これは個人的な意見です。

工業原料用バイオマスの生産は、将来かなりの程度海で行われるだろう、と私は考えています。

理由は前述したとおりで、大量の水を簡単に得られることです。

たくさん光合成させてたくさんバイオマスを生産し、工場に原料を大量に供給する。

これが成立しない限り、工業生産の大幅な縮小、ひいては生活水準の絶対的な低下、は避けられないと考えています。

石油生産がピークアウトするというのに生活水準なんて贅沢なことを言うな、とおっしゃる向きもあるかもしれませんが、私の言う「生活水準」には「医療」も当然含まれています。

現代の医療は石油をたっぷりつぎ込むことによって成立しています。石油の減退は医療の衰退を意味すると私は考えています。

もちろんそれ以前の食糧生産もです。

さて、冒頭の議論に戻ります。

光合成は水を消費します。ですから、「一定の面積内・一定の時間内」での光合成量を増やすためには、「一定の面積内・一定の時間内」における水の供給量を増やしてやる必要があります。

これを地上でどれだけできるのか、私は疑問視しています。生態系や自然の水循環などに大きなダメージを与えずにそれができるのかどうか、をです。

もちろん、人間が海で養殖すれば海洋生物にとっては邪魔なわけですが、使える水の量が桁違いに大きいので、地上のように深刻なことにはならないのではないか、というのが私の現時点での考えです。

ちなみに、「海藻を養殖するよりも、海で実施するにもっとよい選択肢がある」と私は考えています。ここで書くつもりはありませんが。

#343に掲載した「海藻を養殖」する計画に関するシンポジウムが行われるそうです。

「行かなきゃ!」と言いたいところですが、平日で行けません。 --)

日経産業新聞 6月1日(金) 13面
「海洋バイオ燃料シンポを開催 三菱総研」

(Quote) 三菱総合研究所は六月二十八日、東京都千代田区で海洋バイオマス燃料についてのシンポジウムを開催する。海藻を育て、大規模な産業としてバイオ燃料が製造できる技術について、大学教授などが講演する。定員は先着百二十人。問い合わせ先は三菱総研(03・3277・0572)。 (Unquote)

目的が液体燃料ではなくてメタンガスですが、こういう情報も最近出てきました。

日経産業新聞 5月22日(火) 1面
「東ガスが発電装置 海藻から燃料ガス 漂着物を有効活用」

(Quote) 東京ガスは海藻から燃料ガスを取り出して発電する装置を開発、販売を始めた。港湾に大量に漂着した海藻の処理コストを削減し、電力エネルギーに変えられる。政府は国産バイオ燃料の普及を目指しているが、増産には困難も予想される。海藻が新たなバイオ燃料として注目される可能性がありそうだ。

 新装置はコンブやアオサなどの海藻を粉砕した後に、温度をセ氏五十五度に保った発酵槽で、メタンガスを発生させる。海藻から出るガスの熱量はまちまちなため、都市ガスを加えて熱量を一定にしたうえで発電する。発電時に生じる排熱は発酵槽の温度維持のために再利用する。

 一トンの海藻からは十五-二十立方メートルのメタンガスが得られる。このガスを使った一時間の発電で六キロワット時の電力が生まれる。標準的な仮定が一時間に消費する電力二十戸分に相当する。

...(中略)...

 メタンガスを取り出した後の海藻の残渣(ざんさ)にはチッ素分が豊富に含まれており、肥料として利用できる。発電機を含めた設備の設置コストは一日二十-五十トンを処理する小規模なもので十億-二十億円。

 これまで港湾に打ち上げられた海藻はほとんどが焼却処分されていた。海藻は水分などを多く含むため償却に多くのエネルギーが必要で、一トンの処理に一カ月に標準的な仮定が使うのとほぼ同じ量の三十立方メートルの都市ガスが必要だった。

...(中略)...

 政府は地球温暖化対策として、バイオ燃料の普及を拡大する方針を示している。三〇年までにガソリンの年間需要の一割に当たる六百万キロリットルに拡大する計画だ。ただ、国内の農地での増産余力はそれほど大きくないとみられている。 (Unquote)

最後の段落は、日経も私と同じ見方に傾いてきたことを意味しているのでしょうか...? エタノール発酵やアセトン・ブタノール発酵で液体燃料を製造するよりもメタン発酵で燃料ガスを生産する方がずっと簡単だということを日経が知らないとは思えません。

私が思うに、日本ではエネルギー関連施設はたいてい海岸近くにあることが、海藻の焼却処分が必要とされていた背景にあるんでしょうね。暖かい排水が海に流れ込むので繁殖しやすいのではないかと私は思います。

焼却処分しなければならなかったものからエネルギーを得られれば、確かに結構な話ですね。

#269 (3月8日)
http://ameblo.jp/mattmicky1/entry-10025910229.html

#265 (3月4日)
http://ameblo.jp/mattmicky1/entry-10025657296.html#cbox

上記の投稿で、私は「海で燃料作物を生産するようになる日が来る」可能性を示唆したつもりです。

こういうことを現実に考えている人がいるらしいことがだんだん分かってきました。

興味深い記事を挙げましょう。

フジサンケイ ビジネスアイ 3月23日(金) 1面
「海藻からバイオ燃料 東京海洋大 三菱総研など 日本海で2000万キロリットル生産へ」

(Quote) 養殖した海藻から石油代替燃料として注目されるバイオエタノールを大量に生産する壮大な構想が22日、明らかになった。東京海洋大、三菱総合研究所を中心に三菱重工業など民間企業が参画する研究グループがまとめたもので、日本海に1万平方キロメートルの養殖場を設け、ガソリンの年間消費量6000万キロリットルの3分の1に相当する2000万キロリットルのバイオエタノールを海藻から生産する計画だ。

...(中略)...

 構想は、日本海中央にある浅瀬の「大和堆」に、ノリやワカメを養殖するような大型の網を張り、繁殖力の強い「ホンダワラ」を養殖し、バイオリアクターなどの装置を搭載した船で分解し、生産したエタノールをタンカーで運ぶというもの。 ...(中略)...

 海藻の主成分はフコイダンとアルギン酸で、フコイダンを分解する酵素はすでに見つかっている。研究グループは、アルギン酸を分解する酵素を発見したり、遺伝子組み換え技術を応用すれば実用化が可能と見ており、プラントの開発や投資額なども含め総合的な研究に入る。 (Unquote)

この記事は、forever2xxxさんのこの投稿から見つけたものです。

http://blog.goo.ne.jp/forever2xxx/e/58a7c5a662610d6aaf828b9b805b803f

forever2xxxさんは環境破壊リスクを気にしておられるようです。

個人的な意見ですが、生態系破壊という意味でなら、それはあるだろうと私は思います。

また、大和堆は良い漁場ですから、水産業との間で場所の取り合いになるかもしれません。もっとも、そのころには水産業界も燃料不足で出漁できなくなっているかもしれませんが。

もちろん、あくまで「計画通り実現できれば」の話です。

石油元売り業界は4月27日から「バイオガソリン」の販売を開始しました。

「バイオガソリン」は「バイオエタノールとイソブテンを原料として製造したETBEをガソリンに7%混入した燃料」のことです。

この点、新聞記事でも混乱が多少見られます。

「バイオエタノールをガソリンに直接混合した燃料」と「ETBEをガソリンに混合した燃料」と、区別なしに「バイオガソリン」と読んでしまっている例があります。

ま、ひょっとしたら、石油連盟も商標登録していなくて、この混同が許されているのかもしれません。今のところ「バイオガソリンは登録商標です」という記述を見たことが一度もありませんので。

ロゴマークは結構見るんですけどね。なかなか可愛らしいのを。ページの一番下です。

http://www.paj.gr.jp/eco/biogasoline/

このロゴマーク、消費者に誤解をなかなか上手に与えてますね。バイオマス由来の部分は、ETBEのうちの一部、エタノールだけです。ETBEの混合率が7%で、そのうちの一部分なので、実際には「バイオガソリン」と呼ばれる液体燃料全体のうちの3%程度しかバイオマス由来でないわけです。その意味では「E3」と大差ありません。

でも先に「バイオ~」って名前をつけちゃったんですね。なかなか上手です。イメージは「E3」よりずっと良いと思います。

いずれにせよ、日本の石油業界が言う「バイオガソリン」は、「バイオエタノールとイソブテンを原料として製造したETBEをガソリンに7%混入した燃料」のことを指しています。

高圧ガス保安協会 <http://www.khk.or.jp/ > の会員向け月刊誌「高圧ガス」Vol.44 No.4(2007)で「バイオエタノール特集
」を掲載したのですが、4~10ページに次の論文が載っています。

「国の目玉政策に浮上したバイオエタノール 普及に向けた取り組みと今後の見通し」
佐藤あい  野村総合研究所 技術・産業コンサルティング一部 コンサルタント

内容の概略を述べます。

(1)日本でのバイオ燃料の導入目的は以下3つ
  ・二酸化炭素排出量削減(環境省)
  ・エネルギー安全保障向上(経済産業省)
  ・国内農業の振興(農林水産省)

(2)上記3目的=3省庁間の連携が不調

(3)石油連盟はETBE混合を推している。
  ・品質上の理由

(4)環境省・農林水産省と石油連盟との間に齟齬

(5)石油連盟は、2006年6月にETBE方式推進を経済産業省、自動車業界との間で確認している。この際、「原料エタノールのブラジルからの輸入」を前提としていた。

(6)2006年11月、安倍内閣方針により国内農業振興を目的としたエタノール国産化推進が浮上。最終的に国産100%を目指す。

(7)安倍内閣方針は石油連盟が推す「輸入エタノールから生産したETBEのガソリンへの混合」と合わない。エタノール調達計画を見直す必要あり。よって石油連盟と安倍内閣との齟齬が表面化してきた。

(8)今後の展望
  ・齟齬表面化によるバイオ燃料普及遅延の可能性
  ・流通網を持つ石油連盟の協力を安倍内閣が確保できるか
  ・エタノール調達コスト低減化
  ・国内エタノール生産計画策定の必要性

「エタノールとETBE」シリーズで述べてきたことと概ね一致してます。

「環境省・農林水産省 vs 石油連盟」と書き、そこに「経済産業省」を絡ませていないところなんか、私の一番楽しくなるところですね。(不謹慎ですか...)

ETBE混合ガソリンの販売が4月に始まり、メディアで取り上げられました。

その様子を中心に最近の動向を見ていきましょう。

見た感じはETBEが優勢で、エタノール直接混合方式には不利な事件が起こっています。

おっと、その前に、近年の役所・業界の動向をまとめた論文を発見しましたので、まずはそれをご紹介します。

バイオマスコンビナート構想は興味深いプロジェクトですが、やはり工業的なバイオマス利用には大きな問題が横たわっていると言えそうです。

原料の確保

これです。

前回ご紹介した論文も、この点については間接的ながら認めています。

・まずは、繊維質の原料化を実現すること

・次に、繊維質=最も大量に存在するバイオマス、の生産量を拡大すること

・バイオマス生産量を拡大する領域を、「人間の食糧生産用領域」および「保全すべき面積の自然環境」の外で行えるようにすること

こういったことが必要ですね。

先は長いです。

何度も言いますが、こういうことを見ていると、やはり「光合成量の増大」が重要な課題に将来なりそうに思えます。

次に生産コストについてです。


生産コストについて:

・ブラジル産サトウキビを前提とすると、

→ ブラジルでのエタノール製造コストは1000リットルあたり150~200ドル

→ ブラジルから日本への輸送コストを加味すると、1000リットル当たり269~399ドル(1リットルあたり30~44円)

・エタノールをエチレンに変換するプロセスのコストは、石油由来のエチレン製造コストと同等

・燃料用エタノールと比べると、化学工業用原料としてのエタノールの含水率についての要求は緩い。濃縮工程を簡略化しやすい

・プロピレンについては、アセトン・ブタノール発酵技術の確立が前提


ちなみに、この論文では「ピークオイル」についても少しだけ書いてあります。

やはり、そういう意識が高まってきているということですね。前述しましたように、このバイオマスコンビナート構想には石油元売りも参加していますからね。

現在練られているバイオコンビナート構想の骨子は以下のようなものです。

工程1: 生化学的プロセス
バイオマスからエタノールとプロパノール/イソプロパノールを製造する

工程2: 化学プロセス
エタノールからエチレンを、プロパノールからプロピレンを製造する

工程3: 化学プロセス
エチレンからポリエチレンを、プロピレンからポリプロピレンを製造する

石油化学コンビナートでは、ポリエチレンとポリプロピレンは代表的な生成物ですので、とりあえずここまでを達成するのが目標だと判断できます。

もちろんこの後、更に加工してプラスティック製の様々な物品ができるわけです。そこはプロジェクトの対象外なわけですね。

もっとも、大きな課題はあります。

プロピレンを製造するために、前述したアセトン・ブタノール発酵技術をこれから確立しなければなりません。

発酵それ自体は技術的には可能ですが、大規模に経済的に実用化した例はまだありません。

デュポン社とブリティッシュシュガー社が頑張ってるようではありますけどね。セルロース系エタノール製造技術と同様、まだこれからです。

論文には、原料の確保と生産コスト、二酸化炭素削減効果について評価が載っています。

原料の確保と生産コストについてとりあげます。まず原料の確保から。


原料の確保について:

・構想では澱粉/蔗糖を原料とすることが想定されている

・バイオポリプロピレン生産に必要な耕地面積をサトウキビ農地で試算

→ プロピレン50万トンの生産に23万ヘクタールの農地が必要

→ 23万ヘクタールは沖縄県の面積とほぼ同じ

・ブラジルのサトウキビ耕地面積は490万ヘクタール。タイのは110万ヘクタール

・ブラジルの(全ての)耕地面積は4800万ヘクタール。タイは2000万ヘクタール

・ブラジルが原料供給地の第1候補

・セルロース系原料の採用については、将来予定している第2段階で扱い、この構想では扱わない