糖を発酵させてアルコールを製造する実用化の可能性がある方法は「エタノール発酵」以外にもあります。
「アセトン・ブタノール発酵」というプロセスです。
本田技研工業と地球環境産業技術研究機構(RITE)は共同でバイオ燃料の研究開発を進めていますが、このほど両者がアセトン・ブタノール発酵についても研究開発を進めていることがわかりました。記事をご紹介しましょう。
日本経済新聞朝刊 8月14日(火) p1
「雑草からディーゼル燃料 地球環境機構が新技術 温暖化防止効果を期待 3年後メド生産」
(Quote) 自動車、電力など国内主要企業と政府などによる研究機関、地球環境産業技術研究機構(RITE)は、雑草や木くずなどからディーゼル燃料を合成する技術を開発した。ガソリン車用ではバイオエタノール燃料が注目されているが、そのディーゼル版で、世界初という。ディーゼル車の地球温暖化対策の切り札になるとみており、三年後を目標に工業生産を始める。
このバイオディーゼル燃料は成分が「ブタノール」と呼ぶアルコールの一種。遺伝子組み換え微生物を利用して生産する。タンクで微生物を大量培養し、雑草・雑木や廃木材、稲わらなどの植物繊維を分解した糖を入れると、バイオブタノールがつくられる。
ディーゼル燃料は一般に軽油が使われている。この軽油にバイオブタノールを混ぜても、走行性能などにほとんど影響がないことを、RITEの依頼でホンダの研究子会社である本田技術研究所が確認した。量産体制が整えば、ガソリン車向けのバイオエタノールとほぼ同等のコストで生産でき、ディーゼル車でもバイオ燃料化が加速するとRITEはみている。
植物を原料につくるバイオ燃料は温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)の排出抑制につながるため、今後需要が拡大する見通し。ただ、これまでバイオディーゼル燃料はヤシ油や天ぷら油など原料が限られ、本格的に植物資源を利用できる生産法をRITEや英BP、米デュポンなど日米欧が競っている。 (Unquote)
「バイオディーゼル」という用語は、「油脂をエステル化して製造した軽油に近い成分のディーゼルエンジン用燃料」を意味していますので、この記事での用法は誤っていますが、まあ、それはおいておきましょう。このブログでは「バイオブタノール」と呼びます。
農林水産省の影響で、農協は「エタノール直接混合派」です。私は穀物を原料とすることに長期的には反対ですが、バイオ燃料を普及させたければ当面は仕方がないのかもしれないとも思っています。
日経産業新聞 6月13日(水) p14
「エタノール混合ガソリン 新潟で09年発売 JA全農、コメを原料に」
(Quote) 全国農業協同組合連合会(JA全農)は二〇〇九年から、新潟県とその周辺で、バイオエタノールをガソリンに三%混ぜた燃料(E3)を発売すると発表した。四十箇所の系列ガソリンスタンドで年間三万三千キロリットルを販売する見通し。バイオエタノールの製造から販売までをJAが新潟県内で一貫して実施する。農林水産省の「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」に採択された。
新潟市内の系列工場内に年一千キロリットルのバイオエタノールが生産できる工場を建設する。原料は地元新潟県で製造する食用米よりも多収穫が期待できる品種のコメを利用する。年間二千二百五十トン程度を使う見込み。このエタノールを聖籠町のJAの石油基地でガソリンと混ぜて、E3を製造する。
...(後略)... (Unquote)
やはり、石油元売り業界が懸念する通り、石油元売り業界を通さず別ルートで燃料が製造・販売されることになりますね。
前回の事件をきっかけとした規制強化の動きが報じられています。
日本経済新聞朝刊 2007年5月26日(土) 1面
「バイオガソリン 商社も登録義務 政府、規制を強化 粗悪品 流通防ぐ」
(Quote) 政府は植物から作るエタノールなどバイオ燃料を混ぜた「バイオガソリン」の普及を促すため、製造業者の規制強化に乗り出す。石油も問う理解者に限定している規制対象を、ガソリンにバイオ燃料を混ぜている商社など全取扱事業者に拡大。登録を義務付けるとともに品質の保持を促す。バイオガソリンは地球温暖化の防止策として注目されている。粗悪品の流通による自動車の故障や事故を防ぎ、市場拡大の環境を整える。 ...(中略)...
バイオガソリンは二酸化炭素の排出抑制効果が大きい。現状では日本のガソリン消費量の〇・三%だが二〇一〇年には二〇%まで上昇するとの予測もある。
ただバイオ燃料は腐りやすく、過剰に混ぜるとエンジン周辺部などの故障を招きやすい。政府は、自動車メーカーの実験をふまえバイオ燃料の混合比率を三%以下にするよう求めているが、今春には岩手県内でエタノールが九%混ざったバイオガソリンが販売されていることが判明していた。安価なエタノールを多く混ぜたバイオガソリンが出回る可能性がある。
ガソリンや軽油などの品質を管理する「揮発油等品質確保法」は、精製を手掛ける石油元売りが規制対象。政府は同法を改正しガソリンとバイオ燃料を混ぜたりする事業者に登録義務を課す。登録事業者にはバイオ燃料を混ぜる割合を、国が安全と認める「全体の三%以下」に抑えるよう求める。割合が規制値を上回っていれば、罰金を科す。 (Unquote)
エタノール直接混合派にとって不利な事件が4月に起こっています。興味深い事例ですので、新聞記事を全文抜粋します。
日経産業新聞 2007年5月22日(火) 15面
「ガソリン、エタノール9%混合で販売中止 上限超過、管理難しく 品質・税 普及へ仕組み確立必要」
(Quote) 岩手県内のガソリンスタンドでガソリンにエタノールが九%混ざった混合ガソリンが販売されていたことがわかった。法律は三%までしかエタノールの混合を認めていない。同ガソリンは攪拌(かくはん)が不十分なために割合が高まったもので、販売開始からわずか一日半で販売中止になった。植物原料のバイオエタノールへの関心が強まっているが、本格普及を前に品質管理の難しさが浮き彫りになった。
現場は岩手県北上市の農協が委託運営していた二子給油所。同給油所の高橋昭浩店長はアルコール取扱業者から一般エタノール六十リットルを購入。二千リットルのガソリンと混ぜ、四月十二日から一リットル百二十五円で販売した。
高橋店長は目的を「海外で話題になっており、環境に良いのなら使ってみようと考えた」と語る。必要な手続きは電話で経済産業省に問い合わせながら進めたという。
だが、エタノール入りガソリン発売を知った経済産業省傘下の東北経済産業局は翌十三日に立ち入り調査に入る。簡易検査するとエタノール濃度は九%を示す。混ぜた割合からすれば三%以下のはずが、タンク内で十分に混ざっておらず、重いエタノールが沈殿したようだ。
国内の自動車は濃度の高いエタノール入りガソリンには対応していない。使い続ければエンジントラブルを起こす危険もある。経産局は販売中止を通知。給油所側も十三日中に販売を取りやめた。実質一日半の販売で、実売量は車二、三台分にあたる七十リットル。経産局は残るエタノール入りガソリンの処理も命じた。
揮発油税を巡る問題もあった。十三日には税務当局の担当者も二子給油所に赴いていた。
一般のガソリンは給油書出荷時に、揮発油税を課税する。一般に販売するエタノールも酒税を課税済みだ。だが、今回のように両者を混ぜて燃料にした場合は、揮発油税がそこでもう一度課税される。高橋店長はこれを「知っていた」としているが、販売価格に転嫁すれば一リットル百五十円を上回る価格になる。
北上市農協は事態を重く見た。「JAマークのスタンドの瀋陽を失いかねない」(総務人事課)として、四月末に二子急所へのガソリン供給を停止。「JA-SS」の看板も取り外した。
バイオエタノール導入を巡っては、環境省と石油業界がそれぞれ別の価格での普及を目指している。石油業界はガソリンと分離しにくい、エタノールとイソブテンの合成物を使うことを主張し、四月末から首都圏で実証販売を始めた。一方、環境省は将来的にエタノールの混入割合を高めやすいガソリンとエタノールの直接混合を支持し、八月から関西を中心に実証を始める。
ただ、市販エタノールを使って給油所で品質を操作する業者が出てきたことは、直接混合でも十分に品質維持は可能としてきた環境省には痛手だ。「きちんと管理すれば問題はない」(環境省の末次貴志子技官)と説明するが、今後、取扱業者が増えたときに品質管理の目が行き届くかには疑問も残る。
農協系列を外れ、独立系となった二子給油所の高橋店長は販売中止後も「エタノールに興味を示す顧客は多かった」とし、「うまいやり方を模索して再チャレンジしたい」としている。
ガソリンは性能では差別化が難しいだけに、過当競争が続くスタンドにとって「環境」はうたい文句にもなる。バイオ燃料への関心が強まっているからこそ、品質や税を巡るトラブルが起こらない仕組みを早急に確立する必要がある。 (宇野沢晋一郎) (Unquote)
まず、イギリスの新聞 Times に載りました。
Times Online 7月16日
"Are these the last days of the Oil Age?"
http://www.timesonline.co.uk/tol/comment/columnists/william_rees_mogg/article2080497.ece
北海油田の減退は2000年頃から始まっています。イギリス人は気付きやすいはずです。働いている人がたくさんいるはずですから、噂話として拡がる土壌もあると私は考えています。
こういう記事もあります。グラフをよく見て下さい。
Economist.com 7月12日
"When the wells dry up"
http://www.economist.com/world/britain/displaystory.cfm?story_id=9481445
IEAの発表がきっかけとなっている感がありますね。
IEAの発表はこれです。
↓
http://omrpublic.iea.org/mtomr.htm
日経がどう報じたか、書き残しておきましょう。
日本経済新聞朝刊 7月11日(水) 7面
「石油、12年に供給不足の恐れ IEA予測」
(Quote) 【パリ=野実山祐士】国際エネルギー機関(IEA)は二〇一二年までの中期の石油市場リポートを公表した。世界経済の成長を背景に石油需要が年率二・二%で増え、供給拡大が追いつかないと予測。「高い可能性ではないが、供給不足の恐れがある」と指摘した。
世界の石油需要は〇七年の日量八千六百十三万バレルから一二年には同九千五百八十二万バレルに増加する。伸び率は二月の前回予測から〇・二ポイント上方修正した。中国、インドなど新興成長国が世界需要を押し上げる。 (Unquote)
下線を引いた「供給拡大が追いつかないと予測。『高い可能性ではないが、供給不足の恐れがある』と指摘」というくだりが矛盾している感じがしますが... 原文を参照していないので、追及するのはやめておきます。
英語圏では、公開された場でこれからより大きな規模で議論がなされるようになるでしょう。
前述しましたが、北海道の十勝地方ではエタノール直接混合方式を試みつつあります。
ここは10%も混ぜるんですね。
日経産業新聞 4月16日(月) 13面
「バイオ燃料 地方も走る」
(Quote) ...(前略)...
十勝圏振興機構(とかち財団、帯広市)は、七月にもガソリンにバイオエタノールを一〇%混ぜた「E10」を燃料とした自動車の走行試験を始める。...(後略)... (Unquote)
この記事にはこういう続きもあります。
「東西で商品に規格差 設備異なり重複投資も」
(Quote) 環境省は八月初旬からガソリンにバイオエタノールを直接三%混ぜた「E3」と呼ぶ燃料の販売を大阪府内を中心に始める。石油業界が二十七日から首都圏で売るバイオガソリンとは異なる規格だ。...(中略)...
E3は、大成建設や丸紅などが出資するバイオエタノール・ジャパン・関西(大阪市)が堺市内の工場で作る年千四百キロリットルのバイオエタノールを使う。大阪市内を中心に十-十五カ所の独立系ガソリンスタンドで販売する。価格はレギュラーと同程度に設定する。
当面は事前登録した企業や自治体の所有者に限定し、年に最大四万六千七百キロリットルを販売する。石油元売り十社はバイオエタノールを石油製品と合成した「ETBE」を輸入し、ガソリンと混ぜて首都圏五十のスタンドで販売する。初年度販売量は約十七万キロリットル。新日本石油は〇九年秋までに数十億円かけて、製造装置を設置し、ETBEを内製化する。販売地域を拡大するため、西日本の製油所でもETBE製造装置の建設を視野に入れている。...(後略)... (Unquote)
流通面では圧倒的に石油業界の方が有利ですね。
環境省がエタノール直接混合派であることは前述しました。
堺市にあるバイオエタノール・ジャパン・関西という会社についても前述しましたが、ここは環境省の支援事業なのだそうです。
日本経済新聞朝刊 4月14日(土) 13面
「建築廃材使うバイオ燃料 8月から給油所で販売」
(Quote) 建設廃材を原料にした自動車用バイオ燃料を、官民連携で販売する事業が八月上旬から始まる。環境省の支援事業の一環で、大阪府とバイオ燃料製造企業のバイオエタノール・ジャパン・関西(大阪市)、ガソリンスタンド経営会社が協力し、関東と関西にある十-十五カ所のガソリン給油所で販売する計画だ。
...(中略)... バイオエタノール・ジャパン・関西が製造したバイオエタノールを中国精油(岡山市)が混合し、ガソリン給油所の港南(大阪府堺市)などが販売する。価格はガソリンと「ほぼ同じになる」(環境省)という。...(後略)... (Unquote)
「ガソリンとほぼ同じ価格」になるのは、「ガソリンにエタノールを3%混合した燃料」の価格のことです。
以前、バイオエタノール・ジャパン・関西の販売先確保が苦しい、と書きましたが、この記事が4月に出たのを見落としたままかいてしまいましたね。
それでも、まだまだこれからですね。関東・関西あわせて10数箇所ではね。
ガソリンスタンドを通じたバイオ燃料の普及に向けた努力もなされています。
日本経済新聞夕刊 4月11日(水) 1面
「バイオ燃料普及へ補助金 来春から 政府・与党方針 給油所に10億円」
(Quote) 政府・与党は二〇〇八年春からエタノールなどのバイオ燃料を混ぜたガソリンを扱う給油所への補助金交付を始める。 ... (中略)...
給油所への配分は業界団体の石油連盟に委ねる。連盟が対称点を指定し、バイオガソリンの販売量に応じて通常ガソリンとの差額を補てんする形になりそうだ。...(後略)... (Unquote)
石油元売り業界に委ねるわけですから、そのまま放っておくと、ETBE方式が優遇されることになるんでしょうね。
ETBE方式をとる石油元売り業界の言い分について、比較的まとまった情報量の記事が4月上旬に出ました。
列記してみましょう。
日経産業新聞 4月9日 14面
「バイオ燃料混合ガソリン販売 JBSL・平井茂雄代表に聞く 石油元売り 早期の国内量産目指す」
・ETBE導入の発端は2005年4月閣議決定「京都議定書目標達成計画」
・閣議決定による政府からの要請に応じ、2006年1月から石油連盟は検討開始
・検討した結果、JBSL(バイオマス燃料供給有限責任事業組合)を設立し、バイオ燃料をまとめて調達、出荷することにした
・当面、新日石根岸製油所(横浜市)でガソリンと混合、首都圏五十箇所の給油所に出荷
・エタノール直接混合方式は、品質・安全・環境への影響等、問題が多い。エタノール混合ガソリンに水が入るとエタノールとガソリンの分離を引き起こし水分が増える。オクタン価低下、自動車部材劣化などがおこる。蒸発する成分が増え光化学スモッグが広がる可能性がある
・ETBEはドイツ、フランス、スペインなどで使用。ただし日本では第二種監視化学物質
・(原料の一)イソブテンは石油精製の副産物。生産費用はかからない
・安全性が確認できるのは2008年初頭の予定。確認できれば日本でETBE製造を開始
・原料の調達に不安がないわけではない。輸入先の分散、食糧需給との関連、天候等にも要考慮
・バイオエタノール製造に(業界として)関与するつもりはない。日本での生産には原料確保を含め割高なコストが問題
・政府への注文: (2006年11月に政府が出した工程表について)国家として共通認識を持った政策を打ち出して欲しい。揮発油税等の税制面・法制面でも課題あり
「エタノールとETBE」を書きかけですが、もう少し回り道します。
昨年10月から今年2月まで、および今年4月、バイオ燃料関連の報道が日経と日経産業新聞で大量に出てきました。
5月に入ってから一段落している、というのが、私の感触です。
報道の内容は大雑把に三種類に分けられます。このブログですべてをご紹介しているわけではありませんので、ここで分類しておきましょう。
一つ目は、「エタノール直接混合方式とETBE混合方式による、自動車用燃料導入」に関するもの。(国内政策)
二つ目が、「商社を中心とした日本企業による外国の燃料作物産地確保へ向けた動き」に関するもの。(資源確保を目的とした対外政策)
三つ目が、「セルロース系エタノール製造技術の研究開発」に関するもの。(資源確保安定化を目指した技術戦略)
間違えないでいただきたいのは、「セルロース系エタノール」はまだ研究開発段階だということです。実用化が近付いていると思われますが、それでもまだ「商業的に成立した」ものは皆無と言って良い状況です。
例外の一つは、カナダの Iogen (アイオジェン)ですか。ここ補助金漬けでの実用化です。どのくらい補助金が投入されているのかよく分かりませんので、石油系燃料に対してどのくらい劣位にあるのかもよく分かりません。
もう一つ例外と言えるかもしれない存在は堺市にある(株)バイオエタノール・ジャパン関西ですが、ここも生産が軌道に乗ったとは私は聞いていません。販売先の確保が当面の課題です。その次が「セルロースの原料化」です。私が得ている情報から判断するに、今のところ「ヘミセルロースだけを原料として稼動」している状態のようです。また、「前処理」や「加水分解=糖化」においては、通常は化石燃料から製造する硫酸を使用しています。
「脱石油した上でエネルギー収支の(ネット)ハイ・リターンを確保する」という観点からは、まだまだ全然です。
一つ目と二つ目は、大部分「砂糖作物に依存」した計画です。ブラジルやタイのサトウキビ、北海道の甜菜などが原料です。食糧を充てるやり方です。
こういった事情から、バイオ燃料に懐疑的な目を向ける向きも多いです。それはそれで理由のあることです。
このブログの基本的な姿勢もあくまで「技術開発成功後の将来に期待する」というものです。