消し去ったわけではないのだろうけれど

少しでも、やわらげてくれたのだと、したら。


私は、頑張らなくちゃ。と思った。
イクシマ ヨシノの妹として。恥ずかしくないように、生きよう。

いつか、ヨシノお姉ちゃんの元へ行ったときに
堂々と、胸を張れるように。





それから。





私は、仕事を探し始めた。
この就職難の時期で、なかなか思うように面接が上手くいかなくて
何十件も受けたけど、あきらめなかった。

だけど、ふと手に取ったダイレクメールが、運命を変えた。

「濱崎探偵事務所…?」

私を探してくれた、興信所からのダイレクトメールだった。
見ると、隅っこの方に「求人募集!」と書かれていたから。



勢いで電話をして、いきなり面接が決まり

探偵社をたずねると

「ゴメン、社長出かけちゃって…ああ、春川くん」

「はーい?」

「面接よろしく」

「マジっすか」

そんな不吉なやり取りの後で、面接が始まり。
ニ、三個質問をしただけで、すんなりと受かってしまい。

「明日から、よろしくね」

と、言われ。私は「濱崎探偵事務所の一員となった。






仕事内容は、きつい。
浮気調査の為に、ホテル街でカップルの振りをして
ずうっと対象の張り込みしたりとか。

サクラお姉ちゃんが凄く心配して
辞めようよ、って言ってきたけれど。


私は。なんだかやり遂げたくて。
私、やってみたいんだよ。って。そう言った。
やれるところまでは、やってみたいんだよ。って言った。

そしたら、サクラお姉ちゃんは
私は、心配だから辞めよう?って言うけど
ヒナちゃんが大人だって判ってるから、強制はしない。

でも、いつでも、辞めていいんだからね。


そういう風に言うから、涙が出るくらい嬉しくて。
そういうサクラお姉ちゃんが居るから。

私は今、頑張れているのだ。


事務所の人とも少しずつ打ち解けてきた。

面接をしてくれた調査員のハルカワさんは、結構な美形男子だ。
調査員の中では一番の古株で、でもそれでも4年程度との事。
きつい仕事だから、入れ替わりが激しいらしい。

ちなみに、彼はゲイだ。
カミングアウトする時もさわやかで、
最初は本気か冗談か物凄く迷った程。
でも、好きな男性芸能人が一緒だった事で打ち解けた。


事務の女性のノダさんは、2人の息子さんを持つお母さん。
皆からは、「姉御」って呼ばれている。
過去になんだかいろんな修羅場をくぐってきたようで
いろいろな武勇伝を持っているらしい。

そのほか社員の調査員が、二人。
ホソノさんとモリタさん。
そこの漫才コンビ!ってよくノダさんに突っ込まれてる。
仲のいい二人で、よくコンビで活動してる。

そのほか、アルバイトの調査員の人がいるけど
あんまり沢山話した事はない。
入れ替わりが激しくて、すぐにやめて行ってしまう人が多いから。


あ、あと社長。
社長は・・・ええと、よく判らない。男性かと思っていたけれど、女性だった。
あんまり、社内に居ない事のほうが多くて
一度だけ挨拶して、名詞をもらったけれど。
そこに印字してある、「ハマサキ ハルカ」という名前は偽名なのだそう。

なんだか、謎が多くて、良くわからない人だった。


そんな探偵社の中で、私は毎日、なんとか頑張っているつもりだ。
仕事はきつくて、厳しいけれど。

私は多分、それなりに充実した日々を過ごしていて。










ただ、その中で一つ、心を締め付けるもの。


――― シノさん、どうしてるだろう?


仕事に慣れて、余裕が出てくるたびに
頭に浮かぶのは、そのことで。


――― シノさんに、会いたい。


その気持ちが、私をどんどんと、支配していった。



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