エタノール直接混合派にとって不利な事件が4月に起こっています。興味深い事例ですので、新聞記事を全文抜粋します。

日経産業新聞 2007年5月22日(火) 15面
「ガソリン、エタノール9%混合で販売中止  上限超過、管理難しく  品質・税 普及へ仕組み確立必要」

(Quote) 岩手県内のガソリンスタンドでガソリンにエタノールが九%混ざった混合ガソリンが販売されていたことがわかった。法律は三%までしかエタノールの混合を認めていない。同ガソリンは攪拌(かくはん)が不十分なために割合が高まったもので、販売開始からわずか一日半で販売中止になった。植物原料のバイオエタノールへの関心が強まっているが、本格普及を前に品質管理の難しさが浮き彫りになった。

 現場は岩手県北上市の農協が委託運営していた二子給油所。同給油所の高橋昭浩店長はアルコール取扱業者から一般エタノール六十リットルを購入。二千リットルのガソリンと混ぜ、四月十二日から一リットル百二十五円で販売した。

 高橋店長は目的を「海外で話題になっており、環境に良いのなら使ってみようと考えた」と語る。必要な手続きは電話で経済産業省に問い合わせながら進めたという。

 だが、エタノール入りガソリン発売を知った経済産業省傘下の東北経済産業局は翌十三日に立ち入り調査に入る。簡易検査するとエタノール濃度は九%を示す。混ぜた割合からすれば三%以下のはずが、タンク内で十分に混ざっておらず、重いエタノールが沈殿したようだ。

 国内の自動車は濃度の高いエタノール入りガソリンには対応していない。使い続ければエンジントラブルを起こす危険もある。経産局は販売中止を通知。給油所側も十三日中に販売を取りやめた。実質一日半の販売で、実売量は車二、三台分にあたる七十リットル。経産局は残るエタノール入りガソリンの処理も命じた。

 揮発油税を巡る問題もあった。十三日には税務当局の担当者も二子給油所に赴いていた。

 一般のガソリンは給油書出荷時に、揮発油税を課税する。一般に販売するエタノールも酒税を課税済みだ。だが、今回のように両者を混ぜて燃料にした場合は、揮発油税がそこでもう一度課税される。高橋店長はこれを「知っていた」としているが、販売価格に転嫁すれば一リットル百五十円を上回る価格になる。

 北上市農協は事態を重く見た。「JAマークのスタンドの瀋陽を失いかねない」(総務人事課)として、四月末に二子急所へのガソリン供給を停止。「JA-SS」の看板も取り外した。

 バイオエタノール導入を巡っては、環境省と石油業界がそれぞれ別の価格での普及を目指している。石油業界はガソリンと分離しにくい、エタノールとイソブテンの合成物を使うことを主張し、四月末から首都圏で実証販売を始めた。一方、環境省は将来的にエタノールの混入割合を高めやすいガソリンとエタノールの直接混合を支持し、八月から関西を中心に実証を始める。

 ただ、市販エタノールを使って給油所で品質を操作する業者が出てきたことは、直接混合でも十分に品質維持は可能としてきた環境省には痛手だ。「きちんと管理すれば問題はない」(環境省の末次貴志子技官)と説明するが、今後、取扱業者が増えたときに品質管理の目が行き届くかには疑問も残る。

 農協系列を外れ、独立系となった二子給油所の高橋店長は販売中止後も「エタノールに興味を示す顧客は多かった」とし、「うまいやり方を模索して再チャレンジしたい」としている。

 ガソリンは性能では差別化が難しいだけに、過当競争が続くスタンドにとって「環境」はうたい文句にもなる。バイオ燃料への関心が強まっているからこそ、品質や税を巡るトラブルが起こらない仕組みを早急に確立する必要がある。   (宇野沢晋一郎) (Unquote)