極低温と極高温はともにART治療の流産率が増加し出産率が低下する | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、極低温と極高温はともにART治療(体外受精、顕微授精)の流産率が増加し出産率が低下することを示しています。

 

Hum Reprod 2023; 38: 2489(中国)doi: 10.1093/humrep/dead192

要約:2016〜2020年に上海で初めての胚移植(新鮮胚移植、凍結胚移植)を実施した3452周期1577妊娠を対象に、気温と妊娠成績の関係を後方視的に検討しました。患者さんの居住地の住所に基づいて気象データを取得し、気温を4等分し、下位1/4を低温、上位1/4を高温、中間を中温としました。全体の臨床妊娠率は45.7%、出産率は37.1%でした。採卵周期開始前の寒冷地での気温の上昇は妊娠率が有意に増加していました(オッズ比1.102、95%信頼区間1.012〜1.201)。妊娠中の寒冷地での気温の上昇は、出産率が有意に増加していました(オッズ比6.299、95%信頼区間3.949〜10.047、オッズ比10.486、95%信頼区間5.609~19.620)。しかし、妊娠中の暑い時期の気温の上昇は、出産率が有意に低下していました(オッズ比0.186、95%信頼区間0.121~0.285、オッズ比0.302、95%信頼区間0.224〜0.406)。なお、これらの出産率の低下は全て流産率の増加によるものでした。

 

解説:地球温暖化による気温の上昇は健康上の大きな脅威となっています。 妊婦および赤ちゃんは熱ストレスに弱く、気温の変化により、流産、妊娠糖尿病、高血圧や胎児先天異常との関連が報告されています。早産率は、気温上昇や熱曝露期間の延長に伴って用量依存性に上昇することが明らかになっています。また、高温環境で死産が増加し、妊娠後期に最も顕著です。しかし、ART治療では、妊娠成績に季節変動があるという報告もないという報告もあり、一定の結論は出ていません。本論文はこのような背景の元に行われた研究であり、極低温と極高温はともにART治療の流産率が増加し出産率が低下することを示しています。したがって、適度な気温がART治療には好ましいと考えられます。なお、本論文では居住地の気候データを用いましたが、屋外での活動状況や室内でのエアコン使用に関する情報がないため、患者さんが生活していた本当の気温を考慮できていません。

 

妊娠の季節性変動については、下記の記事を参照してください。

2023.10.4「☆夏の採卵が良い!? その2

2022.3.27「夏の採卵が良い!?

2020.5.14「☆秋から冬が最も妊娠しやすい!?

2019.10.18「出生数の季節変動

2018.1.11「Q&A1699 季節変動は?

2015.9.19「宗教のルールによる出生数の増減

2013.7.22「☆季節により妊娠率•流産率は違うか?

2012.12.1「☆何月が妊娠しやすい?