職場に羽アリが大量に発生したと聞いて、殺虫剤を持って走った。
ドアをあけると、確かに羽アリがたくさんいる。
でも、普通のアリもたくさんいる。
「シロアリだ!」
大声でそう話す人がいるので、「そうじゃないよ、これは普通のアリのオスとメスだ」と説明する。
これから結婚しようとする1匹だけのメスアリと、多くの花婿候補のオスアリとには羽が生えている。
結婚したメスアリは、将来、女王アリになり、オスアリは花婿になってもならなくても死ぬ。
アリもシロアリもどちらも社会的昆虫だが、進化の過程が全く違う。
アリはハチから進化し、シロアリはゴキブリから進化した。
そして形も全く違う。
アリの羽アリは見事なくびれがあるが、シロアリの羽アリはドラム缶体型だ。
「よく知ってますね。どうして知ってるんですか?」
「どうして知ってるんだっけ?」
そういえば、昔、昆虫関係のすごく面白い本を読んだことを思い出した。
題名をもう忘れてしまった。でも、その本からはとても多くのことを学んだ気がする。
その本で印象深かったのは、オーストラリアでは莫大な羊の糞尿を処理するために、エジプトからフンコロガシ(スカラベ)を輸入したという話だ。
読みながらフンコロガシの、糞を地面の下にしまい込む処理能力の高さに驚いた。日本の登山道にもフンコロガシを放せば、登山道のトイレ問題なんか解決するのに、と思ったりもした。
何という題名の本だったのか。もしまた見つけたら読み返してみたい本だ。
シロアリではないから生かしておくかというと、そういうわけでもなく、いずれにしろ皆殺しにしてしまう。
スプレーで殺虫剤をかける。
アリはすぐに死んでしまう。
死がいをほうきで掃きながら、「人間って勝手な生き物だよな」なんて思う。
そしてまた、「アリに詳しいから」という理由で、担当でも何でもないのに、後始末までやらされている俺というのもどういうものかとも思う。
週末は法事があり、また実家に帰った。
お寺に檀家が集まり、先祖の霊を慰める。
母は当然、お参りなどできないので僕は1人で行くつもりだったが、姉と姪が同行してくれた。
寺の本尊は、光背まで含めれば3m以上の大きな木彫の観音像で、個人的には一番好きな像だ。
腕から手の指にかけて、それから手の平の優しい曲線が美しい。
まだ土を踏んでいない、赤ちゃんの手足をモデルにしたのだそうだ。
家に帰ったあと、母親を連れて2人で昼食を食べに行く。
退院祝いにウナギでも、と話していたが、昼休みの店が多かったので、結局ヒレカツ定食を食べることにした。
思っていたよりずっとおいしいお店だった。店員さんもとても親切だった。
母は、ご飯やキャベツは残したものの、僕と同じ量の肉が食べられたと嬉しそうだった。
そのあと、市内を一望できる山の上の方まで車を走らせる。
夏の強い日差しの下で、母が入院していた病院が遠くに見えた。
「退院できてよかったね。」
「私はこうして、車に乗って景色を見るのが本当に好きなの。」
今ひとつかみ合わない会話をしながら、ドライブをして家まで戻った。
日曜日は午前中に、僕が中学校に入学したときに買った小学館の万有百科大事典を十文字に縛った。
8月末の古紙回収のときに、捨ててしまう。
そういえば、あの頃は別巻の「人体大地図」にあるたわいもない性的な描写にどきどきしていたんだよなあ、なんてことを思い出す。今なら見ても、心拍数がピクリとも上がらず、むしろ下がるくらいの刺激でしかない。
そしてまた「思い出せないだけで、記憶は残る」なんて「人体大地図」に載っていた文句を中学時代から疑っていたんだよなあ、なんて思い出した。
通学途中「こんな景色も俺は一生忘れないんだろうか」と立ち止まって考えたりしていた。
そして、その景色を僕は今も覚えている。
載っていた内容は、本当だったのかもしれない。
日曜日の午後になって、また長野に帰ってきた。
クリント・イーストウッド監督の映画「インヴィクタス」を観た。
元々、僕は見るスポーツではラグビーが一番好きだ。その後、アメフト、ボクシング、野球、サッカーと続く。
ラグビー映画だから、僕が好きなのは当たり前のようにも思えるけれど、この映画は、男はどのように生きるべきかを教えてくれる。
マンデラ大統領の政治家としての資質も素晴らしく、日本の空気を読むことに腐心している政治家とは違う。
彼は27年間、彼を狭い独房に押し込め、囚人としていた相手を赦す。
そして、白人である看守たちが、そして支配層が愛していた白人のラグビーチームを応援し、白人と黒人の真の融和を図ろうとする。
怒りが力の源泉になるというのは錯覚だと、最近僕も思うようになってきたから、彼が言うことにすごく共感ができた。
この映画を映画としての作品の質だけで語ると、浅いと言われるかもしれない。
しかし、この映画は、20世紀末にこのような男たちがいたことを紹介することだけでも意義があると思う。
政治家やスポーツ選手の真っ当な強さを教えてくれる。
多くの人が見るべき映画のように思う。
僕は、この映画を見て、こうありたいと強く思った。





































