縦軸を「グローバリズム ー ナショナリズム」、横軸を「分配統制ー自由競争」「論理ー感性」「国家主義ー個人主義」などを当てはめて、様々な思想の流れをマトリックスで整理した本。
⚫︎縄文人気質は、、、
直感、感性、自己責任。
自然の中で生かされる。
個人、家族が単位。
⚫︎弥生人気質は、、、
計画性、コツコツ努力。
自然を改変、開発。
同調圧力、ムラ社会。
⚫︎縄文人から弥生人の変化の中で、宗教心はアニミズム(自然崇拝)から人格神(古事記.日本書紀、古墳)へ。
⚫︎鬼退治の「鬼」は、おそらく地方の王。鬼退治伝説は、ヤマト政権が地方政権を屈服させていった物語。桃太郎は、吉備の国の平定の物語か。
⚫︎蘇我氏と物部氏の対立は、仏教伝来後の、グローバリスト(仏教、蘇我氏、中央集権)とナショナリスト(物部氏、神道、豪族の連合政権)の対立であり、蘇我氏が勝利。乙巳の変(大化の改新)は、物部勢力(中臣鎌足)による蘇我氏へのリベンジの側面もある。
⚫︎白村江の戦いで負けたヤマト政権は、唐に負けないため、中央集権を強化し、唐の律令制度を取り入れた。大王は天皇と改める。日本人向けの古事記、外国向けの日本書紀を作り、日本型ナショナリズムが始まる。
⚫︎皇族、貴族だけを守る仏教は、東大寺の毘盧遮那仏(大仏)の建立を機に、大衆の宗教へ。建立のために労働者を集めたのが行基。仏教の民衆化は、役小角(山岳信仰)→行基(貧困者の救済)→空海(修行を求めず現世利益を容認)と進んだ。
⚫︎比叡山の神「日枝の神」と延暦寺の共存(山王神道)から本地垂迹が生まれ、神仏習合が始まった。日本古来の神々を否定せず、神社と同じ敷地に寺院を建て、神仏を一緒に祀っていった。一方、ヨーロッパのキリスト教は、多神教の神殿を破壊して、キリスト教の聖堂を建てていった。
⚫︎平安時代初期に、桓武天皇は徴兵による正規軍(軍団)を解散させた。軍団の廃止により治安が悪化し盗賊がはびこり、藤原氏は私有地(荘園)を広げていった。農民たちは自分たちの土地や財産を守るために武装化し、武士の誕生につながる。
⚫︎貿易で利益を得たグローバリストの平氏。海外には興味のないナショナリストの源氏。
⚫︎鎌倉幕府の最大の役割は、武士と武士の土地境界線をめぐる構想の調停。御成敗式目は、暗黙の了承だった武士の慣習を法典として書き起こしたもの。力の支配から法の支配へ。また、鎌倉幕府は民主的な合議制をとっていた。
⚫︎中世(政府が形骸化し、合議で政策決定)が長かった日本と西欧は、民主主義が根づきやすい。日本も西欧も山岳地帯が多く、中央集権が難しかった。一方、ユーラシア大陸は森が少なく草原や荒地が広がり、騎馬部隊による侵攻が有効であり、統制国家、独裁国家が生まれやかった。
⚫︎蒙古襲来によって、ナショナリズムが燃え上がり、仏教よりも神道が尊ばれるようになった(神本仏迹)。外宮の神官である度会家行が伊勢神道を唱え、神道を一神教的に理屈づけた。さらに、室町時代の吉田神道は、伊勢神道を先鋭化させ、朝廷公認とさせた。明治維新の神道本流は、吉田神道の流れ。
⚫︎一神教と多神教は、日本史の中では相互乗り入れ的である。鎌倉仏教でも、法華経絶対の日蓮宗、阿弥陀仏絶対の浄土宗・浄土真宗はともに一神教的。
⚫︎武装化した仏教を抑え込むためにキリスト教を利用した信長、仏教もキリスト教も否定した秀吉、仏教を民衆統治(宗門改帳)に利用した家康。江戸幕府に存続を保証された仏教各派は、布教をしなくなり、現代まで続く葬式仏教へ。
⚫︎中国から入ってきた朱子学に心酔した水戸光圀。朱子学の「天命」を「三種の神器」に置き換えて、北朝を正統とした。そして、万世一系の天皇が徳を持って治めてきた日本こそが真の中華であるとした。
⚫︎体制維持的な朱子学、個人主義的で現実主義的な陽明学。陽明学は、大塩平八郎、佐久間象山、吉田松陰、高杉晋作、西郷隆盛など、幕末志士への影響が強い。
⚫︎陽明学よりも個人主義的でグローバリズムな蘭学。朱子学を柱に置く江戸幕府は、蘭学者を捕縛し自害に追い込んだ。
⚫︎「古事記に書かれてある美しい日本を守るべきである」との結論に達した国学者の平田篤胤。それを受け継いだ復古神道は、神道の一神教的解釈、天皇崇拝、仏教排斥などの運動につながり、薩長の討幕思想の根拠となった。
⚫︎水戸学は、日本ナショナリズムが朱子学の大義名分論と融合したもの。後期水戸学で過激化した水戸藩は、幕府擁護派と天皇擁護派に分かれて藩内対立。
⚫︎大日本帝国憲法制定にあたり、伊藤博文は、イギリスではなく、300もの小国を統治したドイツ憲法を参考にした。ドイツ憲法は、皇帝が首相を任命するが、日本も同じ仕組みにすべく、その根拠に大日本帝国憲法の第一条に「大日本帝国は、万世一系の天皇これを統治す」と記した。その事が本来の主旨とは異なる、「天皇主権」「天皇は神」という誤った理解を広めた。
⚫︎日露戦争に勝ち、「欧米列強と肩を並べる」という国家の目標を達成した日本。しかし、資本家と労働者の格差が広がったこと、ロシア革命の衝撃から、社会主義が国民に忍び込む。一方で政府は政治犯を取り締まる特高警察を組織し、社会主義者を監視下に置いた。
⚫︎226事件を契機に、天皇を絶対的君主として祭り上げ、その下で独裁的な政治を行おうとする勢力(昭和ファシズム)が台頭してきた。
縄文人から岸田文雄総理まで、日本思想の変化がとってもよくわかる本でした。
茂木誠先生、ありがとうございます。
オススメします。
「日本思想史マトリックス」茂木誠(PHP)
【7月29日読了】
【オススメ度★★★★★】