著者: 乙一
タイトル: 暗いところで待ち合わせ

乙一の小説をはじめて読んだ。久し振りの一気に読み通した。

ストーリーは、2人の視点から交互に展開される。2人に共通するのは、人と接することが苦手な点であろうか。
アキヒロは、印刷会社に勤めるが、職場の同僚と上手く付き合うことが出来ずに、次第に孤立し、次第にいじめの対象となり、先輩に殺意を抱くようになる。ミチルは、目が見えなくなり、唯一の肉親であった父も死に、時々訪ねる親友以外とは接触もなく、寂しく一人ぐらいをしていた。
この2人が、駅での殺人事件以降、奇妙な同居生活を始めることになる。
人と交わることが苦手な今の若者の一面での姿を書きつつも、オドリー・へップバーの「暗くなるまで待って」を思いおこすような、暗闇の中での2人の駆け引きが展開され、物語は進む。

駅での情景が、目に浮かぶようだ。電車が通ることや、踏み切りの遮断機の音。乙一の筆力はなみなみならぬものを感じる。

ミチルとアキヒロが、お互いに気づかれないようにしながら、次第に相手のことを理解していこうとすることにより、彼ら自身がずっと持っていた”社会”への不信感が薄れていく。もちろん、彼ら自身のそうした性格が一気に解決されたわけではない。

後半は、思いもよらぬ展開。
”乙一”ただならぬ作家である。


著者: 伊坂 幸太郎
タイトル: アヒルと鴨のコインロッカー

伊坂幸太郎の作品。伊坂作品に流れる軽妙なリズムは健在である。”洒脱”と言われる文章は、独特のリズム感で迫ってくる。
話は、いきなり書店で広辞苑を盗む話から始まる。その出だしは、なんだか変な感じがする。万引きではすればいいじゃない。まるで銀行強盗のようだな。
話は、2人の視点で交互に繰り返される。時間も現在と2年前。
次第に謎が解き明かされる過程で、伊坂マジックが発揮される。


伊坂作品が好きな人にはたまらない1冊であろう。
それにしても、伊坂作品には、これほど個性的な人物や動物が次々と登場する。それを読むだけでも楽しめるのがお得だろう。

個人的には、なかなか読むスピードが早まらなかった。動物虐待をする若者へのわだかまりだろうか。児童誘拐に比べて、まだ罪は軽いだろうが、決して同情できない犯罪。たぶん、こうしたことが原因なのだろうか。
事件性が少ない。ミステリーが、謎解きであれば、なかなかの作品であろうか。





著者: 沢木 耕太郎
タイトル: 無名

ノンフィクション作家沢木耕太郎は、「父の死」をどう受け止めていったかを描いた作品。肉親の死、特に沢木にとっては、父は特別な存在であったようだ。父は、無名のまま、天寿を全うしていく。沢木は、本当はもっと父についていろいろを知りたかったのだろう。ただ、W杯サッカーの取材など仕事に追われて、いつのまにか時は過ぎていき、父は、過去を語ることが出来なくなってしまった。沢木の人生の節目で父がどう感じていたのだろうか。残された時間が少なくなった父と過ごすとともに、かつて父が趣味でしていた俳句を通して、父の心情に少しでも迫ろうとしている。そこから、沢木人生、沢木と父の絆が浮かび上がってくる。

沢木とは、「敗れざるもの」を読んで以来のファンである。かならずしも、その人の能力からすれば、日の目を見なかっただろうと思われる人に対して、独自の視点から見つめるノンフィクションに触れることは、読者として幸せを感じる一瞬かもしれない。
「深夜特急」は、単庫本、文庫本とも持って、繰り返して読んだ「旅のバイブル」的な本だろう。いや、旅を人生を読み替えた方がいいのかもしれない。この本で、そういう感じを一層強くした。


著者: 乙一
タイトル: 小生物語

乙一がウェッブに掲載していた日記をまとめた本。
私も乙一の名前を最近良く目にするが、小説は読んだことがない。チョト気味が悪い、学園物風という感じがしていた。

この「小生物語」は、幻冬社のウェッブで連載中だったので、時々読んでいた。読んでいたときは、随分気味が悪い青年というイメージだったが、今こうして読み終えて、改めてこの小生という人物は、気味が悪い青年だった。
もちろん、乙一自身も、この小生を自分の分身だが、フランケンシュタインのような存在と認めている。

さて、構成だが、愛知県編、東京編、神奈川編と3部。乙一が引っ越した時期で分けられている。小生が、編集者や同業者、友人などと会った話しや好きな漫画喫茶のはなしなど、自分の身の回りにあったことを、面白おかしく、妄想を交えて書いている。読んでいくうちに、自分が25歳のちょとシャイで、暗い青年で、東京に行った時は、漫画喫茶で徹夜してしまったような気分になってくる。さすがに、その書きぶりは見事だ。さすがに若者に人気の作者らしい私小説だろう。

次は、GOTHやZOOなども読んでみようかなあ。図書館で行って、借りてきて読まないとね。


著者: 日本ペンクラブ, 川上 弘美
タイトル: 感じて。息づかいを。

川上弘美選の恋愛小説アンソロジー
一体、どこが恋愛なんて、思うのは、冬ソナに浮かれた熟女だろうか。
それとも、愛ルケでボケ気味の中年男だろうか。
それにしても、グロテスクだと思った。
人間の業、丸出しの生き方。
そういうことが恋愛なんだと、言い切る弘美先生は、すごいなあ。

全部で8作。

まず、車谷長吉の「武蔵丸」出だしが良いよね。
もう引退した横綱「武蔵丸」。 いきなり武蔵丸が死んだ。
なんて、殺さないでよと思ったら、カブトムシだった。

よしもとばななの「とかげ」こちらも、すごいで出だしだ。
 「この文章の中で彼女をとかげ、と呼ぶ。」
ばななさんの文章をはじめて読んだが、うまい、と思った。

坂口安吾や野坂昭如を久し振りに読む。
坂口安吾の「桜の森の満開の下」は何度呼んでも怖いような、きれいなような気がするお話。

やっぱり充実した短編集だ。


著者: 村上 春樹
タイトル: アフターダーク

これが、村上春樹の本でなかったら・・・おそらく途中で投げ出すだろう。
今や、村上春樹の本は、聖書や経典のようなものだろう。ハルキストと呼ばれる村君春樹に影響された作家たちが、今の日本の小説界を闊歩しているのではなかろうか。

さて、この本、アフターダークであるが、ある日の夜の物語。ある姉妹の話し。姉エリは、ずっと寝ている。妹マリはずっと起きている。このふたりを中心として、姉マリは、非現実のような雰囲気。妹エリは、ハードボイルドのような展開の中、ファミレスで静かに本を読んでいる。好対照なふたり。最後には一つになったようなイメージの展開。
そして、村上作品らしく、随所に「音楽」や「キーワード」が出没する。
妹エリと姉マリの友人タカハシとの微妙な関係は、村上作品らしく、乾いている関係だろう。高橋の友人、ホテルの従業員と妹マリとの関係は、女同士の友情ぽさを感じる。
夜の街の暴力的な感じが、次第に明けていくことによって、変化していく。
姉は、寝ている姿を誰からか見られているようだ。
姉の時文章を読むのが苦しかった。

おまけは、スガシカオの「バクダンジュース」が出てくることだろう。どんな曲なのだろう。今度、レンタルビデオ屋さんで借りてこよう。

さすがに村上春樹は難しかった。一体何が難しかったかはわからない。それくらいの難しさだ。
機会があれば、もう一度、ゆっくりと読んでみたい気もする。そんな気にさせられるのも、春樹マジックなんだろうか。


著者: 小川 洋子
タイトル: 博士の愛した数式

現在版のおとぎ話、メルヘンだろうか。
去年、第1回本屋大賞を受賞した作品。本屋さんが一番売りたかった本らしい。 スーと読めて、ほろっと感動させてくれる。これは、数字のマジックか。

交通事故のため、80分しか帰国できない博士のところに家政婦としてきた女性の回想。その女性は、母子家庭で、10歳になる長男がいる。博士が彼をルートと名づけたことから、話は始まる。
博士と家政婦、そして「ルート」の心温まる友情の話。
博士は、事故に遭う前は、数学者だったので、その記憶は確かなため、常に数字を前にすると、数学的な考える。
それにしても、数字をこれほどまでに文章にした作者の力量には感服する。
そして、なぜか阪神ファンの博士とルート。ふたりの共通点が、小説の後半のクライマックスにつながってくる。
やはり、江夏の背番号は28だったのはなんとも不思議だ。



著者: ポール・オースター, 柴田 元幸, Paul Auster
タイトル: 幽霊たち

122ページ。定価400円。手頃な値段と厚さのこの文庫本。
登場人物は、すべて、”色”である。主人公の探偵はブルー、依頼人はホワイト。ブルーが依頼され見張る相手は、ブラック。ブルーもかつての上司はブラウン。
ブルーは、ブラックを見張り続けるが、毎日何かを書き続ける。何の変化もない毎日に次第に飽きたブルーは、空想をする。そして、変装してブラックに近づいていく。
こうしたことがミステリーとなり、物語となることへの不思議さを感じる。


著者: 石持 浅海
タイトル: 水の迷宮

水族館をテーマにしたミステリー。
東京湾に面した人気のある水族館の飼育係長が、一人で深夜仕事をしている際に過労のため死亡する。何か事件めいた気配。どうして、そんなに遅くまで一人で仕事をしていたのか。水槽の異常が次々と起こったのはどうしてなのか。
3年後の命日、飼育係長に縁のある人が次々と訪れる中「事件」がおこる。その事件がきっかけで次の事件がおこっていく。
水族館を愛するがゆえに、その行き違いから、事件は大きくなっていく。
犯人は誰なのか。一体どうしてメールが送られてきたのか。

水族館の描写などは面白く感じた。水族館の内部での争いをもっと単純にドランマにしても良かったのではないだろうか。水槽を舞台としたトリックや携帯電話のメールのアリバイって、そんなにアリバイにはなってない。たぶん作者自身もわかっているみたいだけれど。トリックといえないような”こじつけ””つじつまあわせ”的に思えた。この本のミステリー度は、かなり低い。

なんだ、ちょと、”閉じた世界”での自分たちの論理(世界)を守ったような気がした。大きな水族館に個人的に興味が湧かなかったことにもよるのだろう。
作者自体は、文章は上手いし、探偵役の友人が次々と謎を解く。でも、なんとなく、必然性は感じない。やっぱり、この推理小説としては、いまいちかなあ。でも、読みやすいし、時間つぶしには、GOODだよ。なんだか、皆いい人過ぎるような気がする。人を殺すにしては、動機が弱いよね。今の時代は、人殺しも簡単なのかもね。でも、恨みとか情念がなくて、簡単に死んでしまうのはね。
石持 浅海、期待はずれかも。「アイルランドの薔薇」読む予定だけど、面白いのかなあ。


著者: 池内 紀
タイトル: となりのカフカ

カフカというと、「変身」や「審判」などの小説を書いた人であるくらいしか知らない。「変身」という小説は、それにしても、悪い夢を見たような小説だ。朝、起きたら、自分自身が変な虫になっていて、家族から邪魔者扱いされるわけだ。この小説を最初に読んだ時は、なんだか眠ることが怖くなったような記憶がある。それくらいリアルな小説だった。
この「となりのカフカ」という本は、その作者のカフカの生い立ちについて、簡単にまとめてくれている。一体どうしてあんな小説を書いたのか。

実際のカフカの一生は、プラハに生まれたユダヤ人であった。仕事は、保険協会に勤めるサラリーマンであった。私生活では、2度の婚約をしたがいずれも解消し、生涯独身であった。そして、41歳の若さで結核で死んだ。

本の構成は、全部で12章に分かれている。1日に1章読めば、12日で読み終える。ある小説家の一生を12日で味わえる大変お得な本ではなかろうか。