次のような算数の問題について質問された。実際に中学入試に出た問題かもしれないが、小学生に解かせるのには疑問がある問題だと思って、mixiiでトピを立てた。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=38003646&comment_count=10&comm_id=380962
現在までの私の発言は以下の通り。
==========(トピ立ての発言)===============
お久しぶりです。
次のような速さの問題を質問されたのですが、その解法についての質問です。
「甲地点からA、Bが、乙地点からCが三人とも同じ向き(甲→乙→)に同時に出発した。
Aは出発して10分後にCを追い越し、Bは出発して12分後にCを追い越した。
もし甲地点からAが、乙地点からBが同時に先と同じ向きにスタートすれば、Aは何分後にBを追い越すか」
私は、速さの問題で難しいものは、問題の条件を面積図かダイヤグラムに落せば、後は、図形の問題として解けるという信念を持っているので(速さが図で解けることは事実ですから、信念などとリキム必要はないのですが・・・)、ダイヤグラムを描いて、相似の三角形を使って、「60分」という正解を出したのですが、「予習シリーズ」の解説解答は、要約すると、次のようになっているそうです。
「速さの差の比の「A-C」:「B-C」=6:5から、同じ基準で速さの差「A-B」=1となる。するとAがCに10分で追い付く距離ならAがBに追い付くのは60分。」
う~みゅ。言われれば、確かに・・・。
第1段階として、同じ距離を「追いつく時間の比」と「速さの差の比」が「逆比」になることから、「追いつく時間の比」から「速さの差の比」を求め、第2段階として、「A-C」と「B-C」の比の値から「A-B」の比の値を求め、最後に第3段階として、再び「追いつく時間の比」と「速さの差の比」が「逆比」関係を利用して、追いつく時間を求めるというのは、納得できる。
しかし、私が現役で受験算数を教えていたとき、この解法は知らなかったし、自分で導けたとも思えない。
このような3段階もの推理階梯を踏む解法が、小学生に適当とも思えない。
ダイヤグラムで解いて、生徒にもこの解法を教えただろう。
ダイヤグラムでも何段階の推理階梯を踏むことになるが、目に見える図が相手だから、推理のとっかかりはあるのではないか。図形が苦手な生徒には逆にきつい、と言われれば、それはそうなのでしょうが、では、そういう生徒には、上記の比の概念だけを使った推理の方が楽なのでしょうか。そういう生徒もいるんでしょうか?
今、予習シリーズのこの解法を知っても、この解法を第一に教えるのがベストとは思えない。
「道のり」が同じなら、「速さの比」と「時間の比」が「逆比」であることは、受験算数の必須事項として教え、理解させたが、今は、「道のりの差」が同じなら、「追いつくまでの時間の比」と「速さの差の比」が「逆比」であることも、あるレベルの私立をめざすなら、受験算数の必須時事項なんでしょうか。
この問題の、中学入試問題としての妥当性も含めた評価、および、中学入試問題として妥当だとしたら、その解き方として何を教えるべきかという点など、ご意見をいただけたら、と思います。
===========(トピ立て発言終わり============
これに対し、甲乙間をたとえば60として問題を解かせる、という発言が2人からあり、そういうふうに分からない量をある数におくことに違和感があった、という発言が1人からあった。
==========(それらを受けた私の発言)=========
なるほど、設問の条件のある部分が「欠けている」ということは、その部分については何であっても設問が成り立つということだから、適当な数値を置いてしまう、ということですね。
このやり方は、実はあまり好きでなかったので、自分の考えからパージしていました。というか、小学生に説明するときに、このやり方が一番分かりやすいような問題は、小学生には不適当な問題ではないのかと思っているところがありました。
でも、この考え方は、和算で、円のからむ難しい問題を解くときに、特殊の場合(例えば、一般の四角形について論じたいときに正方形について論じる)から一般の場合を類推するという、「算変法」とか「極形術」という解法があって、それは、現代数学のInversion(反転法)に匹敵するらしい(平山諦『和算の歴史』ちくま学芸文庫135~143ぺーじ)ことを知って、ちょっと見直しています。
トピの問題だと、甲乙の道のりの差を60と置いて(第1段階)も、その後、A-C=6、B-C=5から、A-B=1を出すのが、小学生にはきついのではないかとも思ったのですが、ここは、式の形から、A-Bを求めるのではなく、式の意味から、AはCより6大きい、BはCより5大きい、ならば、AはBより1大きい、と考えることは、そう難しくない。(第2段階)
そして、60÷1=60分と求める。(第3段階)
なるほど、この3段階なら、小学生にも不可能ではない。
予習シリーズの解説の始まる前に「甲乙を60と仮定する」がありさえすれば、とたんに理解しやすいものになる。
私の、ダイヤグラムから相似を使う方法も、あるいは、面積図を書いて、けっきょく予習シリーズの途中式を図で確認しながら追っていくような解法より、これが小学生にはベターなんですね。
でも、この問題を、いま、私が小学生に説明するとなると、先ず最初に、黒板に一本の道を書いて3個のマグネットを動かして、問題の意味を理解させ、次に、いまマグネットを動かして確認したことを、AとC、BとCの2組4本の線分図で再確認して、甲乙間の距離を、とりあえず60と置くやり方で解く。AとBの2本1組の線分図も、その途中で描く。
次に別解として、今解いた過程を面積図(横軸時間、縦軸速さ)で追って再確認する。
そして、さらに別解として、ダイヤグラム(横軸時間、縦軸道のり)を描いて、相似を使うやり方も紹介する、という流れになりそうです。しつこいか…(^_^;
===========(発言終わり)=============
===========(3回目の発言)=============
>「よくわからない量をとりあえず何かとおく」
という方法に対する、私の違和感ですが、次のようなこともあるのかと省みています。
この速さの問題の場合、未知数が4つ(甲乙間の道のり、A,B,Cの速さ)あって、けっきょく、最後までこの未知数の値は決まらない。A,B,Cの速さの「差の比」だけわかって、設問には答が出る。こういう問題は、中学・高校で方程式を立てて解くにしても、難しい部類になるのではないでしょうか。ましていわんや小学生においておや、という思いを禁じえないのです。つまり、中学入試問題として出題して、小学生に解くことを要求するのはどんなものであろうか、と。
こういう難問にぶつかったとき、「子ども」はどうするかというと、「よくわからない量をとりあえず何かとおく」ことがあると思いますし、そう考えられる子どもは、「地頭」が良いと言えるでしょう。
10分と12分があるので、道のりを最小公倍数の60とする。この60が、60mや60kmといった実際の数値ではなく、「比」であるので、たとえば「マル60」とかする。この問題の場合は、60mや60kmとしても構わないわけですが。で、60÷10の6と、60÷12の5ですが、この6と5の数値も、速さの差の「比」ですが、単位を付けると、「マル/分」でしょうか。この問題では、6m/分や、5km/分でも構わないことになりますが、この分速の数値は、人間の速さとしてはどうかなという問題は残ります。
そして最後に、マル60÷(6-5)マル/分=60分、とめでたく単位も正しい数値が出る。
しかし、この問題では、道のりを60mや60kmと置いても構わなかった、という問題があります。いや、構わないのだから、問題ではないと言えば、問題ではないのですが、わたし的には、違和感があるのです。
次に、「子ども」が、A-C=6、B-C=5が出たときに、「よくわからない量」のCを10にして、Aを16、Bを15にすることもあるのではないでしょうか。そう置いても、問題を解く上で全然構わないし、そういうことができる子どもは地頭が良いのでしょうが、どうしても違和感を感じてしまうのです。オイ、いいのかよ、それで出てきた答は、他の数値に置いたときも一般的に通用するのかよ、という「杞憂」(間違ったよけいな心配)が生じてしまうことを禁じえないのです。
中学入試問題を教え始めた当初(20数年前ですが、汗)、先ずびっくりしたのは、こんな難しい問題を方程式を使わないで解いている、ということだったのです。で、よく見ていると、難問にぶつかったとき、「子ども」は、とりあえず正解の見当をつけて、それでやってみてダメだったら、そのダメになった様子から、もとの数を大きくしたり小さくしてみて、もう一回試してみる、それでダメならもう一回・・・、というやり方をしている「子ども」がいたことです。晴天霹靂でした。こんなのありかよ!
で、こういうやり方は「あてはめ」であって、解法としては「下」である、他のやり方が分からなかったら、試験のときは、最後の手段としてやっても良いが、普段からこのやり方をしていたら、力は付かないと指導していました。そのため、私が担当すると、何人かの生徒は、それまでのやり方が禁じられるため、二ヶ月ほどはテストの点数は落ちるが、その後はめきめきと成績を上げるという現象が見られました。(塾講師の「ちょっと自慢モード」に入っていますが・・・(^_^;)
「よくわからない量をとりあえず何かとおく」解法に私が感ずる違和感は、この「あてはめ」に通ずるものを感じてしまうことがあるのだと省みています。ただ、「あてはめ」と違って、この解法は、「よくわからない量をχとおく」方程式と通ずるところもあるし、仕事算などでは、「全体の仕事量を1とする」ことには、何の抵抗も感じないのですから、あまり根拠のない違和感ではあると反省もしています。
また、「よくわからない量をとりあえず何かとおく」考え方は、具体的な個別の数値で考える「子ども」段階の思考方法にはフィットしているわけですが、どうしても、苦し紛れという感じが否めず、入試問題としては、子どもに、抽象的な思考をたどることを中途で放棄させ、具体的な数値を使って答だけには到達させるというタイプの難問は、はたして相応しいのだろうかと思ってしまうわけです。
でも、確かに、具体的な数値で答を出してみてから一般的な解法を考えるということは、「おとな」になってもよくやるし必要なことであり、そういう「地頭力」をきたえる訓練としてはいいのかな、とも考えてもみるのですが、小学生段階では、具体的な数値でやった解法を、一般的な文字でやってみるということはないわけで、ま、「子ども」だから、しようがないか、などとも、あれこれ考えているわけです。
==========(発言終わり)===============